No | 119703 | |
著者(漢字) | 馬,澄斌 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マ,チェンビン | |
標題(和) | 非整数次制御およびモーションコントロールへの応用 | |
標題(洋) | Fractional Order Control and Its Applications in Motion Control | |
報告番号 | 119703 | |
報告番号 | 甲19703 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5908号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本博士学位論文では非整数次制御(Fractional Order Control)の理論及びモーションコントロールへの応用について論じた。非整数次制御とは非整数次微積分方程式を用い、制御対象のモデリングと制御器の構築を行う研究である。 非整数次制御は長い歴史を持つ"新しい"研究といえる。非整数次微積分は、整数次微積分とほぼ同時にLeibnizによって言及された概念である(1696年)。Tustin教授は1958年に発表した論文の中で出力トルクの飽和を含む一慣性系の位置制御に非整数次の微分制御器Dαを適用した。その提案手法によって、微分制御器次数αを連続的に調整し、critical point付近の広い周波数範囲で十分な位相余裕を容易に確保できると結論付けている。しかし、当時非整数次微積分は一般の工学者に馴染みのない研究分野であった上に、実際の応用が少なく、計算機の演算能力では非整数次制御系の実現が困難であったため、過去の半世紀で、制御の研究者に注目されることはほとんどなかった。 近年では様々な制御対象に対し、非整数次微積分方程式が従来の整数次微積分方程式よりもよい精度でモデリングできることが実証されている。非整数次微積分方程式は複雑系のダイナミックスを簡潔に表現できる有効なツールである。また、非整数次微積分モデルで表現された制御対象には非整数次制御器の導入が必要になってくる。さらに、計算技術の発達に伴い、非整数次制御系をシミュレーションする事や実現する事は以前よりも容易になった。以上の進歩のおかげで、非整数次微積分理論は多数の研究分野でその重要性が再認識され始めている。特に、非整数次制御は非整数次微積分理論の制御への応用として現在国際研究コミューニティから大きな注目を浴びている。非整数次制御専門のシンポジウムや会議はASME、IFACをはじめとする国際的な学術団体でも開催されている。 本学位論文は非整数次制御のシステマティックな紹介を行った上で筆者のオリジナルな研究に基づいた非整数次制御の設計から実現まで全面的な知識を述べた。筆者は非整数次制御の理論的な研究が重要だと認識しているが、同時に応用面の研究にも注力すべきだと考えている。ほかの研究と同様に、非整数次制御の研究にも同じ分野の研究者の協力が不可欠であるので、良好な応用結果によって、有志の研究者を非整数次制御の研究に吸収し、新しい研究成果を生み出すことを期待している。非整数次制御の研究はまだ初期段階であり、特にモーションコントロールの領域ではほぼ空白の状態と言っても過言ではない。非整数次制御のモーションコントロールへの応用の"先駆者"として、筆者は強く責任感を感じ、後の研究者のために、良い起点を築きたいと思っている。 以上の考えに基づき、本論文ではできる限り非整数次制御のあらゆる側面、必要な数学的基礎知識、非整数次モデリングと同定、非整数次制御の理論及び実現法、制御系の設計と実際の応用を紹介した。第一章では、非整数次制御の歴史、現状に触れる。第二章は非整数次制御を理解するための必要な数学知識を紹介する。第三章では、非整数次制御の基礎知識、例えば数学の表現、非整数次制御系の線形性、モデリング及び同定について述べる。第四章は非整数次制御の導入によって、従来の整数次制御理論への影響を討論する。制御系のタイプ、安定性の判定、周波数特性、ロバスト性及び筆者が提案した二段階の非整数次制御設計法を言及する。第五章は離散的非整数次制御系のサンプリングタイムスケーリング特性を提案する。この特性を活かし、非整数次制御が時間領域において、過去のサンプリング入力に重み関数付きで記憶し、新しい出力を算出するという解釈を提案する。第六章では複数の非整数次制御器の実現法(周波数の折れ線近似法と他の直接離散法)を時間領域と周波数領域で評価する。第七、八、九章は非整数次制御の応用および実験的検証を行う。従来のPID制御器、ローパスフィルター及び外乱オブザーバーを非整数次制御に拡張し、軸捻れ装置を使い、制御効果を検証する。制御器設計の明快さと良好な実験結果によって、非整数次制御の有効性を実証する。最後に、第十章では結論及び今後の研究課題を詳しく述べる。 約三年間の非整数次制御の調査及び研究に従事した上で、非整数次制御の優位性が以下の三点であると筆者は強く主張する: 1.制御対象のより正確なモデリング 2.明快かつ効果的なロバスト制御系設計 3.良い近似的な実現 モーションコントロールの問題に本質的に含まれている非線形要素、ロバスト性と他の制御性能への要求などを考え、非整数次制御は一般的な手法であり、従来の整数次制御系の中間的な性質をもつ制御系を容易に設計できる。筆者は非整数次制御の導入によって、我々が多くの斬新な発見をできると確信している。 | |
