学位論文要旨



No 120099
著者(漢字) 吉川,健
著者(英字)
著者(カナ) ヨシカワ,タケシ
標題(和) Si-Al融液を用いたSiの低温凝固精製に関する物理化学
標題(洋)
報告番号 120099
報告番号 甲20099
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6041号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 森田,一樹
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 前田,正史
 東京大学 教授 月橋,文孝
 東京大学 教授 山口,周
内容要旨 要旨を表示する

 21世紀に入り再生可能な新エネルギーは普及促進が図られ、中でも太陽光発電は急速な成長を遂げている。しかしその成長の中核である多結晶Si系太陽電池は従来原料を半導体産業で発生するスクラップSiに依存し、著しい成長に対し原料供給不足の懸念が生じており、一方太陽電池普及促進へ向け原料のさらなる低コスト化も望まれている。そこで本研究では太陽電池用Si原料低コスト供給へ向け、Si-Al融液によるSi低温凝固精製法を検討するため、同精製法の物理化学的調査を行った。

 第1章では多結晶Si太陽電池の急成長による太陽電池用Si原料供給不足の懸念及び高コストを挙げ、太陽電池用Si原料の低コスト製造プロセス構築の必要性を述べた。またSi中不純物元素の熱力学的温度挙動に焦点を当て、Si-Al融液を用いたSi低温凝固精製による効率的Si精製の可能性を挙げた。

 第2章ではSi-Al融液による凝固精製時のSi中Al濃度を正確に把握するため、TGZM法を用いて1016〜1622KにおけるSi中Alの固溶度の測定を行った。EPMA、ホール測定の両測定法によりSi中Al濃度を正確に定量し、これを基に固体Si中Alの活量係数を次式のように得た。

 RTlnγ゜Al(s)in solid Si = 93200 (±1000) − 14.5 (±0.8)T

固溶度の測定結果より、Si-Al融液による凝固精製後のSiが太陽電池用許容Al濃度を満たすためには、さらなるAl除去の必要性が明らかとなった。

 第3章ではSi-Al基融液によるSiの凝固精製における精製Si中Al混入量低減のため、液相中でAlと強い親和力を示すCuに着目し、精製SiへのCu添加によるAl混入量低減ならびにCuによる汚染の調査を行った。1273K、1373Kにおいて溶融Pbとの平衡法によりSi-Al-Cu融液中Al、Cuの活量を測定した結果、融液へのCuの添加により融液中Alの活量係数の減少傾向が得られ、Si-Al融液による精製後のSi中Al混入量を融液中Alの希釈効果以上に低減が可能であると期待された。また得られた活量に基づき、Si-Al-Cu融液の混合ギブスエネルギーを検討した結果、Si-Al-Cu三元系等温断面図中低Si濃度域でAl、Cuの等活量曲線が密となり、より低温で融液にCuを添加した際活量係数の減少効果の増大を確かめた。

 1173〜1373KにおいてTGZM法を用いてSi-Al-Cu融液と平衡する固体Si中Al溶解度を測定した結果、融液中Cu濃度増加に伴い固体Si/融液間のAl分配比の減少から、上記融液中活量測定の結果と同様に融液へのCu添加により、精製Si中Al混入量の効率的減少が可能であることが示された。

 1273K、1373KでのCuの拡散実験によりSi-Al-Cu融液と平衡する固体Si中Cuの溶解度を測定した。融液へのCu添加によるSiへのCuの混入量が数ppmaであり、Cuのゲッタリング処理での除去を勘案し、その汚染が十分に小さいことを確かめた。またSi中Cuの固溶度の測定結果より、固体Si中Cuの活量係数を以下のように求めた。

 RTlnγ゜Cu(s)in solid Si = 162,000 (±3,000) − 39.6 (±2.5) T (J/mol)

 第4章ではSi中平衡分配係数が0.35と大きく冶金学的Si精製プロセスを困難とするP のSi-Al融液によるSiの凝固精製での除去を検討した。SiO2-P2O5フラックスからのP供給による固体Si/Si-P平衡実験により、1423〜1673KにおけるSi中Pの固溶度を測定し、固体Si / Si-P融体間のP分配比より求めた固体Si中Pの活量係数に負の温度依存性が確認されたことから、低温での異相分配による効率的P除去の可能性を確かめた。また1173〜1373KでAlPのSi-Al融液中溶解度測定を行い、融液中Al濃度増加によるPの活量係数の減少を確認し、Alによる合金化は融液中Pを安定化し、凝固精製に有利であることを示した。

 Si-Al融液による凝固精製でのP除去効果の把握のため、TGZM法による固体Si/Si-Al融液間のP分配比の測定を行った。P無限希薄状態での固体Si/Si-Al融液間のP分配比を0.12 (1373 K)、0.085 (1273 K)、0.061 (1173 K)と決定し、Si中平衡分配係数より小さいことからSi-Al融液による凝固精製がP除去に有効であることを確かめた。得られた分配比を基に、MG-Siを1273Kでの液相線組成となるようAlで合金化し、共晶温度まで冷却・凝固する過程でのSi中P除去の推算を行い、97%以上Pが除去されることを推定した。

 第5章ではSi中平衡分配係数が0.8と大きく、Si精製プロセスを複雑化するBのSi-Al融液による精製に関する調査を行った。調査項目はSi-Al融液中Bの熱力学的性質把握のための溶融Al中、Si中Bの熱力学的性質の調査、Si-Al融液によるBの凝固精製効果の把握、融液中Bの析出相の把握、ならびにBと安定な化合物TiB2を形成するTiの融液への添加によるB除去の検討である。

 溶融Al中1373〜1573KでのTiB2の溶解度、1273〜1623KでのAl3Ti の溶解度を測定し、無限希薄状態における溶融Al中B、Tiの活量係数をそれぞれ次のように求めた。

 Gex*Ti(l)in molten Al = RTlnγ゜Ti(l)in moltel Al = −95,800 (±790) + 24.5(±0.70)T (J/mol)

 Gex*B(l)in molten Al = RTlnγ゜B(l)in moltel Al = 18,600 (±1100) (J/mol)

 1693、1773Kでの溶融Si-Si3N4-BN間の平衡実験により、無限希薄状態における溶融Si中Bの液体基準での活量係数を次のように得た。

 RTlnγ゜B(l)in molten Si = −9,290(±3,770) + 16.7(±2.13) T (J/mol)

 1373〜1573KにおいてSi-Al融液とホウ化物相の平衡の調査を行い、融液との平衡相をAlB12固溶体と特定した。これよりSi-Al融液を凝固した際析出するホウ化物相はAlB12もしくは低温安定相のAlB2である可能性が高く、いずれも酸分解が容易なことから、融液へのBの濃縮、凝固後の酸洗浄でのB除去が有効なことが示された。

 Si-Al融液によるBの凝固精製効果を熱力学的に把握するため、TGZM法により1273〜1473Kでの固体Si/Si-Al融液間のB分配の調査を行った。B無限希薄状態での固体Si/Si-Al融液間のB分配比を0.49(1473 K)、0.32 (1373 K)、0.22 (1273 K)と決定し、固体Si/Si-Al融液間のB分配比は小さいことを確かめた。また固体Si中無限希薄状態におけるBの活量係数を次式のように決定し、その負の温度依存性より低温での異相分配によるSi中B除去の有効性を明らかにした。

 RTlnγB(s)in solid Si = 75,600 (±3,100) −23.5 (±2.1) T  (J/mol)

 Si-Al融液へのTi添加によるTiB2としてのB除去法に関し、1173K、1273Kにおいて液相線近傍の融液組成のSi-Al融液へのTi添加によるB除去を確認し、TiB2溶解度を以下に求めた。

 XTi in Si-Al melt XB in Si-Al melt 2 = 2.4×10-12(1273K, Si-60at%Al), 9.8×10-14(1173K, Si-65at%Al)

 Si-Al融液へのTi添加・凝固によるB除去の検討のため、MG-Siからの由来量もしくはその数倍量のB、Tiを含むSi-55.0at%Al融液(液相線温度1273K)の高周波加熱装置での冷却・凝固実験を行った。適切なTi添加量により精製SiへのTiの混入を1ppma前後に抑え、Bの数ppmaまでの低減に成功した。またMG-Siに由来するTi添加量でもB濃度低減に有効なことが示された。

 第6章ではSi-Al融液を用いたSiの低温凝固精製における不純物除去の検討のため、固体Si / Si-Al融液間の固液分配比を調査した。1073〜1473Kにおける固体Si / Si-Al融液間の分配比はSi中平衡分配係数より小さく、通常のSi凝固精製と較べSi-Al融液を用いたSi低温凝固精製法はより不純物除去に有効なことを明らかとした。

 第7章ではSi-Al融液を用いたSi凝固精製の高効率化の検討、及び本凝固精製法を軸としたSi製造プロセスの提案への検討を行った。本凝固精製法において精製Si粒の回収には凝固Si粒に付着する共晶Al-Si部の酸除去が必要であり、酸除去工程効率化のためSi-Al融液からの凝固Siの高密度回収が重要となる。そこでSi回収に関し浮力、電磁気力の利用による検討を行い、浮力の利用に際しては凝固Si粒間のネットワーク組織により、浮上分離を得られなかった。一方、電磁気力の利用では高周波磁場印加時の電磁アルキメデス力によりSi-Al融液の底部にSi密集組織の形成を可能にした。さらに、同効果及びジュール効果の不均一性の利用により、Si-Al融液を用いた連続的Si凝固処理に成功し、凝固精製法の基盤を確立した。

 除去課題元素としてFe、Ti、Al、B、Pを添加した模擬MG-SiのSi-Al融液を用いたSi凝固精製試験を行い、本精製法での精製効果を確認した。この知見を基にSi-Al融液を用いたSi凝固精製→真空溶融精錬→Si一方向凝固精製プロセスでの不純物除去を検討し、効率的精製が可能であることが明らかとなった。これにより低コスト太陽電池用Si原料製造プロセスを提案した。

審査要旨 要旨を表示する

 多結晶Si系太陽電池の原料は半導体産業で発生するスクラップSiに依存し、著しい成長に対し原料供給不足の懸念が生じているため、太陽電池に必要十分なスペックのSiを安価に大量生産できるプロセスの開発が望まれている。本研究は、太陽電池用Si原料の低コスト供給へ向け、Si-Al融液によるSi低温凝固精製法を念頭に、その物理化学的研究を行ったものであり8章よりなる。

 第1章では、多結晶Si太陽電池の生産量の増加とそれに伴い直面しつつある問題点を示し、太陽電池用Si原料の低コスト製造プロセス構築の必要性を示している。またSi中不純物元素の熱力学的性質から、Si-Al融液を用いたSi低温凝固精製による効率的Si精製の可能性を述べている。

 第2章では、温度勾配の下でSiの融解・析出反応を起こしSi-Al融液と平衡する固体Si中Al濃度を正確に把握できるTGZM法を用いて、1016〜1622KにおけるSi中Alの固溶度の測定を行った。その結果、Si-Al融液による凝固精製後のSiが太陽電池用許容Al濃度を満たすためには、さらなるAl除去が必要であることを明らかにしている。

 第3章では、Si-Al基融液によるSiの凝固精製における精製Si中Al混入量低減のため、液相中でAlと強い親和力を示すCuに着目し、精製SiへのCu添加によるAl混入量低減ならびにCu混入の可能性を検討している。1273K、1373Kにおいて溶融Pbとの平衡法によりSi-Al-Cu融液中Al、Cuの活量を測定し、融液へのCuの添加により融液中Alの活量係数が減少し、希釈効果以上のSi中Al混入量が低減する可能性を示している。

