学位論文要旨



No 120051
著者(漢字) 趙,永學
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,ヨンハク
標題(和) 単一細胞の電気・物理的特性を測るMEMSデバイスの開発に関する研究
標題(洋) A STUDY ON DEVELOPMENT OF MEMS DEVICE FOR ELECTRICAL AND PHYSICAL CHARACTERIZATION OF SINGLE-CELL
報告番号 120051
報告番号 甲20051
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5993号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 金,範
 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 教授 樋口,俊郎
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 助教授 神保,泰彦
内容要旨 要旨を表示する

1.はじめに

 最近、半導体微細加工技術で作るマイクロ構造の中で、科学的分析操作を行う分野が多くの関心を集めっている。これは、主に、アメリカではラボ・オン・チプ(Lab-on-a-chip)、ヨーロッパではマイクロ・タス(μTAS:Micro Total Analysis Systems)と呼ばれ、マイクロ流体構造のような小さく機能的構成要素を用いて複雑な化学と生物学上の操作と分析を行なうことができる総合システムを開発することを目指す。特にマイクロ分析システムに基づく単一細胞を観察するバイオセンサは、基礎的な生物的研究から薬品の開発までさまざまな分野について分析を可能にするため、過去10年間生物学者らは個々の生体細胞の分析と操作などを追求している。

 しかし、まだ単一細胞レベルでは正確に色々な情報を評価する方法が実現されていない。そのため医療用マイクロチップの製造に向けて新マイクロデバイスの設計・製作技術の開発が必要である。

 この論文の目的は、個別の細胞を物理的に操作し、その生体細胞を可視化、観測すると同時に化学、電気、機械特性を評価することである。計測対象として悪性腫瘍などの診断や治療に重要な感染細胞等(例えば不健康な赤血球)を選んで、その電気的・力学的性質の関係を調べる。具体的には、マイクロチャンネルを利用した流体デバイスとカンチレバーアレイによる細胞の操作と捕捉手法を確立し、将来的には、それを用いて細胞の健康状態の判定、各種薬物に対する反応、機械的特性と電気的特性の相関関係を解明することを目指している。即ち、本研究で開発するマイクロ流体デバイスとカンチレバーアレイによって、細胞の操作や測定を行い細胞健康状態の選別を可能とする。

 捕獲された細胞は流路に設けた同カンチレバーアレイを用いてその電気特性を計測できる。水中での生物単一細胞の観察や操作するデバイスの開発は、レーザビームを用いる操作の方法と光学用のピンセットを用いる操作の方法などが研究されてきたが、多量的に並列の操縦をすると同時に単一細胞レベルでの操作や評価するものはまだ実現されてない。

 本研究の意義は、人間の生体細胞の物理的変形と電気的特性の関係を調べ、より正確に病気(特に循環系)の診断・治療への応用が期待できる、具体的なマイクロデバイスを具現することである。

2.熱バイモルフ駆動式マイクロセンサーの製作

 本研究の最初の製作デバイスとして、図1のような検出部と作動部が一体になるカンチレバーアレイとマイクロ流体チャンネルを融合したデバイスを製作した。このデバイスは、個々の単一細胞を固定し、同時にマイクロチャンネルとカンチレバーの先端の間にある細胞の電気的な特性を測定することを目指すものである。流路の中で固定された単一細胞の電気的インピーダンスをより正確に計測するため、従来の平面基板上にあった電極ではなく、3次元的に上下構造になっているカンチレバー電極を用いて測定するデバイスを設計した。電極を持つポリマーのマイクロプローブアレイを設計し、ポリシリコンとポリマーの熱的な伸長の差を利用して、細胞を捕獲するようなマイクロカンチレバーアレイの製作に成功した。図2に、細胞の電気的インピーダンスを測定する熱バイモルフ駆動式マイクロセンサーを示す。

 さらに、構造の駆動条件を確認し、マイクロカンチレバーの作動の数値解析を行い、実際そのセンサアレイの駆動と変位、温度分布などを調べた。しかし、このデバイスは3次元的な動きをするものであり、液体中にて生体細胞を測る為に、デバイスの実装と信号回路の集積が必要であるが、それを実現するのには困難である。そこで、本研究に、図3のような新たなマイクロ構造を設計しなおし、単一細胞の最初サンプリングから最後液体中での評価まで可能なデバイス製作および物理・電気的特性も計測できる方法を提案した。本研究では、細胞の変形と電気的特性の関係について調べる。そのために細胞の濾過用のマイクロチャンネルと単一細胞の電気的特性の測定用のツインマイクロカンチレバーアレイを持つ新しいデバイスを開発した。

