学位論文要旨



No 120108
著者(漢字) 大森,修
著者(英字)
著者(カナ) オオモリ,オサム
標題(和) 細孔性ネットワーク錯体の自己集積と特異的ゲスト包接
標題(洋)
報告番号 120108
報告番号 甲20108
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6050号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 教授 水野,哲孝
 東京大学 助教授 河野,正規
 東京大学 助教授 大越,慎一
 東京大学 講師 火原,彰秀
内容要旨 要旨を表示する

 細孔性ネットワーク錯体は、金属イオンと有機架橋配位子との自己集積によって構築されるゼオライト様の構造を有する金属錯体である。これまでの研究の大部分は、構造のみに焦点があてられていた。しかしながら、その機能化には、構造に加え、効果的なゲスト包接が鍵になると考えられる。最近、骨格を維持しゲスト分子が自由に交換・包接が可能な細孔性ネットワーク錯体が注目されている。それらの利点は、構造の詳細を単結晶X線構造解析により明らかにすることができることである。それゆえ、その構造情報を基に新規な細孔性ネットワーク錯体の合成および機能化へと導ける可能性がある。本研究は、その利点を生かし、X線構造解析の結果を基にし、ゲスト包接の特異性を見出すこと、および、それを可能とする大きな空孔を有する錯体の合理的合成を行うことを目的とした。本論文は、以下の6章から構成されている。

 第1章では、本研究の背景、目的および概要を論じた。

 第2章では、細孔性3次元ネットワーク錯体への大きな有機分子のsingle-crystal-to-single-crystalゲスト交換に関して論じた。平面性三座配位子2,4,6-tris(4-pyridyl)triazineとZnI2からニトロベンゼンを5.5分子包接した3次元細孔性ネットワーク錯体が生成する。錯体の細孔内は、芳香環に囲まれた空間を有しており特異的な分子包接が期待される。錯体の単結晶をゲスト分子飽和シクロヘキサン溶液に浸す簡単な方法で、包接されたニトロベンゼンが、より大きなゲスト分子(ペリレン、トリフェニレン、アントラセン、トリフェニルフォスフィン オキシド)に単結晶状態を保ってゲスト交換した。特に平面性π共役分子(ペリレン、トリフェニレン、アントラセン)を用いた場合、結晶の色が大きく変化した。その単結晶X線構造解析の結果、細孔内で平面性π共役分子が配位子とπ-πスタッキングしており、電荷移動錯体を形成していることがわかった。また、ホスト骨格とのドナー‐アクセプター相互作用を利用することで、ゲスト分子の配置を制御できる可能性があることを見出した。

 第3章では、配位子‐ゲスト相互作用を利用した細孔性3次元ネットワーク錯体の合理的合成と特異的ゲスト包接に関して論じた。平面性ゲスト分子(トリフェニレンおよびペリレン)と配位子2,4,6-tris(4-pyridyl)triazine間の強い相互作用に着目した。平面性ゲスト分子共存下、2,4,6-tris(4-pyridyl)triazineとZnI2を用いて錯形成を行った。得られた錯体の結晶構造解析の結果、平面性ゲスト分子と配位子が、芳香環スタッキングにより積層構造をとっていた。また、その錯体は、2つの形状および環境の異なるチャンネルを有していた。それらのチャンネルに、異なる2つのゲスト分子の混合物から、それぞれが好む分子を取り込む特異的な包接現象を見出した。

 第4章では、効果的な包接を可能とする大きな空孔を有する正方形錯体の合成に関して論じた。正方形骨格は、有限系、無限系に共通の最も基本的な骨格である。その単純さゆえに正方形ネットワーク錯体の合成は予測可能であり柔軟な設計ができる。4,4'-ビピリジン(4,4'-bpy)をさらに伸張した棒状2座配位子を設計および合成し、Ni(NO3)2・6H2Oと錯形成させることで24.2×24.2 Aの正方形骨格を有するはしご状ネットワーク錯体を得た。また、配位子に相互作用サイトとして活用できる可能性がある側鎖を導入した。その側鎖によらず同一の骨格を形成することも明らかにした。

 第5章では、細孔性ネットワーク錯体の触媒能に関して論じた。Cd/4,4'-bpy無限格子錯体が、イミン類のシアノシリル化反応の不均一系触媒として働くことを見出した。結晶構造および基質の反応性から、無限骨格の重要性、および、反応機構として金属イオンへのイミンの窒素原子の配位が重要なステップであることを見出した。本研究によりネットワーク錯体内の金属イオンが活性点となりえることを示した。

