学位論文要旨



No 119906
著者(漢字) 清水,雄輝
著者(英字)
著者(カナ) シミズ,ユウキ
標題(和) ユーロピウムをドープしたフッ化カルシウムシンチレータによる低放射線バックグラウンド環境下での暗黒物質探索実験
標題(洋) Dark matter search experiment in a low radioactive environment with europium-doped calcium fluoride scintillators
報告番号 119906
報告番号 甲19906
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4635号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中畑,雅行
 東京大学 教授 坂本,宏
 東京大学 教授 酒井,英行
 東京大学 助教授 松尾,泰
 東京大学 助教授 浅井,祥仁
内容要旨 要旨を表示する

 我々の銀河を構成する物質のほとんどは暗黒物質であることが知られ、暗黒物質はWeakly Interacting Massive Particle (WIMP) として存在するという確かな証拠がある。WIMP は非バリオン的な粒子と考えられ、最も有力な候補は超対称性理論から予言される粒子の中で最も軽く安定な中性粒子であるニュートラリーノである。WIMP は検出器中の原子核との弾性散乱を通して直接検出することができると考えられ、それを目的とした実験が複数の実験グループによって行われている。それらの中の一つであるDAMA グループは地球の公転に起因するWIMP のイベントレートの季節変化を発見したと報告した。一方、CDMS グループによる実験結果からスピンに依存しない相互作用でのDAMA グループの主張する許容領域は否定された。しかし、スピンに依存する相互作用ではまだDAMA グループの実験結果が強い制限を付けており、許容領域も制限されていない。

 この論文では宇宙線研究所宇宙素粒子研究施設内の地下実験室で行ったCaF2(Eu) シンチレーターによるWIMP 探索実験について報告する。19F はスピンに依存した相互作用に対して大きな断面積を持つと考えられている。実験は2004 年12 月に310g のCaF2(Eu) を用いて10 日間行われ、観測されたイベントレートは10k.e.e. (keV electron equivalent) 以下のエネルギー領域で10 counts/k.e.e./day/kg となった。観測されたエネルギースペクトルからスピンに依存した相互作用でのWIMP-陽子カップリング(ap) 及びWIMP-中性子カップリング(an) に対する制限を導出した。19 F の原子核スピンの特性からDAMA グループによる結果と相補的な制限を導出することができ、ap-an 平面でのDAMA グループによる許容領域の多くの部分を制限することができた。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文ではユーロピウムをドープしたフッ化カルシウムシンチレータを用いて低放射線バックグラウンド環境下において暗黒物質を探索し、暗黒物質について新たな知見を得た。暗黒物質探索は世界でも数多く行われており、その中でイタリアのグランサッソ研究所で行われたヨウ化ナトリウムを用いたDAMA実験は暗黒物質によると考えられる信号の季節変化を捕らえたと主張している。これに対してアメリカのCDMS実験はDAMA実験を越える感度で実験を行い、否定的な結果を出している。もし、この両者の実験の結果を信じ、その食い違いを説明しよう考えならば、DAMA実験で捕らえている信号はスピンに依存する反応(Spin Dependent(SD))であって、CDMS実験に感度があるスピンに依存しない反応(Spin Independent(SI))においてはヨウ化ナトリウムの反応の大きさが小さいという解釈が考えられる。そこで、清水君はSD相互作用に最も感度がある物質のひとつであるフッ素を用いた実験装置を建設してデータを取得した。実験結果からは有意な暗黒物質の信号は得られず、暗黒物質と陽子、中性子の相互作用の強さに制限を与えた。これは、上記の解釈によって、DAMA実験が許している領域に対して、その一部を排除することができた。

 論文は7章からなり、まず第1章では銀河の回転曲線や最近の宇宙背景マイクロ波輻射の観測から暗黒物質が存在が確実であるということが書かれている。第2章ではその暗黒物質の候補として最も有力な候補であるニュートラリーノについてSUSYモデルからの予想、反応断面積の詳細について書かれている。第3章では今までに行われてきた実験のレビューが書かれており、その結果を基にフッ素を用いた実験の重要性について書かれている。第4章では実験装置を組み上げる上で必要とされる放射性バックグラウンドレベルに対する要件、それを満たす本実験に用いた実験装置材料について書かれている。第7章では実際に取得されたデータの詳細について書かれており、第5章はその測定されたスペクトルを用いて暗黒物質と陽子との反応の強さ(ap)、暗黒物質と中性子との反応の強さ(an)において、制限される領域について書かれている。apとanの平面上ではスピンの寄与の関係からヨウ化ナトリウムの場合とフッ化カルシウムの場合は交差する関係にあり、本実験によってDAMA実験をSD相互作用による反応であるとした場合に許される範囲の一部を制限することができた。

 本論文の研究は東京大学大学院理学系研究科の蓑輪眞教授らとの共同研究ではあるが、本論文の実験の設計、建設、データ解析はすべて論文提出者が行ったものであり、論文内容に対する論文提出者の寄与が十分大きいと判断される。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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