学位論文要旨



No 119769
著者(漢字) 脊山,泰治
著者(英字)
著者(カナ) セヤマ,ヤスジ
標題(和) 肝門部胆管癌に対する周術死のない拡大半肝切除術とその長期生存成績についての研究
標題(洋)
報告番号 119769
報告番号 甲19769
学位授与日 2004.12.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2376号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 助教授 大西,真
 東京大学 助教授 真船,健一
 東京大学 講師 池田,均
 東京大学 講師 北山,丈二
内容要旨 要旨を表示する

目的:肝門部胆管癌に対する本研究の治療戦略の結果を示し、また予後因子、外科医の役割を明らかにする。

背景:拡大半肝切除術は肝門部胆管癌に対する根治的治療と認識されつつあるが術後肝不全のリスクがあり必ずしも安全とはいえない。安全かつ根治性の高い治療戦略が望まれる。

方法:肝門部胆管癌に対する連続58症例の拡大半肝切除術を施行した診療記録からデータを収集した。拡大半肝切除術の術前に減黄処置、門脈枝塞栓術を施行する適応基準を作成した。肝門部胆管癌に対する拡大半肝切除術の短期、長期成績を示し解析した。

結果:術前減黄処置は39例(67.2%)に、門脈枝塞栓術は31例(53.4%)に施行した。拡大半肝切除術の内訳は拡大右肝切除27例、拡大左肝切除22例、肝膵同時切除9例であった。術後合併症率は43%、周術期死亡、術後肝不全はなかった(0%)。術後5年生存率は40%であった。単変量解析では残癌の有無、リンパ節の転移の有無、神経周囲浸潤の有無が長期予後に関与した。切除断端が5mm以上で予後が良い傾向にあった。術前処置期間は長期予後の妨げにはならなかった。多変量解析ではリンパ節転移の有無が唯一の予後因子であった。

結論:術前減黄処置と門脈枝塞栓術を含む本研究の治療戦略は肝門部胆管癌に対する拡大半肝切除術のリスクを減少し、周術死亡を認めなかった。長期生存のための外科医の役割は十分なマージンのある治癒切除を目指すことである。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は解剖学的位置関係から治療が困難である肝門部胆管癌に対して根治性の高い拡大肝切除を安全に施行するための治療戦略を確立し、長期生存解析から予後因子を明らかにすることを試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.肝門部胆管癌に対して拡大肝切除を施行する際問題となる肝不全対策として、術前に減黄処置と門脈枝塞栓術を含めた治療戦略をフローチャート形式に示した。

2.本治療戦略により58症例中術前減黄処置は39例(67.2%)に、門脈枝塞栓術は31例に施行した。拡大半肝切除術の内訳は拡大右肝切除27例、拡大左肝切除22例、肝膵同時切除9例であった。その結果、肝門部胆管癌に対して拡大肝切除が安全に施行できることが示された。

3.危険が最も高いと考えられる黄疸症例に拡大右肝切除を施行した症例、病変の広がりから膵頭十二指腸切除を付加した症例でも術後肝不全に陥った症例はなく、全体の周術期死亡もなかった。

4.長期生存成績も5年生存率で40%と良好な結果であったことを示した。

5.長期予後の単変量解析からリンパ節転移の状態、残癌の有無、神経周囲浸潤の有無で有意差を認めた。

6.治癒切除の中でも切除マージンが5mm以上か5mm未満かで生存成績に有意差を認めた。

7.多変量解析ではリンパ節転移の状態のみが有意差のある予後因子であった。

8.長期生存のための外科医の役割は安全に十分なマージンのある治癒切除を目指すことであることが強く示唆された。

以上、本論文は肝門部胆管癌に対して術前に減黄処置と門脈枝塞栓術を施行することで根治性の高い拡大肝切除術を安全に施行することができ長期予後も期待できることを明らかにした。本研究はこれまで治療が困難であった肝門部胆管癌に対する安全な治療戦略を明示し、生存成績の向上に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク