学位論文要旨



No 120315
著者(漢字) 鄭,雅南
著者(英字) Zheng,Yanan
著者(カナ) テイ,ヤアナン
標題(和) 腎近位尿細管管腔側アンジオテンシンIIタイプ1A受容体による重炭酸再吸収の二相性調節
標題(洋) Biphasic regulation of renal proximal bicarbonate absorption by luminal AT1A receptor
報告番号 120315
報告番号 甲20315
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2464号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 講師 関根,孝司
 東京大学 講師 野入,英世
 東京大学 講師 安東,克之
 東京大学 講師 福本,誠二
内容要旨 要旨を表示する

 アンジオテンシンII(Ang II)は心・血管系ならびに腎臓に作用し、血圧および体液量の調節機構において極めて重要な役割を担っている。 Ang IIは一般に腎臓からのナトリウム再吸収を促進する方向に作用すると考えられているが、近位尿細管においては二相性の作用を示すことが示されている。 すなわち低濃度(10-10 mol/l程度)のAng IIは促進的に働き、逆に高濃度(10-6 mol/l程度)のAng IIは抑制的に働くことが示されている。 従来からこれらのAng II作用を媒介する受容体の種類については異なる結果が報告され、議論が分かれていた。 この問題に関して最近我々は、Ang IIを近位尿細管基底側から添加した際に生じる、Na-HCO3共輸送体に対する二相性の調節反応がAng IIの1Aタイプ受容体(AT1A)を介していることを証明し、報告した。 しかしAng IIは近位尿細管管腔側からも二相性作用を有することが知られており、やはりその作用を媒介する受容体について明確な結論が出ていない。 本研究ではAng IIの管腔側作用を司る受容体の種類を同定することにした。

 まずマウスから単離した近位尿細管を微小潅流し、Stop-flow microfluorometry法にて重炭酸再吸収量(JHCO3)を測定し、管腔側へのAngII添加の作用を検討した。 野生型マウスにおいてJHCO3は10-10 mol/l Ang IIにより42% 増加したが、10-8 mol/l Ang IIにより変化せず、10-6 mol/l AngIIにより32% 減少した。このAng IIの二相性作用は共にAT1受容体の選択的阻害剤であるvalsartanにより完全に消失したが、AT2受容体阻害剤であるPD123,319により全く影響を受けなかった。 一方、AT1A欠損マウスにおいてJHCO3は10-10、10-8 および10-6 mol/l Ang IIにより影響を受けなかった。

 次にAng IIの近位尿細管作用において重要と考えられている細胞内情報伝達経路を調べる目的で、PKC活性化物質(PMA)とアラキドン酸(A.A.)に対する反応を検討した。 その結果、野生型とAT1A欠損マウスにおいてPMAによるJHCO3増加作用に差は認めず、またA.A.によるJHCO3減少作用にも差を認めなかった。これらの結果はAT1A欠損マウスにおいて細胞内情報伝達物質に対する反応は正常に保たれていることを示唆している。

 また次に管腔側Ang IIによる細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の変化を検討した。野生型マウスにおいて10-6 mol/l Ang IIはスパイク状の[Ca2+]i上昇反応を生じ、この反応はvalsartanによりほぼ完全に抑制されたが、PD123,319により影響を受けなかった。 一方、AT1A欠損マウスにおいてはAng IIによる[Ca2+]i上昇反応を全く認めなかった。

 以上よりAng IIの近位尿細管管腔側からの重炭酸再吸収に対する二相性作用はAT1A受容体によることが示され、AT2受容体の関与を支持する結果は得られなかった。

審査要旨 要旨を表示する

 Ang IIは一般に腎臓からのナトリウム再吸収を促進する方向に作用すると考えられているが、近位尿細管においては二相性の作用を示すことが示されている。 本研究ではAng IIの管腔側作用を司る受容体の種類を同定することにした、下記の結果を得ている。

1.まずマウスから単離した近位尿細管を微小潅流し、Stop-flow microfluorometry法にて重炭酸再吸収量(JHCO3)を測定し、管腔側へのAngII添加の作用を検討した。 野生型マウスにおいてJHCO3は10-10 mol/l Ang IIにより42% 増加したが、10-8 mol/l Ang IIにより変化せず、10-6 mol/l AngIIにより32% 減少した。このAng IIの二相性作用は共にAT1受容体の選択的阻害剤であるvalsartanにより完全に消失したが、AT2受容体阻害剤であるPD123,319により全く影響を受けなかった。 一方、AT1A欠損マウスにおいてJHCO3は10-10、10-8 および10-6 mol/l Ang IIにより影響を受けなかった。

2.次にAng IIの近位尿細管作用において重要と考えられている細胞内情報伝達経路を調べる目的で、PKC活性化物質(PMA)とアラキドン酸(A.A.)に対する反応を検討した。 その結果、野生型とAT1A欠損マウスにおいてPMAによるJHCO3増加作用に差は認めず、またA.A.によるJHCO3減少作用にも差を認めなかった。これらの結果はAT1A欠損マウスにおいて細胞内情報伝達物質に対する反応は正常に保たれていることを示唆している。

3.また次に管腔側Ang IIによる細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の変化を検討した。野生型マウスにおいて10-6 mol/l Ang IIはスパイク状の[Ca2+]i上昇反応を生じ、この反応はvalsartanによりほぼ完全に抑制されたが、PD123,319により影響を受けなかった。 一方、AT1A欠損マウスにおいてはAng IIによる[Ca2+]i上昇反応を全く認めなかった。

 以上よりAng IIの近位尿細管管腔側からの重炭酸再吸収に対する二相性作用はAT1A受容体によることが示され、AT2受容体の関与を支持する結果は得られなかった。本研究はAng IIにおける腎臓への影響の機理の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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