No | 120048 | |
著者(漢字) | 西迫,貴志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ニシサコ,タカシ | |
標題(和) | 微細流路を用いた液滴・微粒子作製技術に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120048 | |
報告番号 | 甲20048 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5990号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.はじめに 互いに親和性の低い2種類以上の液体が不均一に混合した,いわゆる液−液分散系は幅広い分野で利用されている.こうした分野において,サイズの均一性に優れた微小液滴を生成でき,且つ希望する任意のサイズに液滴径を制御できる技術が求められてきた.近年,機械的分散法の改良や膜乳化技術の開発などにより,均一サイズの液滴(単分散液滴)を生成できることが報告されている.しかしながら,液滴サイズを柔軟且つ精密に制御することは困難な課題とされてきた. 本研究では,均一サイズの液滴を生成することができ,且つ液滴サイズを幅広く変化させられる技術の開発を目的とし,微細流路(マイクロチャンネル)の分岐構造を利用した微小液滴生成法(図1)を開発した.さらにこの手法を応用し,(1) 単分散ポリマー微粒子の調製,(2) 二色ポリマー微粒子の調製,(3) 多相エマルションの生成,(4) サテライト滴の連続分離,の各手法について研究を行った. 2.マイクロチャンネルの分岐構造を利用した微小液滴生成法 アクリル樹脂(polymethylmethacrylate, PMMA)や合成石英,パイレックスガラスなどの材料に,各種加工法を用いてマイクロチャンネルの分岐構造を製作し,Water-in-Oil (W/O)型液滴,Oil-in-Water(O/W)型液滴の生成試験を行った.各種検討により,液滴生成現象の特徴を以下のように明らかにした. (1) 均一サイズの液滴が規則正しい周期で連続生成 分散相,連続相の流量条件を適当な条件に設定することで,分岐路においてサイズの揃った液滴が規則正しい周期で連続的に生成される現象が見られた(図2).一般に,生成液滴径の変動係数(coefficient of variation, CV値)は5%以下であった.液滴の生成レートは最大で約2500個/秒を確認した.より微細なマイクロチャンネルを使用することでより微小な液滴を生成でき,最小で水力直径が10μm程度のチャンネルを利用し,直径約15μm,CV値5%以下の単分散液滴の生成を行うことが可能であった. (2) 液滴生成流量範囲 分岐路で液滴生成を行うことができる連続相,分散相の流量範囲が存在することを明らかにした(図3). (3) 流量操作による液滴サイズの操作範囲 連続相,分散相の流量を変化させることで,生成液滴のサイズを幅広く変化させることができた.一般にマイクロチャンネルの水力直径の0.5〜2.0倍の範囲において,液滴サイズの制御が可能であった. (4) マイクロチャンネル表面の濡れ性の影響 分散相液体に対して濡れにくいマイクロチャンネルを用いることが必要であり,W/O型液滴の生成には疎水的な表面(例,PMMA),O/W型液滴の生成には親水性表面(例,ガラス)が好適であることを明らかにした. 3.単分散ポリマー微粒子の調製 分散相としてモノマー,連続相としてポリビニルアルコール(PVA)水溶液を用いて単分散モノマー滴を生成し,これを重合処理によって固化することで単分散ポリマー微粒子の調製を行った.従来手法で得られた粒子(CV=36.1%)に比べて単分散性に優れたポリマー粒子(CV=2〜5%)を,同一装置でさまざまなサイズで得ることができた(図4). 4.二色ポリマー微粒子の調製 近年活発に研究開発が行われている電子ペーパー技術の中で,半球ごとに異なる色で塗り分けられた微粒子(二色微粒子)を表示材料として用いるツイスティングボール式ディスプレイは,先駆的な技術として知られている.しかし従来の製法では,均一サイズの二色微粒子を効率よく生産することは困難であった. 本研究では図5に示す手法でサイズの揃った二色液滴を生成し,これを固化することで単分散二色微粒子を生産する手法を考案した.マイクロチャンネルは,(a) 分散相の二色並行流を形成するためのY字路,(b) 連続相のシースフローによる流体抵抗力で二色液滴を生成するための十字路,によって主に構成される.この構造をガラスチップに製作して使用した.分散相として白または黒顔料を超音波分散したアクリルモノマー,連続相としてPVA水溶液を用いた. 機械加工によって作製したマイクロチャンネル(幅120〜220μm,深さ100μm)における二色液滴生成の様子を図6に示す.半球ごとに二色が均等に分割されたサイズの揃った液滴(直径150μm)が,規則正しい周期(毎秒約300個)で生成される様子が観察された.流量の操作により二色液滴のサイズは90〜190μmの範囲で制御可能であった.また液滴生成部付近のチャンネルの幾何形状や流れ場の対称性が,液滴内部の二色分布に大きな影響を与えることが明らかとなった.ドライエッチングによって加工されたチャンネル(幅50〜100μm,深さ50μm)では,より小さい単分散液滴(直径60μm前後,CV値4%以下)の液滴を得ることができた.さらに生産量のスケールアップ用に製作した複合化チャンネルを用い,単分散二色液滴が得られることも確認した. 生成された二色液滴を熱重合により固化し,CV値2%前後の単分散二色微粒子を得た(図7).得られた微粒子は電界によって反転させることができ,表示素子として使用可能であることを示した(図8). 5.単分散多相エマルションの生成 多相エマルションとは,単相エマルション(W/O,O/W)がさらに別の液体中に分散された系を指す.転相法,機械的分散法,膜乳化技術などの従来手法では,多相エマルションの外部液滴サイズ,内包液滴サイズ,内包液滴個数を柔軟且つ精密に制御することは困難であった. 本研究では,互いに異なる濡れ性をもつマイクロチャンネルの分岐構造を連続して配置し,単分散多相エマルションを生成する手法を考案した(図9).装置構成として,(a) 2つの分岐構造を同一のチップ上に設けたもの(1チップ集積型),(b) 2つの分岐構造をそれぞれ異なるチップ上に設けたもの(2チップ連結型)の2種類を考案し,これらをガラスあるいはPMMAに加工したものを用いて各種試験を行った. 図10に,1チップ集積型ガラスチップを用いたW/O/Wエマルションの生成例を示す.第1生成部(幅60μm,深さ25μm,疎水化処理済み)にて規則正しい周期(毎秒約22個)で生成された内水相液滴(直径52μm,CV=2.7%)が,第2生成部で生成される油滴(直径83μm,CV=2.8%)に1個ずつ正確に内包される様子が確認された.また,内水相,中間相,外水相の流量をそれぞれ操作し,内包液滴サイズ,外部液滴サイズ,内包液滴個数を柔軟に変化させることが可能であった.2チップ連結型を用いた試験では,内包液滴個数の精密な制御には難があったものの,単分散多相エマルションを生成できることを示した. 本手法はW/O/Wエマルションの生成のみならずさまざまな応用が可能であり,(a)O/W/Oエマルションの生成,(b)二色液滴内包エマルション(図11),(c)ポリマーマイクロカプセル,の調製を行うことができた. 6.サテライト滴分離法の開発 一般に液体を微粒化する過程において,主滴(main droplets)の生成に伴い微細なサテライト滴(satellite droplets)が生成されることが知られている.この現象はマイクロチャンネルの分岐構造を用いた液滴生成法においても確認されており,本液滴生成法の応用先によってはこの副産物が及ぼす悪影響が懸念される. 本研究では図12に示すようなマイクロチャンネルの構造を利用し,主滴とサテライト滴を連続的に分離および回収する手法を考案した.