No | 120346 | |
著者(漢字) | 安戸,裕貴 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤスド,ヒロキ | |
標題(和) | 自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120346 | |
報告番号 | 甲20346 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2495号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生殖・発達・加齢医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 研究目的) 軽鎖非存在下で細胞膜表面に発現する軽鎖非依存性μ重鎖がpreB ALL、自己免疫疾患および免疫不全疾患発症に関与する可能性を示唆する報告がされている。今回の研究では、軽鎖非依存性μ重鎖と自己免疫疾患との関係に着目し、自己免疫疾患モデルマウスであるMRL/+マウスおよびMRL/1prマウスの骨髄、脾臓内における軽鎖非依存性μ重鎖の分布を免疫沈降法、ウェスタンブロット法、およびELISA法を用いて検討し、疾患との関連性を解明することを目的とした。 方法) 軽鎖非依存性μ重鎖の存在の有無については、免疫沈降法、ウェスタンブロット法により評価した。検討対象として、免疫不全モデルマウスのλ5(-)マウスを使用した。また、正常モデルマウスおよび自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖の存在の有無については、正常モデルマウスとしてC3Hマウスを自己免疫疾患モデルマウスとしてMRL/+マウスを使用した。これらのIgM(-)骨髄細胞を採取し、mRNAの抽出および、 cDNAへの逆転写合成を行った。cDNAからRT-PCRにより、重鎖遺伝子可変領域をクローニングし、分泌型μ重鎖定常領域を含む発現ベクターに挿入し、多様な可変領域を含む分泌型μ重鎖発現ベクターを作成した。これらのμ重鎖発現ベクターをCOS7細胞にて一過性発現させ、細胞内ならびに培養上清中のμ蛋白の存在の有無を評価した。 次に、軽鎖非依存性μ重鎖の分布の評価にあたっては、ELISA法により評価した。検討対象は、自己免疫モデルマウスとして、MRL/+マウスおよび、Fasに変異を有するMRL/1prマウス、また、正常モデルマウスとしてC3Hマウスを用いた。また、骨髄細胞はB220(+)IgM(-)CD43(+)CD25(-)であるプロB細胞と、B220(+) IgM(-)CD43(-)CD25(+)であるプレB細胞とに分け、脾臓細胞も検討対象とした。これらの細胞を用いて、先程と同様な方法で、分泌型μ重鎖発現ベクターを作成し、COS7細胞にて一過性発現させ、cell lysate中および上清中のμ蛋白の濃度を測定した。また、定量化のため、μ分泌率を上清中のμ蛋白量をcell lysate中のμ蛋白量で割り、百分率化したものとして定義した。軽鎖非依存性の基準として、正常マウスC3Hマウスの脾臓細胞由来のμ重鎖のうち、最も分泌率が高かったクローンのμ分泌率を採用した。この基準値を越える分泌率を示すμ重鎖を軽鎖非依存性μ重鎖、基準値以下の分泌率を示すクローンを軽鎖依存性μ重鎖と定義した。 検討をした分泌型μ重鎖のVH7183 familyの全領域とCDR3領域の塩基配列は、ABI Big Dye Terminator Cycle Sequencing kit (PE Applied Biosystems, Tokyo , Japan)、ABI model 310 automated sequencerを用いて解読した。 実験結果) 今回の研究で自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖の分布を免疫沈降法、ウェスタンブロット法およびELISA法により評価した結果、以下の事柄が判明した。 1) マウス軽鎖非依存性μ重鎖をλ5(-)マウスの骨髄より同定した。 2) ELISA法による軽鎖非依存性μ重鎖の検討の結果、以下のことがわかった。 a) 正常モデルマウスの骨髄プロB細胞において軽鎖非依存性μ重鎖が存在した。 b) 自己免疫疾患マウスの骨髄細胞や脾臓細胞において、正常マウスと比較して、軽鎖非依存性μ重鎖が高頻度に存在した。 3) マウス軽鎖非依存性μ重鎖のシークエンスの特徴から以下のことが判明した。 a) VH7183.3j1、RF3が頻用される傾向にある。 b) CDR3領域内の陽性荷電の数が増加し、陰性荷電の数が減少していた。 c) CDR3領域内において、アルギニンが、95番目、100番目のアミノ酸の位置で使用されている特徴が認められた。 考察) CDR3領域の短いマウスにおいても、ヒトと同様にλ5(-)マウスや正常マウスの骨髄で、軽鎖非依存性μ重鎖が存在することが判明した。 自己免疫疾患モデルマウスであるMRL/+マウスおよびMRL/1prマウスの骨髄細胞と脾臓細胞において、軽鎖非依存性μ重鎖が高頻度に存在することが認められたことから、自己免疫疾患モデルマウスでは、軽鎖非依存性μ重鎖が早期のnegative selectionを受けず、末梢へと流出していることが考えられた。このことから、自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖のregulationの異常が自己免疫疾患の発症と関わっている可能性が考えられた。 また、マウス軽鎖非依存性μ重鎖の特徴として、CDR3領域内の陰性荷電アミノ酸の数が減少していたことから、CDR3領域内で陽性荷電アミノ酸の使用に制約があるマウスでは、CDR3領域内の陰性荷電の数を減らして、相対的に陽性に帯電することで、軽鎖非依存性の性質が維持されていることが推定された。また、CDR3領域内の特定のアミノ酸の位置でアルギニンが使用されやすいことから、マウスの軽鎖非依存性の性質獲得には、CDR3領域内の特定の位置でアルギニンが存在することが重要であることが推定された。 結語) 軽鎖非依存性μ重鎖が、プロB細胞からプレB細胞での早期B細胞分化の段階でのnegative selectionを受けない場合に、腫瘍疾患、自己免疫疾患および免疫不全症などの様々な疾患をもたらす可能性が想定される。今回の研究で、自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖のregulationの異常が自己免疫疾患の発症と関わっている可能性を示唆した。自己免疫モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖の分布を評価し、軽鎖非依存性μ重鎖の機能解析をおこなうことは、自己免疫疾患の解明に寄与するのみならず、腫瘍疾患、免疫不全症などにおける未知の疾患の病態解明にも貢献すると思われる。 | |
審査要旨 | 本研究は、自己免疫疾患の発症に、初期B細胞の段階における遺伝子再構成により産生される軽鎖非依存性μ重鎖が関与している可能性を明らかにするために、λ5(-)マウス、MRL/+マウス、MRL/1prマウス、およびC3Hマウスの骨髄、脾臓由来のμ重鎖を軽鎖非存在下でCOS7細胞にトランスフェクションし、細胞中、上清中のμ蛋白を、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ELISA法にて評価する系にて、軽鎖非依存性μ重鎖の分布の解析を試みたものであり、以下の結果を得ている。 1.λ5(-)マウスのIgM(-)骨髄由来の、μ重鎖を有する発現ベクターを軽鎖非存在下で、COS7細胞にトランスフェクションし、免疫沈降法、ウェスタンブロット法により評価したところ、細胞中のみならず、上清中でもμ蛋白が存在するクローンが認められた。このことから、λ5(-)マウスのIgM(-)骨髄において、軽鎖非依存性μ重鎖が存在することが発見された。 2.MRL/+マウスおよびC3HマウスのIgM(-)骨髄細胞由来のμ重鎖で、同様に、免疫沈降法、ウェスタン法にて評価したところ、C3Hマウス由来の20クローンでは、いずれも、上清中にμ蛋白が存在しなかったのに対して、MRL/+マウスでは、検討した19クローンのうち、4クローンで細胞中のみならず、上清中にもμ蛋白が存在することが示された。このことから、MRL/+マウスのIgM(-)骨髄細胞では、軽鎖非依存性μ重鎖が高頻度に存在することが示された。 3.自己免疫疾患モデルのMRL/+マウス、MRL/1prマウスおよび正常マウスのC3HマウスのプロB細胞、プレB細胞、および脾臓細胞由来のμ重鎖を用いて、トランスフェクションをし、ELISA法にて解析したところ、C3HマウスではプロB細胞期のみ軽鎖非依存性μ重鎖が存在していたのに対し、MRL/+マウスおよびMRL/1prマウスでは、プロB細胞のみならず、プレB細胞や脾臓細胞においても軽鎖非依存性μ重鎖が高頻度に存在することが認められたことから、自己免疫疾患モデルマウスでは、軽鎖非依存性μ重鎖が早期のnegative selectionを受けず、末梢へと流出していることが考えられた。このことから、自己免疫疾患モデルマウスにおける軽鎖非依存性μ重鎖のregulationの異常が自己免疫疾患の発症と関わっている可能性が考えられた。 4.ELISA法により、マウス軽鎖非依存性μ重鎖のシークエンスを解析したところ、V領域は、特定のVH7183.3j1が、D領域はRF3が高頻度に使用される傾向にあり、また、CDR3領域内の陽性荷電の数が増加し、陰性荷電の数が減少している傾向にあった。更に、CDR3領域内において、アルギニンが、95番目、100番目のアミノ酸の位置で使用されている特徴が認められた。 以上のことから、マウスの軽鎖非依存性μ重鎖は、陽性荷電アミノ酸の数を増加し、陰性荷電アミノ酸を減少させることで、CDR3領域内全体が陽性に帯電することや、CDR3領域内の特定のアミノ酸の位置でアルギニンが使用されることが、軽鎖非依存性の維持に重要な役割を示すことが示された。 以上、本論文は、マウスの骨髄においても、ヒトの場合と同様に、軽鎖非依存性μ重鎖が存在することを示し、また、自己免疫モデルマウスの骨髄、脾臓において、軽鎖非依存性μ重鎖の分布に異常が認められることを示した。本研究は、自己免疫疾患の発症に軽鎖非依存性μ重鎖が関与していることを示唆することを始めて明らかにした研究であり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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