学位論文要旨



No 120057
著者(漢字) 横山,信宏
著者(英字)
著者(カナ) ヨコヤマ,ノブヒロ
標題(和) 複合領域最適化およびその宇宙往還機概念設計への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 120057
報告番号 甲20057
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5999号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,真二
 東京大学 教授 堀,浩一
 東京大学 教授 中須賀,真一
 東京大学 教授 川口,淳一郎
 東京大学 講師 土屋,武司
内容要旨 要旨を表示する

 従来の使い捨てロケットやスペースシャトルに代わる将来型宇宙輸送システムとして,低コスト・高信頼性を実現する完全再使用可能な宇宙往還機を開発することは,今後の宇宙開発を促進する上で重要な課題の1つである.宇宙往還機のような大規模システムの設計問題は,誘導制御,空力,構造,推進といった複数の異なる専門領域によって構成される.この場合,個々の専門領域単独で最適設計を行っても,システム全体にとって最適になるとは限らないという点に注意しなければならない.特に,専門領域間に強いカップリングが存在し,それぞれの設計の間にトレードオフ関係が生じるならば,専門領域を統合してシステム全体に対する最適化を行うアプローチ,すなわち複合領域最適化(Multidisciplinary (Design) Optmization, MDO)が必要となる.そこで,本論文では,大規模システムに対して有効なMDO手法と,その宇宙往還機概念設計問題への応用に関して検討および提案を行った.

 MDO手法に関しては,従来の研究において十分に検討されていない2つの点に主眼を置き,新手法の提案を行った.1つは,拡張された軌道最適化問題として定式化されるMDO問題を,従来よりも高速に解くための手法に関するものである.軌道最適化問題を変換して得られる非線形計画問題において,Lagrange関数のHesse行列が特殊なスパース構造を有することを考慮し,従来手法よりも収束の速いHesse行列の更新法について提案すると共に,例題への適用を通してその有効性を示した.また,本論文では,MDOの高速化・ロバスト化・汎用化のために,MDO問題における個々の複雑な解析プログラムをメタモデル(入出力関係を模擬した近似関数モデル)によって置き換える手法を採用した.そこで,2つ目の主題として,従来は考慮されてこなかった,複数の制約条件が課される入力空間においてメタモデルのサンプル入力点を効果的に配置するための実験計画法について検討を行った.そして,制約付きの入力空間において,入力変数を各軸方向に投射したときの多水準性と,空間内における近傍点間のユークリッド距離の均一性を同時に実現する実験計画法を新たに提案し,それによってメタモデルの近似精度が向上することを確認した.

 宇宙往還機の概念設計問題においては,機体とエアブリージングエンジンの一体設計と,トリム・迎角静安定性といった剛体としての飛行特性を含めてモデル化を行った.このような詳細なモデルは,各専門領域が複雑にカップリングし,その上構成されるMDO問題が大規模になることから,従来,MDOの枠組みではほとんど扱われてこなかったものである.本論文では,上記の手法を実装したMDOプログラムを適用することで,この問題の最適解を得ることに成功し,最適な機体や軌道の特徴に関する知見を得ることができた.

審査要旨 要旨を表示する

 修士(工学)横山信宏 提出の論文は「複合領域最適化およびその宇宙往還機概念設計への応用に関する研究」と題し、6章と付録からなる。

 複数の技術分野を統合する航空機や宇宙機の設計では、複合領域の最適化が重要であると認識されている。特に、将来型宇宙輸送システムの一候補として検討されている有翼型宇宙往還機の設計においては、飛行軌道も機体設計と同時に最適化することが重要である。こうした問題へ最適化手法を適用する際の技術的課題は、複数の解析プログラムを最適化プログラムに効率よく組み込むこと、大規模な問題を高速に探索すること、を可能にすることであった。

 本論文は、飛行軌道最適化を含む複合領域最適化の手法、およびその宇宙往還機概念設計問題への応用の両面において検討を行っている。手法に関しては、動的な軌道最適化問題を離散化し、静的な設計問題と併せて非線形計画問題として定式化する解法を採用している。本論文では、探索手法の高速化と、複雑な解析コードをその入出力関係を用いて近似するメタモデルの生成法に新たな提案を行い、その有効性を検証しようとしている。また、応用面では、詳細なエンジンモデルを用い、さらに宇宙往還機の縦のトリム・静安定性などの剛体としての飛行特性を考慮した問題設定のもとで、各種の制約の下でペイロードを最大にする機体設計および飛行経路の最適化を試み、宇宙往還機の概念設計の方向性を明らかにしようとしている。

 第1章は序論で、本研究の背景と目的を明らかにしたうえで、過去の研究事例について概観し、本論文の構成を整理している。

 第2章では、軌道最適化を含む複合領域最適化問題における数値解法のコアとなるスパースSQP解法の改良を提案し、その検証を行っている。スパースSQPの最も重要な部分は、Hesse行列の効率の良い計算法の確立にあり、本章では2種類の新たな手法を提案している。修正L-BFGS法と命名された1つ目の計算法は、Hesse行列のスパース性を利用してBFGS法を適用するL-BFGS法に改良を加えている。具体的には、Hesse行列をリセットする際に、正定性を保証しつつ、対角成分を自動微分演算によって得られる真の値に置くものである。DBDH法と命名された2つ目の計算法は、本問題におけるHesse行列の2重縁取りブロック対角構造に着目し、2重縁取り成分も含めた小行列単位で分割して第1の方法におけるリセット方式を取り入れたBFGS法を適用する手法である。これら2つの計算法を複数の例題に適用し、従来の計算法に対する優位性を実証している。

 第3章では、サンプル点の入出力データからメタモデルを生成する新たな手法を提案している。従来のサンプル点の設定方法は、設計空間がなす超立方体内で、入力変数を各軸方向に投射したときの多水準性と、空間内における近傍点間のユークリッド距離の均一性を同時に実現するものであった。本論文では、制約条件によって限定された入力空間のみを対象とすることで近似精度を向上させる手法(CSUD)を提案している。複数の例題によって作成したメタモデルの近似精度が高くなることが確認されている。

 第4章では、提案する複合領域最適化手法を用いて、予冷ターボジェットエンジンとロケットエンジンを搭載した単段式宇宙往還機の概念設計問題を解いている。本論文の特徴は、機体の質量分布を考慮してトリム条件、静安定条件を拘束した最適化を行っていることで、機体の空力モデルと、エンジン性能モデルには第3章で開発したメタモデル化手法を採用している。最適化計算の結果、トリム・静安定条件は機体設計に影響を与え、ペイロードを減少させることを明らかにしている。

 第5章では、ラムジェットエンジンとスクラムジェットエンジンを一つのエンジンで実現できるデュアルモードエンジンとロケットエンジンを搭載した単段式宇宙往還機の概念設計問題を解いている。第4章と同様に、トリム・静安定性を考慮すると共に、機体設計自由度を増し、推進性能と機体形状の間の依存関係も考慮している。得られた最適解により、トリム・静安定性が機体設計に及ぼす影響を第4章よりも一層明確にしており、物理的な理由についても考察している。特に、静安定性を確保する上で適した機体形状が、推進性能の観点からは必ずしも望ましくないことを明らかにし、また、最適な飛行軌道が、推進性能のみで決まるわけではないことも実証している。

 第6章は結論で、本論文で得られた成果を要約している。

 以上、要するに、本論文は、非線形計画法の高速解法および、メタモデルを高精度化するサンプル点の設定法の提案をおこない、その手法を、有翼型単段式宇宙往還機の複合領域最適化に適応し、その有効性を実証している。開発した手法を宇宙往還機の最適設計に適応した結果は、トリムや静安定性の制約がエンジン性能と機体設計の両面に影響を及ぼすという知見を明らかにした。これらの成果は、航空宇宙工学上貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる。

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