No | 119702 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クルヨス,ウドムヴォンセリー | |
標題(和) | 確率的手法による電力自由化に対応した電力供給信頼度評価に関する研究 | |
標題(洋) | Transmission Reliability Assessment in the Deregulated Environment by means of Probabilistic Approaches | |
報告番号 | 119702 | |
報告番号 | 甲19702 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5907号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では、電気事業の規制緩和環境下での確率的手法による電力系統計画と運用における電力供給信頼度評価について述べている。海外の様々な国では、電気事業を民営化並びに自由化しつつあるが、日本を含めていくつかの国ではまだ電気事業の講造。したがって本研究は、規制緩和された電力系統における計画と運用に対して役立つだけでなく、自由化を進めている系統の運用者にも貴重な情報及び手法などを与え、系統を効率的に運用できるようにするものである。 送電システムが、規制緩和後の電力系統において重要な役割をはたすため、本研究では、発電所ではなく送電システムに主要な関心が集まっている。本論文は、主に次の2つの部分に分けられる。先ず、確率的手法によって送電信頼度マージン「Transmission Reliability Margin(TRM)」と呼ばれる指標を評価することである。もう一つは、規制緩和後の市場モデルを組み込んだ送電システム信頼性の評価である。 本論文の前半の部分では、確率的手法によってTRMを評価する新しいアポローチを提案する。最近までの電気事業の規制緩和の働きの中では、送電システムの送電可能容量を定常的に求めることに大きな関心があり、1995年と1996年に北米電力供給信頼度協議会「North American Electric Reliability Council(NERC)」では、この送電可能容量の新たな定義並びに手法を公表している。本論文で扱っているTRMは、不確実性が存在する運用状態において連系系統を高い信頼度で運用するために必要な送電可能容量のマージンである。ところが、TRMを評価する、つまり合理的に求める理論はほとんどない。本研究では、確率的手法であるモンテカルロシミュレーションを用いた総送電か脳容量「Total Transfer Capability(TTC)」を求める新しいアプローチを提案し、それをTRMを計算するのに適用する。更に、リスク解析の概念を提案し、系統の特性に経済的に合った最適なTRMを選択することができるようにしている。 さて、電気事業の規制緩和及び構造改革では、送電システムへのオープン・アクセス環境を提供することによって、市場ベースの競争が可能である。改革された電力システムでは電気事業者がお互いに競争ができ、需要家が電力供給事業者を選択できるようになる。競争環境下における送電システムの管理では、戦略立業、リスク管理、信頼性評価などが課題となるであろう。したがって、送電設備による電力供給信頼度を評価する手法をこの競争環境に適合したものに作り直す必要がある。本論文の後半の部分では、電気事業の規制緩和環境下における送電システムの電力供給信頼度を求めるための新たな手法を提案する。この手法には、信頼性評価に用いるシナリオを作成するため、市場取引及び相対取引に基づいた電力取引モデルを考慮する。これらのモデルには確率的手法を用いており、プール市場での供給者と需要家との入札戦略モデル及び相対取引市場での取引モデルから構成される。プール市場と相対市場の割合や市場入札戦略パラメータなどの市場モデルが送電システムの電力供給信頼度にどのような影響かと解析している。 本論文では、電気事業の規制緩和環境下における電力系統の信頼性を評価するための確率的手法の適用について述べており、以下に各章の内容をまとめる。 第2章では、電力系統的特性の確率とその評価手法を解説する。電力系統信頼度解析で用いられる基礎的な確率定理をはじめ、それらの手法の応用とモンテカルロシミュレーションについて簡単に説明する。 第3章では、TTCの計算手法を提案する。送電可能容量の定義をはじめ様々な既存のTTC計算手法とその簡単な例を述べ、次に、提案する手法の概要と詳細な計算手法、数値計算例を述べる。 第4章では、TRM計算手法を提案する。計算手法に組み込む負荷需要、送電線熱容量の不確実性を考慮したモデルをはじめ、そのTRM計算手法と数値計算例を説明する。 