第6章で、本論文を総括した。

審査要旨 要旨を表示する

 細孔性ネットワーク錯体は、金属イオンと有機架橋配位子との自己集積によって構築されるゼオライト様の構造を有する金属錯体である。これまでの研究の大部分は、構造のみに焦点があてられていた。しかしながら、その機能化には、構造に加え、効果的なゲスト包接が鍵になると考えられる。最近、骨格を維持しゲスト分子が自由に交換・包接が可能な細孔性ネットワーク錯体が注目されている。それらの利点は、構造の詳細を単結晶X線構造解析により明らかにすることができることである。それゆえ、その構造情報を基に新規な細孔性ネットワーク錯体の合成および機能化へと導ける可能性がある。本研究は、その利点を生かし、X線構造解析の結果を基にし、ゲスト包接の特異性を見出すこと、および、それを可能とする大きな空孔を有する錯体の合理的合成を行うことを目的とした。本論文は、以下の6章から構成されている。

 第1章では、本研究の背景、目的および概要を論じた。

 第2章では、細孔性3次元ネットワーク錯体への大きな有機分子のsingle-crystal-to-single-crystalゲスト交換に関して論じた。平面性三座配位子2,4,6-tris(4-pyridyl)triazineとZnI2からニトロベンゼンを5.5分子包接した3次元細孔性ネットワーク錯体が生成する。錯体の細孔内は、芳香環に囲まれた空間を有しており特異的な分子包接が期待される。錯体の単結晶をゲスト分子飽和シクロヘキサン溶液に浸す簡単な方法で、包接されたニトロベンゼンが、より大きなゲスト分子(ペリレン、トリフェニレン、アントラセン、トリフェニルフォスフィン オキシド)に単結晶状態を保ってゲスト交換した。特に平面性π共役分子(ペリレン、トリフェニレン、アントラセン)を用いた場合、結晶の色が大きく変化した。その単結晶X線構造解析の結果、細孔内で平面性π共役分子が配位子とπ-πスタッキングしており、電荷移動錯体を形成していることがわかった。また、ホスト骨格とのドナー‐アクセプター相互作用を利用することで、ゲスト分子の配置を制御できる可能性があることを見出した。

 第3章では、配位子‐ゲスト相互作用を利用した細孔性3次元ネットワーク錯体の合理的合成と特異的ゲスト包接に関して論じた。平面性ゲスト分子(トリフェニレンおよびペリレン)と配位子2,4,6-tris(4-pyridyl)triazine間の強い相互作用に着目した。平面性ゲスト分子共存下、2,4,6-tris(4-pyridyl)triazineとZnI2を用いて錯形成を行った。得られた錯体の結晶構造解析の結果、平面性ゲスト分子と配位子が、芳香環スタッキングにより積層構造をとっていた。また、その錯体は、2つの形状および環境の異なるチャンネルを有し、2つのゲスト分子の混合物から、各々、一方の分子を優先的に取り込むことを単結晶X線構造解析により明らかにした。

 第4章では、効果的な包接を可能とする大きな空孔を有する正方形錯体の合成に関して論じた。正方形骨格は、有限系、無限系に共通の最も基本的な骨格である。その単純さゆえに正方形ネットワーク錯体の合成は予測可能であり柔軟な設計ができる。4,4'-ビピリジン(4,4'-bpy)をさらに伸張した棒状2座配位子を設計および合成し、Ni(NO3)2・6H2Oと錯形成させることで24.2×24.2 Aの正方形骨格を有するはしご状ネットワーク錯体を得た。また、配位子に相互作用サイトとして活用できる可能性がある側鎖を導入した。その側鎖によらず同一の骨格を形成することも明らかにした。

 第5章では、細孔性ネットワーク錯体の触媒能に関して論じた。Cd/4,4'-bpy無限格子錯体が、イミン類のシアノシリル化反応の不均一系触媒として働くことを見出した。結晶構造および基質の反応性から、無限骨格の重要性、および、反応機構として金属イオンへのイミンの窒素原子の配位が重要なステップであることを見出した。本研究によりネットワーク錯体内の金属イオンが活性点となりえることを示した。

 第6章で、本論文を総括した。

 以上、本論文では、単結晶X線構造解析による構造情報を基に新たな構造の設計、特異的な分子認識、さらには、触媒作用の発現まで見出すことに成功している。特に明確な相互作用(ドナー‐アクセプター相互作用)が、ゲスト認識および骨格の設計において重要な役割を果たすことを示し、ネットワーク錯体を基軸にした機能性材料の開発に寄与するものと考える。

 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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