No | 119735 | |
著者(漢字) | 島,裕和 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シマ,ヒロカズ | |
標題(和) | 高品質再生骨材によるコンクリートリサイクルシステムに関する研究 | |
標題(洋) | Study on Concrete Recycling System by High Quality Recycled Aggregate | |
報告番号 | 119735 | |
報告番号 | 甲19735 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第75号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究は、今後、高度成長期に多数建設されたコンクリート構造物が解体の時期を迎えることで排出量の増大が懸念されているコンクリート塊に関し、その水平リサイクルを実現するために開発された加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術について、ライフサイクル分析や最適化モデルを用いた将来のコンクリートリサイクルシステムの推定を行ない、同技術の実機適用性、導入可能性を評価するものである。 第2章では、コンクリートリサイクルの現状と課題について述べ、本研究の目的の妥当性を確認した。 現在、コンクリート塊は、積極的に路盤材として再利用されているが、地域や季節による需給バランスの不均衡が顕在化しており、今後コンクリート塊が増大すれば、路盤材としての再利用が困難になる可能性を示した。続いて、低品質な再生骨材によるコンクリートリサイクルが普及していない現状について説明した。また、そのために数種の高品質再生骨材技術が開発されており、それらの技術の概要と、普及促進のための基準化等の動向について説明した。高品質再生骨材を使用したコンクリートの適用性が確認され、基準化は進んでいるものの、微粉等の副産物の用途開発が途上であることを示した。 国内唯一のコンクリート塊の排出量統計である建設副産物実態調査の集計方法を整理し、排出量が低く見積もられていることを指摘した。また、各種コンクリート塊の発生量の予測の既往研究では、構造毎に寿命が一定で今後の排出量を予測するには精度が不十分であることを示した。コンクリートについての環境評価やシステムに関する既往研究においては、コンクリート塊の路盤材化や再生骨材によるリサイクルに関する技術開発及びライフサイクル分析の既往研究は存在するが、これをシステム化して、最適なコンクリートリサイクル像について検討するものは存在しなかった。 第3章では、加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術の製造プロセスについて述べ、テストプラントを用いて、コンクリート塊から品質基準を満足する高品質再生骨材が製造できることを確認した。そして、同再生骨材を用いて製造した再生骨材コンクリートの品質が普通骨材コンクリートと同等であることを体系的なコンクリート試験を行ない確認した。 副産微粉の土壌固化材として利用するための各種試験を行い検討した。一般の土壌に添加して一軸圧縮強度を測定し、添加した微粉量に対し、節約できたセメント系固化材量の割合を示す品質係数で同微粉の効果を評価したところ、同係数は0.1〜0.4 程度となり、土壌固化材として有効 また、微粉を普通セメントの混合材として利用した場合のセメントの性能をセメントの強度試験で確認した。さらに、微粉と高炉スラグを混合材としたセメントについては、高炉セメントB種に微粉を10%混合してコンクリートの性能試験を行なった。その結果、強度及び耐久性は、高炉セメントB 種とほぼ同等で、同セメントは実機で使用できると判断された。 第4章では、加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術のライフサイクル分析を行いCO2排出量、エネルギー消費量の観点から同技術の適用性について検討した。このとき、副産微粉の発生量に対し、控除できるセメント製造量を示す品質係数の算出や、微粉をクリンカ原料に適用したときに、原料の調合の変化からクリンカ製造における環境負荷の削減量の算出方法を確立した。その結果は、以下のように総活された。 (1)再生骨材製造でのCO2 排出量に比べ、副産微粉を土壌改良材やセメント原料として利用したときのセメント製造でのCO2 減少分の方が大きく、ライフサイクルでのCO2 排出量が削減できる。加熱すりもみ法による再生骨材製造は、CO2 の排出を抑制できる有効な技術であることが分かった。 (2)再生骨材製造のライフサイクルにおけるエネルギー使用量は、最も広く用いられているバージン骨材である砕石よりも大きい。加熱工程を廃熱で行う等、エネルギー使用の削減方策について検討していく必要があると考えられた。 