学位論文要旨



No 120069
著者(漢字) 大池,祐輔
著者(英字)
著者(カナ) オオイケ,ユウスケ
標題(和) 3次元画像取得のためのスマートイメージセンサと連想プロセッサに関する研究
標題(洋) Smart Image Sensors and Associative Engines for Three Dimensional Image Capture
報告番号 120069
報告番号 甲20069
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6011号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浅田,邦博
 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 藤島,実
 東京大学 助教授 池田,誠
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、3次元画像取得を目的としたスマートイメージセンサと連想プロセッサに関する研究成果を示す。近年の映像情報メディアの3次元化と家庭への普及はめざましく、3次元コンピュータグラフィックを駆使した映画やテレビだけでなく、家庭用ゲーム機やパソコンによる3次元映像のインタラクティブな操作は日常のものとなってきている。今後もあらゆる場面で急速に映像情報メディアの3次元化が進むと考えられ、要素技術のひとつである3次元情報の入力技術や画像処理技術にも、高速化や高解像度化、柔軟な視覚機能などが要求されている。3次元画像取得は、主に距離計測のためのイメージセンサと、得られた情報から3次元画像を再構成する画像処理から成る。距離計測は、古典的な両眼立体視法や、光伝搬法(レーダ法)、光切断法などの手法が一般に用いられるが、その距離精度や空間解像度、撮影速度などはイメージセンサの性能によるところが大きい。現在主流のCCDやCMOSイメージセンサは、2次元画像においては100万画素を超える解像度に至っているが、それに匹敵する高品質な距離画像を高速に取得することは未だ実現されておらず、距離計測の機能を集積化したスマートイメージセンサの研究が進められている。また、距離計測イメージセンサが高品質な3次元画像を取得できるようになれば、それにともない、膨大な距離画像データを高速に処理できるプロセッサが必要となる。そして、メモリとプロセッサの性能差を縮め、並列化によって効率的なデータ処理を実行できる連想プロセッサが、将来の3次元画像処理に必要であると考えられる。

 第2章では、実時間・高解像度3次元イメージセンサのための高速有意画素検出手法と回路を提案する。本手法は画素値の読み出しにダイナミック論理回路を用いて、画素値を時間領域に変換、アクセスした画素の相対的な遷移タイミングで有意画素を検出する。さらに、時間解像度を上げることで有意画素の輝度分布を同時に取得することができ、投射光の中心位置検出精度を向上できる。従来の3次元イメージセンサと異なり、一般的なCMOSイメージセンサと同様の画素構造を適用可能であり、画素サイズの小型化と高解像度化にも有利である。提案手法を用いて640×480画素 3次元イメージセンサを設計、試作した。測定により、3次元画像を最大65.1枚/秒で取得することができ、1200 mmの距離にある物体を0.87 mmの距離精度で計測できることを示した。従来の最も高速な3次元イメージセンサに対して、より高速かつ高解像度な3次元画像取得を実現した。さらに、解像度拡張により1024×786画素の3次元イメージセンサを試作、より高解像度かつ高精度な実時間3次元画像取得システムを実現した。また、この高速有意画素検出手法における背景光外乱、行選択タイミングのずれ、トランジスタばらつきの影響による、閾値余裕の拡大や検出エラーなどを抑える手法と回路を提案する。投射光のない状態で露光をし、アクセスした各画素の遷移タイミングから、その画素値を推定する。推定された画素値はリセット電圧として即座にアクセスされた画素にフィードバックされ、次のフレームでは背景光成分がキャンセルされる。さらに、リセット電圧生成に用いられた遷移タイミングは、行選択タイミングのずれや各画素のトランジスタばらつきなども反映されているため、これらのばらつきも同時にキャンセルすることが可能である。352×288画素の3次元イメージセンサに実装した。本手法においても一般的なCMOSイメージセンサの画素構造を適用可能であり、解像度を損なうことなく高速な3次元画像取得を実現する。これらのアクセス手法および回路方式は、これまでに実現の困難であった実時間かつ高解像度・高精度な3次元画像取得を可能とする。

