No | 119780 | |
著者(漢字) | 裵,尚大 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ベー,サンデー | |
標題(和) | カーボンウィスカーを有する活性炭膜の製法、特性解析および応用に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Preparation, Characterization and Application of Activated Carbon Membrane with Carbon Whiskers | |
報告番号 | 119780 | |
報告番号 | 甲19780 | |
学位授与日 | 2005.01.20 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5933号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学システム工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年は、耐熱性や耐溶剤性に優れている無機素材膜への期待が大きくなっており、アルミナを中心としたセラミック膜が精密ろ過や限外ろ過の分野で実用化されている。このような状況のなか、われわれは無機素材のうち、特に、カーボンを素材とする膜の開発とその利用について検討してきた。カーボンは各種セラミックと同様に、耐熱性耐溶剤性に大変優れているほか、疎水性、導電性あるいは有機物吸着性といった分離膜素材としての特性を備えている。別の言い方をすれば、われわれの目的は、これらカーボンが持っている特性を膜と組み合わせること、すなわち吸着とろ過といった操作を融合させ、新しい分離技術への展開を実現することである。一方、これらの実用化に当たっては、現場用途に合う膜が必要になる。カーボンはその優れた特性にもかかわらず、薄膜として単独利用では、物理的強度に難点があり、使用に十分耐えられないのが現状であった。そこで、われわれは既成のセラミック支持体を膜の担体とし、その表面にカーボンをさまざまな形態の薄膜として固定し、この弱点を改善した。特に本学位論文では、膜上に形成するカーボンの形態として(1)活性炭膜、(2)カーボンウィスカー膜、(3)カーボンウィスカーを有する活性炭膜の3種類の膜の開発と実用化を目指してきた。活性炭膜は高度水処理の代表的な技術である活性炭吸着操作と膜分離操作を組み合わせた溶存物質の吸着除去機能と浮遊物質のろ過機能とを併せ持つ分離膜であると同時に、カーボンの導電性を利用し、電熱再生法による吸着能力の再生が可能であり、長期間の連続操作を可能とした分離膜である(第2章)。しかしながら一方で、溶存有機物質によるファウリングや浮遊物質によるケーク層形成による膜透過流束の低下は、他の膜分離操作同様、同活性炭膜の実用化の上で大きな課題となった。これらの問題は、膜表面への分離対象物質の直接的な接触を避けることで回避できる。その一手段として、表面に突起状の炭素(カーボンウィスカー)を、鉄を触媒としてCVD法により高密度で成長させたカーボンウィスカー膜の開発を行った(第3章)。最後にこれら2つの膜、すなわち活性炭膜とカーボンウィスカー膜の長所を融合した、カーボンウィスカーを有する活性炭膜の開発を行った(第4章)。以上、本研究で開発したカーボン素材膜開発の流れの概略を述べた。以下は各膜の製法、特性解析および応用能について要約する。 (1)活性炭膜(第2章) 活性炭膜製造は、担体として商品化されているセラミック支持体(外径13mm、内径9mm、孔径2.3um)を用いて、その表面上に炭素層を作成することで実施した。具体的には、ポリマ−ラテックス粒子(ポリ塩化ビニリデン(PVdC)及びポリ塩化ビニル(PVC)の混合物)を懸濁液として支持体上に吸引・充填し、乾燥・焼結・炭化させた。ラテックス懸濁液濃度は25wt%、乾燥温度は120゜C、熱分解温度は300゜C、炭化温度は900゜Cとした(昇温速度=10゜C/min)。この操作は窒素ガス雰囲気下で行った。また、製膜終了後には、活性炭膜の重量を測定し、担体のみの重量との差を計算し活性炭付着量とした。なお、上記温度は、熱重量測定の結果から、300゜C付近での重量減少が著しかったことや、900゜C付近で重量減少がほぼ見られなくなることから決定した。また、吸着に寄与する細孔は、ポリ塩化ビニリデンからの塩素脱離によって形成された。結果として得られた活性炭膜は吸着と膜分離の二つの機能を合わせ持ち、吸着除去可能な分子量1000以下の低分子有機物から、数万程度以上の大分子や懸濁物質が共存するような、除去対象物質が極めて広範囲に渡る水の単独一括処理が可能であることが分かった。特に、ラテックス微粒子を炭化したことが、膜透過時の接触面積の増大につながった。このことは吸着質の物質移動が速やかに起こることを意味し、結果として吸着速度が非常に速くなり、装置のコンパクト化が可能であることを明らかにした。一方、再生法では、膜に通電することで膜温度を上げ、吸着質を脱着させる電熱再生法を用いることで活性炭を取り出すことなく連続的に吸脱着操作を行うことが可能であることを示した。