学位論文要旨



No 120366
著者(漢字) 細田,千尋
著者(英字)
著者(カナ) ホソダ,チヒロ
標題(和) α1アドレナリン受容体の生理機能解析
標題(洋)
報告番号 120366
報告番号 甲20366
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2515号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 教授 飯野,正光
 東京大学 助教授 平田,恭信
 東京大学 助教授 武内,巧
 東京大学 助教授 林田,眞和
内容要旨 要旨を表示する

目的:7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR、G-protein Coupled Receptor)の構造を有する代表的受容体の一つであるアドレナリン受容体(adrenergic receptor, adrenoceptor,以下AR)は交感神経終末や副腎髄質から遊離されるカテコールアミンの受容体として標的細胞、組織において重要な役割を演じている。ARはαとβの2つのサブタイプに分類され、さらにαアドレナリン受容体は、2つのサブタイプ(α1、α2)に分類される。α1アドレナリン受容体(以下α1-AR )は、主に血管平滑筋に分布し、血管収縮・血圧調節に重要な役割をはたし、3つのサブタイプ(α1A、 α1B、 α1D)が存在することが報告されているが、それぞれのα1A、α1B、 α1Dサブタイプの各血管における発現分布、血管収縮・血圧調節機能については明らになっていなかった。今回、α1-AR各サブタイプの組織における発現分布と生理機能を明らかにするためにα1B- ARサブタイプ遺伝子欠損マウス(以下、α1B-Knoch Out mouse、α1B-KO)、α1D- ARサブタイプ遺伝子欠損マウス(以下、α1D-Knoch Out mouse、α1D-KO)からα1B-AR、α1D-ARサブタイプ遺伝子2重欠損マウス(以下、α1BD-Double Knoch Out mouse、α1BD-KO)を作製し上記3つの遺伝子欠損マウスを用いて血管収縮、血圧調節および高血圧発症におけるα1D-ARおよびα1B-ARの機能的役割を検討すると共にα1-AR各サブタイプの血管収縮における役割と発現分布との相関を解析した。

対象と方法:α1B-KO (129Sv/C57Bl6) と α1D-KO(129Sv/C57Bl6) の交配によりヘテロ接合性F1マウスを作製し、さらにヘテロ接合性F1マウス同士の交配により、F2マウスのWild type(以下WT)とホモ接合性のα1BD-KOマウスを作製した。 よって、今回の実験で使用するWT、α1B-KO、α1D-KO、α1BD-KOはいずれも遺伝的背景は同一である。すべての実験において 7週齢から9 週齢雄マウスを使用した。RNA発現量の定量解析では、通常のRT-PCRで得られたDNA産物にTaqMan probeとリアルタイムPCR装置を使用してmRNA発現の定量的解析を行った。各マウス胸部大動脈と腸管膜動脈の摘出標本にて1mmリングを作製し恒温槽内でNorepinephrine(以下NE)を用いて刺激し等張性に収縮圧を記録した。またNEによるマウス血管を刺激する時に選択的拮抗薬を前処置し選択的拮抗薬の各血管に対する親和性を観察した。血圧の測定はtail cuff 法で収縮期圧(SBP)と心拍数(HR) を覚醒下、拘束状態で観察し、この時に測定された血圧、心拍数を安静時血圧、安静時心拍数と定義した。 また、右頸動脈留置カテーテルを介して覚醒下に平均動脈圧(mean arterial pressure; MAP)とHRの測定を行い、さらにα1-ARの作動薬および拮抗薬の投与後の血圧反応を観察した。またマウス腸管膜動脈を回腸と共に摘出し腸管膜動脈血管床を作成し、この腸管膜動脈血管床の灌流圧を記録した。食塩水負荷高血圧モデルの作製は7週齢から9週齢、体重18.3g 〜 23.1gのWT マウス(16匹)、α1B-KOマウス(15匹)、α1D-KO マウス(16匹) 、α1BD-KO マウス(15匹)を使用した。マウス左腎の部分切除の術後7日目に右腎全摘除を行い、さらに翌日から1%食塩水を負荷し食塩水負荷後35日間血圧測定を行った。血圧測定は前述のtail cuff 法を用いてSBPを1〜3日毎に測定した。術後33、34、35日目に3日間連続測定したSBPの平均値をEndpoint SBPとし、術前の各マウスのコントロールのSBPおよびHRをBaseline SBP、Baseline HRとしEndpointの値と比較した。

結果:WTマウス血管におけるα1-ARサブタイプmRNAの発現状況について解析した。WTマウスでは胸部大動脈、腸間膜動脈いずれにおいてもα1D-ARの発現が優位であった。ただしWTマウス腸間膜動脈におけるα1受容体のRNA総発現量はWTマウス胸部大動脈の約半分程度であった。WTマウス胸部大動脈のα1-ARサブタイプmRNAの発現量は胸部大動脈ではα1D-AR>α1B-AR>α1A-ARの順位でありWTマウス腸管膜動脈のα1-ARサブタイプmRNAの発現量の順位はα1D-AR>α1A-AR>α1B-ARであった。またα1B-KOマウス、α1D-ARマウス、α1BD-KOマウスにおいて残存するα1-ARサブタイプの統計学的に有意な代償性発現増加は認められなかった。次に摘出した各マウス胸部大動脈と腸管膜動脈に対してNEを投与した時の収縮反応を観察した。胸部大動脈のNE濃度反応曲線ではいずれの曲線も統計学的に有意差(p<0.05)を有していた。NEへの感受性はWTマウス(pD2値8.42±0.05,n=16)、α1B-KOマウス(pD2値8.28±0.04,n=10)、α1D-KOマウス(pD2値6.72±0.08,n=13)、α1BD-KOマウス(pD2値、算定できず、n=11)の曲線の順に低下しα1BD-KOマウスではNEいずれへの反応も消失していた。腸管膜動脈のNE濃度反応曲線ではWTマウスとα1B-KOマウスの曲線間に統計学的有意差が無く、同様にα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの曲線の間にも有意差は無かった。しかしWTマウスとα1B-KOマウスの曲線に対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの曲線は統計学的に有意差(p<0.05)を有し、かつNEへの感受性(WTマウスpD2値6.52±0.22,n=10; α1B-KOマウスpD2値7.12±0.14,n=10;α1D-KOマウスpD2値6.19±0.07,n=10; α1BD-KOマウスpD2値6.29±0.06,n=10)、最大収縮反応のいずれに関してもWTマウスとα1B-KOマウスに対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスが有意(p<0.05)に低い結果となった。ただし胸部大動脈と異なりα1BD-KOマウスの曲線においても明らかな収縮反応が認められた。またWTマウスの胸部大動脈はNEに対する感受性が有意(p<0.05)に腸管膜動脈より高かった。次に各マウス血管のNE誘発血管収縮に対する各α1-AR拮抗薬の親和性を薬理学的に解析したところWTマウスの胸部大動脈および腸管膜動脈は主にα1D-ARを介した収縮と考えられた。各マウス群の安静時SBPは、WTマウス99±2mmHg(n=10)、α1B-KOマウス99±3mmHg(n=9)、α1D-KOマウス93±2mmHg(n=9)、α1BD-KOマウス92±2mmHg(n=9)でWTマウスとα1B-KOマウスの安静時SBPに対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの安静時SBPが統計学的に有意(p<0.05)に低い結果となった。また右頸動脈留置カテーテルを介した直接測定によるMAPでは、WTマウス118±3mmHg(n=14)、α1B-KOマウス111±5mmHg(n=10)、α1D-KOマウス109±3mmHg(n=11)、α1BD-KOマウス103±6mmHg(n=9)でWTマウスのMAPはα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスと比較して統計学的有意に高く(p<0.05)、α1B-KOマウスのMAPはα1BD-KOマウスのMAPにそれぞれ統計学的有意に高かった(p<0.05)。いずれの測定法においてもHRは各マウス間に有意差は認められなかった。マウス大腿静脈から経静脈的に受容体作動薬を投与した時の各マウスのMAPの変化を観察した。α1-ARの特異的作動薬であるPhenylephrine(以下PE)を投与した場合は各マウス群ともPEの濃度依存性にMAPが上昇した。この時、このPE濃度反応曲線で統計学的有意差を生じたのはWTとα1BD-KOのマウス間のみであったがNE投与の場合のNE濃度反応曲線が全マウス間で統計学的有意差(p<0.05)を示しWTと比較してα1B-KO、α1D-KO、α1BD-KOの順に昇圧反応が低下した。次にα1A-ARの特異的作動薬であるA61603投与の場合α1BD-KO マウスのNE濃度反応曲線とWTマウスの曲線との間には統計学的に有意差を認めなかった。またマウス大腿静脈から経静脈的にα1-AR選択的拮抗薬プラゾシン、α1D-AR選択的拮抗薬BMY7378(以下BMY)を前処置した後、NEを投与しMAP測定を行ったところWTマウスの血圧反応と比較してα1B-KOマウスは最大反応に有意差はなかったが、BMYによる拮抗作用が有意(p<0.05)に増強していた。α1D-KOマウスでは最大反応がWTマウスと比較して有意(p<0.05)に低下していた。α1BD-KOマウスでは有意なNE誘発血圧反応を認めなかった。各マウス食塩水負荷高血圧モデルにおける各マウスのSBP、HRの推移を観察した。SBPの経過表ではα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスのSBP がWTマウスとα1B-KOマウスのSBPに対して有意(p<0.05)に低下していた。また1%食塩水負荷21日目後からα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの平均SBPはWTマウスとα1B-KOマウスの平均SBPと比較して有意(p<0.05)に低値を示した。Endpoint SBPはWTマウス144±3mmHg(n=10)、α1B-KOマウス141±4mmHg(n=9)、α1D-KOマウス124±4mmHg(n=9)、α1BD-KOマウス120±4mmHg(n=9)といずれもBaseline SBPより有意(p<0.05)に上昇していたがα1D-KOマウス、α1BD-KOマウスのEndpoint SBPはWTマウス、α1B-KOマウスのEndpoint SBPに対して有意(p<0.05)に低い値であった。同様にEndpointのMAPもWTマウス145±6mmHg(n=16)、α1B-KOマウス144±5mmHg(n=10)、α1D-KOマウス126±5mmHg(n=13)、α1BD-KOマウス119±7mmHg(n=9)といずれもBaselineMAPより有意(p<0.05)に上昇していたがα1D-KOマウス、α1BD-KOマウスのEndpoint MAPはWTマウス、α1B-KOマウスのEndpoint MAPに対して有意(p<0.05)に低い値であった。HRはTail-cuff測定においても留置カテーテルからの直接測定においても各マウス間において有意差なく、各マウス間毎のBaselineとEndpoint間においても有意差は認められなかった。各マウスの腸管膜動脈血管床のPE灌流圧をEndpointとBaselineで測定、比較した。各マウスはいずれもBaselineの灌流圧曲線と比較して有意(p<0.05)に圧反応が増強していたがEndpointの各マウス間ではα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの灌流圧曲線はWTマウスとα1B-KOマウスの灌流圧曲線より有意(p<0.05)に圧反応が低下していた。Endpointの各マウス間で週齢、体重、体重に対する腎切除重量体重比、クレアチニン等ではいずれも有意差なかったがα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの血中カテコールアミン値がWTマウスとα1B-KOマウスと比較して有意に低い結果となった。

