学位論文要旨



No 120286
著者(漢字) 奥平,玲子
著者(英字)
著者(カナ) オクダイラ,レイコ
標題(和) アトピー性疾患発現におけるEpstein-Barr virus感染の役割の検討
標題(洋)
報告番号 120286
報告番号 甲20286
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2435号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長瀬,隆英
 東京大学 教授 井原,康夫
 東京大学 教授 玉置,邦彦
 東京大学 助教授 滝沢,始
 東京大学 講師 高見沢,勝
内容要旨 要旨を表示する

緒言

 1916年、CookeとVanderVeerは多くの家系を検討し、アトピー性疾患は遺伝的な疾患であり、その原因となるアトピー遺伝子は常染色体優性であると提唱した。しかし、気管支喘息やアトピー性疾患は複数の遺伝因子の感受性の差と環境因子が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられている。ここ数十年でいわゆる先進国におけるアトピー性疾患の有病率は飛躍的に増加している。アトピー性疾患の発症に関連していると考えられるウイルスのうち、Epstein-Barr virus(EBV)の重要性が挙げられている。

 1960年代からEBVはアトピー性疾患の発症において何らかの重要な役割を果たしている可能性があると考えられていた。1981年代にアトピー性疾患患者で抗EBV抗体が上昇すると報告されてからEBV抗体価とアトピー性疾患の関連性については肯定的および否定的な報告が混在し、いまだ結論が出てい。

 本研究では近年になって使用可能となった測定技術や統計学的な検討、文献的な知見を加えてEBV感染とアトピー性疾患の関連性についての再検証を試みた。

対象および方法

 関東地方在住の日本人のアトピー性疾患(気管支喘息またはアトピー性皮膚炎)患者で、病態が落ち着いている時期の血清を採取した。コントロールとしては、健康診断や予防接種、小手術前の術前検査等で受診した同年代の健康と考えられる人々を選択した。

 全てのアトピー性疾患患者の血清総IgE値は上昇(>160IU/ml)しており、以下に挙げる抗原に対するアレルゲン特異的IgE抗体(RAST;>0.70UA/ml)がひとつ以上陽性であった。RAST抗体:全例に対してダニ(Dermatophagoides farinae,Dermatophagoides pteronyssius)、日本スギ花粉、ネコ皮屑、イヌ皮屑を測定した。10歳以下の小児に対しては本邦における主要な食餌性アレルゲンである卵白、牛乳、大豆も測定した。

 アトピー性疾患はしばしば重複するため、気管支喘息(BA)とアトピー性皮膚炎(AD)をあわせたものをアトピー性疾患群(Atopy)として扱った。

 アトピー性疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性鼻結膜炎、蕁麻疹)の既往がなく、ひとり以上の診察でアトピー性疾患を疑わせる徴候を認めないものを臨床的に非アトピー性疾患とした。しかし、血清総IgE値の上昇(>160IU/ml)してる例やRAST陽性(>0.70UA/ml)例もあり、これらは無症候性アトピー性個体(asymptomaticatopic subject:Asym)として扱った。正常コントロール(Normal)は気管支喘息、アトピー性皮膚炎その他のアトピー性疾患の既往も徴候もなく、血清総IgE値が低値(<160IU/ml)でRAST陰性(<0.35UA/ml)とした。

 統計学的解析はSPSS(R)(SPSS Inc.,Chicago,ILL,USA)を用いて、ノンパラメトリック統計(Mann-Whitney U test、分散分析)を群間比較に、2つのパラメータ間の相関を求めるのにKendall'sτtestを行った。

結果

Study1

 EBV抗体価とアトピー性疾患およびアトピー性疾患に特徴的な指標(IgE,h-RAST,好酸球数)の関係を検討した。

 抗EBNA抗体価は全体としてはアトピー性疾患患者で健常人(臨床的に無症状)と比較して上昇していた。年齢階層別では小児では疾患群で有意差が認められたが、成人では明らかでなかった。