第5章では、コンクリートリサイクルシステムの設計に不可欠なコンクリート塊の発生量予測を行なった。建築物の解体は、構造物の物理的寿命にのみに依存して起こるものではなく、各種経済指標にも影響を受ける。そこで、全国13 の政令指定都市の固定資産データから得た滅失率を、観察年における経済成長率等を説明変数とした比例ハザードモデルで推定した。そして、その推定値を使って、木造及び非木造建築物の平均寿命の推定と、コンクリート塊の発生量の予測を行い、以下の知見を得た。 (1)各都市の滅失率を、比例ハザードモデルで精度よく推定することができた。全都市平均では、木造については、観察年の経済成長率、公定歩合、地価上昇率が、非木造については経済成長率と公定歩合が有意で、それらの値の増加と共に、滅失率は増大することが分かった。 (2)比例ハザードモデルで推定した滅失率より残存率曲線を算定し、建築物の平均寿命を推定したところ、全都市平均について、1950 年築では木造28.3 年、非木造40.9 年に対し、2000 年築では木造43.5 年、非木造49.1 年と寿命が延びている。これは、新築年が古いほど、経済成長率等の説明変数値が大きい期間を経ており、滅失率が高かったためと考えられる。 (3)1950 年以降に建設された建築物について、比例ハザードモデルで推定した滅失率と残存率の積で求められる除却確率密度を用いて、コンクリート塊の発生量を予測した。その発生量は1991 年にピーク(約2,800 万トン)を迎えた後に減少、再び増加し、経済成長率を0 とした中位シナリオにおいても、2030 年付近には1 億トンを超える。このように、現在の景気の低迷によりコンクリート塊の発生が抑えられている現象が表現できた。また、景気が回復しなくても今後、発生量が急増することを示した。 第6章では、コンクリートリサイクルで回収される骨材や副産する骨材回収微粉が一般産業のマテリアルフローに与える影響を明らかにするため、一般産業のうちコンクリート関連項目については、原材料の種類によって詳細に分割し、コンクリートリサイクルプロセスを追加してカスタマイズしたコンクリート関連拡張産業連関表を作成した。 まず、一般的な産業連関表の構造、産業連関分析による均衡生産額モデル、均衡価格モデルの手法について説明した。また、リサイクルシステムを産業連関表で扱うためには、一つのプロセスから製品の他、廃棄物や副産物の発生を記述する必要があるため、1アクティビティー−1コモディティーの原則を崩した、プロセス連関分析について説明した。 近年、各種廃棄物の処理量を増大し、循環型社会の形成に貢献しているセメント産業における副産物や廃棄物の処理方法について説明し、コンクリートリサイクルよって発生する骨材回収微粉のセメント産業での利用方法を明らかにした。骨材回収微粉は、高炉スラグやフライアッシュと同様に、セメント混合材の他、クリンカ原料に利用できる。そこで、クリンカ原料としてこれらを利用する場合の中間投入量、CO2 排出量を原料調合を考慮して計算した。 続いて、産業連関表の拡張作業として、コンクリート関連の一般産業である、建設、砕石、セメント、生コンクリートについて原材料の違いで細分化したプロセスの生産量・額を推定し、それらに投入されるプロダクトの生産量・額を推定した。 コンクリートリサイクルのプロセスとしては、加熱すりもみ法の他、機械摩砕、低品質再生骨材製造、路盤材製造、最終処分について原材料と付加価値(設備コスト、人件費等)を調査し、同連関表に追加し、コンクリート関連拡張産業連関表及びその係数表を作成した。 第7章では、6章で作成したコンクリート関連拡張産業連関表を用いて、最適化モデルにより、将来における最適なコンクリートリサイクルシステムを決定した。また、そのシステムに与える炭素税や、コンクリートリサイクル技術の導入を円滑に行うための制度について検討を行なった。結果として以下の知見を得た。 (1)混合セメント使用生コンクリートが普及し、道路の施工方法が新設や切替工から切削オーバーレイに代わって行く基本シナリオでは、2020 年に加熱すりもみ法によるコンクリートからの高品質骨材製造が導入された。しかし、導入量はコンクリート塊が年間約2 億トン発生する2030年においても年間1,700 万トンに留まっている。これは、セメント混合材として利用できる微粉が上限に達しているためである。一方、機械すりもみ法による高品質再生骨材は2030 年に6,000万トン/年導入される。 (2)2010、2020 年度の炭素税をそれぞれ2,500、1,500 円/トン-CO2 とすると、加熱すりもみ法によるコンクリートリサイクルの導入量はそれぞれ、0→400 万トン/年、250→700 万トン/年と増加する。 (3)高品質再生骨材製造についてコンクリート塊あたり750 円の補助金を交付すれば、加熱すりもみ法は(2)と同量導入され、機械摩砕法は2010 年から3,000 万トン/年導入されるようになり2030 年には、13,500 万トン/年導入される。 (4)加熱すりもみ法の稼動量を増加させるためには、微粉のセメント混合材として混合割合を高める技術の開発、再生骨材製造時の骨材の歩留まりを向上させ、微粉の発生率を低減させる技術の開発が必要と考えられた。 第8章では以上を総括し結論を述べた。 | |
