No | 119718 | |
著者(漢字) | 秋山,千起 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アキヤマ,チユキ | |
標題(和) | ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼの細胞内局在解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 119718 | |
報告番号 | 甲19718 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博工第5923号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 細胞膜を構成するリン脂質ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol ; PI)のリン酸化誘導体であるphosphatidylinositol 4,5-biphosphate (PI(4,5)P2)は、Gタンパク質共役型受容体のエフェクターであるphospholipase Cの基質として古くから知られてきた。一方、PI(4,5)P2自身はシグナル分子やactin結合タンパク質、小胞輸送に関わる分子などと相互作用をし、それらの機能や細胞内局在を制御する役割も有している。ゆえに、PI(4,5)P2を産生する酵素であるphosphatidylinositol 4-phosphate 5-kinase(PIP5K)は、さまざまなシグナル伝達経路や細胞機能に関与している可能性が考えられ、90年代後半のクローニング以来、その局在、活性化調節機構、細胞骨格制御や細胞内小胞輸送などを始めとした様々な生理機能に関する研究が進められてきている。 本研究ではPIP5Kの細胞内局在観察をおこなった。PIP5Kγ661は細胞−細胞外基質接着部分へ局在し、接着斑であるfocal adhesion形成に重要な役割を果たしていることが示唆されている。ヒトepidermoid carcinoma A431細胞に、アデノウイルス発現系を用いてもう一つのPIP5KγサブタイプであるPIP5Kγ635を発現させると、細胞−細胞間接着部分および細胞内vesicleに局在が観察された。一方、細胞−細胞外基質接着部分へのPIP5Kγ635の局在は、PIP5Kγ661と異なり認められなかった。細胞−細胞間接着部分では、上皮性細胞の細胞−細胞間接着構造に含まれるactin、E-cadherin、β-cateninとPIP5Kγ635が共局在していた。細胞培養液中のcalcium ion濃度を下げることにより細胞−細胞間接着を阻害したところ、PIP5Kγ635はE-cadherin、actinと同様に細胞表面に局在しなくなった。またactin重合阻害剤であるcytochalasin D処置によっても細胞−細胞間接着部分のアクチン骨格構造が破壊され、PIP5Kγ635の細胞膜近傍からの解離が認められた。以上、上皮性細胞においては、PIP5Kγ635は細胞外基質との接着を維持しているFAには局在せず、細胞相互の接着構造部位に局在し、actin重合阻害またはcalcium ion除去による接着構造の破壊とともに細胞間接着部位の細胞膜には局在しなくなる。細胞相互の接着構造への特異的な局在は、PIP5Kγ635というC末端部分の短いPIP5Kγアイソフォームが、細胞間接着構造の形成と維持に特異的に関与していることを示唆していると考えられる。2種類のPIP5Kγが細胞−基質の接着と細胞間接着構造をどのように制御しているかを明らかにすることは今後の細胞生物学において重要な課題と思われる。 | |
審査要旨 | 本研究では、細胞内小胞輸送や細胞骨格制御に重要なphosphatidylinositol 4,5-biphosphate(PI(4,5)P2)を産生するphosphatidylinositol 4-phosphate 5-kinase (PIP5K)の細胞内局在観察をおこなった。PIP5Kγ661は細胞−細胞外基質接着部分へ局在し、接着斑であるfocal adhesion形成に重要な役割を果たしていることが示唆されている。ヒトepidermoid carcinoma A431細胞に、アデノウイルス発現系を用いてもう一つのPIP5KγサブタイプであるPIP5Kγ635を発現させると、細胞−細胞間接着部分および細胞内vesicleに局在が観察された。一方、細胞−細胞外基質接着部分へのPIP5Kγ635の局在は、PIP5Kγ661と異なり認められなかった。細胞−細胞間接着部分では、上皮性細胞の細胞−細胞間接着構造に含まれるactin、E-cadherin、γ-cateninとPIP5Kγ635が共局在していた。細胞培養液中のcalcium ion濃度を下げることにより細胞−細胞間接着を阻害したところ、PIP5Kγ635はE-cadherin、actinと同様に細胞表面に局在しなくなった。またactin重合阻害剤であるcytochalasin D処置によっても細胞−細胞間接着部分のアクチン骨格構造が破壊され、PIP5Kγ635の細胞膜近傍からの解離が認められた。以上、上皮性細胞においては、PIP5Kγ635は細胞外基質との接着を維持しているFAには局在せず、細胞相互の接着構造部位に局在し、actin重合阻害またはcalcium ion除去による接着構造の破壊とともに細胞間接着部位の細胞膜には局在しなくなる。細胞相互の接着構造への特異的な局在は、PIP5Kγ635というC末端部分の短いPIP5Kγアイソフォームが、細胞間接着構造の形成と維持に特異的に関与していることを示唆していると考えられる。2種類のPIP5Kγが細胞−基質の接着と細胞間接着構造をどのように制御しているかを明らかにすることは今後の細胞生物学において重要な課題と思われる。 本論文は上記のようにPIP5Kγ635の細胞生物学上の役割を明らかにしている。よって本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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