審査要旨 | 本論文は,「Fractional Order Control and Its Applications in Motion Control(非整数次制御及びモーションコントロールへの応用)」と題し,非整数次制御の理論構築およびモーションコントロールへの応用を行った成果を述べたもので,英文で書かれた10章より成る。 非整数次制御システムは,非整数次微積分を制御系の要素に積極的に取り込む新しい方策である。非整数次微積分そのものはLeibnizによって古く1695年に言及され,また,Tustinは1958年,トルク飽和のある位置制御系に非整数次の微分器を適用しているが,当時から非整数次微積分にはなじみが薄く,制御器の実現やシミュレーションが困難であったことから,応用もなく注目もされていない。 しかし近年では,マイクロプロセッサの使用が普通になり,制御器の実現上の問題が少なくなり,非整数次微積分方程式によるモデリングや同定,非整数次微積分で表現された制御対象に対する非整数次制御器の設計に関する研究が盛んになってきており,専門のシンポジウムや会議が,ASME,IFACをはじめ国際的な学術団体で開催されている。 このような状況の中で,本論文は非整数次制御の全容をシステマティックに俯瞰し,いくつかのオリジナルな提案とそれらに基づいた非整数次制御の設計から実現までを広く扱い,具体的にモーションコントロール分野へ応用した成果をまとめたものである。 第1章(INTRODUCTION)は序論で,非整数次制御の歴史と現状を述べている。第2章(MATHEMATIC PRELIMINARY)は,本論文での研究に必要な数学的知識を簡潔に紹介している。第3章(FUNDAMENTAL ISSUES)では,非整数次制御の数学表現,非整数次制御系の線形性,モデリングなどについてまとめている。 第4章(CONTROL IMPACTS)は,非整数次制御の導入によって従来形整数次制御理論が受ける影響について議論している。制御系のタイプ,安定判別,周波数特性,ロバスト性などを解析し,さらに,著者が提案した二段階設計法について述べている。第5章(SAMPLING TIME SCALING PROPERTY)では,離散時間非整数次制御系におけるサンプリングタイムスケーリング法を提案している。この特性を利用し,非整数次制御は,記憶した過去の入力に重みをつけて新しい出力を算出するものであるという解釈を与えている。第6章(REALIZATION METHODS)では,複数の非整数次制御器の実現法(周波数軸上の折れ線近似法や直接離散化法)を時間領域と周波数領域で評価している。 第7章(FRACTIONAL ORDER PIαDβ CONTROL),第8章(FRACTIONAL ORDER FILTER),第9章(FRACTIONAL ORDER DISTURBANCE OBSERVER)は,非整数次制御の応用に関する成果をまとめたものである。それぞれ,PID制御器,ローパスフィルターおよび外乱オブザーバを非整数次制御に拡張し,バックラッシ付き2慣性軸ねじれ装置を用いた速度制御実験を行っている。その結果,非整数次制御は,制御器設計が明快であり,モーションコントロール問題に本質的に含まれる非線形要素に対するロバスト性に優れていることを実証している。 第10章(CONCLUSIONS AND FUTURE WORKS)では,結論および今後の研究課題を詳述し,将来の研究指針を示している。付録として,実験装置の説明(EXPERIMENTAL TORSIONAL SYSTEM),および,本論文で整数次PID制御器を設計する時に使った係数図法の説明(COEFFICIENT DIAGRAM METHOD)を補足している。 以上これを要するに,本論文は,非整数次制御の理論と実用におけるさまざまな問題点,すなわち,数学的基礎を整備し,制御系設計と制御器の実現法などにおいて,いくつかの優れた提案を行い,非整数次制御が明快でかつロバスト性に優れた将来性のある制御系設計法であることを,理論と実験の両面から示したものであって,電気工学,とくに制御工学上貢献するところが少なくない。よって,本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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