学位論文要旨



No 120086
著者(漢字) 天本,一平
著者(英字)
著者(カナ) アマモト,イッペイ
標題(和) フッ化物揮発法を用いた乾式再処理プロセスに関する研究
標題(洋)
報告番号 120086
報告番号 甲20086
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6028号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 勝村,庸介
 東京大学 助教授 鈴木,晶大
 東京大学 助教授 長崎,晋也
内容要旨 要旨を表示する

第1章 序論

 フッ化物揮発法を用いた乾式再処理プロセスではフッ化*特性と蒸気圧の違いを利用しているが,対象となる全ての物質の物理化学的挙動が明確になっているわけではない。したがって,乾式再処理技術の開発を進めていくに当たり,基礎試験や工学規模試験を通して,必要とされるデータを取得していかなければならないが,試験に先んじて,理論的な解析を行い,各物質の挙動を予測しておくことも重要である。本論文は,フッ化物揮発法を対象として,ウランとプルトニウムに関する基礎的データを既存の文献から引用し再度とりまとめると共に,使用済燃料中におけるこれらの物質のフッ化挙動に注目した熱力学的考察を行っている。さらに得られた結果やウラン転換を含む従来のフッ化物揮発プロセス開発成果を参考にして,ウランとプルトニウムの分離精製プロセスについての構築を試みている。またフッ化物揮発法を用いた再処理プロセスをシステムとして成立させるために,同プロセスから発生する廃棄物の低減化について,ウランを用いた基礎試験を行うことにより,乾式法による廃棄物除染技術の検討を行っている。

第2章 ウラン・プルトニウムの分離・精製に係る従来技術の調査

 フッ化物揮発法を用いて使用済MOXからウラン及びプルトニウムの分離・精製を行うには,ウランとプルトニウムのフッ化速度の差を利用して不純物から分離する(以下,分留法),または生成されるフッ化物の相の違いにより分離する(以下,固気分離法)ことによって達成可能である。しかしながら,これらの方法を再処理プロセスのひとつとして適用させていくには,これまで指摘されているフッ化技術固有の問題点を克服していく必要がある。すなわち,分留法についていえば,ウランやプルトニウムと挙動を共にする不純物の除去及びPuF6の安定性に係る問題,また固気分離法では,UF6,PuF6及び高級フッ化された一部不純物の蒸気圧が近いことに起因する精製上の問題等を挙げることができる。

 ウラン,プルトニウム及び不純物のフッ化特性についてこれまで開発が行われてきたフッ化物揮発法を用いた再処理プロセスの紹介をすると共に,これらについて考察した結果を踏まえて,プロセスが抱えている問題点の対応策についてとりまとめた。

第3章 回収ウラン転換試験における不純物挙動

 核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターで,平成3年度から平成11年度にかけて実施した回収ウランの有効利用を目的とした「回収ウラン転換実用化試験」結果から,フッ化物揮発法を用いた再処理技術の開発を進めて行く上で有効なデータとなり得る回収ウラン中にごく微量存在するFPやTRUの挙動についてとりまとめ,フッ化特性や蒸気圧に関する理論解析の比較評価データとした。

第4章 フッ化反応装置の腐食状況調査

 六フッ化転換には,反応装置として流動床型反応炉(以下,流動床炉)ややフレームタワー型反応炉(以下,フレーム炉)が通常用いられており,フッ化物揮発法による再処理プロセス(以下,フッ化物揮発プロセス)においても,同様な反応装置を採用するものと考えられる。本章では,今後のフッ化物揮発プロセスの装置の設計に資するべく,ウラン転換運転を終了した反応装置の内,より過酷な環境下(高温,高フッ素雰囲気)で使用されていたフレーム炉から試験片を切り出し,装置内部の腐食度合いや腐食機構について検討評価を行った。

第5章 二酸化ウラン及び二酸化プルトニウムの一般的性質とフッ化特性

 フッ化物揮発法に関わるウラン及びプルトニウム化合物のうち,代表的な物質の基礎的な物性について,文献調査した結果を表2示すようにとりにまとめた。

第6章 再処理対象主要物質のフッ化挙動

 フッ化物揮発法を用いた再処理技術開発を進めていく上で,使用済燃料中のPuO2,UO2及びその他の関連物質のフッ化特性,並びにこれらのフッ化物の蒸気圧に関する不足情報を取得していく必要があるが,超ウラン元素(TRU)を用いた実験は多く行えないため,理論計算によって,対象物質の物理化学特性をある程度予測しておくべきである。すなわち,既存のデータベースや公開されているデータを十分に活用することにより,不明な箇所を最小限に留め,以降の実験の効果を高めることは重要なことである。本章では,MALT2とChemSageという2つのソフトを用いて,フッ化時の各種条件を机上で変化させることにより熱力学計算を行い,UO2やPuO2が,どのような挙動を示すかについて考察してみた(図2参照)。

第7章 使用済MOX燃料関連物質の蒸気圧

 使用済MOX中には,ウランとプルトニウムのほかにさまざまな超ウラン元素(TRU)や核分裂生成物(FP)が含有されているため,これらの元素の挙動を考慮にいれておかなければ,ウランとプルトニウムの適切な精製はできない。よって,ここでは当該温度における各物質の標準生成自由エネルギー(〓fG0)を基にした計算と文献調査により関連物質の蒸気圧を考察している。

第8章 ケミカルトラップ充填材の処理

 フッ化物揮発法を用いた再処理プロセスでは,蒸気圧の違いを利用して対象とする物質の分離を図るため,気化した有害物質が環境に排出しないようにケミカルトラップが設けられている。二次廃棄物発生量低減化の観点から破過したケミカルトラップ充填材に吸着した物質の分離・回収すべく,その有効性が予見される溶融塩を利用した乾式除染法について,ウランを用いた実験により,プロセスとしての成立性を評価した。図4に示すとおり,想定クリアランスレベルまでの除染が可能である。

第9章 金属系被汚染物の除染

 本章では,フッ化物揮発プロセスから発生する金属系被汚染物の除染手法として「溶融塩電解法」の利用を想定することにより,その成立性について理論解析を行い(図6参照),得られた結果の妥当性について,図7に示すような基礎試験を実施することによりその有効性を確認した。

第10章 総合討論

 経済性において優れていると考えられているフッ化物揮発法を再処理プロセスに採り入れるべく技術開発が国内外で進められているが,本章では,フッ化物揮発法を用いたウラン及びプルトニウムの分離・精製方法に関して,第2章から第7章までの検討結果をもとに,より合理的であると考えられるプロセスを構築した。

第11章 結論

 本研究の結果については,一部は実験等で既に証明がなされているが,今後,さらなる実験を行うことにより,信頼性についての確認をとり,再処理システムの設計に反映させていく必要がある。また,フッ化物揮発法で使用する反応装置等についても,それぞれの使用条件に応じた型式,形状,寸法,材質,機能等を備えたものを選択する必要がある。ここで行ったプロセス構築には,反応装置でも比較的気密性の高い流動床炉を用いているが,さらなる検討を重ねるべきである。

 このような課題を踏まえ,今後の展開を図っていきたい。

表1 回収ウラン転換における核種の蓄積挙動

図1 NiF2皮膜ミクロ組織分析(FIB)

表2 ウランおよびプルトニウム化合物の物性

図2 PuF6転換に及ぼすフッ素濃度の影響

図3 TRU等フッ化物の蒸気圧

図4 電解回収実験結果

図6 配管直径(外径)に係る二次電位分布の計算結果

図7 溶融塩電解除染基礎試験装置概念図

図8 分留法を用いた再処理プロセス

図9 固気分離法を用いた再処理プロセス

審査要旨 要旨を表示する

 使用済酸化物燃料の再処理には,ピューレックス(Purex)プロセスによる湿式法が、完成された技術として,日本を含む世界各国で採用されている。原子力を将来的にも競争力のある産業としていくためには,再処理費用のさらなる低減化も考慮に入れて,これからの軽水炉燃料サイクルの設計を行っていくべきである。湿式法の他にも,小型化することができ,二次廃棄物の発生量が少なく,かつ経済的にも有利とみなされている溶融塩電解法やフッ化物揮発法を採り入れた乾式法が,FBR使用済燃料の再処理に適用すべく開発が進められている。