マイクロチャンネル装置は,(1) 液滴生成用のT字路,およびその下流域に設けられた(2)ディフューザ部,(3) 分岐部から主に構成される. PMMAに加工したマイクロチャンネルを用いた試験では,分散相(純水)と連続相(とうもろこし油)の流量調節により,主滴(直径70μm)とサテライト滴(直径1,3,5μm)の間隔がディフューザ部にて拡大され,全てのサテライト滴が分岐路に列を成して流入していく様子が観察された(図13).一方,サテライト滴自体もサイズごとに異なる経路を流動する様子を確認した.この結果は,サテライト滴同士の分級を行うことで直径数μm以下の単分散エマルションを100μmオーダのマイクロチャンネルを用いて生成できることを示している. ガラスに加工したマイクロチャンネルを用いた試験では分散相としてアクリルモノマー,連続相としてPVA水溶液を用いて主滴とサテライト滴の分離試験を行った.厳密な意味で単分散であるモノマー滴の回収を行うことができ,本手法を単分散ポリマー微粒子の調製に応用できることを示した.また,液滴生成流量範囲の内側に存在する一領域において,主滴とサテライト滴の完全な分離が可能であることを示した. 7.まとめ 本研究では,マイクロチャンネルの分岐構造を利用した微小液滴生成法を開発し,本手法が(1) サイズの揃った液滴を連続的に生成可能,(2) 流量条件の操作により液滴サイズを柔軟に変化させることが可能,(3) チャンネル表面の濡れ性が生成可能な液−液分散系に影響を与える,といった数々の特徴を有することを明らかにした.さらに本手法の特徴を生かし,(a) ポリマー微粒子の調製,(b) 二色微粒子の調製,(c) 多相エマルションの生成,(d) サテライト滴の連続分離,といった応用研究を行った.結果,本研究で開発した手法が,さまざまな液―液分散系や固体微粒子の生成手段として有効であることを十分に示せた. 図1.マイクロチャンネルの分岐構造を利用した液滴生成法の概念図.(a)T字型.(b)十字型. 図2.T字路における微小液滴生成の様子.直径は約100μm.PMMAマイクロチャンネル.分散相:純水,連続相:とうもろこし油.スケールバーは200μm. 図3.液滴生成流量範囲の一例.横軸は連続相流量を無次元化したもの,縦軸は分散相流量を無次元化したもの.(十字型マイクロチャンネル使用.分散相:アクリルモノマー,連続相:ポリビニルアルコール水溶液). 図4.単分散ポリマー微粒子の調整結果.(a)従来手法との粒径分布の比較.(b)単分散アクリル微粒子(スケールバーは50μm), 図5.マイクロチャンネルによる二色液滴生成法の概念図. 図6.二色液滴生成の様子(1ミリ秒おきのフレーム).スケールバーは200μm. 図7.固化処理を行った単分散二色ポリマー微粒子と粒径分布(平均径117μm,CV値1.9%).スケールバーは200μm. 図8.二色ポリマー微粒子を用いたディスプレイ. 図9.マイクロチャンネルを用いた多相エマルション(W/O/W型)生成法の概念図. 図10.W/O/Wエマルション滴の生成の様子.(a)内水相滴および外部液滴の生成.(b)内包液滴数を1個に調節した場合.(c)外部液滴,内包液滴の液滴径分布.スケールバーは(a),(b)ともに100μm. 図11.二色液滴を内包したW/O/Wエマルション滴.スケールバーは100μm. 図12.本研究で開発したサテライト滴の分離法の概念図. 図13.分岐路周辺における主滴(直径70μm)とサテライト滴(直径1,3,5μm)の流動の様子.主滴生成レートは約1500個/秒,スケールバーは100μm. | |
