No | 119909 | |
著者(漢字) | 高橋,慶太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タカハシ,ケイタロウ | |
標題(和) | ブレーンワールドとバルク場 | |
標題(洋) | Braneworld and Bulk Fields | |
報告番号 | 119909 | |
報告番号 | 甲19909 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4638号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ランドールとサンドラムによって提唱されたブレーンワールドは余剰次元をシンプルに組み込んだ魅力的なアイデアである。このモデルでは通常の物質はブレーンと呼ばれる3次元的な部分空間に閉じ込められていると仮定し、重力だけがバルクと呼ばれる余剰次元方向を伝播することができる。このモデルの本質はバルクの負の宇宙定数にあり、これによって余剰次元方向が曲がりブレーン上で4次元重力が実現されるのである。 この論文ではブレーンワールドにおけるバルク場の影響を調べる。特にバルクにあるスカラー場がブレーン上でインフレーションを引き起こすモデルを提唱する。このスカラー場はバルクにもブレーンにも指数関数的ポテンシャルを持っており、ブレーン上で冪型インフレーションが起こる。このモデルの著しい特徴は背景時空だけでなく宇宙論的摂動も含めて厳密に解けることである。したがって宇宙初期に生成されるゆらぎを定量的に計算することができ、宇宙背景放射のゆらぎや背景重力波を考える上での初期条件を与えることができる。このゆらぎのなかに余剰次元の情報が含まれており、通常の4次元宇宙論と比較される。結果として4次元宇宙論との違いは非等方ストレスやゆらぎのカルツァ・クラインモードに存在することがわかったが、これらの違いは非常に小さい。これは摂動のスペクトルに質量ギャップが存在することに起因する。質量ギャップは質量がブレーン上のハッブルパラメータの3/2倍のところに存在するが、これは5次元反ドジッター時空にあるドジッターブレーンにおける質量ギャップと一致する。ドジッターブレーンにおいてはこの質量ギャップの存在はドジッター群の表現論から解釈できる可能性があるが、冪型インフレーションモデルでも同じ質量ギャップが存在するという事実はブレーンワールド宇宙論の普遍的な性質を示唆し、群論的議論がより対称性の低い時空においても適用できる可能性も示唆している。このようにこのモデルはバルクの幾何学とブレーンの力学の関係を考えるうえで有用であると考えられる。 | |
審査要旨 | 本論文は7章からなる。第1章は、イントロダクションであり、5次元時空におけるブレーン宇宙が説明されている。第3章は、ブレーンの5次元時空での運動について解説している。第4章では、スカラー場を5次元の時空のバルクに導入し、インフレーション宇宙を引き起こす模型について解説し、第5章でその模型の予言する重力場等の摂動的な揺らぎについて議論している。第6章が本論文の主要な部分であり、そこではバルクに導入したスカラー場のポテンシャルを指数関数的に選ぶことにより5次元のアインシュタイン方程式が解析的に解けることを示した。さらに、その場合にパワーロウのインフレーションが起こることを示し、その上で重力場等の揺らぎを求めた。第7章には結論がまとめられている。 一般に5次元時空のような高次元時空の宇宙を考える場合、高次元時空の自由度が見えてくる現象に興味が持たれる。それは、観測を通して理論をテストできるからである。しかし、考えているエネルギースケールが、我々の住んでいる4次元時空以外の余次元空間の大きさの逆数より小さい場合は、高次元時空の効果は見えてこない。しかし、宇宙初期に起こったと考えられるインフレーションでは系のエネルギースケールは非常に高く高次元の効果が見えると期待される。それを見るためには近似式を使わずに高次元のアインシュタイン方程式を解く必要がある。この方程式の解を求めたのは本論文の提出者である。本論文の結果は、インフレーションのエネルギースケールが余次元空間の大きさの逆数より大きくても高次元の効果は見えないと言うものである。 上記の発見はまったく予期しないものであったが、その物理的な理由も説明されている。余次元空間の自由度を表すモードがインフレーション中にインフレーションのエネルギースケールの質量を持つために、高次元時空の効果が見えなくなるのである。このことに注目したのは本論文の提出者であり、この解釈が高次元時空の宇宙のより深い理解につながると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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