 抗EBV-VCA抗体価は小児では患児で高値をとる傾向が認められたが、成人では関連性が失われていた。

 疾患ごとの検証では、気管支喘息と抗EBV抗体高値が関連性が高かった。

 抗EBNA抗体価とアトピー性疾患と関連する指標(血清総IgE値、h-RAST、末梢血好酸球数)の間には明らかな相関関係が認められた。

 気管支喘息患者では異型リンパ球出現例が多かった。

Study2

 正常ではEBV-DNAは検出されないと考えられていたが、Study1で異型リンパ球がアトピー性疾患(特に喘息患者)で多くの症例に出現していたこと、抗体価陰性患者でも異型リンパ球が認められたことから、白血球中のEBV-DNAコピー数の測定が必要と考えた。

 白血球中のEBV-DNAコピー数、抗EBV-VCA抗体価、抗EBNA抗体価ともアトピー性疾患で上昇していた。年齢調整を行ったアトピー性疾患患者ではむしろEBNA抗体陰性の患者でDNAコピー数、アトピー性疾患と関連する指標共に高値を示した。EBVと同様の感染形態をとり、異型リンパ球を認めるCMV抗体も、EBVと同一検体で測定したが、健常人とアトピー性疾患患者で有意差が認められず、アトピー性疾患の指標(IgE、h-RAST)とも相関がなかった。さらに、抗CMV抗体価と抗EBV抗体価の間にも相関性が認められなかった。

Study3

 本邦における経時的なEBV感染状況の推移を文献的な考察を加えて検討した。1987年の正常者と本研究にエントリーした正常者の抗EBV抗体価を比較すると、全年齢における抗EBNA抗体価と小児における抗EBV-VCA抗体価が最近15年で減少していることが示唆された。

結論

 EBV感染(再活性化)の指標がアトピー性疾患およびIgE抗体等の疾患に特徴的な指標と関連していることが明らかであり、EBV感染とアトピー性疾患の関連性が示唆された。正常人における抗EBV抗体保有率からみた感染状況の経時的変化とアトピー性疾患の増加が関係している可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 気管支喘息やアトピー性疾患は複数の遺伝因子の感受性の差と環境因子が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられている。アトピー性疾患の発症に関連していると考えられるウイルスのうち、Epstein-Barr virus(EBV)の重要性が挙げられていが、EBV抗体高値とアトピー性疾患の間には関連性を示唆する報告と否定する報告がいまだ混在している。本研究はEBV感染とアトピー性疾患の関連性の再検討を試みたものであり、以下の結果を得ている。

 Study1;EBV抗体価と疾患やアトピー性疾患に特徴的な指標との関連を求めた。抗EBNA抗体価はアトピー性疾患患者で健常者)と比較して上昇していた。抗EBV-VCA抗体価は小児では患児で高値をとる傾向が認められたが、成人では関連性が失われていた。疾患ごとの検証では、気管支喘息と抗EBV抗体高値の関連性が高かった。EBNA抗体とアトピー性疾患と関連する指標(血清総IgE値、h-RAST、末梢血好酸球数)の間には明らかな相関関係が認められた。

 Study2;白血球中のEBV-DNAコピー数について同様に検討した。EBV-DNAコピー数、抗EBNA抗体価はアトピー性疾患で対照群と比較して上昇していた。EBV-DNAは健常者には出現しておらず、アトピー性疾患患者および血清学的に無症候者では12.5〜18.5%に認められた。年齢調整を行ったアトピー性疾患患者では、むしろEBNA抗体陰性の患者の方がEBNA抗体陽性患者よりもDNAコピー数、アトピー性疾患と関連する指標共に高値を示した。体内にEBV-DNAを保有することが、アトピー性疾患発症と関係していることが示唆された。

 Study3;本邦正常者における経時的なEBV抗体の推移を検証した。全年齢における抗EBNA抗体価と小児における抗EBV-VCA抗体価が最近15年で減少していることが示唆された。母親由来の抗EBV抗体が少ないために乳児期の抗EBV抗体が低値となり、症状を伴うEBV感染を引き起こす、その症状のひとつとしてアトピー性疾患がある可能性が考えられ、アトピー性疾患急増と関連している可能性が示唆された。

 以上、本論文はアトピー性疾患急増の原因のひとつとしてのEBVの役割を検討したものである。本研究はEBV感染(特に体内のEBV-DNA保有量)とアトピー性疾患の関連性を明らかにしており、アトピー性疾患の機序の解明に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク