No | 120105 | |
著者(漢字) | 黄,河激 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コウ,カゲキ | |
標題(和) | ツインハイブリッドプラズマスプレー技術による新規熱遮蔽コーティングの開発 | |
標題(洋) | Development of Novel Thermal Barrier Coatings by Twin Hybrid Plasma Spraying | |
報告番号 | 120105 | |
報告番号 | 甲20105 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6047号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 金属工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ガスタービンやジェットエンジンを始めとする超高温環境下利用を目的とした高温部材研究開発において、燃焼温度の上昇は更なる高効率エネルギー変換、低エネルギー消費を実現しエンジン高出力化と共に地球温暖化防止、耐環境負荷にも配慮しうる技術方策とされる。明らかに基材の耐用温度上昇が重要な技術要件であり、これを可能とする材料学的技術対応策として、高融点合金利用或いは鋳造多結晶合金から単結晶合金翼への組織制御など基材自体に対する開発と並び、合金基材上に高融点低熱伝導セラミックス層を設け高温雰囲気ガスから超合金基体翼部への熱伝導を抑制する熱遮蔽コーティング(TBC)が検討されている。特に後者では合金基材種に律速されず運転温度の飛躍的上昇を実現しうる可能性を秘めており、画期的TBC技術開発が期待されている。 現在のTBC開発技術は、大別して、プラズマ溶射法(APS) と電子ビーム物理気相堆積法(EB-PVD)に分類される。APSの最大の特徴は大気圧での作業を可能とし簡便且つ超高速堆積を実現するプロセスであり、如何なる技術改良も直ちに応用展開しうる汎用性である。また溶融粒子の基体への射出、固化により形成されるスプラットの繰り込み的緻密積層構造から、各種ガス環境雰囲気と基体を効果的に分断し基体の酸化等2次的反応を抑制しうる。しかし、その構成要素スプラットのレンガ状積層構造的特徴から高温環境下での熱サイクルによりスプラット間或いはスプラット/基体間に応力が集中し基体面に対し平行に亀裂が発生、コーティングの剥離が生じる点が課題として挙げられる。一方、EB-PVD法では低圧、気相プロセスの特徴として一般に柱状組織が形成され、その縦型要素(コラム)構造から基体との密着性、高温熱サイクル時の応力緩和、割れ耐久性に優れ、更にコラム間に形成される空隙が被膜全体の総括熱伝導度を低減する特徴を有する。しかし逆にその構造的特徴に起因して、効果的な空孔が導入されない緻密な膜の場合には総括熱伝導度は大きくなり、また高温雰囲気における組織焼結及び環境層雰囲気ガスの基体表面への拡散、伝搬が進行しやすく環境雰囲気ガスとの反応によるコーティング界面劣化、剥離破壊が克服すべき問題とされる。更に、低圧プロセスに起因して根本的に低堆積速度でありまた高コストである技術課題も抱えている。一方、類似の柱状組織を実現しうる成膜技術として、熱プラズマPVD法(TP-PVD) 及び熱プラズマCVD法(TP-CVD)が挙げられる。粒径数ミクロン以下の微細固体粉末或いはガスを原料に、いずれも熱プラズマ中に投入し数ミリ秒程度の滞留時間内に完全蒸発させ、高温蒸気として基体上に反応、蒸着させる製膜技術である。再結合反応を利用するか否かの違いはあるが、その特徴はプラズマ流により効果的に原料を供給すると共に、プラズマ/基体間に実現する温度勾配数1000K/mmの境界層でのガス凝縮過程によりクラスターが形成され、その大きな付着確率によって超高速柱状晶が堆積される点である。 上記背景から、本研究では理想的TBC皮膜組織として、平板状横型構造(スプラット)と縦型構造(コラム)の構成要素の複合組織を着想し、特にスプラットの周期的積層構造は熱輻射に伴う皮膜加熱抑制の付加機能を兼ね備えになることに着目した。TBC技術として、更に重要なことは、これらの組織が超高速で実現し、コスト面技術面からも応用実用化可能となる安定、信頼性に基づく汎用技術を発展させた新規プロセスを開発すべきことであることは言うまでもない。これら背景の下、本研究は上記要件を満たす新技術として、ハイブリッドトーチ2基を搭載したプラズマスプレイシステムを開発、使用し、熱プラズマスプレー技術を基本とした粉末溶射(TP-PS)と物理気相堆積(TP-PVD)プロセスの結合によるスプラット、柱状組織の有機的複合化を可能とする新規製膜技術を検討した。 本論文は全5章から構成されており、第一章では上記序論である。 第二章では、プラズマスプレープロセス高度化に不可欠な基礎研究を行った。高融点(2700℃)、高強度(〜14GPa)、低熱伝導度(〜2、2W/mK)及び汎用のTBC金属基体に近い線熱膨張係数(〜11×10-6/℃)を有するZrO2-8wt%Y2O3(YSZ)を主原料として選択した。単一YSZ粒子がハイブリッドプラズマ中に投入され加熱、加速する際の熱履歴や軌跡、及び加速された液滴粒子が基板に衝突し変形、凝固、付着する一連の過程を解明するための数値解析と実験結果を図1に示す。RFプラズマ入力100kWにおいて、100μm近い大径YSZ粉末を完全に溶融できることがわかった。粒子の速度は高々80m/sであるが、スプラット径と変形後の体積から求めた液滴径との比(扁平率)は約5、0に達している。シミュレーションの結果が実験結果とよく一致していることは、プロセスパラメータに最適値があるが如く溶射粒子の速度にも最適値が存在することを得たものを考える。 これらの基礎研究に基づいて、プラズマ入力、粉体供給速度、粉体サイズ、プラズマ/基体間距離を変数に、溶射組織、PVD組織を制御するための要件、及びスプレー条件範囲を明らかにするとともに、これら変数の連続的変化によって溶射/PVD複合組織が作製されることを確認した。 第三章では、本研究で開発導入した300kW出力ツインハイブリッドプラズマスプレーシステムと実験手順を紹介した。 第四章では、第二章で提案された大径CoNiCrAlYとYSZ粉末溶射を試みた。YSZ堆積実験に際し同一条件となる基体を常に使用するため、比較的平滑且つ緻密なボンドコート層堆積の条件設定を行った。原料粉末供給量一定の下、RF100kW入力時、プラズマフレームに対して30°上方より入射する原料粉末供給用ガス流速Vc及び全プラズマガス中の接線方向へのガス流量割合fT(%) が小さい場合には基板中心に堆積が集中するものの、Vc、fTの増加と共にプラズマ中に均質に原料粉末が飛散し、またプラズマフレーム自体も広がることから、結果として50mm×50mm基板全体に平均的厚みを有する堆積が確認された。しかし、シングルトーチで堆積した膜内には数10μm程度のボイドが確認され、またその最表面の形状もマクロ的には平均的ではあっても若干荒れた状態であることが分かった。一方、40kW入力でのCoNiCrAlY粉末溶射に加えて2基目のトーチにより60kWで熱処理を行った場合、十分に緻密な皮膜を作製できた。更にその表面形状はシングルトーチのみの場合に比して平滑であるとともに、注目すべきはボンドコート層厚みも30%程度増加している点である。その詳細は更なる調査が必要であるが、ツイントーチ利用により良好なボンドコート層作製の条件が確認された。大径YSZ粒子を使用することによって、溶射スプラット間では良い密着性を示し、またトップコートとボンドコート間界面でもSEM によるマクロ組織観察ではクラック等は明確に確認されない比較的良好な界面であることが判明した一方、プラズマのRF 入力により、堆積皮膜の気孔率の制御も可能であることが判明した。RF入力が40kW から100kW まで増加させると空隙率は18%から3%にまで減少しうることが分かった。図2は大径YSZ粉末溶射した緻密なTBCコーティングのSEM写真を示している。 第五章では、完全に蒸発させる気相成長特有の柱状組織を作製するため、YSZ粉末粒径、粉末供給速度、プラズマ入力及びプラズマガス条件といった堆積パラメータによるTP-PVDコーティング組織変化をシングルトーチにより調査した。RFプラズマ入力が70kW、プラズマガス流量が100slm(85slmAr+15slmH2)において、5〜15μmのYSZ粉末を完全に蒸発することが確認された。一般にPVD的組織が得られる低圧プロセスでは原子を前駆体とした堆積過程であるために高堆積効率、高速堆積速度は望めないが、本TP-PVD法では堆積がプラズマ流による高密度供給によって行われ、且つ温度等境界層でのクラスターを前駆体とした堆積が期待される特長を反映した高効率PVD組織形成過程が達成されていると考えられる。その結果として本法によるPVD組織は堆積速度約50μm/minが達成されており、EB-PVDに比べて10倍高速での堆積が可能であることが実証された。TP-PSとTP-PVDの組み合わせにより本研究で設計した特異なナノ構造複合皮膜を実現することができた。図3に示すように、スプラット組織間にナノ構造粒子が混在する複合組織が確認できる。なお、50μm/minを超える堆積速度において650μm厚の複合皮膜が0.7W/mKという低熱伝導率のもとに製造できた。 第六章では、本研究を要約して得られた研究結果をまとめてみた。 これらの結果により、新規ツインハイブリッドプラズマスプレー技術が次世代熱遮蔽コーティング製膜において有望なプロセスであることが裏付けられた。 図1 ハイプリットプラズマの温度分布(a)、粒子の熱履歴(b)、加熱された液滴の扁平率(c)と実験結果(d)の比較。 図2 大径YSZ粉末溶射したTBCの断面SEM写真。 図3 YSZ/YSZ複合コーティング | |
