学位論文要旨



No 120049
著者(漢字) 藤森,智行
著者(英字)
著者(カナ) フジモリ,トモユキ
標題(和) 機械部品を対象としたCT計測データからのポリゴンモデル生成と応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 120049
報告番号 甲20049
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5991号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 助教授 下村,芳樹
 東京大学 助教授 太田,順
 東京大学 助教授 増田,宏
内容要旨 要旨を表示する

 近年、CT(Computed Tomography)計測技術が、医療分野だけでなく工業分野においても、広く利用されつつある。しかし、工業分野における応用においては、医療分野では問題とされなかった精度の問題が重要となる。特に、計測及び画像再構成の原理から、CT計測によって鮮明な3次元画像を得ることはできないという問題があり、この問題が工業応用を難しくする要因となっている。そこで、本研究では、薄板形状と多媒質ソリッド形状のそれぞれについて、この問題を解決するための手法を示す。これらの手法は共通のコンセプトの元に、最終的なポリゴンモデルを出力する。共通のコンセプトとは、離散化された格子空間で位相的な完全性を保証し、その保証の下でポリゴンモデルの位相を作成し、最後にポリゴンモデルの幾何を最適化するというものである。これによって、従来手法では、扱うことが難しかった形状について、CT計測データからモデルを生成することができるようになった。また、提案手法を実装し、実際の機械部品に適用可能であることを確かめる。

 現在、工業分野で行われているCT計測技術の応用は、物体が単一の媒質からなり、かつある程度以上の体積がある場合を扱うことが多く、それ以上に複雑な場合については、どのように扱うべきかという理論が確立していない。この問題は、計測によって得られるCT値が連続的に変化するというCT計測の原理に起因している。このため、複数の媒質が近接して存在していたり、体積が小さい物体を計測する場合を扱うことが難しい。本研究では、従来手法では扱うことができなかったこれらの形状を計測し、得られたデータからモデルを生成する手法について議論する。また、生成するモデルの精度については、CT計測自体の精度とほぼ同等の精度となることを目標とした。これは、産業界からの要求の程度に応じたものである。

 第一に、計測データを表現するための概念として、3次元空間を立方格子空間として、包括的に表現するセルモデルについて議論し、セルモデルからポリゴンモデルを生成するための基礎としてキュービックシェルという概念を提案する。ポリゴンモデルの生成手法として等値面生成手法なる既存研究が一般に用いられるが、キュービックシェルは、これをセルモデルに適用するために必要な概念である。本論文では、数学的に保証されたキュービックシェル概念を提案し、これによって、生成されるポリゴンモデルが位相的に安全であることを保証する。

 また、生成するポリゴンモデルとして、非多様体ポリゴンモデルを採用することにより、一般的な2多様体モデルでは扱えないような形状についても、一般化して扱うことができるようになった。同時に、非多様体ポリゴンモデルの生成・編集手法についても考察を行っている。

 第二に、薄板形状のCT計測データからポリゴンモデルを生成する手法を提案する。提案手法の要点は、形状の表面を囲むような表面形状モデルではなく、形状の中央部を通る中立面モデルを抽出するところにある。このような中立面モデルは設計段階におけるモデルと親和性が高く、表面形状モデルをのみ抽出する従来手法と比較して、提案手法の優位性の理由となる。

 中立面モデルの生成においては、計測データから直接、ポリゴンモデルの生成を行うのではなく、セルモデルとして離散的に中立面を生成し、そこからさらにポリゴンモデルの生成を行った。この離散的な中立面を中立セルと呼ぶ。中立セルなる中間段階を介することにより、離散化の効果によって、CT計測に起因するCT値の連続的な変化の問題を解決することができるようになった。また、中立セルに対して、前述のキュービックシェル概念を用いることで安全にポリゴンモデルを生成することができることを確かめた。生成されるポリゴンモデルについては精度実験を行い、目標としたCT計測精度と同程度の精度が得られることを確かめた。

 第三に、多媒質ソリッド形状のCT計測データからポリゴンモデルを生成する手法を提案する。従来、形状表面の境界モデルを生成する手法は、ただ一種類の閾値しか用いることができないという問題がある。しかし、多媒質から構成される空間では必然的に複数の閾値が必要となり、3次元空間の部位ごとに用いる閾値を適応的に変更してやる必要がある。従来は作業者が手動で行っていたこの種の作業を、本手法では3次元画像解析によって解決する。具体的にはCT計測の原理を知識として折り込んだセルモデルでの近傍ラベル付け処理を適用した。

 また、複数の媒質の影響が完全に混ざりあった領域では計測精度が落ちるため、CT計測データから元の空間を復元するのが難しいという問題がある。本論文では、キュービックシェル概念を用いて、この問題についても、一定の解決が行える手法を提案する。具体的には、CT値を計測データとして用いることができなくなるため、この部位については、生成されるポリゴンモデルの位相的な連続性のみを保証し、最終的に幾何的な最適化処理の適用によって、問題を解決するようにした。

 本論文で提案した手法の優位性は、従来手法ではモデルが生成できなかった機械部品についても、位相的な保証がなされたポリゴンモデルを生成可能である点にある。これにより、計算機を用いた設計において、CT計測データを用いることが容易になり、デジタルエンジニアリングに貢献できると考える。また、本論文では精度実験を行って、CT計測精度と同程度の誤差のモデルが生成できることを確かめている。これにより、提案手法の実用性が確かめられたと思われる。

審査要旨 要旨を表示する

 藤森智行(ふじもりともゆき)提出の本論文は「機械部品を対象としたCT計測データからのポリゴンモデル生成と応用に関する研究」と題し、全5章よりなり、CT(Computed Tomography).計測データからポリゴンモデルを生成する問題を扱っている。

 第1章では、CT計測技術の概要を述べ、他の計測手法との比較を行った。ごの比較から、CT計測技術を基盤とし、計測によって得られたデータからポリゴンモデルを生成するという本研究の優位性を示した。さらに、本研究の目的・要件と構成について述べた。

 第2章では、本研究の背景として、CT計測技術と、計算機内に3次元形状を実現するためのモデリング技法について述べた。主として機械部品を対象とするCT計測によって得られるデータを入力とするため、CT計測技術およびCT計測データの特性を考察した。モデリング技法について議論し、どのようなモデルを扱うと、エンジニアリングのワークフローにおいて、応用が容易になるかを論じた。この議論から、入力として与えられるCT計測データを、離散格子空間における一般的表現であるセルモデルとして扱い、出力としては、非多様体ポリゴンモデルを生成するという方式を提案した。

 本研究に関連する先行研究として、CT計測データ(ボリューメトリックデータ)からのポリゴンモデル生成に関する研究と、生成したポリゴンモデルの編集手法を紹介した。最後に、本研究と先行研究の関係を明らかにした。

 第3章では、薄板形状のCT計測データからの中立面生成手法について、どのような課題が存在するかを明確にし、この問題を解決する手法を提案した。

 中立面とは物体の中央を通るような面のモデルであり、既存手法で生成可能な物体表面を覆うようなモデルと比較して、エンジニアにとって自然かつ扱いやすいという利点を持つ。このような中立面を生成するに際して、CT計測技術に起因する課題と、先行研究の問題点を述べた。

 次に課題を解決するために、直接に中立面をモデル化するのではなく、中立面の離散的な表現である中立セルを用いる複数のステップからなる手法を提案した。これらのステップは、

●CT計測データからの中立セルの抽出

●中立セルに等値面生成手法を適用できるようにするための適合化

●非多様体ポリゴンモデルが生成できるように拡張したMarching Cubes法

●生成されたポリゴンモデルの最適化

の段階に分かれており、これにより、高精度の中立面を既存手法よりも頑健かつ高速に生成する手法を提案することができた。また、応用として、前章で紹介した平滑化手法、簡略化手法を非多様体ポリゴンモデルに拡張する手法を示した。続いて、提案手法を計算機上に実装し、実際のCT計測データからのモデル生成を行い、本研究の目的および要件が達成されていることが確かめられた。

 第4章では、多媒質ソリッド形状のCT計測データを扱うにあたって、3個以上の媒質(これを多媒質と言う)の領域において、CT値が意味のある値を持たないという問題と、2媒質間の境界における閾値をどのように決定するかとういう問題が、課題となっていることを指摘した。次に、これらの課題を解決するために、ボクセル単位で媒質の分類を行う手法と、既存の当地面生成手法を発展させる形で境界面生成を行う手法を提案した。続いて、提案手法を計算機上に実装し、実際のCT計測データからのモデル生成を行い、本研究の目的および要件が達成されていることが確かめられた。ただし、3媒質が集まっている領域では、CT値自体が持つ精度を評価することが難しく、定性的な評価にとどめた。

 第5章では、本研究の成果をまとめ、総括し、今後の課題に関して論述した。

 以上を総括すると、本研究は、既存手法ではモデル化が行えなかった薄板形状と多媒質ソリッド形状について、CT計測データからポリゴンモデルを生成する問題を頑健かつ高速に処理することができる可能性を示した。特に、CT計測データから、エンジニアリングのワークフローのなかで用いられるモデルを迅速に生成することができ、デジタルエンジニアリングにおけるモデル生成という問題を効率的に解く手法を提案し、大きな貢献を行った。

 よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。

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