学位論文要旨



No 120329
著者(漢字) 庄嶋,伸浩
著者(英字)
著者(カナ) ショウジマ,ノブヒロ
標題(和) レジスチンの3T3-L1脂肪細胞およびマウスにおける体液性調節
標題(洋) Humoral regulation of resistin expression in 3T3-L1 and mouse adipose cells
報告番号 120329
報告番号 甲20329
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2478号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 門脇,孝
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 教授 栗原,裕基
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
内容要旨 要旨を表示する

【目的】

 肥満は、先進諸国において急増しており、糖尿病や動脈硬化の原因として、健康への影響が増大している。一方で、脂肪細胞は単なるエネルギー貯蔵庫でなく、多くの生理活性物質を分泌しインスリン抵抗性に関与することがわかってきた。インスリン抵抗性に関するものとしてTNFαや遊離脂肪酸、インスリン感受性に関するものとしてアディポネクチン、レプチンなどが注目されてきた。レジスチンは、脂肪細胞から分泌される12kDaの新規分子で6量体を形成し、高脂肪食や遺伝子異常による肥満とインスリン抵抗性を呈するマウスで増加する。レジスチンの投与によりインスリン抵抗性が惹起されることから、肥満に伴うインスリン抵抗性に関与していると考えられている。しかし、肥満に伴うインスリン抵抗性における、レジスチン発現増加のメカニズムは不明である。また、肥満以外のインスリン抵抗性の病態への関与は明らかでない。そこで、糖質や糖代謝に影響する種々のホルモンによるレジスチン発現の調節について検討した。

【方法】

 3T3-L1線維芽細胞を0.5 mmol/lの3-isobutyl-1-methylxanthine, 4μg/mlのデキサメサゾンにより分化させ、その後10% fetal bovine serumを含む培地で4〜10日間培養し脂肪細胞に成熟させた。成熟した3T3-L1脂肪細胞を、その培地に糖代謝に関連する物質(糖質、インスリン、グルココルチコイド、TNFα、チアゾリジン系薬剤トログリタゾン、エピネフリン、成長ホルモン)を濃度や時間を変えて投与した。それぞれの刺激物質の最高濃度は、糖質 25mM、インスリン 100mM、グルココルチコイド 1μM、TNFα 100ng/ml、トログリタゾン10μmol/l、エピネフリン 1μM、成長ホルモン 200ng/mlであった。最大刺激時間は24時間で行った。刺激後,細胞を回収した。

 mRNA量はRPA(RNase protection assay)により評価した。蛋白量は抗レジスチン抗体で免疫沈降後ウエスタンブロットにより評価した。グルココルチコイドに関しては、10mg/kgをマウスに5日間筋肉注射して、12〜14時間絶食後、脂肪組織におけるレジスチンのmRNA量、蛋白量の変化を評価した。マウス血中TNFα濃度は、ELISAにより測定した。Studentのt検定を行い、P<0.05を有意とした。

【結果】

 Flagタグを融合させたレジスチンを、COS-7細胞に過剰発現させ、抗Flag抗体と抗レジスチン抗体でウエスタンブロットを行った。抗Flag抗体と同様に、抗レジスチン抗体により、還元状態では12kDa、非還元状態では多量体形成と考えられる24kDa, 72kDaバンドが認められ、レジスチンへの特異性が確認できた。

 インスリンや糖によるレジスチン発現への影響を検討した。100mMのインスリンで24時間刺激すると、3T3-L1脂肪細胞でレジスチンmRNAと蛋白はそれぞれ、37%と30%の有意な減少(P<0.005)を認めた。24時間の25mmol/lの糖刺激では、5mmol/lでの糖刺激に比較して、脂肪細胞のレジスチンmRNAと蛋白をそれぞれ、50%と35%の有意な増加(P<0.005)を認めた。

