No | 120002 | |
著者(漢字) | 井上,亮 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イノウエ,リョウ | |
標題(和) | カルトグラムの作成手法に関する研究 : GISを用いた統計データの新たな表現に向けて | |
標題(洋) | Studies on Cartogram Construction Algorithms for Better Visualization of Statistical Data on GIS | |
報告番号 | 120002 | |
報告番号 | 甲20002 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5944号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年の情報通信技術の進展に伴い,国や地方自治体等が収集する多種多様な統計データをWeb上から無料で入手可能になってきている.例えば,平成16年に開設された「統計データ・ポータルサイト 〜政府統計の総合窓口〜」(http://portal.stat.go.jp/)では,政府機関等が公表している全ての統計データを検索でき,その多くを無償でダウンロードできる.また,現在では過去の統計データも電磁的媒体で安価に入手することもできる.このように,一般市民や分析者が多くの統計データを利活用し,地域の現状・変遷を分析・把握することができる環境が整ってきた. これら大量の統計データは,行政区域等の集計単位に基づき地理情報システム(GIS)上で管理されている.GISでは基本機能として統計データの視覚化を提供しており,プレゼンテーションやデータマイニングの道具として利用されてきた.また,WebGISの普及によりGISの統計データ視覚化手法を用いてWeb上で統計データを閲覧できる環境が整ってきており,GISの統計データの視覚化機能はより多くのユーザーが利用できる一般的な手法へとなりつつある. 以上のように情報通信技術の発展につれて,膨大な統計データの入手・利用が容易になると同時に,GIS利用者,中でも統計データ視覚化手法の利用者の裾野が広がりつつある.この結果,今後GISを用いたより効果的な統計データ視覚化への要求はますます高まると考えられる.この要求に応えGISの更なる普及・利用を促すために,本研究では統計データの視覚化手法の中からカルトグラムに着目し,GISを用いた統計データの新たな視覚化手法を提案する. カルトグラムとは,地図を変形して統計データの特徴を表現する視覚化手法である.カルトグラムには大きく分けて2種類あり,地点間の近接性を示す統計データを地図上の地点間距離の長短で表現するディスタンスカルトグラムと,行政区域内の人口等の統計データを地図上の地域の面積の大小で表現するエリアカルトグラムに分類される.また,エリアカルトグラムは,地域間の隣接関係を保持したまま地図を連続的に変形し統計データを表現する連続エリアカルトグラムと,隣接関係を捨象し各地域を非連続に記して統計データを表現する簡便法の非連続エリアカルトグラムに分けられる. カルトグラムは古くから効果的な統計データ視覚化手法として注目されてきた.カルトグラムの読図者はカルトグラム上と地理的地図上の地図形状の比較を行い,その違いをもとに表現されている統計データの特徴を認識する.そのため,読図者が対象地域の地理的地図形状に対して先験的な知識を備えている場合カルトグラムによる視覚化は特に効果的で,印象的な視覚化が可能である. 以前は手作業による作図が行われていたが,1960・70年代に計算機を用いた作成手法が提案されて以来,数多くの作成手法が提案されてきた.しかし,既存作成手法の計算過程の複雑さや数学的不明快さ,作図結果の統計データ視認性の低さ,また作成手法のソフトウェア未整備等が主因となり,カルトグラムを利用した視覚化はほとんど行われていないのが現状である. 本論文ではカルトグラムの統計データ視覚化手法としての潜在能力に注目し,一般市民や分析者がカルトグラムを利用した統計データ視覚化を容易に行うことができる環境を整備し,カルトグラムの実用化を実現することを最終的な目標とする.この目標の達成に向けて,簡潔な操作でデータ視認性の高いカルトグラムを作成できる手法の構築を行う.また,その成果をもとに,最も普及しているGISソフトウェアの一つであるArcGISの拡張機能として,カルトグラム作成ソフトウェアを整備する. 第1章では,以上に述べた研究の背景と目的に続き,本論文におけるカルトグラム作成手法の開発方針について纏める. 地図上の地点間距離や地域面積だけでは地点配置や地域形状を一意に定められないため,カルトグラム作成問題は正則化が必要な不良設定問題である.