No | 119864 | |
著者(漢字) | 清野,武寿 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セイノ,タケヒサ | |
標題(和) | 製造業における設計・生産の連携強化のための技術マネジメントに関する研究 | |
標題(洋) | Technology Management for Production Design and Manufacturing Cooperation | |
報告番号 | 119864 | |
報告番号 | 甲19864 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第568号 | |
研究科 | 総合文化研究科 | |
専攻 | 広域科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 戦後の我が国の製造業は、欧米の先進諸国で生み出された技術を導入し、さらに安価で、品質の高い製品・商品を、大量に効率よく生産することで発展してきた。今日までの日本の発展にとって生産技術の継続的な創意工夫が果たしてきた役割は大きい。しかし、近年、中国、韓国、台湾などのアジア諸国が、欧米や日本から生産技術を導入し、高い成長率で成長を続けてきている。現在の我が国の製造業は、競争力を向上させるための活路を自ら考え出さなければいけない状況にある。 日本の製造業の中には、従来とは異なる事業領域へ進出を試みている企業もあるが、ハードウエアを中心とした「新製品の創出」が現在でも活動の基盤となっており、その競争力強化は取り組むべき重要な課題であるといえる。製品の創出においては、「製品の性能・機能(P)の向上」、「品質(Q)の向上」、低価格な製品を提供するための「コスト(C)低減」、製品を顧客にタイムリーに提供するための開発・生産の「リードタイム(D)短縮」のどれが欠けても競争力を失う可能性がある。したがって、これらを同時に満足することまでを視野に入れた技術やマネジメントが必要であると考えられる。 PQCDを同時に実現させるには、工場での生産段階に入る前の製品開発段階において、「新製品を創造する設計技術」と、「製品を具現化する生産技術」の両者を高度化・強化するとともに、両技術を協調させることが必要となる。すなわち、設計技術部門と生産技術部門の連携を強化するマネジメントが、いままで以上に重要になってきていると考えられる。 本研究では、今日の日本の製造業の基盤となる活動である「新製品の創出」において競争力を強化するために、設計技術部門と生産技術部門の連携を強化するための技術マネジメントの方法を提案することを目的とする。従来、新製品の創出に対しては、研究や製品設計のマネジメントが着目されることが多く、生産技術の視点からマネジメントの方法が議論されることが少なかった。本研究では、設計技術部門と生産技術部門の連携を生産技術の視点から考察・分析し、現場で活用できる具体的なマネジメントの方法を提案する。 序論に次ぐ第2章では、本研究の背景となる日本の製造業がおかれている状況と、研究対象である設計技術部門と生産技術部門の活動内容を述べた。第一に、成長が著しいアジア諸国の製造業の状況を概観し、日本の製造業が厳しい環境下におかれている現状を把握した。その中で競争に勝ち抜いていくには、PQCD各々のレベル向上に加え、これらを同時に実現していく必要があることを確認した。次いで、日本の製造業における設計技術部門と生産技術部門の役割と活動内容を述べた。設計技術部門が主にPの向上を重視して活動しているのに対し、生産技術部門は主にQCDを重視して活動している。このことから、PQCDを同時に実現させるためには、設計技術部門と生産技術部門の連携が重要であることを明らかにした。 第3章では、設計技術部門と生産技術部門の連携に関する先行研究・先行事例を調査した。コンカレントエンジニアリング、プロジェクト活動、企業間の連携形態の一つであるアウトソーシング、さらに、組織間知能に着目した企業間連携についてレビューを行なった。いずれの先行研究においても、設計技術部門と生産技術部門の連携強化に対して、生産技術部門が活用できる具体的なマネジメント方法までは十分に議論されていない。