 第3章では、探索信号の伝搬による行並列有意画素検出手法と1000枚/秒の距離計測速度を目指した超高速距離計測イメージセンサを提案する。センサ面上で結像したシート光の位置を効率的に取得する手法として、センサ面内で行並列に有意画素を検出し、アドレス情報のみを出力する距離計測イメージセンサを設計、試作した。試作イメージセンサは2値化回路、有意画素探索回路、アドレス取得回路などを含む375×365画素と、行並列アドレス演算回路、センサ制御回路とPLLなどから構成される。最大394.5 kHzのフレームアクセス速度を実現し、十分な投射光強度が得られた場合、最大で1052枚/秒の超高速距離計測が実現できることを示した。提案手法および回路方式は、物体の破壊や変形の監視、部品の高速検査、高速動物体の追跡など、非常に高速かつ高精細な距離画像を必要とする将来の応用分野を切り拓くと考えられる。

 第4章では、画素並列変調光検波型イメージセンサを提案する。本イメージセンサは、強い背景光外乱の中でも安全な強度の微弱投射光を検出することを目的とする。電流型背景光抑圧回路を画素内に有し、変調投射光に対して画素並列検波をすることで、屋内外のさまざまな背景光外乱のもとで、微弱な投射光の位置を検出することができる。試作した120×110画素ポジションセンサは、背景光強度に対する検出可能な投射光強度が-18 dB以下という高感度投射光検出を、48 dB以上の背景光範囲で実現した。検波周波数と一致した成分のみを検出するため、高い選択性を有し、複数光源を用いた計測システムなどにも容易に適用可能である。

 第5章では、画素並列変調光検波方式の拡張として、RGB変調混合光の投射による、カラーフィルタレスの画素単位カラー情報取得イメージセンサを提案する。提案画素回路は背景光成分による飽和を抑え、かつ、変調光成分に線形に入射光強度を取得することができる。背景光の強度や色によらず対象物体の色情報を取得できる。また、検波機能を位相検出回路として利用することで、光伝搬法による距離計測にも応用できる。試作した64×64画素カラーイメージセンサは、物体本来の色情報とおおまかな距離情報を得ることに成功し、物体抽出などと合わせた画像認識へ応用可能であることを示した。さらに、投射光あるいはLEDなど発光源に符号化した情報を乗せることで、シーン画像と物体の位置、ID、付加情報などを同時に取得できるイメージセンサを提案する。試作した128×128画素イメージセンサは、拡張現実システムへの応用に向けた従来のイメージセンサよりも、高速かつ安定してID情報を取得できることを示した。

 第6章では、ハミング距離を用いた高速かつ容量拡張性の高いデジタル連想プロセッサを提案する。探索信号伝搬を用いた不一致ビットの探索と、同期回路による順次マスク処理、さらに探索経路の階層化などにより、容量拡張性に優れた高速なデジタル連想プロセッサの概念、アーキテクチャ、回路方式を提案した。0.18 um CMOSプロセスを用いた64 bit×32 wordの試作では、正確なハミング距離にもとづく高速検索を実現し、さらに、1.0 V以下での低電圧動作が可能であることも実証した。

 第7章では、第6章で提案したハミング距離連想プロセッサのさらなる容量拡張を目指し、パイプライン型プライオリティ決定回路と階層的な複数チップ構成を提案する。連想プロセッサの大きな問題でもある乏しい容量拡張性を、提案したデジタル連想プロセッサは解決しているものの、利用可能なチップサイズは限界があるため、一般的なSRAMやDRAMなどと同様、複数チップ構成での容量拡張性の向上が必須である。従来の連想メモリ/プロセッサでは、相対的な最小距離検索の機能を実現しているが、正確なハミング距離をともなわないため、チップ間での比較には大きな演算コストが必要であった。提案手法では、全て同じマスクから製造された各連想プロセッサチップを、階層的に接続するだけで、高速かつ大容量なハミング距離検索処理を実行できることを示した。