本論文では,この正則化のために地図形状変化の抑制を導入し,過剰な地図形状変形がなく統計データの特徴を認識しやすいカルトグラム作成を目指す. また,カルトグラム作成ソフトウェアの開発のためには,作成手法は高い操作性を備えていなければならない.変数設定の簡潔さや高速な計算という操作性を実現するには,作成手法は数学的に明快でなければならない. 即ち,「過剰な地図形状変形の排除する正則化条件の設定」による「数学的明快さを持ったカルトグラム作成手法」の追求を,本論文におけるカルトグラム作成手法開発の基本的方針とする. 第2章では,ディスタンスカルトグラムと連続エリアカルトグラム,および非連続エリアカルトグラムのうち近年注目されているサークルエリアカルトグラムの3種類について既往研究の整理を行い,既存作成手法の問題点について指摘する. 第3章では,ディスタンスカルトグラム作成手法の構築を行う.まず,ディスタンスカルトグラム作成問題を非線形最小二乗問題で記述する.この非線形最小二乗問題を数値解法の一つであるLevenberg-Marquardt 法を用いて正則化を行い,一つの作成手法を導く.一方,ディスタンスカルトグラム作成問題にカルトグラム上の地点間リンクの方位角変化を抑制する正則化を導入し,地理的地図形状に近く統計データの特徴を判別しやすい作図を行うことができる新たなディスタンスカルトグラム作成手法を提案する.また,Levenberg-Marquardt 法に基づく解法と新たな提案手法を都市間の交通所要時間データを用いて比較し,提案手法が簡潔な操作で高速にデータ視認性が高いディスタンスカルトグラムを作成できることを確認する. 第4章では,連続エリアカルトグラム作成手法の構築を行う.具体的には,まず簡潔な作成手法を構築するために任意形状の地域を三角網分割することを前提とし,連続エリアカルトグラム作成問題を三角形の面積を統計データに合わせて変形する問題として定式化する.さらに,地理的地図からの変形を抑制する正則化条件として,三角網上の各辺の方位角変化を抑制する項を導入する.これらをもとに,地理的地図からの変形が小さく比較対照が容易な連続エリアカルトグラムを作成できる数学的に明快な手法を提案する.人口データ等を用いて提案手法の評価を行い,簡潔操作でかつ高速に連続エリアカルトグラム作成を実行できることを確認する. 第5章では,非連続エリアカルトグラムの一種で,各地域の統計データを円の面積の大小で表現するサークルエリアカルトグラムについて新たな作成手法を提案する.サークルエリアカルトグラム作成問題とは,隣接する地域を表す円が接するように円を配置する問題である.即ち,隣接する円の半径の和が円の中心間距離となるように円の中心座標を決定するディスタンスカルトグラム作成問題であると言い換えることができる.そこで,第3章のディスタンスカルトグラム作成手法を応用し,地理的位置関係を保ったサークルエリアカルトグラムの作成手法を提案する.更に円の重なりを排除するための条件を追加したサークルエリアカルトグラム作成手法を構築し,人口データを用いてその評価を行う. 第6章では,カルトグラム上への空間データの内挿法を構築し,その適用例を示す.アフィン変換と普遍クリギングを利用した空間内挿法をもとに,位相が反転している基準点の除去とカルトグラム上への空間データの内挿を同時に行う手法を提案する.第3・4章で作成したカルトグラムに対して提案手法を適用し,空間内挿により更に印象的な統計データ視覚化が可能であることを例示する. 第7章では,第3・4章で提案したカルトグラム作成手法を多くのGIS ユーザーに利用して頂けるようにGIS 上で動作するカルトグラム作成ツールの開発を行う.具体的には,最も普及しているGIS ソフトウェアの一つであるArcGIS の拡張機能としてカルトグラム作成手法を実装し,GIS上で管理されている様々な統計データを元に簡潔な操作でカルトグラムを作成し視覚化することを可能にする.ユーザーインターフェースを開発しデータ入力・作成カルトグラムの出力に関する操作性を確保するとともに,統計データの変遷をより効果的に視覚化できるカルトグラムのアニメーション表示・出力機能を整備し,カルトグラムの統計データ視覚化手法としての実用性・有効性を向上させる. 第8章では,各章の成果を総括し,本論文の結論とする. 以上のように,本論文では統計データの視覚化手法としてカルトグラムに着目し,地図上の距離で統計データを表現するディスタンスカルトグラムと,面積で統計データを表現するエリアカルトグラムの双方について,統計データの視認性が高い作図が可能な数学的に明快な作成手法を提案した.また,その成果をもとに,簡潔な操作でカルトグラム作成を行うソフトウェアをArcGIS の拡張機能として開発した. | |
