No | 119796 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Pirrone,Serigio | |
著者(カナ) | ピローネ,セルジオ | |
標題(和) | 居住と住居 : 第2次世界大戦後の日本を中心として | |
標題(洋) | Living The Living House | |
報告番号 | 119796 | |
報告番号 | 甲19796 | |
学位授与日 | 2005.02.17 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5935号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 目的 本論文の目的は、フレキシブルで軽量建築の類型的、形態的に重要な特徴を図式化し、その関係を機能的分類、環境的影響を明確化することである。この建築は、固定的な仕切りの設けないオーペンスペス解決と異なって、流動性と多面性空間としての居住適性を有している。 背景 現代の都会は、固定的な構造の建物と再構築された空間と機能がある流行している建築物が共存していることが特徴でる。固定的な構造の建築は取り除かれないことを意味するだけでなく、都市内の固定的な建築にぞくする序列的価値と序列的関係をも固定することである。 フレキシブルで軽量構造は、古い建築物と新しくて予測できないつながりを確立するために設けられた空間の意義と構成は、短期的で変わりやすい現代生活の特色に応じていろいろな意味を持つ。 ところで、この建築は、都会の中枢を占める固定的な建築の代替建築として考えられるのではなくて、固定的構造を通じて明きらかにできない補足的な居住機能の完成と考えられる。 フレキシブルの概念 一時的で変更可能な建築の図面を描くために基礎的な概念としての「フレキシブル」は、、重量性と透明性の物質的価値に限られていないが軽量の広い範囲での環境的状況と偏りのない空間と多様性のある機能に合わせて、構造における柔軟性と一時的な挿入と変わりやすい類型の属性として考えられている。建築空間の可能性を評価するために、私はフレキシビリティを5つの空間的特質に分けて考えてみたい。 空間のフレキシブルな特質 流動性は人々や景色、音や空気の流れる空間のデザインを表す。オープンスペースには流動性があるが、しかしその広がりのなかに圧倒させるものがあれば流動性を感じない場合もある。しかしそれでも、まわりの空間に対して好奇心を誘発することで親密さを増すことができるし、そうすればそこは人をより惹きつけ、圧倒させるところの少ない空間になるだろう。 多面性は多様な使用法を可能にするものである。多目的空間は多面性を示すものであるが、しかしそれは特徴のない空間に陥る危険も孕んでいる。どんな空間も、ある特定の活動や流れに対応するものであるのに、もともと用途に特化しない総合的な空間に、そうした特定のリズムを与えることはより難しいからである。 転換性は新たな用途への適応の容易さを示すものである。現代のオープンスペースビルはその一例である。なぜならそうしたビルが搭載するシステムコアは、活動の変化に応じて容易にその再配置が可能な空間をもつシェルで囲まれているからだ。転換性をもつ空間のデザインには将来起こりうることへの想像力が必要とされる。そうした空間はモジュール性および構造面での拡張性、再設計可能な設計を有しているべきであろう。 伸縮性は空間の拡張・縮小に対する特性である。拡張のためには、空間は求められる変化に対応すべく増加・追加部分を必要とする。縮小のためには、使用者は一時的に建物とその周囲の用途転換をはからねばならないだろう。 修正性は活発な操作と転用を引き起こす。すばやい再調整の可能な空間は、可動性のある要素、すなわち壁やパーティション、家具、備品などで構成される。修正性の高い空間は異なる個人個人特有の要望を調停する。こうした空間の設計にあたっては、多くの構造的な依存関係を考慮しなければならないため、非常な用心が必要である。 フレキシブルは、建築物とその機能的な空間を変える可能性と潜在性を持っていることは、すでに明らかになっている。 構造的な柔軟性は、空間的、構造的柔軟性のプログラムと計画に関連し、持続する技能と技術の利用を言う。 