学位論文要旨



No 120053
著者(漢字) 施,武陽
著者(英字)
著者(カナ) セ,ブヨウ
標題(和) メタンハイドレートの非平衡分解モデルに関する数値的実験的研究
標題(洋) Numerical and Experimental Study on Non-Equilibrium Dissociation Model of Methane Hydrate
報告番号 120053
報告番号 甲20053
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5995号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,徹
 東京大学 教授 宮田,秀明
 東京大学 教授 鈴木,英之
 東京大学 助教授 増田,昌敬
 東京大学  清野,文雄
内容要旨 要旨を表示する

新エネルギーとして高く期待されているメタンハイドレート(MH)が有効に利用されるために,MH分解時の挙動,特に分解過程の解明は不可欠である.従来のMH分解速度の研究は,分解駆動力としてフガシティー差,あるいは温度差を仮定し,生成したメタン気泡の収集により,分解速度の評価式を求めるものであった.本研究では,分解の駆動力を化学ポテンシャルで定義し,新しいMHの分解速度モデルを構築する.

そこで二相流の数値流体力学(CFD)コードに新しい分解モデルを組み込み,モデルに含まれる物性の分解係数kblを変えたCFD計算を行い,実験結果と照らし合わせることで,この未知数を決定する.実験では,計算と同じ流量・温度・圧力にて,球状のMHペレットを円筒圧力容器内に設置し,その下流において水溶液中のメタン平均濃度を測定した.但し,圧力は三相平衡圧力より高い値とし,メタン気泡が生成しない条件とした.得られたkbl=3.9039×1012×e(-11829/T)はMHの固有な係数であり,気泡が生成する温度・圧力条件下でも成立すると考えられる.そこでモデルの検証のために,今度はVapor-Liquid平衡となる条件下において,気泡を収集する実験を行い,メタンガスFluxの値を計算値と比較した.その結果,本モデルの検証がなされ,従来のモデルより精度の高いMH分解モデルを構築することができた.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、メタンハイドレートの非平衡分解挙動を記述するモデルを新たに提案するものである。従来一般に使用されているメタンハイドレートの分解モデルでは、メタンハイドレート表面におけるメタンフラックスを求めるために、ある状態から別の状態へ圧力や温度が変化した際の始点と終点の平衡状態のフガシティー差を駆動力とし、実験から求めた物質移動速度係数を用いるものであった。但しその実験の精度に問題があることから、より高精度な分解モデルの開発が要望されていた。本論文では、分解駆動力として、より物理化学的に正しいとされる化学ポテンシャルの差を取り上げている。そして、この分解駆動力に関する分解速度係数を求めるため、数値流体解析(CFD)において分解速度係数を変数として様々に変化させ、与えた分解速度係数と数値計算結果としてのメタンフラックス量に関するキャリブレーション曲線を作成する。この上で、メタンハイドレートが分解する際ガス化せずに水に溶解する温度・圧力条件下にて、高精度なメタン濃度測定実験を行い、実験結果のメタンフラックスの値から分解速度係数を求めるという手法をとっている。このようにして求めた分解速度係数を基にした分解モデルを検証するため、今度はメタンハイドレートが分解する際ガス化する温度・圧力条件下で、ガス化したメタン体積を計測する実験を行った。この結果、本論文で新たに提案した分解モデルと実験結果のフラックスはよく合致し、本論文の目的は達成された。

 第1章は序論で、まず冒頭で本研究の対象であるメタンハイドレートの説明が、物理化学的側面とエネルギー資源としての側面の両方からなされている。また、過去のメタンハイドレートの熱力学的性質および形成・分解に関する研究がまとめられている。特に従来よく使われてきたメタンハイドレートの分解モデルの問題点に触れ、本論文の目的はこれに代わる新たなモデルの構築である旨が述べられ、最後に、より高精度な分解モデルの構築のプロシージャについて簡単にまとめている。

 第2章は、新たに構築したメタンハイドレートの分解モデルの説明に当てられている。まず、過去に提案された分解モデルを紹介し、その特徴と課題をまとめている。その後、分解駆動力として化学ポテンシャルを用いることの重要性を説明している。本論文で新たに開発された分解モデルは、新しい概念である「バッファー層」をメタンハイドレート表面に設定し、その外層でのメタン濃度CIを未知数として定義する。分解のメタンフラックスを分解駆動力である化学ポテンシャル差と分解係数の積とすると、このモデルの未知数は分解係数と表面濃度CIの二つとなり、一種類の実験ではその両者は同時に求まらない。そのため、第1章でまとめたような実験と数値計算を組み合わせたプロシージャにより、これらを求めていく必要があることを述べている。

 第3章は、本研究で用いた数値流体解析(CFD)によるメタンハイドレート分解の分解係数と分解フラックスのキャリブレーション曲線の作成について述べている。その中でまずCFDの手法の内容の説明と、例題による検証を行っている。特にVery-Thin-Layer法を採用し、高シュミット数となる界面での物質移動を数値的に高精度に解く旨、説明されている。その後、第2章で説明したメタンハイドレートの分解モデルをこのCFD手法に組み込み、直径0.01mのメタンハイドレートの球状ペレットに関して、三相平衡図においてガス化しない圧力・温度の様々な条件下において、分解係数を振って分解フラックスを計算し、これをキャリブレーション曲線としてデータベース化したことが説明されている。

 第4章は、直径0.01mのメタンハイドレートの球状ペレットを用いた分解実験について詳説されている。実験装置、メタンハイドレートペレットの準備手法、水中のメタン濃度計測法について述べた後、三相平衡図においてガス化しない領域内での圧力・温度の様々な条件下においてのメタンフラックスの実験結果を提示している。さらに、その測定法の誤差解析を行い、誤差はせいぜい5%程度であると述べている。

 第5章では、第3章で作成したキャリブレーション曲線に、同条件化での実験におけるメタンフラックスを代入し、最終目的である分解係数を求めている。また、求めた分解係数は、流れ(レイノルズ数)や圧力には影響されず、温度に対してアレニウス型の関数で表記されることが説明されている。

 第6章では、メタンがガス化する圧力・温度下で、第5章で求めたモデルの検証を行っている。メタンの分解フラックスを実験的に求めるには、ガス化しない条件でメタン濃度を測定した方が精度が良いが、実際にモデルが使用されるのはガス化する条件化である可能性が高いため、ガス化する条件下でのモデルの検証が必要となる。まず実験方法が述べられた後、解析法の説明、実験結果、誤差解析と続いている。実験方法自体、レーザー散乱を用いた気泡径の測定は例を見ないものであり興味深いものとなっている。その結果、実験結果のフラックスと新しく提案されたモデルのそれはよく合致し、本論文の目的であったメタンハイドレート分解に関する高精度モデルの開発が達成された旨が述べられている。

 第7章では本論文の結論が述べられている。

 以上、本論文はメタンハイドレートの分解挙動を説明するモデルを新たに開発したものであり、特に地形を考慮した広域のメタン生産井のシミュレーションなど、メタンハイドレートの分解予測に広く利用されることが予想され、工学的な価値は非常に高い。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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