審査要旨 | 本論文は、今後、高度成長期に多数建設されたコンクリート構造物が解体の時期を迎えることで排出量の増大が懸念されているコンクリート塊に関し、その水平リサイクルを実現するために開発された加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術について、ライフサイクル分析や、コンクリート塊発生量予測モデルで推定した将来の同発生量において、最適化モデルを用いたコンクリートリサイクルシステムの推定を行ない、同技術の実機適用性、導入可能性を評価するものである。 本論文は8章で構成され、第1章では序論を述べ、第2章では、コンクリートリサイクルの現状と課題について述べ、本研究の目的の妥当性を確認している。 第3章では、本研究の評価対象である加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術について述べ、コンクリート塊から品質基準を満足する高品質再生骨材が製造できることと、同再生骨材を用いて製造した再生骨材コンクリートの品質が普通骨材コンクリートと同等であることを体系的なコンクリート試験を行ない確認している。 第4章では、加熱すりもみ法による高品質再生骨材製造技術のライフサイクル分析を行いCO2排出量、エネルギー消費量の観点から同技術の適用性について検討している。このとき、副産微粉の発生量に対し、控除できるセメント製造量を示す品質係数の算出や、微粉をクリンカ原料に適用したときに、原料の調合の変化からクリンカ製造における環境負荷の削減量の算出方法を確立した。その結果、加熱すりもみ法による再生骨材製造は、CO2の排出を抑制できる有効な技術であることが分かった。 第5章では、コンクリートリサイクルシステムの設計に不可欠なコンクリート塊の発生量予測を行なっている。建築物の解体は、構造物の物理的寿命のみに依存して起こるものではなく、各種経済指標にも影響を受ける。そこで、固定資産データから得た滅失率を、観察年における経済成長率等を説明変数とした比例ハザードモデルで推定し、以下の知見を得ている。 (1)経済成長率の増加と共に、滅失率は増大、つまり解体が促進されることが分かった。 (2)滅失率から寿命を計算して推定したコンクリート塊の発生量は1991年にピークを迎えた後に減少、再び増加し、2030年付近には1億トンを超える。 第6章では、コンクリートリサイクルで回収される骨材や副産する骨材回収微粉が一般産業のマテリアルフローに与える影響を明らかにするため、一般産業のうちコンクリート関連項目については、原材料の種類によって詳細に分割し、加熱すりもみ法の他、機械摩砕法、低品質再生骨材製造、路盤材製造等のコンクリートリサイクルプロセスを追加してカスタマイズしたコンクリート関連拡張産業連関表を作成している 第7章では、6章で作成したコンクリート関連拡張産業連関表を用いて、最適化モデルにより、将来における最適なコンクリートリサイクルシステムを決定し、結果として以下の知見を得ている。 (1)2020年に加熱すりもみ法によるコンクリートからの高品質骨材製造が導入された。その導入量はコンクリート塊が年間約2億トン発生する2030年において年間1,700万トンである。 (2)炭素税が導入されると、CO2排出量を削減できる加熱すりもみ法の導入量は増加する。また、高品質再生骨材製造について補助金を交付することは、同技術の普及に有効であった。 (3)加熱すりもみ法の稼動量を増加させるためには、微粉のセメント混合材として混合割合を高める技術の開発、再生骨材製造時の骨材の歩留まりを向上させ、微粉の発生率を低減させる技術の開発が必要と考えられた。 第8章では以上を総括し結論を述べた。 コンクリートリサイクルの既往研究では、コンクリート塊からの再生骨材製造技術及びライフサイクル分析に関するものは存在するが、複数のコンクリートリサイクル技術やそのリサイクル製品や副産物を利用するセメント、生コンクリート、建設等の産業をシステムとして捉え、社会コストを最小とするコンクリートリサイクル像について検討するものは存在しなかった。また、本論文では、将来の同システムの推定に不可欠であるコンクリートの発生量を新たに開発した経済指標を説明変数とするモデルで推定し、精度を上げている。以上、本研究は、内容がオリジナルであるばかりでなく、高品質再生骨材を用いた将来のコンクリートリサイクルシステムを提案するという社会的意義を持つものである。 したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
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