本研究は、両者の連携強化にむけた生産技術部門の行動形態を分析し、実際の現場で実務的に活用できるマネジメント方法を提案する点で独自性がある。 第4章では、設計技術部門と生産技術部門の連携不足の実態を調査した。製造業6社(映像情報機器、精密機器、情報機器、精密電子部品、感光材料、化学材料)の生産技術部門のマネジャにインタビューを行なった結果、両者の連携不足がPQCDに対して悪影響を及ぼしていることが明らかになった。さらに、その実態を分析した結果、両者間の「情報伝達の欠如」と「活動の柔軟性の欠如」が連携を妨げている主な原因であることがわかった。次いで、2つの欠如を解決できた成功事例を自由記述形式のアンケートで調査した。その結果、情報機器、映像機器、機械電機部品、精密電子部品、精密機器、産業機器、産業機械、住宅設備、制御機器、薬品、化学材料などの製品を製造している24社から回答が得られた。その中でPQCDを同時に実現できた4つの事例について、設計技術部門と生産技術部門の連携内容と生産技術部門の行動を詳細に分析した。その結果、設計技術部門と生産技術部門の間で、各々が保有するデータ・情報を伝達し、それを最大限に活用する「データ・情報の伝達と有効活用」と、両者が互いの機能や役割を代わって実施する「機能・役割の置換」が実行されたことで、二つの欠如を解決できたことがわかった。 第5章では、「データ・情報の伝達と有効活用」と「機能・役割の置換」を「連携の基本モデル」と定義し、設計技術部門と生産技術部門の連携プロセスを「連携の基本モデル」を結合した「連携の連鎖モデル」で記述・表現する方法を提案した。そして、第4章で分析した4つの連携の成功事例について、PQCDが同時に実現されるまでの過程をインタビューした。その結果、インタビューした4つの成功事例のうち、2つの事例において連携の連鎖モデルが実際に発生していたことが確認できた。次に、電機メーカ1社の製品開発の活動を参与観察し、設計技術部門と生産技術部門の連携の過程と内容を詳細に分析した。参与観察した4つの事例においては、複合的な連携の過程を確認でき、それらを連携の連鎖モデルで表現することができた。設計技術部門と生産技術部門の連携を、連携の基本モデルを結合した「連携の連鎖モデル」で表現する方法によって、最終的なPQCDの効果が得られるまでの連携のプロセスを分析・解明できることがわかった。次いで、現場のマネジャや技術者が活用できる方法として、「連携の基本モデル」に着目して行動を立案する方法と、「連携の連鎖モデル」に着目して連携を推進する方法および連携の成功事例を応用展開する方法を提案した。1つ目の「連携の基本モデル」に着目した提案では、事例において「連携の基本モデル」で実行された方法を用いて行動を立案する方法と立案のための視点を示した。2つ目の「連携の連鎖モデル」を活用した提案では、連携の契機を発生させる方法、連携の連鎖を発生させる方法、および連携の成功事例を応用展開する方法を提案した。連携の契機を発生させる方法としては、連携の連鎖が確認できた全ての事例において、生産技術部門から連携を働きかけることで連携が開始されたことが確認できたことから、「生産技術部門から連携の連鎖の誘因となる行動を実行すること」を提案した。連携の連鎖を発生させる方法としては、連携の連鎖の事例が3つの連鎖発生のパターンに分類できることを示し、各パターンにおいて連携の連鎖を発生させる方法を提案した。連携の成功事例の応用展開の方法としては、連携の最終結果に加えて、最終結果が得られるまでの過程を連携の連鎖モデルで表現して情報提供する方法を提案した。提案した「連携の基本モデル」と「連携の連鎖モデル」によって設計技術部門と生産技術部門の連携を記述・表現する方法は、連携の行動立案、連携の契機の発生、連携の連鎖の発生、連携の応用展開を促進するために有効であり、従来、両者の連携強化の手段がなかった現場のマネジャや技術者にとって有用なマネジメント方法を提供できたと考える。 第6章では、「データ・情報の伝達と有効活用」と「機能・役割の置換」が効果的・継続的に実行されるための環境整備の方法について、連携の成功実績のある製造業にインタビュー調査した。その結果、前者に対しては「生産技術部門のノウハウの形式化」が、後者に対しては「生産技術部門の継続的な技術力向上」が、生産技術部門が単独で進めることが可能な方法としてあげられた。