学位論文要旨



No 120004
著者(漢字) 長井,正彦
著者(英字)
著者(カナ) ナガイ,マサヒコ
標題(和) センサ統合による無人ヘリコプター搭載型マッピングシステムに関する研究
標題(洋) UAV(Unmanned Air Vehicle)borne 3D Mapping System based on Multi-Sensor Integration
報告番号 120004
報告番号 甲20004
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5946号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 教授 目黒,公郎
 東京大学 助教授 佐藤,洋一
内容要旨 要旨を表示する

 3D GIS、ナビゲーション、デジタルアーカイブ、シミュレーション、コンピュータゲーム等の多くの分野に渡り、3次元空間情報のニーズが広がっている。実世界を忠実かつ詳細に表現するためには、3次元データの取得が必要不可欠であり、3次元データを取得する方法は、すでに多くの手法が実用化され、さらに様々な新しい手法の研究が行われている。近年の技術進歩と共に、デジタルカメラ、マルチスペクトルメーター、レーザスキャナ、レーザレンジファインダー、GPS(全地球測位システム)、IMU(慣性航法装置)等の様々なセンサが開発・改良され、計測技術やセンサの低価格化は飛躍的に進んでいる。

 写真測量の原理を利用して3次元空間データを取得する方法は、従来から実務的にも多く行われている。この手法は効率的に広域をカバーし、3次元情報と同時にテクスチャーの情報も取得することができる優れた方法である。しかし、これらの写真測量の原理を利用した方法では、屋外環境における多くの影や隠蔽の影響により、3次元モデリングの自動化が非常に困難である。基準点や接合点を設置する必要があり、データ処理にも時間を要する。一方、レーザスキャナは対象物の3次元情報を直接自動計測でき、その有効性が証明されている。近年の技術進歩に伴い、レーザスキャナの低価格化が進み、現在では数十万円での購入が可能となり、より手軽に3次元計測に利用できるようになった。さらに、GPSやIMUと共に、効率的に広範囲のデータを取得するためのモバイルマッピングの技術開発も進められてきており、航空機や自動車等にレーザスキャナを搭載し、効率的なデータ取得への応用も進められている。

 モバイルマッピングに必要不可欠なGPSとIMUはNaturally Marriedと言われ、その相性の良さから、従来からお互いの短所を補うシステムとして様々な分野で広く使われている。GPSの低頻度ではあるが時間変化のない特性と、IMUの高頻度ではあるが時間変化がある特性を組み合わせることにより、効果的な航法装置として用いられている。IMUの場合、位置のドリフト(時間的変化)が最大の問題点である。IMUのドリフトよりも精度の高いGPSの信号を用いて、IMUの誤差を算出し、その誤差を用いてIMUの各誤差を推定し、誤差がなくなれば位置精度も向上するので、GPSとIMUの統合は最適となる。特に航空機等の分野では、GPSやIMUは単独では使用されない現状にある。しかし、これらの慣性航法装置として使用されるIMUやGPSはいまだ非常に高価なものであり、航空機等で用いられる高精度IMUは数千万円ほどするのが一般的である。

 モバイルマッピングとして、上空より効率的に3次元形状を計測するために、今まで航空機や実機のヘリコプターが多く用いられてきている。しかし、計測には多大な時間と費用がかかり、また有人飛行であるために、火山などの災害においては、安全性の観点からも必ずしも適しているとは言えない。

 本研究では、センサを統合することにより、従来からの個々の技術の利点を共有し、それぞれの欠点を補うマッピングシステムの開発をする。手軽に3次元計測が行えるように、民生用デジタルカメラ、低価格レーザスキャナ、GPS、低価格・中性能IMUを使用し、高価で特別な計測機器を使わなくとも、センサを統合することにより、高精度のマッピングができるシステムを開発する。また、新規プラットフォームとして無人ヘリコプターの利用を検討する。無人ヘリコプターは、従来のプラットフォームでは困難であった危険地域上空からの計測が安全かつ容易になると期待が集まっている。本研究では無人ヘリコプターを用いた自動計測システム、自動モデリングシステム、さらには、取得されたデータの有効利用をする上での自動地物抽出システム開発することを検討する。

 本研究では、無人ヘリコプターに搭載したGPS、IMU、デジタルカメラを統合することにより慣性演算を行い、精度のよい高頻度の位置・姿勢データとして、センサの詳細な軌跡を算出する。はじめに、GPS/IMUのデータをもとに、デジタルカメラにより取得されたデジタル画像のバンドルブロック調整を自動で行う。自動バンドルブロック調整では、共面条件を利用し、GPS/IMUからタイポイントを推定し、自動かつ高性度の画像の絶対標定を行うことが可能である。

 この自動バンドルブロック調整によって得られた画像の絶対標定の結果をIMUの慣性演算に利用することにより、GPS/IMU/デジタルカメラを統合する。慣性演算を行う際のカルマンフィルターの初期値として画像の絶対標定の結果を利用することにより、従来では必要不可欠であった慣性演算システムのアライメントの必要がなくなり、さらに、誤差要因となる様々な雑音が慣性演算内に累積するのを防ぐことができる。このように、中精度のIMUを利用しているにもかかわらず、GPSと画像の絶対標定の結果から補正情報を受けることにより、高精度・高頻度なセンサの軌跡を推定することが可能になる。

 GPS、IMU、デジタルカメラを統合することにより得られた高精度の位置・姿勢を用い、レーザレンジデータの座標変換を行い、さらにデジタル画像のテクスチャー情報を用いることにより、DSMの構築を行う。座標変換に用いた位置・姿勢は、画像の絶対標定の結果を用いて慣性演算を行っているので、座標変換されたレーザレンジデータとデジタル画像は精度良く重なり、容易に高分解能で高精度のDSMを構築することができる。また、デジタルステレオ画像から、3次元形状を復元する手法は従来から実用されてきているが、ステレオマッチングを行う場合、撮影状況により多くのミスマッチングが存在し、ステレオマッチングの自動化が困難である。そこで、デジタル画像のピクセルと対応するレーザレンジデータから、ステレオマッチングの対応点の検索範囲を制限し、精度の良いステレオマッチングの自動化ができるようになる。

 最後に、構築されたDSMを利用して、詳細な地物の抽出を行う。無人ヘリコプターを利用し、低高度から高分解能データを取得しているので、従来の人工衛星や航空機からの3次元計測では出来できなかった、詳細な地物の抽出が容易にできる。また、DSMと同時にデジタル画像も存在するために、レーザレンジデータから詳細な形状を求め、詳細なテクスチャーの情報はデジタル画像から、さらにデータの補間を行う等、それぞれの利点を利用し、効率的に詳細な地物の抽出ができる。

この様に、本研究では、センサを統合し、従来にはないマッピングシステムの開発をする。手軽に3次元計測が行える低価格なセンサを使用しているにもかかわらず、センサの統合により、従来から個々のセンサの短所を補い高精度のマッピングが可能になる。この計測システムを無人ヘリコプターに搭載し、上空からが安全かつ容易に計測ができるようにする。本マッピングシステムにより、人が行くことのできない危険な地域で自動計測を行い、迅速に精度の良い自動マッピングをし、さらには、取得されたデータから自動地物抽出が行える。

審査要旨 要旨を表示する

 3次元GIS、ナビゲーション、デジタルアーカイブ、シミュレーション、コンピュータゲーム等の多くの分野で、実世界をより忠実かつ詳細に表現する3次元空間情報のニーズが広がっている。3次元データを取得する方法は、すでに多くの手法が実用化され、さらに様々な新しい手法の研究が行われている。近年の技術進歩と共に、デジタルカメラ、マルチスペクトルメーター、レーザスキャナ、レーザレンジファインダー、GPS(全地球測位システム)、IMU(慣性航法装置)等の様々なセンサが開発・改良され、計測技術やセンサの高精度化や小型化、低価格化は飛躍的に進んでいる。これらをうまく組み合わせることができれば、低価格で機動性が高く、しかも十分な精度を有する3次元データ計測システムを構築できる可能性がある。しかしながら、現在利用されている3次元データ取得システムは、ほとんどが比較的少数のセンサを用いた「単独システム」であり、精度をより向上させるためにはより高価な高精度センサを利用するという方策をとっている。

 そこで、本研究は、さまざまなセンサを統合することにより、低価格、高機動性、高精度計測を実現できるマッピングシステムを開発する。具体的には民生用デジタルカメラ、低価格レーザスキャナ、GPS、低価格・中性能IMUを使用する。また計測プラットフォームとして無人ヘリコプターを利用する。無人ヘリコプターは、従来のプラットフォームでは困難であった低い高度からの計測を安全かつ容易に行えると期待される。

 本論文は全11章からなっている。第1章は序章であり、研究の背景、目的、特徴などを述べている。第2章は既存の研究とその課題を整理している。具体的にはリモートセンシング、写真測量、レーザ測量、UAV(無人航空機)などの分野を網羅している。第3章は、無人ヘリコプター搭載型マッピングシステムの全体構成を述べている。第4章は計測システムに利用された各センサの詳細を述べている。第5章はセンサのキャリブレーション手法を提案している。多数のセンサを同時に利用して計測するためには計測時刻の同期と、センサの幾何学的な位置関係のキャリブレーションが重要である。特にレーザスキャナはレーザスポットを精度よく可視化できないこともあり、カメラなどとの相対的な位置や姿勢を決定するのは困難であった。本論文では小型の太陽電池パネルとイヤホンを利用して、レーザスポットを「可聴化」することで、レーザスポットの中心位置を計測する手法を提案し、精度のよいキャリブレーションを可能とした。第6章は実際に個別センサから取得されたデータの品質評価結果を述べている。第7章は、GPS/IMUを統合して位置・姿勢変動を推定する際に利用された慣性演算アルゴリズムを述べている。

 第8章はGPS/IMU/デジタルカメラの統合による高精度位置・姿勢の決定手法を提案している。すなわち、従来からのGPS/IMUの組み合わせに加え、デジタルカメラ画像の間での位置ずれを自動計測し、その結果をGPS/IMUにフィードバックすることで、さらに精度を向上させる方法である。この方法によれば、精度の低いIMUに固有の「方位角が精度よく決まらない」という問題を解決することができる。精度向上効果も実証的に明らかにされた

 第9章はDSM(デジタル地表面標高モデル)の構築と地物抽出であり、GPS/IMU/デジタルカメラの統合の結果を利用してレーザスキャナデータから得られるDSMの精度検証を行っている。さらにGPS/IMU/デジタルカメラの統合を利用して、デジタルカメラ画像からも地表面の3次元計測が可能なことに着目し、両者を統合することで、DSMの精度と解像度を改善できることを示した。具体的にはデジタルカメラ画像からの自動計測時に、レーザから得られるDSMを概略形状として与え、自動計測の速度と精度を大幅に向上させる方法である。デジタルカメラから得られるDSMはそもそも非常に分解能が高いため、結果的に精度と解像度の高いDSMを得ることができる。さらに、こうして得られたDSMにさらにデジタルカメラ画像から得られる色情報を付加することで、形状と色の両面から地物の自動抽出・分類を行えることを実証的に示している。

 第10章は応用実験の結果を示しており、道路沿いの崩落事故現場の実測に利用した例を示している。機動性、信頼性などが十分であることが示されている。また、本論文で開発された統合センサシステムを台車に搭載して地上で計測した事例も示されており、汎用性の高いセンサシステムであることが示されている。第11章は結論であり、研究の成果と今後の課題がまとめられている。

 以上まとめると、本論文は安価で小型なセンサを統合する手法を開発し、実際に機動性に優れ、低価格で高精度な3次元データ取得システムが構築できることを実証的に明らかにしている。この統合センサシステムは汎用性も高く、さまざまなプラットフォームに搭載され、歩行者ナビ用の地下街地図から災害調査まで幅広く利用できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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