機能的な柔軟性は類型を設計する理由、特性とパフォーマンスを属するレベルに強くつながっている。建築された理由とそれにあわせるべき住まい方はどんな建物に関して空間と分配の編成である。 もちろん、建てられた建築物の形態的な特質は、様式的あるいは機能的であるかによって一義的に断定できない。フレキシブルは、ただ技術的と構造的あるい多様性のものではなくて、むしろこれは都会空間とその建築物に適合するいろいろな根本的役割に対する見方から生じる周りの環境に深く調和する方法を確認することを目的とした建築計画的見方である。 上記の仮説の論理は以下の三つの方法でまとめてことができる。それは、使用法、建築物のイメージする方法と設計上の理解である。 可動性は、可動構造空間(未可動)を含めているすべての住宅類型に関連する。これは、完成したひとつの建築物をある現場に配置することから、いろいろな類型と構想のある建築物の各部分を異なった方法でしかるべき場所で組み立てることまで。 組み立て/分解は、建築物をはやく建てるためにすべての工程を示す。それは、迅速さと時間と作業数の節約である。さらに、これは特別な状況つまり緊急あるいは異常な環境状態にあてはまる。 適合性と対応は、日常生活のさまざまな場面で起こる機能的なニーズに対して即座な回答と適当な解決、建築物の特異性と現実的な概念実態の間に交わる接点の進展の考慮が必要である。 構造的類型 簡単に言えば、軽量とフレキシブルの分野を理解するために必要な技術と原料は四つの主な分野、つまり 軽い既成構造物、耐久性建築物、気体構造物、網状構造物にわけられる。 このような分類は、研究された生物の参考分類の完璧な割り当てを示していないが基本的特徴の認識性と記述性の要素を追いながら、どのように接合するか結合するかを理解する試みである。そして、ときどき計画のなかに間接的に結びついている。 機能的類型 産業革命と移動性によって、世俗的な建築物はなくなった。相違点のある利用者と新しい社会的発展のことを考えて再建築類型は必要となっている。拡大する居住者の要求に適合し変質させるために、この新しい「類型」の可能性を分析することで、さまざまなフレキシビリティの類型と生活モデルの一致が実現可能になる。 類型の展開 ニュートラルな利用 空間の量とは特定の用途を決めない、ニュートラルな利用において最大となるものである。同じ空間の量での生活空間の割合をできる限り大きくするために、廊下や出入りのための場所は排除され、昼間と夜に使う場所の区分はよりあいまいとなっている。 フリープラン 「フリープラン」という概念における、フリー(自由)という言葉とプラン(良識)という言葉が結合したかたちは自己矛盾であると言えるかもしれない。しかし家の内部から外部まで自由で連続的なものとしての空間の感覚は、オープンなプランによって達成されるものである。展望は部屋の境界で途切れるのではなく、連続的な水平面へと導かれる。そこでは新しく、絶えず変化する関係が生まれる。 自律的な決定 これは軸組構造と完備されたケーブルとパイプのネットワークを基礎としており、このスケルトンは住民に引き継がれて、空間の分割、拡張、最適化によって独自の生活空間がつくられていく。このようなやり方は、現在的な利用のみならず、それぞれの世代の新しい願望にもとづいた長期間にわたる生活空間の変革に対しても最大限の自由を保証するものである。 平面的展開 これは水平方向でのミクロな建築の追加・除去による生活空間の拡張および縮小で、時間の経過に伴う自己展開が可能である。オープンスペースを閉じることで部屋が追加されうるように、それは最小限のやり方で基本的な居住を成立させるものである。 垂直的展開 これは垂直方向でのミクロな建築の追加・除去による生活空間の拡張および縮小で、重層空間の核心である。新しい空間の追加・除去は、変化する要求に応じて構造内部の基準面を上下することによりなされる。 変形性 変形性という概念は、最大限に拡大されている。それは住宅に技術を取り入れること、建設と設計を容易にするためにモジュールシステムを用いること、そして日々建築空間を調整しニーズに合わせて改造するための複雑な仕掛けを展開することである。建物外部の順応可能な性質は住宅を活性化させ、その表面を再構成することが多様な空間的・視覚的解決をもたらす。 可動性 構造体の構成要素を可動的にすることで、空間の数や大きさ、形を変えることができる。それらは、基本の実際的機能であれ、美的な機能であれ、絶えず変化する必要性に合わせてさまざまにつなげたり規模を変えたりすることが可能である。建物外部の表面は、垂直・水平方向のスライド・律動・回転により操作される。 情報化 情報化住宅は、デザイン上の重要な要素としての電子工学、情報科学とその応用への考慮、および簡単に扱える建物の要素による建設管理を基礎としている。「フレキシビリティ」は、プロジェクト全体のあらゆる段階で基礎になっている概念である。住宅の機能的側面を単純化することで、一貫したエネルギーシステムのもとで電気の利用が制御され、エネルギーの節約になる。 可動的類型 可動的類型は、移動式、解体可能な、物質的移動建築物の可能性を生み出す。このような柔軟性は、小さい住宅から広い住宅までのダイナミックで活気のある構造物に見られる。 結論 本研究は、空間を体系化するつもりする意図はない。むしろ、それらの空間を時間的にいろいろな方法で修正して、活発にすることである。空間を機能につなげる関係は、新しいく加えた状況と都会にすでに設けられた場所に適合する。建築の分野に研究の話題になっているにもかかわらず、フレキシブルな建築の特徴と機能をこんな総合的に図式化する本研究は、もし世界中ではないにしても、日本でははじめての試みである。 | |
審査要旨 | 本論は主として第二次世界大戦後に発表された日本はもとより世界の住宅プロジェクトを取り上げ、住宅および居住の諸相においてflexibilityという概念がどのように適用されたかを検証するものである。従来、住宅の融通性は日本の伝統的住宅に固有の特徴と考えられてきたが、著者が定義するflexibilityという概念を導入することによって、近現代の都市居住に対するさまざまなプロジェクトを系統的に位置づけることが可能になる。 著者はflexibility概念の第一義的な特質として、(1)流動性、(2)多面性、(3)転換性、(4)伸縮性、(5)修正性を挙げ、まずはその定性的整理を行っている。次いで住宅・居住に焦点を絞り、その概念を建築構造的側面と機能的側面に適用し、a.可動性、b.組立/分解、c.適合性/対応、の各類型を導き出している。 こうした基礎的作業を経た上で、各類型の展開を逐一検証し、次の8つの性質を発見した。すなわち(1)ニュートラルな利用、(2)フリープラン、(3)自律的な決定、(4)平面的展開、(5)垂直的展開、(6)変形性、(7)可動性、(8)情報化が、近現代住宅および居住におけるflexibility概念を編み上げる主要な手法であり、その妥当性を数多くの住宅作品分析を通して確かめている。 本論は従来曖昧のまま議論されてきた住宅の融通性ないし柔軟性について、はじめて理論的にアプローチし、そこにあらわれる類型や特質について総合的な視点から蓋然性の高い整理を行った点が高く評価できる。最終的に導かれた8つの類型手法は従来の住宅プロジェクトを捉えるうえで、きわめて有用な視点をわれわれに与えてくれる。 しかし著者の本論における真のねらいは決して空間の体系化にあるのでなく、むしろそれの多様な組み合わせから構想される、今後の都市居住のあり方への戦略的提言にあることに注目しなければならない。第二次世界大戦後の日本を題材にとれば、急激な都市化・都市の高密化は、狭小な住宅供給や持ち家志向というかたちで現象したことは疑いないが、その一方で日本の住宅は西欧のそれと比較して、壁やソリッドな躯体によって分断させる公と私、家族と個人という性格は比較的弱く、むしろ居住環境の視点からみると、ニュートラルな利用や自律的な空間の決定が潜在的に継承されてきたようにみえる。こうした空間のフレキシブルな特性は、今後の持続可能な都市居住戦略を考えるうえで、欠かすことのできないものである。 以上を要するに、本論は従来必ずしも明らかでなかった住宅および居住の多面的性格を、flexibilityという概念で再定義し、実証的な理論整理を行ったうえで、今後の都市居住のあり方を展望したという点で、建築学分野における当該研究レベルをさらに押し上げることに成功したと評価できる。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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