No | 120104 | |
著者(漢字) | 申,榮訓 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シン,ヨンフン | |
標題(和) | ULSI多層配線用TiN系Cu拡散バリヤ膜のCVD合成に関する研究 | |
標題(洋) | A study on the Chemical Vapor Deposition of TiN based Cu Diffusion Barriers for ULSI Multilevel Interconnect Technology | |
報告番号 | 120104 | |
報告番号 | 甲20104 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6046号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 金属工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本文): 1.研究背景 今日まで、高密度集積回路(ULSI)の上部配線材料としてAluminumが用いられてきた。しかし、微細化、高密度化により信号伝達時間がULSIの動作速度を決定する重要因子となるため、Alよりも電気抵抗が低い材料の必要性が高まってきている。またエレクトロマイグレーション(電子衝突に由来する原子輸送)による配線破壊現象も動作電流密度が大きくなってくるとともに激しくなり、より信頼性の高い材料が求められている。Cuはその双方を満たす材料として期待されているが、実際にULSI配線に用いるためには、様々な困難な問題がある。CuはSi基板やSiO2膜中での拡散が非常に早い。また、200℃という低温でもSiと反応してSi化合物を形成することが知られている。このためCuの拡散を防ぐバリアメタル材料を開発することがCu配線技術の確立にとって不可欠な課題となっており、これまでCuに対する各種金属膜の拡散性に関して非常に多くの研究がされてきた。 従来のAl配線ではバリアメタル材料としてTiNが今まで広く使われてきた。しかし、Cu配線のバリアメタル材料として用いた場合には、TiNの結晶粒界を通じてCu原子が低温で拡散するという問題がある。 また、製膜方法に関しては今まで使われてきたスパッタリングによるPVD法は配線間隔が0.1μnm以下になる次世代ULSIではstep coverageが悪いため使用が困難になることが予測されている。その他の金属製膜法のうち、膜の成長速度を化学反応によって制御するCVD法(化学気相蒸着法)は、step coverageに優れる方法の一つである。 そこで、本研究では、CVD法によるTiNバリヤ膜の改良を検討した。TiN膜の結晶粒界による拡散経路をAl2O3の添加により防止するstuffingバリヤ膜の作製、またAlやSiをTiN膜に添加し、amorphous化させamorphousバリヤを作製することにより、TiN膜のバリヤ特性の向上を実現する研究を行った。 2.本論 2-1. FMCVD TiN膜とTiN/Al/TiN膜のバリヤ性の評価 Flow Modulation CVD (FMCVD)を用いて製膜したTiNは通常のCVD−TiNより塩素(Cl)の不純物が少なく低い電気抵抗を持つ。この方法は、TiCl4とNH3を同時に供給してTiN膜を製膜した後、NH3のみを流して膜中に生成されたClを還元している。このような製膜と還元を一つのサイクルとして製膜中に繰り替えすことによって、より高いCl還元効果を得ることが出来る。本研究でSi基板の上に作られたFMCVD−TiN膜はCVD−TiN膜としては低い400℃と言う製膜温度でもCl濃度2%以下、比抵抗250μΩcmを得た。この膜のCuバリヤ性を調べるためスッパタリング法でCuを製膜し、400℃から700℃までannealingすることによりCuの拡散を観察した。その結果、Cu原子は400℃にてTiN膜中を拡散し、Siと反応していることをXPS depth profile分析で確認した。つまり、CVD−TiN膜と同じく、FMCVD−TiN膜も柱状結晶構造を形成するため結晶粒界がCu原子の拡散経路になっていると考えられる。 ここで、TiN膜中に薄いAl膜を入れることで(TiN/Al/TiN構造)、TiNの粒界にAlを拡散させ、結晶粒界でAl2O3を形成することにより、stuffing バリヤ構造を作製することを試みた。Si基板の上にFMCVD−TiN膜を25nm製膜した後、DMAH(Dimethyl Aluminum Hydride)をAl原料として供給しAlを薄く製膜した。しかし、Alの初期核は10nm以上の大きさを持つため薄く均一な薄い膜を作製することは難しい。そこで、本研究ではAl初期核が形成するまでの原料供給時間(incubation time)を正確に測定し、初期核が形成される直前で原料の供給を停止することにより、数モノレイヤーの原子吸着層のみを形成した。その膜上にFMCVD−TiNを25nm製膜することによりTiN/Al/TiN/Si構造を実現した。TEM(透過電子顕微鏡)とEDX(エネルギー分散X線分光器)分析からTiN膜の中央にAlが8at.%程度入っていることを確認した。このような手法で作られた試料についてもCu原子に対するバリヤ性を測定した。その結果500℃までは変化が見られず600℃でCu原子の拡散が始まることがわかった。FMCVD−TiN膜に比べCuの拡散が始まる温度が高くなるのは、TiN膜の結晶粒界に拡散したAlが膜中の酸素と反応しTiNの粒界でAl2O3を形成することによって拡散経路をなくすためであると考えられる。 2-2.Ti-Al-N三元系化合物の製膜及びバリヤ性の評価 Cuの拡散バリヤとして望ましいのは結晶構造としてamorphous構造があげられる。現在Ti, Ta, Wなどの窒化物の中にAl, Si, B, Cなどの原子を添加すると多結晶構造がamorphous構造に変化することが知られている。しかし、CVD法では複雑な反応機構、原料の制限のため三元系化合物の合成は難しい。本研究ではDMEAA(Dimethylethylamine alane)をAlの原料として選択しTi-Al-N三元系化合物を作製することに成功した。DMEAAは他のAl原料より高い温度で炭素(C)を残さない原料であり、通常のAl製膜温度(150-200℃)より高いTiN製膜温度付近で用いられており、また原料由来のalane(Al-H)によってTiCl4の還元効果も期待し投入を行った。このようにして製膜されたTi-Al-N膜は製膜の際にDMEAA分圧によりAlの含有量を調節することが可能である。Al含有量は膜の微細構造の変化に直接的に関係し、含有量が高くなることによってTiNの多結晶構造がamorphousに変化した。それに従って電気抵抗も増加した。様々の分析の結果Ti-Al-N膜はTiN微粒子がamorphousのAlN相に囲まれた形で形成されることを確認した。Alの含有量が上がると絶縁物であるAlN相が増えることから電気抵抗が上がることが考えられる。 Cuに対する拡散バリヤ性を調べた結果Ti0.88Al0.12Nは600℃、Ti0.76Al0.24Nは700℃でバリヤ性が無くなることを確認した。Al添加によるTiN膜のamorphous化がこのような高いバリヤ性の結果になったと思われる。 2-3.Ti-Si-N膜のCVD製膜及びバリヤ性の評価 他の三元系バリヤ材料として注目を集まっているのがTi-Si-Nである。すでにスッパタリング法で製膜され、その高いバリヤ性が証明されているが, CVD法ではまだ製膜方法さえ確立されていない。一般的に使われるSiの原料であるSiH4は分解反応が高い活性化エネルギーを持つためバリヤ膜の製膜条件となる400℃以下では温度が低いためTiCl4やNH3と反応をせずTiNの中にSiが効率的に含有されない。また、スッパタリングによる研究報告からTiSiN膜はTiNの微粒子がamorphous Si3N4相に囲まれる状態になることが知られている。ここで我々はCVD-Si3N4低温製膜の原料として使われているBTBAS (Bis-tertiarytetrabutylamino Silane) をSi原料として投入することによってTi-Si-Nの製膜を実現した。BTBASは分子中にアミノ基を含有するため、Ti原料であるTiCl4と反応しやすいことが期待される。 実際の製膜の結果400℃でSiの含有量は15at.%程度まで可能であることを確認した。BTBASの分圧を増加するとSi含有量は比例して増加するが、Siの含有量は15at.%程度で飽和に達した。これはSi原料が成長表面に吸着してから反応する典型的なLangmuir反応メカニズムを示唆している。その微細構造は5%Siで既にXRD-amorphousとなっておりSEMやTEM観察から結晶粒界が存在しないことを確認した。XPS分析によるSi2p軌道のピーク分離の結果、Si含有量の増加はSi3N4相の形成に関与していると考えられる。Ti40.7Si9.3N50.0とTi36.2Si13.4N50.4に関してバリヤ特性を調べた結果いずれも600℃でCuの拡散が始まっており、amorphousになったTiSiNはSiの含有量に関わらずCu拡散バリヤとして有効であることがわかった。 3.結論 CVD−TiN膜のバリヤ特性を向上するためにその結晶粒界を偏析物でstuffingする方法とamorphous構造にするといった結晶構造の変化による方法で検討した。 Stuffing膜ではAlを初期核形成直前にて成長中断することにより均一な吸着層を形成し、Al2O3による拡散経路の遮断効果が有効であることを示唆した。 TiSiN、TiAlN膜では製膜時に最適な原料選択を行うことによりCVDにおいてもSiやAlを添加することに成功し、結晶構造の変化を可能とした。またこれによりamorphous化することによってバリヤ特性の向上を実現した。 | |
審査要旨 | ULSIデバイスの高集積化に伴い,金属配線のコンタクト・ビアホールのアスペクト比が向上した結果,従来はスパッタリング法により形成されていたTiNなどのバリヤメタルは,ステップカバレッジ(段差被覆性)に優れるCVD法による形成が必須となっている。また,多層配線の信号伝達遅延時間低減のため,配線材料は従来のAlよりも抵抗の低いCuが主流となっている。本論文は,"A study on the Chemical Vapor Deposition of TiN based Cu diffusion Barriers for ULSI Multilevel Interconnect Technology"(ULSI多層配線用TiN系Cu拡散バリヤ膜のCVD合成に関する研究)と題し,CVD合成によるTiN薄膜にAlやSiを添加することにより,そのCu拡散バリヤ特性を向上させることを検討したものであり,全部で6章からなる。 まず,第1章はCu拡散バリヤ膜に要求される特性と既往の研究結果を述べ,バリヤ性向上に関する具体的な対応策と本研究の目的についてまとめている。 第2章は流量変調操作CVD(FM-CVD)法によるTiN膜の合成とそのCu拡散バリヤ特性の評価結果をまとめている。それによると,通常のFM-CVD法による20nmのTiN薄膜は400℃,30min程度のアニール中にCuがバリヤ層中を拡散してしまう。これを改善するため,Al単原子層をTiN層の間にはさみ,このAl層がTiNの粒界にてTiNに含まれる不純物酸素と反応してAl2O3として析出し,粒界拡散を阻止することを試みている。具体的にはDMAH(Di-methyl-aluminium-hydride)をAl原料とし,Alが粒成長しないように単原子層吸着する条件を探して,25nmのTiN膜上に単原子Al層を形成し,さらにTiNを25nm形成した。このサンプルの上にCu薄膜を形成し,600℃までアニール後断面TEM観察を行った結果,TiN層の中間に酸化アルミニウムが濃縮された部分がEDX分析により確認でき,この部分を境にCuの拡散量が低減していた。このことは当初意図したとおりにAl2O3による粒界拡散阻止効果が働いたことを示している。しかし,TiN/Al/TiN構造は500℃程度でCuが下地Si基板へ無視できない量が拡散してしまい,さらなるバリヤ性の向上が必要であると結論している。 第3章では,上記の検討を踏まえ,TiNにAlを添加してアモルファス構造にし,粒界をなくし,Cuの拡散を抑制することについて検討した結果をまとめている。まず,TiCl4/NH3を原料としたCVD法によるTiN合成系にAlを添加する原料を探索した結果,DMEAA(Di-methyl-ethyl-amino-alane)が最適であると結論した。この材料は,気相中でAlH3を放出するため,これがTiCl4と室温程度でも反応し,さらに強力な還元効果により塩素を除去する能力が高いことがその理由である。これを実際に用いてTiAlN膜のCVD合成を検討した。その結果,低温ではAlN形成が速く,Al含有量の高いTiAlN膜が形成され,比抵抗が高くなる。しかし,高温ではTiN膜形成が相対的に速くなり,Al含有量,すなわちAlN相の割合が低く,バリヤ膜として適した低い比抵抗のTiAlN膜を形成できることを見出した。また,DMEAA濃度の影響なども併せて検討を行い,その結果,Al含有量が増えるとTiNの格子定数が小さくなること,Al組成(Ti1-xAlxN)がx=0.15を超えると多結晶からアモルファス状に構造が変化することなどを明らかにした。また,当初の原料選択において予測したとおり,DMEAAの還元作用により膜中の塩素残留量は通常よりもかなり低く,0.5%程度であることも確認している。 第4章では,Siを添加することによるTiN膜のアモルファス化について検討した結果をまとめている。既往の研究により,SiH4などのSi原料ガスでは低温CVDプロセスによってTiN中にSiを導入することが困難であることが分かっていたので,先のTiAlNと同じく,Siを添加するのに適した原料を探索した。その結果,BTBAS(Bis-tertiary-buthl-amino-silane)を原料として選定した。この原料はアミノ基を含有し,このN-H結合とTiCl4との反応性が良いことからSi含有量を容易に制御可能と判断している。実際に,TiSiN膜の合成を行ったところ,0〜15%程度のSi含有量に制御できること,また,6.5%程度以上のSi含有量にてTiNの柱状多結晶構造が消失し,アモルファス状の構造となることなどを見出した。さらに,FM-CVD法の流量変調操作を工夫することにより,塩素残存量も2%程度まで低減することに成功している。 第5章では,上記の検討の結果得たTiAlN膜,TiSiN膜についてCu拡散バリヤ特性の評価を行っている。具体的にはこれらのバリヤ膜をSi基板上に形成後,CuをPVDにより堆積し,アニールによるCuの拡散状況をシート抵抗変化,XPS深さ方向組成分析などにより検討した。その結果,Ti0.76Al0.24N膜が最もCuの拡散バリヤ性能が良く,700℃のアニールまで耐えることを見出した。しかし,その比抵抗が10,000μΩ-cmと高いため,これらを勘案するとTi0.88Al0.12N膜やTi0.81Si0.19N膜など1,000μΩ-cmの比抵抗を持ち,600℃のアニールに耐える膜が最適であると結論している。 第6章はこれらの検討結果を総括し,今後,これらの3元系Ti(Al,Si)N膜はMOSゲート電極にも応用でき,仕事関数の最適化によりデバイス性能向上に貢献できる可能性があることなどの将来展望について述べている。 以上,本論文は,段差被覆性に優れたCVD法によるTiN合成系において,AlやSiの添加による結晶構造の制御,そのための最適反応系の設計などを検討したものであり,マテリアルプロセス工学の発展に大いに寄与するものである。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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