学位論文要旨



No 119701
著者(漢字) 福田,和人
著者(英字)
著者(カナ) フクタ,ヤマト
標題(和) マイクロマシンアレイ搬送装置の作製と集中処理を併用した分散制御方式
標題(洋)
報告番号 119701
報告番号 甲19701
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5906号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 藤島,実
 東京大学 助教授 年吉,洋
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は、多数要素の制御について、分散制御を基本とした新たな手法を提案するものである。その手法の中で、より実際的な制御の実現のために、集中制御の要素を補助的に取り入れ、また、実際の制御対象を用いてその実現を試みた。制御対象としては、気流を制御するマイクロマシンアレイによる微小物体搬送システムを実際に製作し、本制御手法の適用を行なった。

マイクロマシン技術は、多数の微小構造を、シリコンの半導体プロセス技術を応用して、一括して低コストで製作する技術である。微小構造デバイスに関する研究は、マイクロマシンそのものの開発から、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーへの応用等へ広がりつつあり、次世代技術の一つとして注目を集めている。一方、多数の構造の一括・低コストでの実現、という特徴に関する研究については、デバイス自体の研究はさまざまなものが実現されているが、多数の要素の効率的な制御という観点の研究は、いまだ発展途上であり、非常に興味深い研究テーマとなっている。多数の要素を制御する手法としては、一般的には集中制御が用いられる。多数要素に関する分散制御の研究も盛んに行なわれているが、コンピュータシミュレーションによる研究が主であり、実際のデバイスを制御した例はそれほど多くはない。

このような背景のもと、本論文では、実際のシステムを運用する上で、これまで研究が行なわれてきた分散処理のコンセプトに、集中処理の要素を適度に取り入れることが重要なポイントであると考え、新たに分散処理と集中処理を組み合わせた制御手法を考案した。

本論文においては、マイクロマシン技術で製作した多数要素の制御手法として、従来から研究が行なわれている分散制御手法を踏襲しつつ、その限界を補助するものとして、集中制御手法を部分的に取り入れることにより、マイクロマシンアレイの制御を実現させた。ここでは、マイクロマシンアレイとして、搬送システムを取り上げている。搬送は気流の力によるものであり、マイクロマシンにより気流の方向を制御し、搬送物体を浮上させると同時に推進力を与えるものである。

本論文は、大きく分けて「マイクロマシンアレイの製作」および「マイクロマシンアレイの制御」という2つの部分からなる。

「マイクロマシンアレイの製作」においては、シリコン半導体プロセスを利用して、静電駆動により斜め方向の気流を与えるバルブとして動作する、数百のマイクロアクチュエータから構成されるアレイを製作し、全てのアクチュエータがほぼ完璧に動作することを確認した。その製作にあたり、シリコン半導体プロセスにおいて多用される犠牲層エッチングにおいて、新手法を開発し、デバイス製作上の歩留まりを大幅に向上させることにより、多数のマイクロマシンからなるアレイシステムを実現させた。

「マイクロマシンアレイの制御」においては、製作したマイクロマシンアレイを用いて、微小物体の搬送を実現させた。まず、169個のマイクロマシンからなる一次元アレイによる搬送を実現させ、気流搬送によるマイクロマシンアレイの実用性を示した。次に560個のマイクロマシンからなる二次元アレイを製作し、微小物体の搬送を実現させた。その際、フィードバックを利用した閉ループ制御による搬送を実現させた。この制御においては、以下のような分散処理を行なっている。まず、一つのセルが自分の範囲内の搬送物体の有無を検出する。次に、隣接セルと通信を行ない、自分の結果と照合する。その照合結果により自分が搬送物体の端部にあるかどうかを局所的に検出する。端部にあった場合、自律的に端部位置に相当するマイクロアクチュエータを駆動させ、搬送物体の端部に推進力(気流)を与える。このような形のセル単位の分散制御を実現した。一方、ビデオカメラを利用したフィードバックループを利用して、搬送物体の安定動作の確認および搬送方向の指示という、集中処理制御を試みた。

 本論文においては、マイクロマシンアレイをほぼ完璧な形で実現し、一部集中制御の助けを借りた分散処理論理という新規な手法により、その制御を実現した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「マイクロマシンアレイ搬送装置の作製と集中処理を併用した分散制御方式」と題し、10章と付録からなっている。

 第1章は序論であり、研究の目的と背景、および論文の構成が述べられている。

 第2章では、本論文で提案している集中処理併用分散制御方式のMEMS搬送デバイスへの具体的な適用について、実際に即した検討を行なった結果を述べている。

 第3章では、コンタクトフリー搬送として、半導体マイクロマシニング技術によるノズルアレイを用いたエアーフロー方式を選定した理由を述べている。

 第4章は、エアーフローアクチュエータとしての原理、設計、解析を述べている。バルクマイクロマシニング技術を用いた二層基板構造を利用したことにより、搬送物体の衝突等により破壊されない非常に強固なアクチュエータの利用が可能となった。また、有限要素法を用いてエアーフローの解析を行ない、アクチュエータバルブの開閉に応じたエアーフローの速度ベクトルの変化を求め、搬送力の概算値を得た。

 第5章ではエアーフロー搬送の有効性を確認するため、一次元方向の搬送装置を試作し、搬送特性を評価した結果を述べている。製作プロセスを工夫することで、全169個のマイクロアクチュエータを歩留まり良く製作し、ほぼ全ての動作を確認した。また、本デバイスを用いて、数ミリ角の微小物体の搬送実験を行なった。そのときの搬送速度は、約1〜2mm/sであった。

 第6章では、二次元搬送デバイスを作製し、微小物体の搬送特性を評価した結果を述べている。製作プロセスをさらに改善し、一次元搬送デバイスより多数のアクチュエータ(560個)をほぼ100%の製作歩留まりで実現することが出来た。エアーフロー制御による二次元搬送を試み、微小物体の浮上および移動を確認した。

 第7章では、作製した二次元搬送デバイスの搬送デバイスの実現性を示している。搬送面上に力の平衡点を構成し、その点への微小物体搬送を実現した。このとき、エアーフローを断続的に供給する手法により、搬送をある程度安定させることに成功した。

 第8章では、マイクロアクチュエータアレイを製作する上で最も重要である、製作歩留まりの高い製作技術について述べている。マイクロ構造のリリース法として、フッ酸水溶液の蒸気を利用した簡易な方法を開発した。本方法は、シリコン酸化物を犠牲層とするマイクロ構造の作製に非常に有効であり、高い歩留まりで作製することができる。

 第9章では、集中処理併用分散制御方式を用いて、実際に製作したマイクロアクチュエータアレイで物体を搬送した結果について述べている。アレイ状センサとアレイ状プロセッサを用いて、物体の形状と位置に基づく閉ループの搬送制御を行なった。これにより、集中制御を併用した分散制御処理を実現した。

 第10章は結論で、本論文の成果を総括している。

 以上これを要するに、本論文は、マイクロマシンアレイによる微小物体搬送装置を作製し、集中処理併用型分散制御方法という新しい制御方法を適用することで、2次元的に微小物体を搬送する可能性を実験的に示したもので、電気工学に貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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