審査要旨 | 情報通信技術の高度化や情報公開への社会的要請の広がりに伴い,近年,国等により収集されてきた膨大な統計データの入手が容易になり,多くのデータを利活用し地域の現状・変遷を分析・把握することができる環境が整ってきた.これら大量の統計データは行政区域等の集計単位に基づき地理情報システム(GIS)上で管理されている.GISでは基本機能として統計データの視覚化機能を提供しているが,膨大なデータを利用できる環境の広がりにつれて,今後より効果的な統計データ視覚化への要求が高まると考えられる.本論文は,GISの更なる普及・利用を促すため,カルトグラムと呼ばれる統計データの視覚化手法に着目し,GISを用いた統計データの新たな視覚化手法を提案するものである. 本論文では,まずカルトグラムによる視覚化の特性を整理し,作成手法構築の基本方針を提案している.カルトグラムとは,地図上の地点間距離や地域面積を用いて統計データの大小を表現するように,通常の地図を変形して視覚化する手法である.もちろん,地点間距離や地域面積の情報だけでは地点配置や地域形状を一意に定められないため,カルトグラム作成問題は不良設定問題である.一方,カルトグラムは通常の地図との対比を通して表現されたデータの特徴を把握する視覚化手法であるため,必要以上の地図形状変形はデータの特徴把握を困難にする.そこでデータの特徴を認識しやすいカルトグラム作成を行うため,地図形状変化の抑制による作成問題の正則化を提案した.また,カルトグラム作成手法を利用するためには,変数設定の簡潔さ・計算の高速さといった高い操作性が不可欠であり,必然的に数学的明快さを持った作成手法が求められる.これらから,「過剰な地図形状変形を排除する正則化条件の設定」による「数学的明快さを持ったカルトグラム作成手法」をカルトグラム作成手法構築の基本方針として提案している. この基本方針に基づき3種類のカルトグラムについて作成手法を提案した.地図上の距離でデータを表現するディスタンスカルトグラムについては,作成問題を非線形最小二乗問題で記述した上で,形状変形を抑えるためにリンクの方位角変化抑制による正則化を行い,新たな作成手法を提案している.この提案手法によって簡潔操作で高速にデータ視認性が高い作図が可能なことを確認した.次に,地図上の面積でデータを表現するエリアカルトグラムのうち,通常の地図を変形し地域形状・隣接関係を表現する連続エリアカルトグラムについて作成手法を提案した.まず,簡潔な作成手法構築のため地域形状の三角網分割を前提とし,三角形の面積をデータに合わせる問題として記述する.その後,地域形状変形を抑えるために三角網を構成する辺の方位角変化を抑制する正則化を導入し,地理的地図からの変形が小さく比較対照が容易な連続エリアカルトグラムを作成できる数学的に明快な手法を提案した.人口データ等を用いて提案手法の評価を行い,簡潔かつ高速に作図が可能であることを確認した.また,エリアカルトグラムの簡便法で,各地域の統計データを円の面積で表すサークルエリアカルトグラムの作成手法をディスタンスカルトグラム作成手法の応用として提案し,視覚的に優れた作図ができることを確認した. また,カルトグラムによる視覚化の応用範囲拡大とより印象的な視覚化を目指してカルトグラム上への他の空間データの内挿法を構築した.アフィン変換と普遍クリギングを利用し,カルトグラム上への空間データの内挿を同時に行う手法を提案した.この内挿手法により,等人口密度空間等の特徴空間上での分布を視覚化できることを示した. 提案したカルトグラム作成手法をユーザーの利用に供するように,GIS 上で動作する作成ツールの開発を行っている.GIS ソフトウェアの拡張機能としてカルトグラム作成手法を実装し,GIS上で管理されている様々な統計データを簡単な操作でカルトグラム作成が可能な環境を整備した.ユーザーインターフェースを開発しデータ入力・カルトグラム出力の操作性を確保するとともに,統計データの変遷をより効果的に視覚化できるカルトグラムのアニメーション作成機能を整備し,カルトグラムの統計データ視覚化手法としての実用性・有効性を向上させた. 以上のように,本論文では統計データの視覚化手法としてカルトグラムに着目し,地図上の距離で統計データを表現するディスタンスカルトグラムと,面積で統計データを表現するエリアカルトグラムの双方について,統計データの視認性が高い作図が可能な数学的に明快な作成手法を提案した.また,その成果をもとに,簡潔な操作でカルトグラム作成手法をGISソフトウェアの拡張機能として開発した.GIS上でカルトグラムを通した視覚化を自由に行える環境を整備し,ユーザーの統計データ視覚化手法の選択肢を広げたことにより,本論文の成果はGISの更なる普及・発展へと貢献するものと期待される. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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