学位論文要旨



No 120025
著者(漢字)
著者(英字) Taha Mohamad Assad
著者(カナ) タハ モハマド アサド
標題(和) モンタージュスペース 映画と建築の製作,非製作,再製作
標題(洋) montagespace Cinema and making, un-making and Re-making of Architecture
報告番号 120025
報告番号 甲20025
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5967号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 教授 難波,和彦
 東京大学 助教授 曲渕,英邦
 東京大学 助教授 千葉,学
内容要旨 要旨を表示する

Summary of Thesis

モンタージュ

元来「組み立てる」というフランス語。転じて映画の編集技術用語となった。各ショットをつなぎ合わせることは、映像に空間と時間の座標を与え意味を生み出すことである。ショットそれ自体は中立的な素材でしかない。映像の意味はモンタージュを通してはじめて分節化される。

アクト1.定義

アクト2.分析

アクト3.設計

1. 数列

 時間を縮む / 伸ばす

2. 並置

クレショフ効果

クレショフ効果

レフ・クレショフ (1899 - 1970) は同一の俳優のクロースアップにそれぞれ違った場面を繋ぎ、二番目のショットによって最初のクロースアップの表情の意味が異なって見えるのを実証した。

モンタージュ理論

 1920年代、クレショフ工房に出入りしていたセルゲイ・M・エイゼンシュテイン(1898 - 1948)は、二つのショットを並置し、ぶつけあわせることで第三の、独立した、まったく新しい意味をもたらす独自のモンタージュ論を展開した。

『戦艦ポチョムキン』

 エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』(1925)はその集大成である。ツァーの軍隊と蜂起した民衆の緊張感溢れるモンタージュは、ロシア革命の意義を観客に効果的に伝えるものである。また1920年代後半、映画のモンタージュの洗練と足並みをそろえ、複数の写真で作品を構成するフォトモンタージュが隆盛をみた。

A-1

A-2

B

A-3

弁証法

審査要旨 要旨を表示する

 この論文は、建築空間設計の新しい手法を策定する目的のために、人間の空間体験が映画的であるという仮説に基づいて、映画の製作で用いられるモンタージュ技法を建築空間のデザインに適用する可能性について論じたものである。

 本論文は、序章ならびに3章より構成される。

 序章では、研究の方法について導入と結論が同一の地点に戻ることを予測し、1、2、3章の構成内容について概観している。1章は開幕として問題の同定。2章は論文の本体として分析・考察の実施、3章は閉幕として分析の総括と結論を述べている。

 第1章(同定)では、まずモンタージュの定義―見関係のないシーンの挿入により新しい意味を作り出す技法―を行い、続いて125年の映画製作の歴史の中で典型的な映画空間の製作技法の同定を試みている。全体を第一節:第一期(1968年-1946年)として規則の確立の時代、第二節:第二期(1947年-1980年)として規則の変形の時代、第三節:第三期(1980年-現代)として規則の破壊の時代とに分け、第一期は、映画の誕生(2作)、無声時代(1作)、ハリウッド黄金時代(2作)に、第二期は、戦後のテレビ時代(2作)、ヌーベルバーグ時代(14作)に、第三期はポストモダンにはじまる現代までの時代(26作)に細分化してそれぞれの時代の映画製作技法をそれぞれ( )内に示した数の作品分析を行なっている。

 第2章(分析)では、映画での製作,非製作,再製作の過程から建築の空間創造の過程と関連付けて学ぶ方法の分析をおこなっている。第一節は製作、第二節は非製作、第三節は再製作についてで、それぞれを以下の8つのパートに分け、それぞれを建築/映画の空間に関連付けて比較分析をしている。

 第一節(製作)では、(1)Function/Narrative,(2)Structure/Language,(3)Cognition/Orientation,(4)Surface Rendering/Color,(5)Deep Rendering/The Screen,(6)Boundaries/Space in Frame,(7)Tempo/Rhythm,(8)Vision/Point of Viewについて、映画が空間を確立し維持する手法を分析している。

 第二節(非製作)では、(1)De-Function/Meta-Narrative,(2)De-Structure/Non-Language,(3)De-Cognition/Disorientation,(4)Surface De-Rendering/Transparence and Reflection,(5)Deep De-Rendering/Depth in Surfaces,(6)Non-Boundaries/Frame in Space,(7)Non-Tempo/Syncopation,(8)De-Vision/No Point of View について、映画が空間を変形・消去する手法を分析している。

 第三節(再製作)では、(1)Re-Function/Hyper-Narrative,(2)Re-Structure/Accident and Chance,(3)Re-Cognition/Memory,(4)Surface Re-Rendering/Motion in Stillness,(5)Deep Re-Rendering/Deep Surface,(6)Re-Boundaries/Shifting Boundaries,(7)Re-Tempo/The Uncanny,(8)Re-Vision/The [Real],[R]eal and[r]eal について映画が空間を昇華させ移動させる手法を分析している。

 第3章(総括)では、以上の分析を基礎として、現代社会のますます多感覚になる空間に対して対応するデザインの方法を総括している。具体的には筆者が居住体験を持っている6年前と現代の東京を題材に論じている。

 以上のように、本論文は映画と建築の空間創造を対比させて、過去から現在までの映画の製作手法の徹底的な分析と建築空間創造手法とのアナロジーについて論じたもので、建築設計に関する新たな知見を示し、建築計画学の発展に大きな寄与したものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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