生産技術部門が単独で実行可能な方法が、部門間の調整を必要とせず機能別部門のメリットを活かして環境整備を進めることができることから、これら2つの環境整備方法を実現する具体的な方法を考察・提案した。「生産技術部門のノウハウの形式化」に対しては、業務フローに沿って人間の判断項目をリストアップし、熟練技術者による評価によって形式化可能な項目を特定し、そこに判断ルールを作成する方法を提案した。「生産技術部門の継続的な技術力向上」に対しては、生産技術部門が目標までの5段階のレベルを設定して技術力を向上させる方法を提案した。そしてこの方法を実際の事例に適用し、「機能・役割の置換」の効果的推進に有用であることを示した。 第7章では、本研究で得られた成果を総括するとともに、今後の課題について述べた。 本研究の意義は、製造業における設計技術部門と生産技術部門の連携強化に対して、従来の研究では十分ではなかった、実際の現場で実務的に活用できる方法を提案した点にある。連携の基本モデルに着目して連携の具体的な行動を立案する方法、連携の連鎖モデルによって連携のプロセスを明確化して成功事例を応用展開する方法、連携を推進する方法等、設計技術部門と生産技術部門の連携を実際の現場で進めていくマネジャや技術者に、連携推進のための具体的な行動方法を立案する手段を提案できた点で意義があると考える。 | |
審査要旨 | 本論文は、我が国の製造業における設計部門と生産部門との連携を強化する過程と方法を,事例分析と参与観察によって実証的に解明したものである。技術経営論においては,製造業に対して,研究,設計,或いは,生産それぞれの部門に関する研究は多いものの、部門間をまたぐ研究の蓄積は十分ではなかった。その一方で,産業界では今後の我が国製造業の競争力強化のために,従来からの日本企業の強みである生産部門と,新製品を構想する設計部門とをいかに連携させるかが大きな課題となり,その効果的な方法を求めて試行錯誤の状態にある。このような状況において,この研究課題に取り組んだ本論文の意義は高く評価される。 本論文は7章からなる。第1章は序論であり,以上のような研究の背景と目的が述べられている。第2章では,日本の製造業がおかれている状況と,研究対象である設計部門と生産部門の活動内容を調べ,両部門の連携が重要であることを明らかにしている。 第3章では、設計部門と生産部門の連携に関する先行研究・先行事例を調査し,そのいずれもが実際の現場で実務的に活用できる具体的方法にまで十分に議論されていない点を明らかにしている。 第4章では,製造業6社で設計部門と生産部門の連携不足の実態をインタビュー調査し,「情報伝達の欠如」と「活動の柔軟性の欠如」が連携を妨げている主原因であることを明らかにした。ついで,24社でそれらを解決した事例を詳細に分析し,両部門間で「情報の伝達と有効活用」と,「機能・役割の置換」を実施することの有効性を確認している。 第5章では、電機メーカーで詳細な参与観察を実施した結果、複合的な連携の過程を,「情報の伝達と有効活用」と「機能・役割の置換」を結合した「連携の連鎖モデル」で表現できることを明らかにした。さらに連携の連鎖の発生を3パターンに分類し,パターンごとに連携契機の発生方法,連携連鎖の接続方法,さらに,他事例への応用展開方法など,連携を効果的に発生・強化させるための実務的に活用できる方法を提案している。 第6章では、設計部門と生産部門の連携が効果的・継続的に実行されるために,生産部門が主体となって進めておくべき具体的施策,即ち,「生産部門のノウハウの形式化」と「生産部門の継続的な技術力向上」の詳細手順を提案し,実験や事例でその効果を実証している。 第7章は結論であり、本研究で得られた結果が要約されている。 以上のように本論文は、製造業における設計部門と生産部門の連携の実態分析を通じ,その連携のパターンを明らかにし,次いで,連携を発生・強化させるための方法を実務的な詳細レベルで提案したものであり,技術経営論分野の研究成果として高く評価出来る。従って、本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する。 | |
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