審査要旨 | ガスタービンやジェットエンジンを始めとする高温環境下での利用を目的とした高温部材研究開発において、更なる高効率エネルギー変換、高出力化、環境負荷低減などを目指した新規熱遮蔽コーティング(TBC)技術開発が世界各国で挑戦的課題として展開されている。本研究はプロセシング的観点から当該分野の展開を目指し開発した300 kWツインハイブリッドプラズマスプレーシステムにより粉末溶射と物理気相堆積プロセスの統合によるスプラット・柱状組織の有機的複合化を可能とする新規コーティング技術開発を主眼とし、その工学的基盤確立を検討したものである。本論文は全6章から構成されている。 第1章は序論であり、TBCの意義、新規TBC開発の世界的動向及び問題点等を詳述し、本研究の位置付け目的を明確化している。 第2章では、プラズマスプレープロセス高度化に向け、その基礎となる、プラズマ発生、粉体の加熱履歴、溶射粒子の変形凝固過程等に関するシミュレーションを展開し、一部実験との対応も検討している。特に、ハイブリッドプラズマ発生に関して、入力、ガス流量、ガス組成の温度及び流速への影響を明示し、入力100kWでは100 μm に近い大粒径YSZ粉末を10 g/minで完全に溶融スプレーしうる可能性を示すとともに、粒子の速度分布やスプラット形状を予測し、実験との比較により溶射粒子の最適速度の存在を示したことは高く評価される。結果として、プラズマ入力、粉体供給速度、粉体サイズ、プラズマ/基体間距離を変数に、溶射組織、PVD組織を制御するための要件や具体的スプレー条件を明らかにするとともに、これら変数の連続的変化によって溶射/PVD複合組織形成が原理的に可能であることを確認している。 第3章では、主として本研究で開発導入した300 kW出力ツインハイブリッドプラズマスプレーシステムの仕様、構造、特性等をまとめるとともに、以下の章におけるコーティング実験研究における詳細な手順を述べている。 第4章では、第2章での提案をもとに一般的なTBCの基本系であるボンドコートCoNiCrAlYとトップコートYSZの大粒径粉末溶射を試みている。前者に関する実験では、低入力においてもプラズマの3系統ガス流制御により8枚の50 mm×50 mmの回転基板全体に均一な溶射層形成が可能であること、ツイントーチの一方を溶射用に他方を加熱用とした場合には緻密度が向上しかつ堆積効率が30%増大することなどを明らかにし、本システム使用による金属系材料溶射の容易性を示した。他方、後者においては大粒径YSZ粒子を使用することによる、スプラット間での密着性の向上、トップコートとボンドコート間界面でのマクロな欠陥密度低減を可能とし、YSZコーティングでは入力条件により空隙率を3%〜18%まで制御可能としている。 第5章では、本システムによるYSZのプラズマPVDの実験成果をまとめている。本プロセスでは噴入粒子の完全蒸発が基本となるため、前半では、YSZ粉末の種類、粒径、供給速度、プラズマ入力及びガス流条件といったパラメータによるTP-PVDコーティングの組織変化をシングルトーチにより系統的に調査し、本システムの最大出力条件下において10 μm径前後のYSZ粉末を噴入する場合には2 g/min程度が完全蒸発の限界であり、堆積速度約50 μm/minのPVDが達成されること、更に噴入量を増やすことによりPVD組織中にスプラットが分散された組織が形成されること等を示した。後半では前半の結果を受け、第4章で検討した溶射との組み合わせにより本研究で提案した溶射粒子がPVD柱状組織に制御された間隔で埋め込まれた特異なナノ構造複合皮膜を実現している。また、50 μm/minを超える堆積速度において作製した650 μm厚の複合皮膜において熱伝導率0.7 W/mKを達成している。 第6章では本研究で得られた成果を総括し、本研究で得られた成果により、新規ツインハイブリッドプラズマスプレー技術が次世代熱遮蔽コーティング製膜において有望なプロセスであると結論付けている。 以上を要するに、本研究は溶射/PVDの複合組織を有するTBCのトップコートがプラズマスプレー法で作製可能であることを初めて示し、実用化の観点からTBCシステム研究の先導的役割を果したものであり、マテリアル工学に対する貢献は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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