 最大1μmol/lのグルココルチコイド投与により、レジスチンのmRNA量と蛋白量はそれぞれ3T3-L1脂肪細胞において3.3倍と1.5倍(P<0.005)と増加した。さらに、10mg/kgを5日間筋肉注射したマウスの脂肪組織では、コントロールに比較して,レジスチンのmRNA量と蛋白量はそれぞれ70%と80%の増加(P<0.005)を認めた。グルココルチコイド投与マウスにおいては、血糖値に有意差はなかったが、血中インスリン濃度は2.9±1.0μU/dl(コントロールマウスでは0.8±1.0μU/dl)と増加しており、インスリン抵抗性の状態にあると考えられた。また、血中TNFα濃度はグルココルチコイド投与マウスにおいて4.08±2.98pg/ml、コントロールマウスにおいて3.62±1.18pg/mlと有意差を認めなかった。

 TNFαやチアゾリジン系薬剤による刺激のレジスチン発現への影響を検討した。100ng/mlのTNFαの刺激により、刺激後3時間から3T3-L1脂肪細胞のレジスチンは減少傾向にあり、24時間後にはmRNAと蛋白量をそれぞれ77%と80%の著明な減少(P<0.005)を認めた。また、24時間のTNFαの刺激では、10ng/mlと100ng/mlのTNFα濃度において、有意な減少(P<0.005)を認めた。24時間の10μmol/lのトログリタゾンの刺激により、3T3-L1脂肪細胞のレジスチンmRNAと蛋白量を、ともに著明に約80%減少(P<0.005)させた。

 エピネフリンや成長ホルモンによるレジスチンの発現変化を検討した。3T3-L1脂肪細胞でレジスチンmRNAと蛋白はそれぞれ、24時間の1μmol/lのエピネフリンにより48%と38%と中等度の減少(P<0.05)を認めた。同様に、24時間の200ng/mlの成長ホルモンにより、脂肪細胞でレジスチンmRNAと蛋白はそれぞれ42%と29%と中等度の減少(P<0.05)を認めた。

 糖やグルココルチコイドのレジスチン増加に対する、インスリンやTNFαの影響を検討した。グルココルチコイドによるレジスチンmRNAと蛋白量の増加はそれぞれ186%と152%であったが、100nmol/lのインスリンで同時に刺激することで、全ての刺激なしのコントロールと同程度まで、有意に増加を抑制(P<0.005)した。100ng/mlのTNFαを糖やグルココルチコイドと同時に刺激すると、全ての刺激なしのコントロールに比較してどちらも約70%減と、著明に減少(P<0.005)させた。

【考察】

 インスリン抵抗性は、遺伝的素因に加え、肥満、運動不足、炎症など環境要因が組み合わさってひきおこされる。肥満とインスリン抵抗性の関連について精力的に研究されている。脂肪細胞は、TNFαやアディポネクチンなどを分泌し、末梢組織でのインスリン抵抗性を調節する。レジスチンも脂肪から分泌され、肥満に関連するインスリン抵抗性をひきおこすホルモンとして同定された。また、チアゾリジン系薬剤はインスリン抵抗性改善薬であるが、転写因子PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)に結合して作用する。チアゾリジン系薬剤はレジスチンの発現を抑制することがわかっており、レジスチンはチアゾリジン系薬剤によるインスリン抵抗性改善にも関与していると考えられる。

 そこで、インスリン抵抗性に関連する様々な因子の、レジスチン発現への関与を検討した。培養脂肪細胞において、糖刺激ではレジスチンが増加し、逆にインスリン刺激では減少した。糖尿病は高血糖と高インスリン血症が同時に存在する時期があり、糖とインスリンの影響のバランスによりレジスチンが調節されると思われる。また、インスリンの持つレジスチンの発現抑制作用が減弱し、レジスチンが増加してインスリン抵抗性の状態が形成される、という可能性も考えられる。糖尿病でインスリン分泌の枯渇した状態では、高血糖に比して血中インスリン濃度が低いため、レジスチンが増加してインスリン抵抗性を助長すると思われる。

 グルココルチコイドにより培養脂肪細胞のみならずマウス脂肪組織においてもレジスチンが増加することがわかった。グルココルチコイドは、インスリンの受容体との結合、IRS-1(insulin receptor substrate-1)のリン酸化、グルコーストランスポーターの細胞表面への移動に関与して、インスリン抵抗性をひきおこす。副腎皮質ホルモンの局所での活性酵素である11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1 (11β-HSD)の欠損マウスでは、レジスチンが低下しており、今回の結果と一致した。レジスチンは肝臓での糖産生を増加させることがわかっており、グルココルチコイドによる肝臓での糖産生作用は、レジスチンを介す可能性が考えられる。さらに、ヒトにおいてもクッシング症候群でインスリン抵抗性を呈す女性14人で、血中レジスチンは著明に高値であった。今後、レジスチンノックアウトマウスやレジスチン中和抗体を用いて、グルココルチコイドに伴うインスリン抵抗性へのレジスチンの関与をさらに解明したい。

 本実験の結果の中で、TNFαが強いレジスチン抑制作用をもつことは興味深い。しかし、in vitroにおけるTNFαによるレジスチンの抑制効果は、in vivoでは確認されていない。2型糖尿病患者における血中レジスチンは、血中可溶性TNFα受容体濃度とよく相関し、ヒトマクロファージではTNFα刺激によりレジスチン発現が増加する。また、TNFα欠損マウスにおいても、高脂肪食により肥満すると、血中レジスチンが対照群と同様に増加したと報告がある。このin vitro とin vivoにおける違いの理由は大きく2つ考えられる。第1に、脂肪細胞肥大化によるレジスチン増加作用が、TNFαによるレジスチン抑制作用よりも強い可能性がある。第2に、TNFαのシグナルと効果の多様性が原因と考えられる。レジスチン発現を強く誘導するLPS刺激は、NFκBを介していると考えられる。そのためTNFα刺激においては、TNFR1-TRAF2-NFκB経路はレジスチンを増加させるが、もう一方のTNFR1-FADD経路はレジスチンを減少させる可能性がある。これらの可能性について、解明が必要である。

 エピネフリンや成長ホルモンはインスリン抵抗性と関連がある。エピネフリンと成長ホルモンは、中等度のレジスチン抑制効果がある。エピネフリンは、αとβ受容体をどちらも活性化する。脂肪組織においては、βアドレナリン受容体に加え、α2アドレナリン受容体が発現しており、それぞれ脂肪分解、脂肪分解抑制と逆の作用がある。イソプロテレノールが選択的にβ受容体とGs蛋白を介してレジスチンの発現を減少させるが、レジスチンの発現にはα受容体の関与は少ないという報告と合致する。レジスチンのエピネフリンや成長ホルモンによるインスリン抵抗性への関与は小さいと思われる。

 今までに報告された3種類のレジスチントランスジェニックマウスの表現系から、レジスチンはendocrineまたはpara/autocrineにより、肝臓・脂肪・筋肉におけるインスリン抵抗性に関与していると考えられる。ノックアウトマウスの体重や脂肪分布への影響に著明なものはなく、レジスチンの肥満や内臓脂肪への影響は限られたものであると思われる。レジスチン発現アデノウイルス静注マウスでは、脂質代謝異常も認められた。高血圧については、今後の検討が必要である。レジスチンは、炎症により誘導されるため、動脈硬化への関与も考えられる。ヒトにおいては、糖尿病患者と耐糖能異常の白人77人において、レジスチンの血中濃度が、炎症系のマーカーであるCRPと正の相関があった。培養内皮細胞でのvascular cell adhesion molecule (VCAM-1)やケモカイン monocyte chemoattractant chemokine (MCP-1) の発現を惹起し、動脈硬化を進展する。レジスチンはVCAM-1やICAM-1を誘導し、この誘導はアディポネクチンにより打ち消される。これらの結果から、レジスチンは、過食や運動不足などの環境の下、肥大脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性と脂質代謝異常を介して、また直接に動脈硬化へ関与し、Metabolic Syndromeを形成する一因となっていることが考えられた。

【結語】

レジスチンは、脂肪から分泌される新しいホルモンであるが、糖そのものに加えて糖代謝に関わる様々なホルモンや転写因子により制御されていた。高血糖、グルココルチコイドによりレジスチンが増加し、チアゾリジン系薬剤によりレジスチンが減少することから、レジスチンはインスリン抵抗性の原因となるホルモンであると考えられた。最近、レジスチン欠損マウスでは、肝臓のインスリン感受性増加により低血糖をきたすことが報告されており、本研究と合致する結果であった。今後、ステロイドによるインスリン抵抗性へのレジスチンの関与を、レジスチンノックアウトマウスや中和抗体を用いて検討したい。また、腸管や骨髄から分泌されるレジスチンのファミリーに関しても、糖代謝において重複した作用を持っていることがわかってきた。レジスチンとインスリン抵抗性の関係を明らかにすることで、糖尿病の新たな治療法の開発に結びつく可能性があると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は肥満とインスリン抵抗性において重要な役割を演じていると考えられるレジスチンの役割を明らかにするため、マウス3T3-L1培養脂肪細胞およびマウス脂肪組織において、糖代謝に影響するホルモンによるレジスチンの発現調節の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1 . 抗レジスチン抗体は、COS-7細胞に発現させたFlagタグ融合レジスチンを特異的に認識した。レジスチンは、還元状態で単量体であるが、非還元状態で多量体を形成した。

2 . 3T3-L1脂肪細胞をインスリンで刺激すると、レジスチンmRNAと蛋白はともに有意な減少を認めた。一方で、糖刺激では、レジスチンの有意な増加を認めた。

3 . デキサメサゾン投与により、刺激時間・刺激濃度依存的に、レジスチンのmRNA量と蛋白量は3T3-L1脂肪細胞において著明に増加した。

4 . この結果は、マウス脂肪組織においても確認された。インスリン抵抗性を呈したデキサメサゾン投与マウスの脂肪組織において、レジスチンのmRNA量と蛋白量は有意な増加を認めた。レジスチンのプロモーター領域におけるグルココルチコイド応答配列の存在は不明だが、ステロイド誘発性糖尿病へのレジスチンの関与が強く示唆された。

5 . インスリン抵抗性に関わるTNFαの刺激開始数時間から、3T3-L1脂肪細胞におけるレジスチンは、著明な減少を認めた。実際のマウス脂肪組織において、TNFαによるレジスチン発現抑制は認められないが、脂肪細胞肥大化そのものの影響が、TNFα刺激の影響を上回ることが原因と考えられた。

6 . チアゾリジン系薬剤は脂肪細胞小型化を促し、インスリン抵抗性を改善する。トログリタゾンによる刺激で、3T3-L1脂肪細胞におけるレジスチンが著明に減少した。この結果は、最近の遺伝子改変マウスの解析により明らかとなってきた、レジスチンのインスリン抵抗性惹起因子としての役割に、よく合致していた。

7 . エピネフリンはαまたはβアドレナリン受容体を介して脂肪分解に関与するが、3T3-L1脂肪細胞においては、エピネフリンによりレジスチンは有意な減少を認めた。また、成長ホルモン投与においては、脂肪細胞でレジスチンの発現は有意な減少を認めた。

8 . 最後に、同時刺激によるレジスチンの発現を検討した。グルココルチコイドとインスリンの同時刺激により、未刺激のコントロールと同程度となった。また、TNFαは糖やグルココルチコイドと同時に刺激すると、著明に減少させた。

 以上、本論文はマウス脂肪組織において、様々なホルモンや薬剤によるレジスチンの発現調節の解析から、レジスチンが特にグルココルチコイドによるインスリン抵抗性に関与すること、さらにメタボリックシンドロームの形成に関与する可能性を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、レジスチンの調節機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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