 また、1173〜1373KでのTGZM法によるSi-Al-Cu融液と平衡する固体Si中Al溶解度測定から、融液へのCu添加による精製Si中Al混入量の効率的減少を明らかにしている。なお、同条件下での固体Si中Cuの混入量は数ppmaであり、Cuのゲッタリング処理等で十分除去可能であることも確認している。

 第4章では、Si中平衡分配係数が0.35と大きく冶金学的Si精製プロセスを困難とするP のSi-Al融液によるSiの凝固精製での除去を検討している。SiO2-P2O5フラックスからのP供給による固体Si/Si-P平衡実験により、1423〜1673KにおけるSi中Pの固溶度を測定し、固体Si / Si-P融体間のP分配比より求めた固体Si中Pの活量係数が負の温度依存性を持つことを明らかにし、低温での異相分配による効率的P除去の可能性を述べている。

 また、1173〜1373KでSi-Al融液中AlPの溶解度測定を行い、融液中Al濃度増加に伴うPの活量係数の減少によって、凝固精製に有利であることも示している。

 TGZM法による固体Si/Si-Al融液間のP分配比の測定から、P無限希薄状態での固体Si/Si-Al融液間のP分配比が0.12 (1373 K)、0.085 (1273 K)、0.061 (1173 K)と、Si中平衡分配係数より小さいことを確認し、Si-Al融液による凝固精製がP除去に有効であることを明らかにした。

 第5章ではSi中平衡分配係数が0.8とさらに大きく、Si精製プロセスを複雑化するBのSi-Al融液による精製に関して調査している。予め測定した溶融Alおよび溶融Si中Bの熱力学的性質を用いて、Si-Al融液中Bの熱力学的性質、Si-Al融液によるBの凝固精製効果を検討し、本方法1373〜1573Kでは、融液へのBの濃縮と凝固後の酸洗浄によりBが効果的に除去されることを示している。また、TGZM法により1273〜1473Kでの固体Si/Si-Al融液間のB分配の調査を行った結果、固体Si/Si-Al融液間のB分配比を0.49(1473 K)、0.32 (1373 K)、0.22 (1273 K)と得、固体Si/Si-Al融液間のB分配比は小さいことを確かめている。

 一方、Si-Al融液へのTi添加によるTiB2としてのB除去法に関し、1173K、1273KにおいてTiB2溶解度を求め、液相線近傍の融液組成のSi-Al融液へのTi添加によるB除去を高周波加熱装置での冷却・凝固実験により確認し、非常に有効であることを明らかにしている。

 第6章ではSi-Al融液を用いたSiの低温凝固精製における不純物除去の検討のため、固体Si / Si-Al融液間の固液分配比を調査し、通常のSi凝固精製と較べSi-Al融液を用いた低温凝固精製法はより不純物除去に有効なことを明らかにしている。

 第7章ではSi-Al融液を用いたSi凝固精製の高効率化、及び本凝固精製法を軸としたSi製造プロセスの最適化を検討するための実験を行い、電磁気力が電磁アルキメデス力によりSi-Al融液の底部にSi密集組織が形成されることを見出し、同方法によるSiの凝固精製法の基盤を確立している。

 また、Fe、Ti、Al、B、Pを添加した模擬MG-SiのSi-Al融液を用いたSi凝固精製試験結果から、その精製効果を確認するとともに、効率的精製が可能な低コスト太陽電池用Si原料製造プロセスを提案している。

 第8章は結言である。

 以上、本研究論文は、溶融Si-Al融液を用いたSiの低温精製の物理化学に関する基礎知見を広範に明らかにし、太陽電池シリコン製造の新たなプロセス提言を行っていることから、本論文のマテリアル工学への寄与は大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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