審査要旨 | 本研究は、互いに親和性の低い2種類以上の液体が不均一に混合した,いわゆる液-液分散系において、サイズの均一性に優れた微小液滴を生成でき,且つ希望する任意のサイズに液滴径を制御できる技術に関するものである.近年,機械的分散法の改良や膜乳化技術の開発などにより,均一サイズの液滴(単分散液滴)を生成できることが報告されている.しかしながら,液滴サイズを柔軟且つ精密に制御することは困難な課題とされてきた. 本研究では,均一サイズの液滴を生成することができ,且つ液滴サイズを幅広く変化させられる技術の開発を目的とし,微細流路の分岐構造を利用した微小液滴生成法を開発した.さらにこの手法を応用し,(1)単分散ポリマー微粒子の調製,(2)二色ポリマー微粒子の調製,(3)多相エマルションの生成,(4)サテライト滴の連続分離,の各手法について研究を行った. まず、アクリル樹脂(polymethylmethacrylate,PMMA)や合成石英,パイレックスガラスなどの材料に,各種加工法を用いてマイクロチャンネルの分岐構造を製作し,Water-in-Oil(W/O)型液滴,Oil-in-Water(O/W)型液滴の生成試験を行った.各種検討により,液滴生成現象の特徴を以下のように明らかにした.(1)均一サイズの液滴が規則正しい周期で連続生成、(2)液滴生成流量範囲を明らかにした、(3)流量操作による液滴サイズの操作範囲の解明、(4)マイクロチャンネル表面の濡れ性の影響の解明、これら知見をもとに、粒径予測式を立てることが出来た. 続いて電子ペーパー用二色微粒子を効率よく生産する研究を実施した。マイクロチャンネル内で、サイズの揃った二色液滴を生成し,これを固化することで単分散二色微粒子を生産する手法を考案した.マイクロチャンネルは,(a)分散相の二色並行流を形成するためのY字路,(b)連続相のシースフローによる流体抵抗力で二色液滴を生成するための十字路部から構成される.分散相として白または黒顔料を超音波分散したアクリルモノマー,連続相としてPVA水溶液を用いた.その結果、CV値2%前後の単分散二色微粒子を得留ことに成功し、得られた微粒子は電界によって反転させることができ,表示素子として使用可能であることを示した 単分散多相エマルションの生成への取り組みとして、本研究では,互いに異なる濡れ性をもつマイクロチャンネルの分岐構造を連続して配置し,単分散多相エマルションを生成する手法を考案した.1チップ集積型ガラスチップを用いたW/O/Wエマルションの生成実験では、第1生成部(幅60□m,深さ25□m,疎水化処理済み)にて規則正しい周期(毎秒約22個)で生成された内水相液滴(直径52□m,CV=2.7%)が,第2生成部で生成される油滴(直径83□m,CV=2.8%)に1個ずつ正確に内包される様子が確認された.また,内水相,中間相,外水相の流量をそれぞれ操作し,内包液滴サイズ,外部液滴サイズ,内包液滴個数を柔軟に変化させることが可能であった.2チップ連結型を用いた試験では,内包液滴個数の精密な制御には難があったものの,単分散多相エマルションを生成できることを示した. サテライト滴分離法の開発では、マイクロチャンネルの構造を利用し,主滴とサテライト滴を連続的に分離および回収する手法を考案した.マイクロチャンネル装置は,(1)液滴生成用のT字路,およびその下流域に設けられた(2)ディフューザ部,(3)分岐部から主に構成される.PMMAに加工したマイクロチャンネルを用いた試験では,分散相(純水)と連続相(とうもろこし油)の流量調節により,主滴(直径70μm)とサテライト滴(直径1,3,5μm)の間隔がディフューザ部にて拡大され,全てのサテライト滴が分岐路に列を成して流入していく様子が観察された.一方,サテライト滴自体もサイズごとに異なる経路を流動する様子を確認した.この結果は,サテライト滴同士の分級を行うことで直径数μm以下の単分散エマルションを100μmオーダのマイクロチャンネルを用いて生成できることを示すことが出来た.ガラスチップについても同様な結果を得た. 以上により、微細流路を用いた液滴・微粒子製作技術を確立することが出来た。 よって本論分は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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