第5章では、規制緩和環境下における送電システムの電力供給信頼度を評価するための新たな手法を提案する。電力系統の信頼性に大きな影響を与える。電力自由化の市場モデルを提案する。更に、電力自由化に合わせた適切な混雑緩和手法も提案している。最後に、数値計算例を述べる。 第6章では、本研究での成果をまとめており、将来の課題を述べる。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Transmission Reliability Assessment in the Deregulated Environment by means of Probabilistic Approaches(確率的手法に依る電力自由化に対応した電力供給信頼度評価に関する研究)」と題し、6章よりなる。 第1章は「INTRODUCTION(序論)」で、現在世界的に進行している電力自由化の背景、電力取引市場を含めた電力自由化制度の基本的な概念について述べ、わが国を含めた世界各国の電力自由化の現状について紹介するとともに、本研究において、電力自由化における電力供給信頼度の確率的評価に関する手法を開発する必要性について述べている。 第2章は「PROBABILISTIC NATURES OF POWER SYSTEMS AND THEIR ASSESSMENT METHODS(電力系統の確率的特性とその評価手法)」と題し、送電系統の電力供給信頼度の評価において用いられる各構成機器の事故確率とその基礎的な確率定理について解説し、本研究で主として用いるシステムの供給信頼度を算出する手法の一つであるモンテカルロシミュレーションについて簡単に説明している。 第3章は「TRANSMISSION TRANSFER CAPABILITY CALCULATION(送電可能容量の計算)」と題し、まず、送電可能容量(TTC)の定義や様々な既存のTTC計算手法とその簡単な例を述べ、次に、提案するTTC計算手法を説明している。ここでは、送電線の熱容量制約だけでなく過渡安定度や電圧安定度などの安定度制約も考慮して、考え得るすべての想定事故シナリオに対する最大送電電力を高速に計算する2-ステップ法を開発し、また、この最大送電電力より、事故確率を用いて得られるリスク指標、あるいは利益と損失の期待値から計算されるリスク指標に基づいてTTCを決定する手法を提案している。最後に、提案した手法の有効性を明らかにするため、モデル系統に対して数値計算を行っている。 第4章は「TRANSMISSION RELIABILITY MARGIN CALCULATION(送電信頼度維持のための送電容量余裕の計算)」と題し、前章のTTCより送電空き容量(ATC)を算出するのに必要な送電信頼度維持のための送電容量余裕(TRM)の確率的計算手法について述べている。ここでは、TRMに考慮すべき負荷の確率的変動や天候等による送電容量の確率的変動等に基づいた潮流モデルを構築し、その確率的モデルを組み込んだモンテカルロシミュレーションを行い、リスク理論に基づいてTRMを選定する手法を提案し、数値計算例によりTRMを定量的に説明している。 第5章は「TRANSMISSION SYSTEM RELIABILITY EVALUATION IN DEREGULATED ENVIRONMENT(規制緩和下における送電系統信頼度評価)」と題し、まず、近年の電気事業の規制緩和環境下における送電系統の電力供給信頼度を評価するための市場取引入札戦略モデル及び相対取引モデルを構築し、このモデルにより得られる送電系統内の潮流状態の不確実性を考慮したモンテカルロシミュレーションによる電力供給信頼度評価手法について述べている。この評価手法では、電力自由化に合わせた送電系統の適切な混雑緩和手法も提案している。最後に、モデル系統を用いて数値計算を行い、電力供給に占める市場取引の割合、入札戦略などの様々なパラメータに依存して電力供給信頼度が変化することを定量的に示している。 第6章は「結論」で、各章の結論をまとめている。 以上を要するに、本論文は、規制緩和環境下における電力システムにおいて、電力市場取引によって発生する電力潮流や設備事故、負荷需要などの様々な事象の不確実性を確率的事象として扱い、電力システムの安定運用に必要な送電系統の送電可能容量、送電信頼度維持のための送電容量余裕、電力供給信頼度を効率的に求めるリスク指標に基づいた確率的算定手法を開発し、定量的な評価を可能にしたもので、電気工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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