No | 120320 | |
著者(漢字) | 堀田,晶子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ホリタ,ショウコ | |
標題(和) | アンジオテンシンIIは基底側AT1A受容体を介してNBC1活性を調節する | |
標題(洋) | Biphasic Regulation of Na+-HCO3- Cotransporter by Angiotensin IIType 1A Receptor | |
報告番号 | 120320 | |
報告番号 | 甲20320 | |
学位授与日 | 2005.02.10 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2469号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | アンジオテンシンII (AngII) は心・血管系並びに腎臓において,血圧・体液量の調節において極めて重要な作用を及ぼしている。AngIIは一般に腎臓からのナトリウム再吸収を促進する方向に作用すると考えられているが,近位尿細管において二相性の作用を示すことが示されている。即ち,低濃度(10-10 mol/l程度)のAngIIは促進的に働き,逆に高濃度(10-6 mol/l程度)のAngIIは抑制的に働くことが示されている。AngIIの作用する受容体には,AT1受容体とAT2受容体が知られており,そのうちAT1受容体はAT1A受容体とAT1B受容体に分かれている。腎臓においてはAT1A受容体のほうがはるかに多く存在する。以前からこれらのAngIIの二相性作用を媒介する受容体の種類については,異なる結果が報告されており,議論が分かれていた。特に高濃度AngIIによる抑制作用については,AT1受容体とする説とAT2受容体が介するとする説とが対立していた。この点を明確にするため,我々は以下に述べるような実験を行った。 まずマウスから単離した近位尿細管を微小潅流し,管腔側をcollapseさせた状態にして蛍光色素を用いて細胞内pHを測定することにより細胞内NBC (Na+-HCO3- cotransporter) 活性を測定し,基底側へのAngII添加の作用を検討した。野生型マウスにおいてNBC活性は10-10 mol/l AngII添加により28%増加したが,10-8 mol/l AngIIにより変化せず,10-6 mol/l AngIIにより28%減少した。このAngIIの二相性作用は共にAT1受容体の選択的阻害剤であるvalsartanにより完全に消失したが,AT2受容体阻害剤であるPD123,319により全く影響を受けなかった。一方,AT1A欠損マウスにおいては,10-10,10-8 mol/l AngIIによる作用は完全に消失したが,10-6 mol/l AngIIによりNBC活性は18%増加した。valsartanにより10-6 mol/l AngIIによるNBC活性化作用は完全に消失したが,PD123,319はこの作用に全く影響を及ぼさなかった。 次に基底側AngIIによる細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の変化を検討した。野生型マウスにおいて10-8,10-6 mol/l AngIIはスパイク状の[Ca2+]i上昇反応を生じ,この反応はvalsartanによりほぼ完全に抑制されたが,PD123,319により影響を受けなかった。一方,AT1A欠損マウスにおいてはAngIIによる[Ca2+]i上昇反応を全く認めなかった。 また次にAngIIの近位尿細管作用において重要と考えられている細胞内情報伝達経路を調べる目的で,PKC1活性化物質(PMA)とアラキドン酸(A.A.)に対する反応を検討した。その結果,野生型とAT1A欠損マウスにおいてPMAによるNBC作用の促進に差は認めず,またA.A.によるNBC抑制作用にも差を認めなかった。これらの結果は,AT1A欠損マウスの尿細管においては,PMA,A.A.に対する反応は野生型と同様に保たれていることを示している。 以上よりAngIIの近位尿細管基底側からの二相性作用はAT1A受容体によることが示され,AT2受容体の関与を支持する結果は得られなかった。 | |
審査要旨 | アンジオテンシンII(AngII)は心・血管系ならびに腎臓に作用し,血圧・体液量の調節において極めて重要な作用を及ぼしている。本研究は,AngIIの近位尿細管基底側における作用について,特に議論が分かれていた高濃度(10-6mol/l)のAngIIによる抑制作用に関して,AT1A受容体とAT1B受容体のどちらを介したものか明らかにするため,野生型及びAT1A欠損マウスを用いて,AngIIが作用する受容体の特定を試みたものであり,下記の結果を得ている。 1.マウスから単離した近位尿細管を微小潅流し,管腔側をcollapseさせた状態にして蛍光色素を用いて細胞内pHを測定することにより近位尿細管基底側NBC (Na+-HCO3- cotransporter) 活性を測定し,基底側へのAngII添加の作用を検討した。野生型マウスにおいてNBC活性は10-10 mol/lのAngII添加により28%増加したが,10-8 mol/lのAngIIにより変化せず,10-6 mol/lのAngIIにより28%減少した。 2.AT1受容体の選択的阻害剤であるvalsartanおよびAT2受容体の選択的阻害剤であるPD123,319を添加し,同様の実験を行ったところ,AngIIの二相性作用は共にvalsartanにより完全に消失したが,PD123,319により全く影響を受けなかった。 3.AT1A欠損マウスを用いて同様の実験を行ったところ,10-10,10-8 mol/lのAngIIによる作用は完全に消失したが,10-6 mol/lのAngIIによりNBC活性は18%増加した。valsartanにより10-6 mol/lのAngIIによるNBC活性化作用は完全に消失したが,PD123,319はこの作用に全く影響を及ぼさなかった。 4.基底側AngIIによる細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の変化を検討した。野生型マウスにおいて10-8,10-6 mol/lのAngIIはスパイク状の[Ca2+]i上昇反応を生じ,この反応はvalsartanによりほぼ完全に抑制されたが,PD123,319により影響を受けなかった。一方,AT1A欠損マウスにおいてはAngIIによる[Ca2+]i上昇反応を全く認めなかった。 5.AngIIの近位尿細管作用において重要と考えられている細胞内情報伝達経路に対する反応性を調べる目的で,PKC1活性化物質(PMA)とアラキドン酸(A.A.)に対する反応を検討した。その結果,野生型とAT1A欠損マウスにおいてPMAによるNBC促進作用に差は認めず,またA.A.によるNBC抑制作用にも差を認めなかった。これらの結果は,AT1A欠損マウスの尿細管においては,PMA,A.A.に対する反応は野生型と同様に保たれていることを示している。 以上,本論文により,AngIIの近位尿細管基底側からの二相性作用はAT1A受容体によることが示され,AT2受容体の関与を支持する結果は得られなかった。 本研究は,これまで論争となっていた,近位尿細管基底側からのAngIIの二相性作用について,AT1受容体が媒介し,AT2受容体が関与する証拠は認められないことを示した。また,近位尿細管再吸収,高血圧発症のメカニズムにおいてAngII,NBC,valsartanの役割を明らかにした。本研究は,高血圧の予防,治療において重要な貢献をするものと考えられ,学位の授与に値すると考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |