No | 120258 | |
著者(漢字) | 山崎,慶子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマザキ,ケイコ | |
標題(和) | Crohn病関連遺伝子のwhole-genome相関解析 | |
標題(洋) | Whole-genome association analysis for genes susceptible to Crohn's disease | |
報告番号 | 120258 | |
報告番号 | 甲20258 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2407号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Crohn病(Crohn's Disease;CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)は近年増加傾向にある原因不明の炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease;IBD)である。Crohn病は口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管あらゆる部位に、非連続性の潰瘍や線維化を伴う全層性の肉芽腫性炎症性病変を形成する。UCは主として大腸にびらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症性腸疾患である。遺伝的因子、環境因子(ウイルスや細菌などの微生物感染、腸内細菌叢の変化、食餌性抗原など)により、免疫系の異常反応が生じる多因子疾患と考えられている。高い家族集積性、双生児相対危険率などから、遺伝的因子の関与が示唆されており、それらを解明するために罹患関連遺伝子座の連鎖解析が欧米を中心に広く行われてきた。2001年に2つの研究グループが、欧米人集団においてCARD15(NOD2;nucleotide-binding oligomerization domain protein 2)遺伝子とCDの関係を報告した(Hugot et al.2001,Ogura et al.2001)。中でも2つの点変異R702W、G908R、フレームシフト変異1007fsは欧米人においてCDと強い相関を示すことが、多くの研究グループにより証明されている(Hampe et al.2001;Ahmad et al.2002;Cuthbert et al.2002)。 そこで我々は日本人CD患者483名を用いて、上記のCARD15における3つの突然変異の有無を確認した。しかし、R702W、G908R、1007fsのいずれの突然変異も確認することはできず、R702Qという別の突然変異をわずか1例において認めたにすぎなかった。次に上記突然変異を含む領域について、96名のCDサンプルに対し、DNAシークエンスを行ったがDNAの変化は見いだせなかった。 さらに近年、新たなCD関連遺伝子が報告された。1つはIBD5(第5染色体)に存在するSLC22A4(solute carrier family 22,member4)とSLC22A5(solute carrier family 22,member5)の2つのorganic cation transporterである(Peltekova et al.2004)。もう1つは第10染色体のDLG5(discs,large homolog 5(Drosophila))という表皮の足場タンパクの遺伝子である(Stoll et al.2004)。我々は日本人CD患者484名について追試を行ったが、報告よりも弱い相関(SLC22A4(p=0.028)、DLG5(p=0.023))しか認められず、相関の有無を確定するには至っていない。また、CARD15と相互作用すると報告されていた疾患関連SNP(single nucleotide polymorphism)は日本人集団においては確認できなかった。 以上の研究より、欧米人集団より同定されたCrohn病疾患関連遺伝子は必ずしも日本人集団に適応されないと考えられた。そこで我々は日本人CD患者484名から得られたgenomic DNAに対しSNPを用いたwhole-genome相関解析(case-control study)を行った。第1次のスクリーニングとしてCrohn病患者94名とコントロール752名に対し、72,738SNPsのタイピングを施行したところ、p<0.01を示す2,219SNPsが同定された。ついでこれら2,219SNPsに対し、第2次スクリーニングとして188名、第3次スクリーニングとして484名のCrohn病患者に対しタイピングを施行し、候補SNPを絞り込んだ。第3次スクリーニング終了時にp<0.0001を示すSNPが22同定された。これら22SNPsうち、6SNPが第9染色体(9q33)の約280kbの領域に集中していたため、その領域を中心とする約450kbについてさらに解析を行った。その結果、非常に強い相関(χ2=58.8,p=1.71x10-14、odds ratio=2.17(95%CI,1.78-2.66))を示すSNPを含むTNFSF15(tumor necrosis factor(1igand)superfamily,member15)が新しいCD疾患関連遺伝子として同定された。またハプロタイプ解析によりTNFSF15上にCD感受性、非感受性ハプロタイプが形成されることがわかった。この結果を確認するため、西欧白人集団に対しTNFSF15上の強い相関を示した12SNPsを用いて解析を行った。これら12SNPsのうち、西欧人集団で多型を確認できたのは5SNPsであった。多型を示した5SNPsの解析から、TNFSF15はCD、UC共通の疾患関連遺伝子であり疾患の感受性、非感受性ハプロタイプは日本人集団、欧米人集団に共通であることが明らかとなった。 これらの結果はCrohn病の原因解明、および治療法確立の一助となる可能性を示唆しているであろう。 | |
審査要旨 | 本研究はCrohn病の関連遺伝子を同定するため、SNP(single-nucleotide polymorphisms)を用いたwhole-genome相関解析を行ったものである。発表内容は欧米人集団より報告された候補遺伝子の検証、Crohn病関連遺伝子のwhole-genome相関解析より構成されており、下記の結果を得ている。 1.欧米人集団でCrohn病と強い相関が報告されているCARD15の3つの遺伝子多型(R702W,G908R,3020insC)のgenotypingおよび周辺領域のmutation searchを行った。その結果、日本人Crohn病患者484名においては上記の3遺伝子多型は確認できず、その周辺領域にも変異は同定されなかった。 2.近年欧米よりCrohn病関連遺伝子と報告されたSLC22A4、SLC22A5、DLG5上の疾患関連SNP(C1672T(SLC22A4)、G-207A(SLC22A5)、G113A・C4136A・35delA(DLG5))について同様に日本人Crohn病患者のサンプルを用いてdirect sequencingによるgenotypingを行った。その結果C1672T、G-207A、G113Aは多型が確認できず、多型が確認されたC4136A、35delAと日本人Crohn病患者では相関を認めなかった。しかしSLC22A4、DLG5に存在する他のSNPにおいて、日本人Crohn病と弱い相関が認められた。 3.日本人Crohn病患者484例に対しwhole-genomeを網羅する72,738SNPsをinvader法にてgenotypingを行った。χ2検定を用いた相関解析より、p<1×10-4を示す22SNPsをCrohn病の疾患関連SNPとして同定した。 4.9q32の約460kbの領域のgenotyping、連鎖不平衡解析より、p<1×10-14を示すSNPを含むTNFSF15(tumor necrosis factor superfamily,member 15)を新たなCrohn病の関連遺伝子として同定した。 5.TNFSF15上の18SNPsを用いたHaplotype解析より、risk haplotype、non-risk haplotypeが同定された。 6.欧州人Crohn病患者および対照に対し、日本人Crohn病患者と強い相関を示したTNFSF15上の12SNPsについてmutation searchを行ったところ、5SNPsで多型が確認された。これら5SNPsに対し、欧州人Crohn病患者対照研究および炎症性腸疾患患者を用いた伝達不平衡試験を行ったところ、相関が認められた。このことからTNFSF15はCrohn病・潰瘍性大腸炎共通の疾患関連遺伝子であると考えられた。 以上、本論文はCrohn病疾患関連遺伝子が日本人と欧米人で異なることを示し、whole-genome相関解析によりTNFSF15が日本人Crohn病患者の新たな疾患関連遺伝子であることを明らかにした。本研究は難治性疾患の1つで近年増加傾向にあるCrohn病の発症機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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