 乾式法においては,使用済MOX燃料中のウラン(U)及びプルトニウム(Pu)の分離精製を行うために,溶融塩電解法では目的物質の電気化学的特性を,またフッ化物揮発法ではフッ化特性と蒸気圧の違いを利用することになるが,対象物質の物性や化学的特性等がこれまでに全て明らかになっているわけではない。したがって,乾式法による再処理技術の開発を進めていくためには,基礎試験や工学規模試験を通して,必要とされるデータを取得していく必要があるが,試験に先んじて,理論的な解析を行い,各物質の挙動をある程度予測しておくことが重要である。また、過去に取得されたデータや運転実績等の知見を収集し,これらを評価することにより,今後の技術開発に反映させていくことも必要である。加えて,構築したプロセスを実現させるためには,廃棄物の低減化の観点から,二次廃棄物の除染法についても検討しておくべきである。

 本論文は、乾式法の一種であり、多くの利点を有しながら,これまで実用化に至らなかったフッ化物揮発法を用いた再処理技術(以下,フッ化物揮発プロセス)について、文献調査や熱力学解析、構造材料の腐食についての検討、プロセスの結果として発生する放射性廃棄物の除染等に関する実験を通して、その問題点を明確化するとともに,従来法の欠点を克服した新たなプロセスの概念(ブロックフロー)を提案したもので、全6章からなっている。

 第1章の序論では,本論文の対象であるフッ化物揮発プロセスについて,研究の背景,目的及び論文の構成について述べている。

 第2章はフッ化物揮発プロセスを用いた元素分離と反応装置の材料腐食を取り扱っている。まず、フッ化物揮発プロセスに関わるウラン及びプルトニウム化合物のフッ化特性について文献調査した結果を化学平衡や反応速度の観点を中心としてとりまとめるとともに、市販の熱力学計算ソフトであるMALT2を利用して各種フッ化条件における熱力学計算を行い,フッ化挙動について論じた。なお,MALT2に収録されている熱力学量の妥当性については,類似のソフト(FactSage)のデータおよび文献から得られたデータと比較評価することによる事前検証を行っている。

 続いて,「使用済MOX中に含まれるさまざまな超ウラン元素(TRU)や核分裂生成物(FP)の元素の挙動を考慮に入れておかなければウランとプルトニウムの適切な精製はできない」という背景の下に,当該温度における各物質の標準生成自由エネルギー(〓fG0)を基にした計算と文献調査により,関連物質の蒸気圧を考察した。さらにその結果から、フッ化物揮発プロセスにおける元素の分離限界についての議論を行っている。

 さらに、ウラン転換に通常反応装置として用いられている流動床炉やフレーム炉が,フッ化物揮発プロセスにおいても採用されるものと想定されることから,実際にウラン転換に使用されたフレーム炉内部の腐食度合いや腐食機構の調査を行い,これに熱力学的な解析を加えることにより,反応装置の材料のフッ化特性について解析を行った。

 第3章は「収着プロセスの分離特性とその限界」と題し、「回収ウラン転換実用化試験」において,回収ウラン中にごく微量存在するFPやTRUのフッ化特性や蒸気圧に関するデータの取得を行った結果について述べている。またその結果から、吸着プロセスにおける元素の分離限界についての議論を行っている。

 第4章は「収着材及び構造材料の除染」と題し,まず,フッ化物揮発プロセスで,蒸気圧の違いを利用して対象とする物質の分離を図るため,ケミカルトラップが設けられていることを背景に,TRU放射性廃棄物等発生量低減化の観点から,破過した収着材に吸着した物質の分離・回収を行うべく,その有効性が予見される溶融塩を利用した乾式除染法について,ウラン試験により,プロセスとしての成立性を評価した。また,フッ化物揮発プロセスから発生する金属系被汚染物の除染手法として「溶融塩電解法」の利用を想定することにより,その成立性について理論解析を行い,得られた結果の妥当性について,基礎試験を実施することによりその有効性を評価している。

 第5章は総合討論であり,フッ化物揮発プロセスによるウラン及びプルトニウムの分離・精製方法に関して,第2章から第4章で得られた成果をもとに,より合理的であると考えられるプロセスを構築し,TRU廃棄物等発生量の低減化も踏まえた新しいプロセス概念を提案するとともに,そのために必要とされる今後の研究開発課題を整理し,本研究のまとめとしている。

 第6章は結論であり、本論文の内容を要約するとともに、本研究で得られた結論について述べている。

 以上のように、本論文は、熱力学・構造材料腐食・溶融塩電気化学等の観点からフッ化物揮発プロセスについての検討を行い、その成果をもとに従来法の欠点を克服した新たなプロセスの概念を構築し、そのための今後の課題を整理したものであり、システム量子工学の進展に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク