学位論文要旨



No 120066
著者(漢字) 下田,真吾
著者(英字)
著者(カナ) シモダ,シンゴ
標題(和) 微小重力環境下における浮上移動に関する研究
標題(洋) Hopping Mobility under Microgravity
報告番号 120066
報告番号 甲20066
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6008号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中谷,一郎
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 教授 岡部,洋一
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 橋本,秀紀
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

 ロボットが微小重力環境下で,ロボットと地面間に働く摩擦を利用して移動するには,浮上移動する方法が考えられる.ロボットが浮上移動する場合には,さまざまな移動機構を利用することが可能であるが,いかなる移動機構を用いようとも,その原理は同一のものになる.ロボットが浮上移動するためには,体の一部を地面に押し付け浮上力を得る必要がある.その際,地面に押し付けられた部分と地面との垂直抗力は通常状態より大きくなり,より大きな摩擦力を利用して地面と水平方向の速度を生み出すことができる.これが浮上の原理であり,また微小重力環境下で摩擦力を利用して移動することができる理由でもある.さらに,微小重力環境下で目的地点に浮上移動するには,浮上後の姿勢制御,地面への着地も重要な条件になる.

 本論文では,浮上の原理に基づき微小重力環境下で浮上移動できるロボットを提案する.提案するロボットは3つの質量系で構成されており,それらの質量系はスプリングとリニアアクチュエータでつながれている.さらに2つのホイールが取り付けられている.ロボットが浮上移動する際,スプリングを利用し,質量系のひとつを地面に押し付け,浮上力を得る.さらにリニアアクチュエータの一つを用いて地面とロボット間の摩擦を利用して,水平方向速度を得ることができる.この際,水平方向速度と垂直方向速度を独立に制御できるため,浮上速度と浮上方向を制御することができる.さらに提案するロボットが着地する際,ロボットの持つ運動エネルギを弾性エネルギに変換することで,地面で弾むことなく着地することができる.着地の際,ロボットの一部が浮上の際と同様に地面に押し付けられるため,摩擦力を利用して,水平方向速度も減速することができる.これらの動きの有効性は,シミュレーションおよび落下等を利用した微小重力実験により実証された.

 提案したロボットは2つのホイールを持つ.本論文では,2ホイールを利用した姿勢制御に関する検討も行った.姿勢が変化する際の軌道を単位球面上に射影し,その軌道が単位球面上に描く面積を利用することで,姿勢変化の経路計画および計画経路に沿ったフィードバック制御を提案する.フィードバック制御では面積を制御量として利用することで,計画経路に沿ったフィードバック制御を実現した.さらに,ロボットが初期角運動量を持つ場合,姿勢をできる限り目標姿勢付近でとどめておくことを検討し,歳差運動を利用しその際に描かれる面積とホイールを持たない軸周りの角速度を一致させることで,フィードバック制御が可能であることを示した.

 本論文によりロボットは微小重力環境下で目標地点に移動可能であることが示された.これらの成果は今後の小天体探査などの微小重力環境下での移動ロボットに必須の技術である.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「Hopping Mobility under Microgravity(微小重力環境下における浮上移動に関する研究)」と題し,近年の惑星探査において重要性が高まってきている移動ロボットの小惑星や彗星の表面,宇宙ステーション内などの微小重力環境における移動手法について検討したものである.微小重力環境下の移動において,地面を蹴って浮上する方法が優れていることを示し,移動を浮上制御,空中移動,着地制御の3段階に分けて,それぞれの原理を検討することで,目標地点に浮上移動するための条件を導いている.さらにその条件をもとに新しい浮上移動メカニズムを提案し,その有効性をシミュレーションと実験の両面から検証しており,6章から構成される.

 第1章は「Introduction」であり,研究の背景,目的について述べ,この研究の位置づけを明確にしている.

 第2章は「Hopping Mobility」と題し,微小重力環境下で摩擦力のみを使い移動する場合の浮上移動の利点について述べている.移動を浮上制御,空中移動,着地制御の3段階に分けてそれぞれの原理を検討している.さらにそれらの原理より,浮上移動に求められる条件を導き,これまでに提案された浮上移動ロボットとその条件を比較して,それらに欠けている点を指摘している.

 第3章は「New Mechanism」と題し,第2章で導いた条件に基づき,微小重力下での浮上移動に適した新しいメカニズムの提案を行っている.提案するメカニズムは3質量系とスプリング,リニアアクチュエータ,ホイールを組み合わせた構成であり,地面とロボットの相互干渉を利用しながらエネルギ変換を行うことで微小重力環境下での浮上,着地が実現するものである.提案されたロボットの機構および,モビリティの特徴を明らかにするとともに,提案したメカニズムが,微小重力環境下での目標方向への浮上,地面で弾むことのない着地を実現できることを数値シミュレーションにより示している.

 第4章は「Attitude Control」と題し,ロボットが地面と接触をもたず空中を移動している間の姿勢制御法について議論を行っている.本研究ではロボットの軽量化の観点から,2つのホイールを用いて姿勢制御を行う場合について検討している.姿勢や姿勢変化経路を単位球面上で表現し,姿勢変化経路が単位球面上に描く面積を指標として,姿勢変化の経路計画および計画経路に沿ったフィードバック制御を行う手法を提案し,その有効性を数値シミュレーションにより示している.本手法はロボットの姿勢制御のみならず,一般的な衛星の姿勢制御に有効であり,3自由度以上の姿勢制御機構を持つ衛星の故障対策としても非常に有効な手法であることを示している.

 第5章は「Experiments」と題し,2種類のプロトタイプロボットを製作し浮上,着地の有効性の検証を実験を通じて行った結果を述べている.実験は2種類行い,1つ目は水平テーブルを利用した2次元微小重力環境,2つ目は落下塔を利用した人工微小重力環境でおこなった.いずれの実験においても,ロボットが微小重力環境下で目標方向に浮上可能であり,かつ着地の際に運動エネルギを弾性エネルギに変換し跳ね返りを押さえることが可能であることが示された.

 第6章は「Conclusion」であり,本論文をまとめ,研究の成果について総括されている.

 以上これを要するに、本論文は小惑星表面など微小重力環境下で最も優れた移動方法として浮上移動を採り上げ、その原理を明らかにするとともに,原理より導かれる条件から浮上移動に適した新しいメカニズムを提案し,数値シミュレーションおよび実験によりその有効性を示したものであり,ロボット工学,電子工学上貢献するところが少なくない.

 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格すると認められる.

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