No | 120365 | |
著者(漢字) | 陳,沁 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チン,シン | |
標題(和) | 排尿機能におけるα1-アドレナリン受容体 : 過活動膀胱における役割 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120365 | |
報告番号 | 甲20365 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2514号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. はじめに 現在、前立腺肥大症(BPH)に伴うbladder outlet obstruction(BOO)による排尿障害の治療薬にはα1アドレナリン受容体(α1受容体)遮断薬が広く使用されている。しかし、BOOが引き起こす症状には尿線細小などの閉塞症状に加えて尿意切迫や頻尿といった過活動膀胱(overactive bladder: OAB)症状があり、QOLに大きなインパクトを与える。通常、OABの治療は、抗ムスカリン薬が使用されるが、BOOを有する患者では尿閉などの排尿困難の増悪が懸念されるため、同薬が使用できないことも多い。 一方、α1受容体遮断薬はBPHの閉塞症状を改善させるだけではなく、OAB症状も改善させることが近年明らかにされている。しかし、その作用機序には不明な点が多い。最近の研究により、α1受容体は前立腺だけでなく、膀胱にも存在していることが明らかになった。α1受容体には3つのsubtypes(α1A,α1B,α1D)が同定されているが、α1D受容体は膀胱平滑筋に比較的多く存在し、BOOラットではα1D受容体の発現がさらに亢進することが明らかになり、OAB症状との関連が注目されている。そこで、本研究は尿道部分閉塞(BOO)ラットのモデルを作成し、α1A/1D受容体遮断薬であるタムスロシンの膀胱機能に対する影響を検討した。さらにα1D受容体ノックアウトマウスにおける膀胱機能を解析した。 2. BOOラットモデルの作製(研究1) BPHにおける排尿障害を再現する目的でラットのBOOモデルを作成し、48時間排尿動態および無麻酔下膀胱内圧を検討した。 方法: 雌性SDラットをcontrol群,sham手術群とBOO群に分けた。BOO群では、下腹部正中切開し、外尿道口より外径1mmのカテーテルを挿入し、恥骨下尿道周囲を3-0縫合糸にて結紮した。カテーテルを取り除き、尿道は内径1mmの尿道部分閉塞を作成した。4週間後、尿道周囲の縫合糸を解除した。ラットをメタボリクゲージに入れ、48時間の排尿パターンを測定した。膀胱内圧の測定は膀胱頂部よりPE50を挿入し、2日後無麻酔下に測定した。 結果: BOOラットはcontrol群およびsham手術群ラットに比べ、膀胱重量、膀胱容量、残尿量、一日排尿回数の著明な増加を認めた。 以上より、適切なBOOラットモデルを作成し得たと考えられた。 3. BOOラットにおけるα1受容体遮断薬の膀胱機能への影響(研究2) タムスロシンはα1A/1D受容体遮断薬であり、BOOの排尿障害を改善する薬剤として、現在世界で最も多く使用されている。本実験はBOOラットを用いて、タムスロシンのラット膀胱機能への影響を検討した。 方法: 雌性SDラット50匹をsham手術群とBOO群に25匹ずつ分け、各群はさらに5匹ずつのグループに分け、それぞれ生食水およびタムスロシン2,4,8,16μg/h/kgの4用量を、ラットの背頸部皮下にmini osmotic pumpにて持続投与した。研究1と同様に48時間排尿パターンを測定し、膀胱内圧測定は生食水投与グループおよびタムスロシン8μg/h/kg投与グループで行った。 結果: α1A/1D受容体遮断薬タムスロシンの投与に伴い、sham手術群およびBOOラットともに用量依存的に排尿回数が有意に減少し、膀胱容量、排尿量が有意に増大した。また、BOOラットはsham手術群ラットに比較して、その変化率が有意に大きかった。 最近の研究によると、ヒト膀胱排尿筋においてα1D受容体はmRNA並びに蛋白レベルにおいてα1A受容体の約2倍発現しており、またBOOラットではα1D受容体はα1A受容体の約3倍にまで発現が亢進していることが報告されている。従って本研究の結果を合わせて、OAB症状発生にα1D受容体が関与している可能性が示唆された。 4. α1D受容体ノックアウトマウスにおける膀胱機能の検討(研究3) 本研究はα1D-knockout(α1D-KO)およびwild-typeマウスを用いて、48時間排尿動態および膀胱内圧測定にて膀胱機能を検討した。 方法: マウスを独自に開発したメタボリクゲージに入れ、48時間排尿パターンを測定した。膀胱内圧の測定は膀胱頂部よりシリコンチューブを挿入し、2日後無拘束無麻酔下に測定した。また、膀胱および尿道を摘出し、組織構築を解析した。 結果: α1D-KOマウスはWild-typeマウスに比べ、1日排尿回数が有意に少なく、膀胱容量および1回排尿量は有意に多かった。一方、最大排尿時圧や膀胱排尿筋、尿道組織の変化には明らかな差異を認めなかった。 5. まとめ α1A/1D受容体遮断薬タムスロシンはBOOラットにおける排尿筋過活動を改善させた。また、α1D-KOはwild-type マウスに比べ、排尿回数の減少、膀胱容量や排尿量の増大が認められた。以上より、α1D受容体はOAB発生に関与している可能性が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は排尿機能におけるα1−アドレナリン受容体―過活動膀胱における役割を明らかにするために、尿道部分閉塞(BOO)ラットのモデルを作成し、α1A/1D受容体遮断薬であるタムスロシンの膀胱機能に対する影響を検討した。さらにα1D受容体ノックアウトマウスにおける膀胱機能を解析し、下記の結果を得ている。 1.前立腺肥大症における排尿障害を再現する目的でラットのBOOモデルを作成し、48時間排尿動態および無麻酔下膀胱内圧を検討した。BOOラットはcontrol群およびsham手術群ラットに比べ、膀胱重量、膀胱容量、残尿量、一日排尿回数の著明な増加を認めた。以上より、適切なBOOラットモデルを作成し得たと考えられた。 2.BOOラットを用いて、α1A/1D受容体遮断薬であるタムスロシンのラット膀胱機能への影響を検討した。α1A/1D受容体遮断薬タムスロシンの投与に伴い、sham手術群およびBOOラットともに用量依存的に排尿回数が有意に減少し、膀胱容量、排尿量が有意に増大した。また、BOOラットはsham手術群ラットに比較して、その変化率が有意に大きかった。タムスロシンはBOOラットにおける排尿筋過活動を改善させた。 3.α1D-knockout(α1D-KO)およびwild-typeマウスを用いて、48時間排尿動態および膀胱内圧測定にて膀胱機能を検討した。α1D-KOマウスはWild-typeマウスに比べ、1日排尿回数が有意に少なく、膀胱容量および1回排尿量は有意に多かった。一方、最大排尿時圧や膀胱排尿筋、尿道組織の変化には明らかな差異を認めなかった。 以上、本論文はα1A/1D受容体遮断薬タムスロシンはBOOラットにおける排 尿筋過活動を改善させた。また、α1D-KOはwild-type マウスに比べ、排尿回 数の減少、膀胱容量や排尿量の増大が認められた。本研究はこれまで未知に等 しかった、α1D受容体は過活動膀胱の発生に関与していることの解明に重要な 貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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