 第8章では、3次元画像に対する演算処理などでより有効な、マンハッタン距離にもとづく連想プロセッサを提案する。階層型の探索信号伝搬経路を同様に実装し、重み付き探索クロックをワード並列に管理・供給することで、高速かつ容量拡張性に優れたマンハッタン距離連想プロセッサを実現できる。8 bit×32 elementを64 word持つ試作チップを0.18 um CMOSプロセスを用いて試作した。本来必要な膨大な演算を並列かつ効率的に実行することで、高速な最小距離データの検出や、範囲内データの抽出、全データの並べ替えなどが可能であることを示した。

 第9章では、3次元画像に対する連想処理について述べる。距離画像からの3次元的な物体抽出処理に注目し、連鎖型探索アルゴリズムを第8章のマンハッタン距離連想プロセッサを拡張することで実現、高速な処理が可能であることを示した。

 これらの結果が示すように、提案フレームアクセス手法、光検出手法、回路方式、システム方式によって、高速、高解像度かつロバストな3次元画像取得システムを実現できることを示した。また、提案デジタル連想プロセッサは、高速な距離検索かつ高い容量拡張性を実現した。これらのスマートイメージセンサおよび連想プロセッサに関する成果は、3次元画像取得システムの発展に大きく寄与し、高品質3次元映像を活用する将来の応用分野を切り拓くきっかけとなると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「Smart Image Sensors and Associative Engines for Three Dimensional Image Capture (3次元画像取得のためのスマートイメージセンサと連想プロセッサに関する研究)」と題し、従来の2次元画像に加えて画素毎の奥行き情報を同時に取得する機能を持つ高速3次元イメージセンサと、3次元イメージセンサで取得した多数の画素情報を高速に連結し一体化するための距離検索機能を持った連想プロセッサについて研究したもので、英文で記述され十章より構成されている.

 第一章はIntroduction(序論)であり研究の背景と目的を述べている.従来の関連研究を述べた後、本研究で用いる光切断法の原理、目指すべき性能仕様など、高速に3次元画像を取得するためのスマートイメージセンサに必要な機能と性能について述べ、さらに連想プロセッサの持つべき機能について述べている.

 第二章は「Real-Time and High-Resolution 3-D Image Sensors (実時間高解像度3Dイメージセンサ)」と題し、実時間かつ高解像度で3次元画像を取得するために試作した一連のセンサの構造とそれを用いた実証実験結果について述べている.まず光切断法で必要となる画素へのダイナミック高速アクセスの基本原理を説明した後、光切断面を検出するための画素回路、適応しきい値回路、時間領域A/D変換回路、二進木プライオリティエンコーダ等の要素回路の詳細を述べ、これらを用いて高速に光切断面近傍の光信号強度分布を読み出す方法を述べている.次にこれらの原理を用いた640x480解像度の実時間3Dイメージセンサの試作および実証実験結果の詳細について述べ、測定精度について評価している.またこのセンサを複数個用いて対象の3次元モデルを再構成する手法について述べている.さらに本章で述べた原理に基づきさらに高解像度化した1024x768解像度の実時間3次元イメージセンサの設計試作評価実験結果、および感度向上のための背景光抑圧回路方式についてもその実験結果を示し実現性を評価している.

 第三章は「Row-Parallel Position Sensors for Ultra Fast Range Finding (超高速距離検出のための行並列位置センサ)」と題し、超高速3次元情報取得のため設計試作した、行毎に高速な活性画素検出回路をもつイメージセンサについて述べている.行並列の活性画素位置検出の基本方式について述べた後、具体的に画素回路、行並列検索のための連鎖動作とアドレス取得動作を述べている.さらに予備実験として作成した128x16解像度の位置センサの試作実験結果に続き、375x365解像度の超高速距離センサについて、その構造、試作結果、高速度撮像結果について述べている.