また、加熱平衡脱着モデルにより、瞬時の昇温が初期脱着液濃度を決めていることから、温水接触ではある熱容量を持つカラムなどは必要になり、瞬時昇温が難しくなるが、電熱再生では担体を小さくすることで、ほぼ理想的な瞬時昇温が可能であり、初期脱着ピーク濃度を多角でき、少ない脱着液量で脱着を終了でき、加熱平衡脱着が可能であることが分かった。 (2)カーボンウィスカー膜(第3章) カーボンウィスカーの生成、工業材料としての利用は、20年以上も前に、研究がされており、用途に応じたウィスカーの形状の制御についても研究がなされている。しかし、このウィスカーを分離膜の表面に形成し、その特徴的な表面構造を利用し、ゲル層やケーク層に強く、洗浄もしやすい、いわゆる、耐汚染性膜としての利用は見当たらなかった。そこで本研究では、同方法の分離膜表面改質への応用性を検討した。具体的には、担体になるセラミック支持体(前述)を濃度0.1M或いは0.5MのFe(SO4)・7H2OまたはFe2(SO4)3・nH2Oの水溶液中に浸漬し、引き上げて表面を乾燥させた後に石英管の中に置き、炭素源となるメタンを1000-1100゜Cの窒素バランス中にて5-40分間流通させることで、CVDによりカーボンウィスカー膜が容易に形成されることを実証した。さらに、触媒濃度が高いほどウィスカー密度が高く、またメタンの濃度が高く、蒸着時間が長いほど、密度が高く長いウィスカーが形成されるといったように、製膜条件による膜表面上のカーボンウィスカーの制御が可能であることを明らかにした。一方、モデル粒子として直径(0.8um)のポリメチルメタアクリレート粒子(PMMA)を1000mg/l含んだ水を対象としてろ過実験を行い、膜形状細孔径あるいは操作条件に対して透過及び洗浄性能を測定した。結果として膜表面にあるカーボンウィスカーの密度が高い方が、透過流束の減少が制御され、逆洗浄の効果も高かった。しかしながら一方で、透過流速の実用レベルまでの上昇が必要であることも課題として残った。 (3)カーボンウィスカーを有する活性炭膜(第4章) 上述の検討にて、吸着能を有する活性炭膜、及びカーボンウィスカー膜の製法ならびにその特性解析に関して結論を得た。しかしながら、前述のように、前者に関してはろ過性能の長時間維持、後者に関しては高透過流速の達成が課題として残った。その対策として、両者を組み合わせた膜の製法の検討を行った。結果として、活性炭膜の製造において用いられるラテックス粒子溶液の浸漬をFe溶液浸漬に先駆けて行うことで、カーボンウィスカー膜に吸着性能を持たせられるばかりでなく、カーボンウィスカー膜形成におけるウィスカー成長の触媒であるFe溶液の膜支持体深部への浸透を防げることを明らかにした。さらに、ラテックス粒子のPVdC/PVC存在比、ならびにその支持体への付着量を制御することで、形成されるウィスカーのサイズが自由に制御できること、併せて膜透過に対して支配的に働く膜支持体近傍のウィスカー密度を低く抑えることで、高い透過流束が得られることを明らかにした。また、同操作によって得られるカーボンウィスカー膜を有する活性炭膜の実水処理への適用性の評価を行った。まず、ウィスカーの有無が懸濁粒子による閉塞に起因するろ過性能劣化にどのような影響を与えるのかを実験と数理モデル解析で明らかにした。具体的には、モデル粒子としてPoly(methyl methacrylate)(PMMA)を用いた回分ろ過実験及び膜細孔の不完全閉塞と粒子のケーク層透過を考慮した精密ろ過モデルによる解析を実施した。その結果、ウィスカーの存在によってケーク層ろ過抵抗、非閉塞面積、膜の閉塞効率、ならびにケーク層の粒子補足効率が低下することが明らかとなった。さらに実用的な系のデモンストレーションとして、懸濁物質による閉塞、および溶存有機物によるいわゆるカーボンファウリングによる膜性能低下と、活性炭膜の低分子量物質吸着能力の関係を明らかにすべく、いわゆる赤錆水、PMMA、NOM、フェノール及びイソプロパノールなどを組み合わせた溶液のクロスフロー型ろ過実験を実施した。その結果、ウィスカーの存在が膜閉塞を防ぐことで膜の高寿命化を実現し、結果として活性炭膜吸着性能の最大限の活用を可能とすることが明らかとなった。 | |
審査要旨 | 本論文は「Study on Preparation, Characterization and Application of Activated Carbon Membrane with Carbon Whiskers(カーボンウィスカーを有する活性炭膜の製法、特性解析および応用に関する研究)」と題し、ろ過機能と吸着機能を併せ持ち、さらに外表面上にカーボンウィスカー(微細で微少な炭素繊維)を付加することによって膜の目詰まりを軽減できる新しい水処理用の機能性炭素膜を提案し、その製法、構造及び分離性能、目詰まり抑制機構、および浄水処理への応用を述べたもので、6章から成る。 第1章は序論であり、わが国において一般的に行われている浄水処理における膜分離と活性炭吸着の役割分担を整理するとともに、原水に含まれる汚濁物質のサイズが広範囲に渡ることから、その一括処理が不可能である現状を述べている。