No | 120279 | |
著者(漢字) | 平野,賢二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヒラノ,ケンジ | |
標題(和) | 自己免疫性膵炎とその膵外病変に関する臨床的検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120279 | |
報告番号 | 甲20279 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2428号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景と目的】 自己免疫性膵炎(AIP:autoimmune pancreatitis)はその発症に自己免疫機序の関与が疑われる膵炎と定義される特異な臨床像を呈する疾患である。日本膵臓学会が診断基準を提唱してはいるが、AIPと診断困難な非定型的な例(以下、AIP疑い例と呼ぶ)が少なからず存在し、このような例をどう扱うかが問題となっている。特に胆道系を中心に、膵外に病変が及ぶことも知られており、膵外病変が目立つ例の取り扱いに苦慮することがある。 近年、血清IgG4値が自己免疫膵炎の診断に極めて有用であることが明らかにされつつあり、IgG4を利用した新たな診断体系の確立が待たれている。しかし、IgG4が臨床の場に導入されたのは、ごく最近のことであり、胆膵疾患全体におけるIgG4の意義は、まだ十分には検討されていない。そこで、本研究では、種々の胆膵疾患において、血清IgG4値を測定して、胆膵疾患におけるIgG4の意義を明らかにし、次にIgG4高値を示す膵疾患の臨床病態を明らかにすることを目的とした。最後にAIPおよびAIP疑い例の膵外病変の詳細な検討を行い、その臨床病態を明らかにするとともに、ステロイド治療の適応や投与法について一定の見解を提示することを目指した。 【対象と方法】 1) 初めの検討の対象は2000年1月から2004年8月までに東京大学消化器内科を受診した胆膵疾患患者103例(疾患別内訳は原発性硬化性胆管炎患者13例、胆管癌患者13例、胆嚢癌患者2例、AIP患者14例、AIP疑い患者16例、急性膵炎患者3例、アルコール性慢性膵炎患者6例、非アルコール性慢性膵炎患者19例、膵癌患者15例、乳頭部癌患者1例、膵島腫瘍患者1例)であり、IgG4値がどのような疾患で高値になるかを調べた。 2) 次の検討ではIgG4高値の膵疾患30例(膵臓学会診断基準を満たすAIP14例と診断基準を部分的にしか満たさないAIP疑い16例)を対象としてAIPと診断される群とAIP疑い群とされた群の臨床病態の違いを調べた。 3) 最後に、AIP群、AIP疑い群の膵外病変の臨床像を詳細に検討し、両群に違いがあるか否かを調べた。 【結果】 1) 膵疾患において血清IgG4が高値であったのは、AIP症例の13例(93%)、AIP疑い症例の15例(94%)であった。なおIgG4陰性例もAIP例は6ヵ月後(65mg/dl→212mg/dl)、AIP疑い例は1年4ヵ月後(133mg/dl→218mg/dl)には異常高値となった。胆道疾患においては、原発性硬化性胆管炎の4名(30.7%)であった。これらの4例については複数の画像検査で膵疾患の検索を行ったが、いずれの例にも膵病変は画像上認められなかった。 2) AIP群とAIP疑い群の比較において、有意差のあった項目は(1)AIP群でγGTPの上昇例が多い(他の肝胆道系酵素も有意差はないもののAIP群で高い傾向は認められた)(2)AIP群で膵外病変合併が多い(3)AIP群で膵腫大例が多い(4)AIP疑い群で膵管全長の1/3未満の狭細所見を呈する例が多い(5)AIP疑い群でステロイド不使用のまま経過観察できている例が多い、の5項目であった。一方、膵の組織所見やステロイド治療に対する反応などは両群で差は認められなかった。 3) (1)硬化性胆管炎は13例(AIP群9例、AIP疑い群4例)に認め、このうち4例(すべてAIP群)は膵病変と同時期に発症した。ステロイド治療はAIP群の9例全例(プレドニゾロン初期投与量は30mg7例、40mg2例)、AIP疑い群2例(30mg1例、40mg1例)に行われ、全例で胆管像は著明に改善した。 (2) 後腹膜線維症を7例(AIP群6例、AIP疑い群1例)に認めた。全例において、膵病変と同時に後腹膜線維症も診断された。AIP群の6例は大動脈周囲に限局(大動脈周囲炎)していたが、AIP疑い群1例では水腎症が認められた(但し、水腎症は自然軽快した)。AIP群6例でステロイド治療を行い良好な反応を示した。 (3) 間質性肺炎を4例(AIP群3例、AIP疑い群1例)に認めたが、1例(AIP群)は診断当初より存在し、3例はステロイドを使用しての経過観察中に出現した。再燃時にはIgG4の再上昇が認められた。呼吸機能検査における拡散能の低下、血液検査でのKL-6の上昇、画像検査での網状影・スリガラス陰影、浸潤影の所見は両群の間質性肺炎で認められた。 (4) ステロイド治療を6ヶ月以上行っている患者が19例(初回投与量はプレドニゾロン30mg12例、40mg7例)おり、ステロイド維持療法中の再燃例は4例であった。2例は間質性肺炎によるもの、1例が膵炎再燃によるものであった。再燃症例のプレドニゾロン初期投与量は40mg2例、30mg2例、再燃時の維持量は2.5mg2例、5mg2例であった。維持量を2.5mgまで減量した4例のうち2例に再燃が見られた。 【結論】 1) 膵疾患において血清IgG4高値を示せばAIPあるいはAIP疑いのいずれかである可能性は高いと言える。一方、原発性硬化性胆管炎症例でIgG4高値例が認められるが、AIPにも硬化性胆管炎の合併が高頻度に認められており、「原発性硬化性胆管炎でIgG4が高くなる」のか「自己免疫性膵炎の合併症である硬化性胆管炎が膵病変に先行して発現した症例に過ぎない」のかは現時点では結論が出せないと思われる。 2) AIP疑い群もAIP群と近似した疾患であると思われるが、AIP疑い群はAIPの病期のより早い段階、軽症の段階を捉えているのではないかと推察された。したがって、膵疾患においては、血清IgG4高値はAIPあるいはその前段階の状態であることを意味するものと解釈すべきである。 3) AIP、AIP疑い例の膵外病変は一旦発症してしまえばその臨床病態に大差は認めない。 したがって臨床症状を伴う膵外病変があればAIP疑い例であってもステロイド治療を行うべきである。ステロイドの初期投与量はプレドニゾロン30mgで十分であり、維持量として5mgは必要である。 | |
審査要旨 | 近年、血清IgG4値が自己免疫膵炎(AIP:autoimmune pancreatitis)の診断に極めて有用であることが明らかにされつつあるが、IgG4が臨床の場に導入されたのは、ごく最近のことであり、胆膵疾患全体におけるIgG4の意義は、まだ十分には検討されていない。そこで、本研究では、種々の胆膵疾患において、血清IgG4値を測定して、胆膵疾患におけるIgG4の意義を明らかにし、次にIgG4高値を示す膵疾患の臨床病態を明らかにすることを試みた。さらに本研究では、AIPおよびAIP疑い例の膵外病変の詳細な検討を行い、その臨床病態を明らかにするとともに、ステロイド治療の適応や投与法についても一定の見解を提示することも試みた。本研究により下記の結果が得られた。 1) 膵疾患において血清IgG4高値を示せばAIPあるいはAIP疑いのいずれかである可能性が高い、ということが示された。 2) AIP疑い群もAIP群と近似した疾患であるが、AIP疑い群はAIPの病期のより早い段階、軽症の段階を捉えていることが示された。したがって、膵疾患においては、血清IgG4高値はAIPあるいはその前段階の状態であることを意味するものと解釈可能である。 3) AIP、AIP疑い例の膵外病変は一旦発症してしまえばその臨床病態に大差は認めない。したがって臨床症状を伴う膵外病変があればAIP疑い例であってもステロイド治療を行うべきである。ステロイドの初期投与量はプレドニゾロン30mgで十分であり、維持量として5mgは必要である。 以上、本論文は胆膵疾患におけるIgG4の意義、IgG4高値膵疾患の意義、AIPおよびAIP疑い例の膵外疾患を含めた病態、治療法について明らかにした。本研究が自己免疫性膵炎の臨床に貢献するところは非常に大きく、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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