 第四章は「High-Sensitive Demodulation Sensors for Robust Beam Detection (ロバストなビーム検出のための高感度復号センサ)」と題し、画素毎に同期検波回路を搭載し高度な背景光抑圧機能を実現したセンサについて述べている.検波方式の原理を述べた後、画素回路とセンサの構成、試作チップについて述べ、このセンサを用いた背景光抑圧実験結果について述べている.このセンサを用いることで広い範囲の背景光に対して一桁ないし二桁の程度微弱な強度の信号光を安定に検出できることを述べている.

 第五章は「Extension of Demodulation Sensing (復号センシングの拡張)」と題し、第四章で述べた検波回路を有する復号センサの概念を拡張し、色検出やターゲット識別のためのビーコン応用に用いることができるセンサについて述べている.復号方式による色検出のための基本方式を述べた後、画素単位の色復号回路、高感度・高ダイナミックレンジ化のための両極性信号積分方式について述べ、64x64解像度の色復号センサの設計試作評価実験結果について述べている.実験結果により背景光抑圧を効果的に実現し色復号できることを示すとともに、光の往復時間による距離検出への応用についても述べている.また、ターゲット識別のためのビーコン応用については128x128解像度のビーコン検出器の設計試作実験結果について述べ、従来のデータレートよりも高速なビーコンシステムが実現できることを実証している.

 第六章は「Digital Associative Engine for Hamming Distance Search (ハミング距離検索のためのデジタル連想プロセッサ)」と題し、ハミング距離の近いデータから順次検索する機能を有する語並列連想メモリのデジタル方式による効率的な実現法について述べている.ハミング距離検索の基本方式を述べた後、完全連想型高速階層検索回路構成を述べている.さらに試作チップの具体的構成について述べ、測定結果より、面積効率、動作速度、消費電力を評価している.

 第七章は「Scalable Multi-Chip Architecture Using Digital Associative Engine (デジタル連想プロセッサを用いた拡張可能な多チップアーキテクチャ)」と題し、第六章で述べたハミング距離検索のためのデジタル連想プロセッサを拡張して、検出スループットをあまり犠牲にすることなく多チップ構成に拡張するための回路方式について述べている.多チップ構成に使用するパイプライン型外部プライオリティエンコーダ要素回路を各構成チップに埋め込むことで、大きな連想記憶容量を必要とする場合の多チップ構成時にも、別のチップの助けを借りることなく高速パイプラインエンコーダを効率的に実現できることを示している.さらに、種々の基本容量を持つ本連想プロセッサを自動合成するためのモジュールジェネレータを作成した結果についても述べており、合成したモジュールの性能を評価している.

 第八章は「Digital Associative Engine with Wide Search Range on Manhattan Distance (マンハッタン距離による広範囲探索機能を有するデジタル連想プロセッサ)」と題し、マンハッタン距離を用いて近いデータから順次検索する機能を有する連想プロセッサの、デジタル方式による効率的実現方式について述べている.語並列でマンハッタン距離を計算するための要素回路である、絶対値・符号生成回路、距離計算動作、重み付き検索クロック、最近傍検出回路を説明した後、試作チップの構成と評価実験結果について述べている.実験結果に基づき、動作速度、消費電力、検索範囲、面積効率について評価している.

 第九章は「Associative Processing for 3-D Image Capture (3次元画像取得のための連想処理)」と題し、本論文で述べている連想プロセッサを用いて、3次元画像を効率的に取得する手法について説明している.連想プロセッサを用いて3次元の対象を他から分離抽出するための基本回路構成について述べ、その性能を予測している.

 第十章は「Conclusions(結論)」であり本論文の研究成果をまとめている.

 以上、本論文は通常の2次元画像とともに画素毎の奥行き情報が付随した3次元画像を高速に取得するスマートイメージセンサを提案し、取得した3次元画像から空間的に独立した対象を効率的に分離抽出するための距離探索機能付き連想プロセッサを提案し、合わせて試作評価実験をとおしてその有効性を実証したもので電子工学の発展に寄与する点が少なくない.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格したものと認められる.

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