学位論文要旨



No 120305
著者(漢字) 関谷,元博
著者(英字)
著者(カナ) セキヤ,モトヒロ
標題(和) ホルモン感受性リパーゼ(HSL)遺伝子欠損はob/obマウスの肥満と脂肪細胞形成を抑制する;HSLの遺伝的肥満モデルにおける役割
標題(洋) Absence of hormone-sensitive lipase(HSL) inhibits obesity and adipogenesis in Lepob/ob mice;impact of HSL on genetical obesity.
報告番号 120305
報告番号 甲20305
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2454号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 助教授 田中,廣壽
内容要旨 要旨を表示する

ホルモン感受性リパーゼ(HSL)は脂肪組織をはじめとする多くの組織においてトリアシルグリセロール(TG)やコレステロールエステル(CE)の水解に中心的な役割を果たしている。レプチン欠損Lepob/obマウスは代表的遺伝的肥満モデルマウスである。肥満モデルにおけるHSLの役割を明らかにするため我々は発生工学的アプローチを用いてレプチン/HSL二重欠損マウス(Lepob/ob/HSL-/-)を作成した。

驚くべきことに同マウスはLepob/obマウスに比較して体重増加が抑制され(26%)、摂食量および脂肪組織重量の減少(58%)が認められた。Lepob/ob/HSL-/-マウスは白色脂肪組織において脂肪前駆細胞の著名な蓄積を認め、脂肪前駆細胞特異的遺伝子群(C/EBPβ、ADRP)の発現は亢進し、成熟脂肪細胞特異的遺伝子群(C/EBPα、PPARγ、ADD-1/SERBP-1)の発現は低下していた。

Lepob/ob/HSL-/-マウスはLepob/obに比して摂食量が減少し(19%)、視床下部レベルでのNPY、AgRPといった摂食促進ニューロペプチドの発現が低下していた。HSLの発現は視床下部レベルでも確認され、遊離脂肪酸の視床下部レベルでの低下が寄与している可能性が考えられた。

Lepob/obマウスは高インスリン血症を呈する2型糖尿病のモデルマウスとしても知られているが、Lepob/ob/HSL-/-マウスはLepob/obマウスに比して食後高血糖を呈し、血中インスリン濃度は低下していた。膵β細胞でもHSLが発現していることが知られており、HSL欠損によるインスリン分泌反応の障害が考えられたため、膵頭単離実験を行ったところ、単離膵頭レベルでもグルコース刺激に対するインスリン分泌反応は低下していた。またLepob/ob/HSL-/-マウスではLepob/obマウスに比して単離膵頭レベルでのトリアシルグリセロール含量が著明に増加していた。またLepob/obマウスは高インスリン血症に伴って膵頭の肥大が生じることが知られているが、HSL欠損によってその肥大は減弱しており、膵頭細胞の増殖が抑制されていた。

Lepob/obマウスは脂肪肝のモデルマウスでもあるが、HSL単独欠損マウスでは若干の肝臓におけるコレステロールエステルの蓄積が認められたが、レプチン/HSL二重欠損マウスでは著名に肝臓にコレステロールエステルが蓄積していた。肝臓における酵素活性を検討したところ、トリアシルグリセロール水解(TGL)活性はHSL欠損によって影響を受けなかったが、コレステロールエステル水解(CEH)活性はHSL欠損によって減弱しており、HSLが肝臓においてもコレステロールエステラーゼとして働いていることが示唆された。

レプチン/HSL二重欠損マウスは上記のとおり脂肪細胞形成、摂食行動、膵β細胞におけるインスリン分泌、肝臓でのコレステロールエステラーゼといった領域におけるHSLの新たな機能を明らかにした。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はトリグリセライドやコレステロールエステル等の中性脂質の水解に重要な役割を果たしているホルモン感受性リパーゼ(HSL)の肥満症における役割をin vivoで明らかにするため、代表的な肥満モデルマウスであるレプチン欠損ob/obマウスとHSL遺伝子欠損マウスを交配することにより、両遺伝子欠損マウスを作成、表現形を解析した。

1.両遺伝子欠損マウスはob/obマウスに比較して体重増加が抑制され、脂肪組織重量が著明に減少していた。組織学的には間質に小細胞の著名な集積を認め、組織染色にてこれらは脂肪前駆細胞であると考えられた。これら小細胞は細胞増殖能の亢進は認められず、また遺伝子発現も脂肪細胞分化が障害されているパターンであったため、HSL欠損によって脂肪細胞分化障害が起こり、間質に前駆細胞が集積したものと考えられた。この分化障害が脂肪組織重量減少の一因であると考えられた。

2.両遺伝子欠損マウスではob/obマウスに見られる摂食の亢進が減弱しており、摂食量の減少が体重減少の一部を担っているものと考えられた。視床下部レベルでのNPY、AgRPといった摂食促進ニューロペプチドの発現が低下していた。HSLは副腎においても発現し、コルチコステロン合成の一部を担っているが、両遺伝子欠損マウスでは血清コルチコステロン濃度はob/obマウスと同程度であり、副腎不全から摂食抑制が生じているのではないと考えられた。HSLは視床下部レベルでも発現していることが、本研究によって新たに明らかにされ、視床下部レベルでの脂肪酸代謝を通じてHSLが摂食に関与している可能性が考えられた。

3.エネルギー消費の評価として深部体温と酸素消費量の測定を行ったが、HSL欠損による効果は認められなかった。摂食効率(摂食量あたりの体重増加率)は両欠損マウスでob/obマウスに比較して著明に減少していたため、体重増加の抑制は摂食量の減少だけでは説明がつかず、脂肪分化障害等の機序も体重減少に寄与しているものと考えられた。

4.HSLは膵臓β細胞でも発現していることが知られているが、両欠損マウスではob/obマウスに比較して摂食後により高血糖であり、血清インスリン濃度は低下していた。インスリン分泌能の低下が考えられたため、コラゲナーゼにより膵島単離実験を行った。単離膵頭レベルでもグルコース応答性のインスリン分泌は低下しており、両欠損マウスでは膵島におけるトリグリセライドの蓄積が認められた。両遺伝子欠損マウスの膵島はob/obマウスに比べてサイズの縮小が認められ、細胞増殖能が低下していた。

5.HSLは肝臓では遺伝子発現が微弱なため、機能していないものと考えられてきたが、両遺伝子欠損マウスでは肝臓にコレステロールエステルの著明な蓄積が認められ、蛋白レベルの解析でも肝臓におけるHSLの発現を確認した。HSL欠損によって肝臓でのトリグリセライド水解活性は影響されなかったが、コレステロールエステル水解活性は減弱していた。HSLは肝臓においてはコレステロールエスラーゼとして働いていることが明らかにされた。

以上、本論文は脂肪細胞分化、摂食、膵β細胞でのインスリン分泌、肝臓でのコレステロールエステラーゼといった領域でのHSLの新しい機能を明らかにした。肥満症・2型糖尿病の急増が大きな医学界の問題となっている現代において、これらHSLの肥満症における新しい役割を明らかにしたことは重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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