No | 120236 | |
著者(漢字) | 陳,秋紅 | |
著者(英字) | Chen,Qiuhong | |
著者(カナ) | チン,チュウホン | |
標題(和) | G1-S遷移および発ガンにおけるCdk4とCdk6の異なった役割 | |
標題(洋) | Differential Roles for Cdk4 and Cdk6 in Controlling G1-S Transition and Oncogenic Transformation | |
報告番号 | 120236 | |
報告番号 | 甲20236 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2385号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 分子細胞生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 細胞周期開始制御には、少なくとも2種類のサイクリン依存性タンパクリン酸化酵素、Cdk4/6とCdk2が係わっている。アミノ酸配列の類似がきわめて高いCdk4とCdk6は、発現している細胞種は異なるが、いずれも細胞周期の開始時には発現誘導されたD型サイクリン(D1,D2,D3)と結合し活性化される。活性化されたCdk4/Cdk6およびサイクリンEと結合して活性化されたCdk2はRbタンパクをリン酸化し不活化する。それによってE2F-DP転写因子複合体はRbから開放され、複製開始点の活性化に必須なCdc6遺伝子を初めとしてS期進行に必要な遺伝子の発現を誘導しS期が始まる。少なくとも哺乳動物線維芽細胞では、Cdk4およびCdk6が共に活性化されるにもかかわらず、なぜかCdk4はS期の開始に不可欠である。Rbの不活化はCdk6でも起こることから、このことは、Cdk4に特異的なS期開始に必須な標的がRb以外に少なくともひとつ存在することを意味している。一方、サイクリンD3と結合したCdk6はp27、p21,p16等のCKIによる阻害を受けず、増殖抑制下で細胞の増殖能を制御するきわめて特異な役割を担っている。 以上の結果を踏まえ、第一章の研究では、静止期の細胞でも活性があるサイトメガロウィルスプロモーター由来の発現ベクターを用いてマウス線維芽細胞株BALBc3T3およびC3H10T1/2細胞のCdk4およびCdk6の安定高発現株を作成し、培養皿上のフォーカス形成を指標に調べることによってこれらのCdkの高発現が、紫外線照射や強力な化学発癌剤である3MCAによる発癌に与える影響を検討した。その結果、Cdk6の高発現株のみに多数のフォーカス形成が観察される一方、Cdk4の高発現は、むしろこれらの物理・化学発癌を抑制することが判明した。 そこで、Cdk6が発癌効率を上げるように働く相棒のサイクリンを同定するために、BALBc3T3およびC3H10T1/2細胞のCdk6高発現株にサイクリンD3あるいはサイクリンD1を導入し、安定高発現株を作成し、発癌効率に与える影響を検討した。その結果、サイクリンD3とCdk6を導入した細胞の発癌効率がCdk6のみの場合よりも著しく増大したことが分かった。これに対して、サイクリンD1を導入した細胞では、紫外線照射と3MCAの量に係わらず、トランスフォーメーションを強く抑制した。すなわち、フォーカス形成アッセイで見る限り、増殖抑制下で細胞の増殖能を高めることができるCdk6-D3複合体のみが発癌に対する感受性を著しく高めることを見いだした。 次に、Cdk6キナーゼ活性のないおよびサイクリンD3を導入した上述の2種類の細胞において、同じ条件下で検討した。その結果、紫外線照射や3MCAの誘導下でもトランスフォーメーションフォーカスの形成が全く見られなかった。したがって、発癌の昂進にはCdk6のキナーゼ活性は必須であると結論づけられた。さらに、Cdk6-D3,Cdk6-D1,Cdk4-D1複合体の高発現株を足場がない状態でG1期に停止させ、キナーゼ活性を調べた。Cdk6-D3場合のみがキナーゼ活性が維持していることが分かった。以上のことから、Cdk6-D3複合体がp27のCKIに阻害されず、増殖抑制下で細胞の増殖能を高めることができる結果、物理・化学発癌に対する感受性を著しく高めると考えられた。 第二章では、Cdk4の更なる標的因子の同定を試みた。アデノウイルスを介してドミナントネガティブ変異Cdk4を発現させたラット線維芽細胞株NRKをG1期に停止させ、血清刺激後G1からS期への進行に必須な因子の発現を、免疫ブロットを用いて検討した。その結果、E2F-DPに依存したE2F-1とサイクリンAなどと複製開始点の活性化に必須なMcmやCdt1、Gemininなどの因子の発現は変わらなかったが、Cdc6発現のみが特異に抑制されていることが分かった。 次に、Cdc6発現のどの段階にCdk4が必要かを調べた。アデノウイルスを介してドミナントネガティブ変異Cdk4を発現させたラット線維芽細胞株NRKにおいては、Cdc6 mRNAの誘導が著しく抑制されていることが判明した。さらに、ラットNRK細胞のCdc6高発現株を用い、Cdk4の不活化によるCdc6タンパク質レベルへの影響を調べた結果、Cdk4の不活化はCdc6蛋白質の安定性に影響を与えなかった。このことから、Cdk4がRbのリン酸化とは別に、cdc6遺伝子の転写を制御していると考えられた。 以上の結果を踏まえ、S期開始にCdc6転写制御がRb以外にCdk4の特異的な標的になっているかを調べた。抗Cdk4抗体の微量注入およびアデノウイルスを用いたドミナントネガティブ変異Cdk4発現による内因性Cdk4を不活化したNRK細胞においては、S期開始が阻止されたが、Cdc6を持続発現させたNRK細胞では、いずれの方法でCdk4を不活化させても、あたかも何の操作も施していないかのようにS期を開始した。したがって、S期開始に関わっているCdk4の新たな標的は、Cdc6遺伝子のみで、その転写活性化にCdk4活性が必要不可欠であると結論付けられた。 これらの成果は、これまで重複していると考えられたCdk4とCdk6が細胞周期開始制御において異なった役割を演じていることを始めて明らかにしたもので、緻密な細胞周期開始制御機構の全貌ならびに発癌の根底機構の解明に新しい突破口を開くものと期待される。 | |
審査要旨 | 本研究では、細胞周期のG1-S遷移および発ガンにおいて重要な役割を果たしていると考えられるCdk4とCdk6因子の役割の差異を明らかにするため、第一章では、マウス繊維芽細胞(BALBc3T3とC3H10T1/2)においてCdk4やCdk6過剰発現の実験を行い、紫外線照射や強力な化学発癌剤である3MCAによる発癌に与える影響を検討した。次に、Cdk4因子はS期開始に必須であることが知られていることから、Rb以外に特異的な標的因子の同定をラット繊維芽細胞(NRK)にて試みた、下記の結果を得ている。 1. 第一章の研究では、静止期の細胞でも活性があるサイトメガロウィルスプロモーター由来の発現ベクターを用いてマウス線維芽細胞株BALBc3T3およびC3H10T1/2細胞のCdk4 およびCdk6 の安定高発現株を作成し、培養皿上のフォーカス形成を指標に調べることによってこれらのCdkの高発現が、紫外線照射や強力な化学発癌剤である3MCAによる発癌に与える影響を検討した。その結果、Cdk6の高発現株のみに多数のフォーカス形成が観察される一方、Cdk4の高発現は、むしろこれらの物理・化学発癌を抑制することが判明した。 2. Cdk6が発癌効率を上げるように働く相棒のサイクリンを同定するために、BALBc3T3およびC3H10T1/2細胞のCdk6高発現株にサイクリンD3あるいはサイクリンD1を導入し、安定高発現株を作成し、発癌効率に与える影響を検討した。その結果、サイクリンD3とCdk6を導入した細胞の発癌効率がCdk6のみの場合よりも著しく増大したことが分かった。これに対して、サイクリンD1を導入した細胞では、紫外線照射と3MCAの量に係わらず、トランスフォーメーションを強く抑制した。すなわち、フォーカス形成アッセイで見る限り、増殖抑制下で細胞の増殖能を高めることができるCdk6-D3複合体のみが発癌に対する感受性を著しく高めることを見いだした。 3. ドミナントネガティブ変異Cdk6およびサイクリンD3を導入した上述の2種類の細胞において、同じ条件下で検討した。その結果、紫外線照射や3MCAの誘導下でもトランスフォーメーションフォーカスの形成が全く見られなかった。したがって、発癌の昂進にはCdk6のキナーゼ活性は必須であると結論づけられた。さらに、Cdk6-D3,Cdk6-D1,Cdk4-D1複合体の高発現株を足場がない状態でG1期に停止させ、キナーゼ活性を調べた。Cdk6-D3場合のみがキナーゼ活性が維持していることが分かった。以上のことから、Cdk6-D3複合体がp27のCKIに阻害されず、増殖抑制下で細胞の増殖能を高めることができる結果、物理・化学発癌に対する感受性を著しく高めると考えられた。 4. 第二章では、Cdk4の更なる標的因子の同定を試みた。アデノウイルスを介してドミナントネガティブ変異Cdk4を発現させたラット線維芽細胞株NRKをG1期に停止させ、血清刺激後G1からS期への進行に必須な因子の発現を、免疫ブロットを用いて検討した。その結果、E2F-DPに依存したE2F-1とサイクリンAなどと複製開始点の活性化に必須なMcmやCdt1、Gemininなどの因子の発現は変わらなかったが、Cdc6発現のみが特異に抑制されていることが分かった。次に、Cdc6発現のどの段階にCdk4が必要かを調べた。アデノウイルスを介してドミナントネガティブ変異Cdk4を発現させたラット線維芽細胞株NRKにおいては、Cdc6 mRNAの誘導が著しく抑制されていることが判明した。さらに、ラットNRK細胞のCdc6高発現株を用い、Cdk4の不活化によるCdc6タンパク質レベルへの影響を調べた結果、Cdk4の不活化はCdc6蛋白質の安定性に影響を与えなかった。このことから、Cdk4がRbのリン酸化とは別に、cdc6遺伝子の転写を制御していると考えられた。 5. 以上の結果を踏まえ、S期開始にCdc6転写制御がRb以外にCdk4の特異的な標的になっているかを調べた。抗Cdk4抗体の微量注入およびアデノウイルスを用いたドミナントネガティブ変異Cdk4発現による内因性Cdk4を不活化したNRK細胞においては、S期開始が阻止されたが、Cdc6を持続発現させたNRK細胞では、いずれの方法でCdk4を不活化させても、あたかも何の操作も施していないかのようにS期を開始した。したがって、S期開始に関わっているCdk4の新たな標的は、Cdc6遺伝子のみで、その転写活性化にCdk4活性が必要不可欠であると結論付けられた。 以上、本論文はこれまで重複していると考えられたCdk4とCdk6が細胞周期開始制御において異なった役割を演じていることを始めて明らかにした。本研究は緻密な細胞周期開始制御機構および発癌の根底機構の解明に重用な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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