学位論文要旨



No 120027
著者(漢字)
著者(英字) Dubeissy Rana Nadim
著者(カナ) デュベージ ラナ ナディム
標題(和) マンハッタンのスカイスクレーパーの社会政治的な意味に関する研究 : 20世紀初頭のスカイスクレーパーとエンパイア ステート ビルディング
標題(洋) A Study on the Sociopolitical Meaning of Skyscrapers in Manhattan : Skyscrapers in the Early 20th Century and the Empire State Building
報告番号 120027
報告番号 甲20027
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5969号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 岸田,省吾
 東京大学 教授 伊藤,毅
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 助教授 千葉,学
 東京大学 助教授 曲渕,英邦
内容要旨 要旨を表示する

研究の目的・概要:

都会が発展する中で、様々な社会政治的な意味が存在する。この建築と社会政治的な関係の一つを表すため、マンハッタンのスカイスクレーパーの歴史、造り方、法律や社会に与える影響等を分析して、研究を行いました。

スカイスクレーパーの自主的な存在が都会のダイナミックな実況や経験を阻ませてしまうのである。これは、スカイスクレーパーのカビの内に一つの自主的な都市が在中され、都会全体が民主的に存在をするチャンスが減殺するのではないかと考えられる。言い返すと、都会そのものに貢献するよりもスカイスクレーパーによって都会のダイナミズムが消えていくと考えられる。

この研究がスカイスクレーパーの建築そのものを深く分析するよりも、このような建物における社会政治的な環境を焦点に当てる。例えば、スカイスクレーパーの場合は、建築の領域で通常に決めるビルの設計、形、材料等が美的な原則から離れる。むしろ、建築家が顧客のバランスシートや目的を従って、ビルを建つ。その中で様々な社会政治的な意味が出てくる。

この研究では、スカイスクレーパーの中に隠してある意味を表すだけではなく、このような建物の権力的、レベルの高い技術を使いイメージに対して、スカイスクレーパーのvulnerabilitiesや都会をデザインする建築家の無権力を示す。

建築家がコンシューマ世界からの影響を避けることができない。彼らがある程度大衆的なカルチャーによってビルをデザインする。それにしても、この大衆的なカルチャーをできるだけ避ければ、新しいもの作り出す夢を忘れないことができる。

大衆的なカルチャーを立ち向かわないことによって、想像力がなくなる。その結果、消費者の個人的な好き嫌いもなくなり、受身的に環境を吸収するようになる。

大衆的なカルチャーに適うことに伴って,そのカルチャーの存在感が認められて、延長させると考えられる。しかし、実はこのようなフェーク文化的な統一化の中で、クライシスが行われているが、このクライシスが隠してあて、境にある不利を見せている。スカイスクレーパーの分析ではこのクライシスを暴き出し、建築と社会政治的な意味の絡み合いについて議論できる。

具体的な事例としてはマンハッタンにあるEmpire State Buildingである。このスカイスクレーパーの構築に結び付いている社会政治的な物事や、このビルの意味合いと意義について焦点に当てる。1920年代に語ったように、商業、文化や民間の生活等の区別が縮まっていて、スカイスクレーパーの誕生や発展によって、拡大している都会に新しい建築的な機能や解決を提案していた。

研究方法・分析:

 ・歴史においてスカイスクレーパーの、政治的にも含んで、様々な意味を分析する。Hugh Ferriss(DATE)の議論から始め、「一番高いスカイスクレーパーを造る」という戦いについての分析。

 ・スカイスクレーパーの誕生そのものについての分析。

 ・法律や規則がどのようにスカイスクレーパーの形やデザインに影響を与えるのかについてに分析。

 ・スカイスクレーパーの意味を形態学的な視点からの分析。

 ・Empire State Buildingについての具体的な分析。

結論:

建築と社会政治の関係を分析すると、スカイスクレーパーが都会をトランスフォームしていることが分かる。スカイスクレーパーの存在で、都会のスペースが凡庸的になっている。ビルの正面、texture、プロポーション等がビルに関係なく同じく見えるようになった。このコピーのような都会が進歩的や現代的なこととして捕らえているが、実際には都会のアイデンティティーを盗んでいる。

建築家の役割の一つが、世界の人口に様々な選択を挙げることのである。建築家が大衆カルチャーを崩すことにきっかけ、私たちも自己責任を取ることができる。

審査要旨 要旨を表示する

この論文は、20世紀初頭のマンハッタンに建設されたスカイスクレーパーを取り上げ、それが担った社会的、政治的な意味を明らかにするとともに、スカイスクレーパーが都市に与える社会的影響を評価するための基本的知見を得ることを目的としている。

本論文は、六つの章で構成される。

第1章では、研究の目的や背景を説明し、予備的な考察が行われる。建築が帯びる社会・政治的意味の考察を基本的な目標とし、スカイスクレーパーが今日の多くの大都市の環境を決定的に規定するとともに、あらゆる建築型の中で最も強く社会、政治、経済的な意味を反映していると判断されることから、本研究の研究対象とされる。

次いでスカイスクレーパーの定義を概観し、都市の中でのその特権的なあり方が、消費文化における権力の視覚的シンボルとして多様で民主的な都市本来の様相を破壊するものであるという問題提起がされる。また、スカイスクレーパーがデザインや様式などいわゆる建築的な視点より、社会的、政治的な判断によって規定される面が強いことから、研究も社会・政治的意味の分析によって行われることが説明される。

第2章では、アメリカにおけるスカイスクレーパーの成立と展開の歴史的な過程が概観される。1867年のシカゴ大火の復興建設が発端となり、シカゴ派のスカイスクレーパーが成立し、さらにシカゴからニューヨークへそれが伝播してゆく過程が具体的に確認される。

第3章では、20世紀初頭のニューヨークのスカイラインを規定した諸要因を、スカイスクレーパーに関わる法制、デザイン、技術、改修・保存活動などの諸側面から説明する。ことに建築関係の法制が辿った変遷は、完全なスカイスクレーパーを作ろうとした当時の志向や意図を表すものとして内容やその影響などについて詳細に検討される。また、シカゴの建築国際コンペからニューヨークの各種商業施設、オフィスビルの構想、建設工法や設備の変化、スカイスクレーパーの保存・改修などについて、現代建築も含む具体的事例を取り上げ分析される。

第4章では、スカイスクレーパー全般の特質に考察が加えられる。まず、スカイスクレーパーの歴史的な定義を見た上で、それが形態論、形態分節、様式、活動機能、技術、建設動機など六つの因子からなるメタファーであることが確認される。また、複合的なメタファーの際立った例としてクライスラービルについて考察する。

次いでスカイスクレーパーには三つのタイプ−スカイプリッカー、スカイスクレーパー、スカイシティが存在すること、各々の特徴が上記六つの因子の違いによって理解できるとされる。

最後に、「山頂」からスカイスクレーパー間に存在する「空間」まで、スカイスクレーパーのメタファーが絶えず置き換えられている状況の指摘があることを踏まえ、そうした絶えざる差別化が資本の論理によってもたらされるものであること、スカイスクレーパーには飛び抜けた高さが可能とする「成功と発展のシンボル」、「資本のシンボル」という表象-スカイスクレーパーに共通する特質が存在することが明らかにされる。

第5章では、エンパイアステートビルの社会的、政治的意味が分析される。分析は建設の目的、所有者と建築家、敷地、デザイン、初期の計画、経済状況と恐慌、作業員などの諸側面から総合的に行われ、このスカイスクレーパーが、アイルランド系移民の子孫であったオーナーに、アメリカ社会の中で地位を確立したい願望があったことから、大衆に受け入れられ、かつ進歩的であることを基本としつつ、近代的かつアメリカ的なものとなるべく計画されたことが明らかにされる。

さらに、エンパイアーステートビルの政治的意味を当時の批評から探り、この建物がニューヨークの新しいシンボルとして、商業的価値、市民的価値を担うものとして好意的に解釈される一方、資本による抑圧のシンボルとして批判されていたことが示される。

第6章では、5章までの分析と考察を踏まえ、総括的な解釈が示される。即ち、エンパイアーステートビルは多様な評価を受け、近代的な建物における一つの際立ったタイプとなる一方、その他のスカイスクレーパーは、都市の中心に立ち上がる企業の権威と力の確たるイメージとなり、自己目的のためにそれぞれの社会がもつ固有性と文化的活動の独占を図る保守的な存在と化す。結論として、スカイスクレーパーは、都市環境とそこに住む市民の、社会的に形成される相互関係を阻害するものでしかない、という理解が示される。

最後に、今後の都市モデルとしてスカイスクレーパーに代わる有機的な都市像、市民が企業の使用人に貶められることのない、複雑で自由なライフスタイルを可能とするような都市像が示唆され、さらに、人間の営為は政治的に形作られており、建築においても、そこに織り込まれた政治と文化の境界を理解する必要があり、建築は社会や人間の危機に対峙して始めて存在意義があるという見解が明らかにされる。

以上のように、本論文はエンパイアーステートビル、ならびに同時代のマンハッタンのスカイスクレーパーにおける社会的、政治的な意味と、その社会・政治的な意味がスカイスクレーパーのあり方を規定してきたことを明らかにすることによって、人間の居住環境として都市を再構築するための新たな評価軸を呈示し、建築の設計・設計理論分野の発展に寄与した。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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