その上で、本論文で提案する新しい膜が、コンパクトな処理装置による一括処理を可能とするものであることを示している。そして、本論文の目的は、その新しい膜の製法の確立と構造評価、ならびにそのろ過および吸着機能の評価であるとし、本論文の構成を述べている。 第2章では、ポリマー微粒子を凝集・炭化させて調製した活性炭膜について、その製法、構造、吸着および水透過の機能について述べている。ここで調製された膜は、溶存有機物を吸着する機能を持った活性炭膜であり、本論文で最終的に調製するカーボンウィスカーを有する活性炭膜の基礎となるものである。ポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルの混合微粒子を多孔質セラミック担体上に凝集・炭化させて膜モジュール化する製法には前例がなく、この製法によって市販活性炭と同様の高い吸着容量と実用的な水透過機能を併せ持った活性炭膜の調製に成功している。また、構成微粒子の粒子径が0.1μm程度と活性炭等と比較して極端に小さいことから、瞬時吸脱着とみなせる操作が可能であることも、この活性炭膜の大きな長所のひとつであることを明らかにしている。 第3章では、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により多孔質セラミック担体上にカーボンウィスカーを均一に形成させる製法と、そのようにして調製されたカーボンウィスカー層の水処理における効果について述べている。ここでの製法は、カーボンウィスカーの核形成前駆体として硫酸鉄を用い、炭素源としてメタンを用いることを特徴としている。また、円管状の多孔質セラミック担体を最適な回転数で回転させながら、メタンの供給方向をも一定時間ごとに逆転させるなどの実験的工夫を重ねて、膜モジュールとして水処理に使える形状の担体に均一なカーボンウィスカー層を調製することに成功している。さらに、このように調製したカーボンウィスカー層は、懸濁微粒子が膜表面に付着することを抑制し、逆洗によって容易に剥離させる効果があることを実験的に明らかにしている。 第4章では、第2章で述べた活性炭膜と第3章で述べたカーボンウィスカーを組み合わせて調製したカーボンウィスカーを有する活性炭膜について、その製法、構造、ろ過および吸着の機能について述べている。ここで調製された膜は、円管状の多孔質セラミック担体の外表面上にポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルの混合微粒子を凝集・炭化させて活性炭層が形成され、さらにその上にCVDによってカーボンウィスカー層が形成された多重構造となっている。この構造に関して、膜細孔径や表面開孔率を定量的に評価すると共に、ポリ塩化ビニリデン/ポリ塩化ビニル比が小さいほど、カーボンウィスカーの直径は大きく膜細孔径は小さいことを実験的に明らかにして、これらを制御した調製が可能であることを示している。また、ろ過の機能については、ポリメチルメタクリレート粒子懸濁液を用いたろ過実験により、カーボンウィスカーが粒子閉塞による流束の低下を抑制する効果を有することを明らかにしている。さらに、観察された流束低下抑制効果を既存の数理モデルを組合せて定量的に解析している。具体的には、ここで調製された膜は外表面上に直径5μm程度のくぼみが散在し、このくぼみへの粒子閉塞が流束の低下の原因となるが、その閉塞がカーボンウィスカーの存在により緩和されると考えるのが妥当であろうと結論づけている。 第5章では、第4章に述べたカーボンウィスカーを有する活性炭膜を用いて、古い水道配管から流出する、いわゆる「赤水」の透過実験を行い、ここで開発された膜の実用性について言及している。この「赤水」には、「赤さび」等が微粒子懸濁物として含まれるだけでなく、水道原水中に存在する天然物由来の溶存態有機物(Natural Organic Matter、NOM)が含まれる。このような「赤水」の透過における流束の低下には、第4章に述べた粒子閉塞の寄与は小さく、NOMの吸着による寄与が支配的であることを定量的に示した上で、後者による流束低下の抑制にもカーボンウィスカーが効果を有することを示している。具体的には、NOMの吸着量と膜透過抵抗の関係を詳細に検討し、カーボンウィスカーの表面にNOMが吸着されることによって流束低下が起こるまでの時間が長くなる効果を定量的に明らかにしている。 第6章には、各章のまとめと本論文の成果を整理している。 以上を要するに本論文は、懸濁態と溶存態の汚濁物質の双方を比較的低濃度で含む原水を吸着機能と目詰まり抑制機能を付加した膜で一括処理するという新しい水処理法を提案し、このことを可能にする新しい機能性炭素膜を開発するとともに、その処理機能を明らかにしており、工学的に高い価値を有し化学システム工学への貢献は大きいものと考えられる。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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