3.ツインマイクロカンチレバー型センサアレイの製作

 図3には、デバイスの概念図を示して研究方法と加工プロセスを説明する。本研究のデバイスでは、実際の測定対象として動物(豚)の赤血球を用いて、健康状態を調べるため、その赤血球の電気的特性(インピーダンス)を計測した。赤血球の場合、色んな病気を持っていると減じられる変形がよく発見される。病気を持っている細胞は、真剣な循環の問題の原因になって毛細血管をブロックする。なお、細胞膜の電気的特性に関する情報は、細胞の生存能力や単一細胞に基地を置く有毒物質の発見に関する測定手段として利用されている。即ち、正常に健康の細胞と不健康の細胞についてその変形と電気的特性には差があるが、まだこれらの関係は完全に未解の状態である。そこで、本研究で提案するデバイスは、上下に動けるツインカンチレバー型の電極を製作することによって、マイクロ流路からツインカンチレバーの間に捕捉された単一細胞(赤血球)の電気的なインピーダンス信号の測定と同時に細胞の機械的な弾性力(変形)を評価することが可能である。現状には、デバイスを製作し赤血球の電気的インピーダンス信号を観測することまで成功した。

 細胞の物理的な特性を計る方法としては、マイクロカンチレバーの変形を測定するオプチカルレバー式が考えられる。赤血球の変形は、ミクロスケールでは生体組織との物質交換効率に影響し、マクロスケールでは周囲の流動構造に大きく影響をする。それで、今後の課題として赤血球の電気的なインピーダンスのデータと共にその変形に関する研究を進める予定である。

 マイクロ流路に設けた計測用マイクロツインカンチレバーは、SOI基板を利用して製作した。マイクロチャンネルとマイクロカンチレバーアレイを順番にプラズマエッチング法を用いて作る後、マイクロカンチレバーアレイの上にクロム(Cr)と金(Au)を蒸着し、その先端の間に来る細胞のインピーダンスを測定できる電極を形成した。図4にSOI基板を用いて製作したマイクロツインプローブのSEM写真((a),(b))および細胞のインピーダンス検出のためパターンした電極のSEM写真((c),(d))を示す。さらに、デバイスへの細胞の導入・排出の容易性と細胞液剤の滑らかな流れのために、親水性の機能を持つ自己組織化単分子膜(SAM)をコーティングした。液体中にて細胞を操作、計測するため最後に試作デバイスの実装と信号入力回路の集積化を実現した。マイクロマシン技術を用いて製作したデバイスの上下面から図5のようにポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)でシーリングをしてTubingを行い、デバイスの中で細胞の操作、循環状況を確認する実験を行った。実装は透明なPDMSを用いることで基板上から光学顕微鏡・蛍光バイオ顕微鏡を使用し、マイクロチャンネルに濾過する個別な赤血球の流れとマイクロツインカンチレバーの間を通過する赤血球の変形などを観測できる。

 マイクロ機構自体(マイクロツインカンチレバー)をツールとして細胞だけではなく、各種の生体蛋白分子らの結合や反応を直接観察できるバイオセンサを製作することも可能と期待される。

4.細胞の測定結果

 完成したデバイスを用いてマイクロ粒子と赤血球の電気的インピーダンス測定の実験を行った。細胞がマイクロチャンネルで濾過された後、一つづつ順番にツインマイクロカンチレバーアレイを通過して流れ出る。このデバイスは、単一細胞が固定されている時だけでなくツインカンチレバー電極の間を変形しながら通過する時にも電気的特性を測定することが可能になっている。本研究には、人間の赤血球とほぼ同じ寸法を持つ豚の細胞を用いて実験を行った。実際、健康な赤血球と異常な赤血球などを含めて五つ種類のメディアを流露の中に流し1Hz-10MHzの周波数範囲にかけてその電気的なインピーダンスを測定した結果、主に100Hz-100kHzの領域にて安定な信号が得られた。豚の健康な赤血球より得られたインピーダンス、位相信号と異常な赤血球(化学溶液で処理し細胞膜を固定化する)よりの違う形のインピーダンス、位相信号を比較する事によって細胞の健康状態の判定の一つの重要方法を提供できた。不健康な細胞の場合は、細胞質、細胞膜自体の電気的特性以外にも、特に硬くなった細胞膜の影響によって、細胞の流れの中、計測場所であるツインマイクロプローブに物理的影響し、インピーダンス測定値にその差が現れたと考えられる。

 最後に、このデバイスから血液製剤などの研究への応用、さらに多チャンネル・高感度・高速センサチップや、創薬スクリーニング、発癌性細胞の診断・治療のためのマイクロデバイスへの応用ができると期待している。

5.まとめと今後の課題

 ○半導体微細加工プロセスによる熱バイモルフ駆動式マイクロセンサとツインマイクロカンチレバー型センサアレイを製作し、構造の駆動条件を確認の後マイクロカンチレバーの作動の数値解析を行い、実際そのセンサ列の駆動と変位、温度分布などを調べた。

 ○電極を持つツインマイクロカンチレバー型センサアレイを製作し、マイクロ流路からツインカンチレバーの間に捕捉された単一細胞(赤血球)の電気的インピーダンス信号を観測するため、最後に試作デバイスの実装と信号入力回路の集積化を実現した。

 ○完成したデバイスを用いて赤血球の電気的インピーダンスを測定した。実際、健康な赤血球と異常な赤血球などを含めて五つ種類のメディアを流露の中に流し、1Hz-10MHzの周波数範囲にかけてその電気的なインピーダンスと位相差信号を測定した。特に、健康な赤血球と異常な赤血球の間に違う形のインピーダンス、位相差信号が得られ、二つの比較より細胞の健康状態の判定が出来る一つ具体的な手段が提案された。

 ○これから今後、さらに各種薬物に対する反応、機械特性と電気的特性の相関関係などをもっと詳しく調べるべきである。さらに、電気的なインピーダンス信号ではなく、ピエゾレジスト(piezoresist)機能を持つマイクロ構造を印加することにより、カンチレバーの機械的変形かつ細胞−構造間力を測定することも考えられる。

図1.熱バイモルフ駆動式マイクロセンサの概念図

図2.製作した構造のSEM写真

図3.ツインマイクロカンチレバー型センサアレイの概念図

図4.製作した構造のSEM

図5.PDMS実装の概念図

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は個別の細胞を物理的に操作し、その生体細胞を可視化、観測すると同時に化学、電気、機械的特性を評価したものである。計測対象として悪性腫瘍などの診断や治療に重要な感染細胞等(例えば不健康な赤血球)を選んで、その電気的・力学的性質の関係を調べた。具体的には、マイクロチャンネルを利用した流体デバイスとカンチレバーアレイによる細胞の操作と捕捉手法を確立し、将来的には、それを用いて細胞の健康状態の判定、各種薬物に対する反応、機械的特性と電気的特性の相関関係を解明することを目指している。即ち、本研究で開発したマイクロ流体デバイスとカンチレバーアレイによって、細胞の操作や測定を行い細胞の健康状態の選別を可能とする。

 流路に設けた同カンチレバーアレイを用いて捕捉された細胞の電気特性を計測できる。水中で生物の単一細胞の観察や操作するデバイスの開発は、レーザビームを用いる操作の方法と光学用のピンセットを用いる操作の方法などが研究されてきたが、多量的に並列の操縦をすると共に単一細胞レベルでの操作や評価するものはまだ実現されてない。

 本研究の最初の製作デバイスとして、検出部と作動部が一体になるカンチレバーアレイとマイクロ流体チャンネルを融合したデバイスを製作した。このデバイスは、個々の単一細胞を固定し、同時にマイクロチャンネルとカンチレバーの先端の間にある細胞の電気的な特性を測定することを目指すものであった。流路の中で固定された単一細胞の電気的インピーダンスをより正確に計測するため、従来の平面基板上にあった電極ではなく、3次元的に上下構造になっているカンチレバー電極を用いて測定するデバイスを設計した。電極を持つポリマーのマイクロプローブアレイを設計し、ポリシリコンとポリマーの熱的な伸長の差を利用して、細胞を捕獲するようなマイクロカンチレバーアレイの製作に成功した。しかし、このデバイスは最後の実装の問題があり、実際液中にての細胞の実験までは行ってない。でもそのデバイスの設計、駆動実験および数値解析などで将来的に様々な応用が期待されることで評価された。

 本研究の主な開発として、新たなマイクロ構造を設計しなおし、単一細胞の最初サンプリングから最後液体中での評価まで可能なデバイス製作および物理・電気的特性も計測できる方法を提案した。本研究では、細胞の変形と電気的特性の関係について調べた。そのために細胞の濾過用のマイクロチャンネルと単一細胞の電気的特性の測定用のツインマイクロカンチレバーアレイを持つ新しいデバイスを開発した。

 本研究のデバイスでは、実際の測定対象として動物(豚)の赤血球を用いて、健康状態を調べるため、その赤血球の電気的特性を計測した。赤血球の場合、色んな病気を持っていると減じられる変形がよく発見される。病気を持っている細胞は、真剣な循環の問題の原因になって毛細血管をブロックする。なお、細胞膜の電気的特性に関する情報は、細胞の生存能力や単一細胞に基地を置く有毒物質の発見に関する測定手段として利用されている。即ち、正常に健康の細胞と不健康の細胞についてその変形と電気的特性には差があるが、まだこれらの関係は完全に未解の状態である。そこで、本研究で提案したデバイスは、上下に動けるツインカンチレバー型の電極を製作することによって、マイクロ流路からツインカンチレバーの間に捕捉された単一細胞(赤血球)の電気的なインピーダンス信号の測定と同時に細胞の機械的な弾性力(変形)を評価することが可能である。現状には、デバイスを製作し赤血球の電気的インピーダンス信号を観測することまで成功した。

 細胞の物理的な特性を計る方法としては、マイクロカンチレバーの変形を測定するオプチカルレバー式が考えられる。赤血球の変形は、マイクロスケールでは生体組織との物質交換効率に影響し、マクロスケールでは周囲の流動構造に大きく影響をする。それで、今後の課題として赤血球の電気的なインピーダンスのデータと共にその変形に関する研究を進める必要があると判断したが本研究の成果は最も重要なバイオMEMSのデバイスの一つとして高く評価された。

 本研究の意義は、生体細胞の物理的変形と電気的特性の関係を調べ、より正確に病気(特に循環系)の診断・治療への応用が期待できる、マイクロデバイスを具現したことである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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