考察:今回我々はα1B-KOマウスおよびα1D-KOマウスからα1BD-KOマウスを作製しWT、α1B-KO、α1D-KOおよびα1BD-KOマウスを使用した薬理学的、分子生物学的解析を行った。WTマウス胸部大動脈及び腸管膜動脈におけるα1-AR各サブタイプのmRNAの発現量の順位は、胸部大動脈:α1D-AR>α1B-AR>α1A-AR、腸管膜動脈:αD-AR>α1A-AR>α1B-ARであった。この結果は各マウス胸部大動脈および腸管膜動脈の薬理学的解析から推測したマウス胸部大動脈および腸管膜動脈のNE誘発収縮反応への各α1-ARサブタイプの関与の順位、胸部大動脈:α1D-AR>α1B-AR≫α1A-AR≒0、腸管膜動脈:α1D-AR>α1A-AR≫α1B-AR≒0とも矛盾しないものだった。これらの結果はα1-AR各サブタイプのNE誘発収縮反応への関与の順位はmRNAの発現順位と相関性が高いことを示した。また各マウスの血圧反応の解析結果はマウス血圧調整にはすべてのα1-ARサブタイプが関与することを示唆したがα1B-AR サブタイプとα1D-AR サブタイプを比較した場合はα1D-AR サブタイプが血圧維持により重要な役割を演じていると考えられた。また各マウスを使用した食塩水負荷高血圧モデルマウスの解析からマウスの食塩水負荷高血圧発症にはα1D-ARは重要な役割を演じているがα1B-ARはその関与は乏しいことが示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は血管収縮、血圧調整に重要な役割を演じているα1アドレナリン受容体(以下、α1- AR;α1A- AR、α1B- AR、α1D- ARの各サブタイプが存在)の組織における発現分布と機能的役割を明らかにするため、α1B- ARサブタイプ遺伝子欠損マウス(以下、α1B-Knoch Out mouse、α1B-KO)、α1D- ARサブタイプ遺伝子欠損マウス(以下、α1D-Knoch Out mouse、α1D-KO)からα1B-AR、α1D-ARサブタイプ遺伝子2重欠損マウス(以下、α1BD-Double Knoch Out mouse、α1BD-KO)を作製しWild typeマウス(以下WT)と共に分子生物学的、薬理学的機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

(1) 各マウスの胸部大動脈、腸間膜動脈のmRNAから通常のRT-PCRで得られたDNA産物にTaqMan probeとリアルタイムPCR装置を使用してmRNA発現の定量的解析を行ったところα1B-KOマウス、α1D-ARマウス、α1BD-KOマウスにおいて残存するα1-ARサブタイプの統計学的に有意な代償性発現増加は認められずWTマウス胸部大動脈のα1-ARサブタイプmRNAの発現量は胸部大動脈ではα1D-AR>α1B-AR>α1A-ARの順位でありWTマウス腸管膜動脈ではα1D-AR>α1A-AR>α1B-ARであることが示された。

(2) 次に摘出した各マウス胸部大動脈と腸管膜動脈に対してノルエピネフリン(以下NE)を投与した時の収縮反応を観察したところ、胸部大動脈のNE濃度反応曲線ではいずれの曲線も統計学的に有意差(p<0.05)を有し、NEへの感受性はWTマウス、α1B-KOマウス、α1D-KOマウス、α1BD-KOマウスの曲線の順に低下しα1BD-KOマウスではNEへの反応はほぼ消失していた。腸管膜動脈のNE濃度反応曲線ではWTマウスとα1B-KOマウスの曲線間に統計学的有意差が無く、同様にα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの曲線の間にも有意差は無かった。しかしWTマウスとα1B-KOマウスの曲線に対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの曲線は統計学的に有意差(p<0.05)を有し、かつNEへの感受性、最大収縮反応のいずれに関してもWTマウスとα1B-KOマウスに対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスが有意(p<0.05)に低い結果となった。ただし胸部大動脈と異なりα1BD-KOマウスの曲線においても明らかな収縮反応が認められた。この各マウス胸部大動脈および腸管膜動脈の薬理学的解析から推測したマウス胸部大動脈および腸管膜動脈のNE誘発収縮反応への各α1-ARサブタイプの関与の順位は、胸部大動脈:α1D-AR>α1B-AR≫α1A-AR≒0、腸管膜動脈:α1D-AR>α1A-AR≫α1B-AR≒0であることが示された。またこれらの結果はα1-AR各サブタイプのmRNAの発現順位とも相関性が高いことが示された。

(3) 覚醒下、拘束状態でtail cuff 法にて測定された血圧を安静時血圧と定義し観察した。また、右頸動脈留置カテーテルを介して覚醒下、拘束下に平均動脈圧(mean arterial pressure; MAP)の測定を行い、さらにα1-ARの作動薬および拮抗薬の投与後の血圧反応を観察したところ、各マウス群の安静時SBPは、WTマウスとα1B-KOマウスの安静時SBPに対してα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの安静時SBPが統計学的に有意(p<0.05)に低い結果となった。またWTマウスのMAPはα1D-KOマウスとαBD-KOマウスと比較して統計学的有意に高く(p<0.05)、α1B-KOマウスのMAPはα1BD-KOマウスのMAPにそれぞれ統計学的有意に高かった(p<0.05)。いずれの測定法においてもHRは各マウス間に有意差は認められなかった。NE投与時のMAPはNE濃度反応曲線が全マウス間で統計学的有意差(p<0.05)を示しWTと比較してα1B-KO、α1D-KO、α1BD-KOの順に昇圧反応が低下した。またマウス大腿静脈から経静脈的にα1-AR選択的拮抗薬プラゾシン、α1D-AR選択的拮抗薬BMY7378(以下BMY)を前処置した後、NEを投与しMAP測定を行ったところWTマウスの血圧反応と比較してα1B-KOマウスは最大反応に有意差はなかったが、BMYによる拮抗作用が有意(p<0.05)に増強していた。α1D-KOマウスでは最大反応がWTマウスと比較して有意(p<0.05)に低下していた。α1BD-KOマウスでは有意なNE誘発血圧反応を認めなかった。以上のことからマウスの血圧調整にはすべてのα1-ARサブタイプが関与することが示されたがα1B-AR サブタイプとα1D-AR サブタイプを比較した場合はα1D-AR サブタイプが血圧維持により重要な役割を演じていることが示された。

(4) 7週齢から9週齢、体重18.3g 〜 23.1gのWT マウス(16匹)、α1B-KOマウス(15匹)、α1D-KO マウス(16匹) 、α1BD-KO マウス(15匹) にて左腎の部分切除、右腎全摘除、1%食塩水負荷を行う食塩水負荷高血圧モデルを作製しtail cuff 法にて収縮期血圧(SBP)と心拍数(HR)を処置後35日間測定したところ、非処置のコントロールのα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスのSBP がコントロールのWTマウスとα1B-KOマウスのSBPに対して有意(p<0.05)に低下していた。また1%食塩水負荷後21日目からα1D-KOマウスとα1BD-KOマウスの平均SBPはWTマウスとα1B-KOマウスの平均SBPと比較して有意(p<0.05)に低値を示した。1%食塩水負荷後33、34、35日目の平均SBPはいずれのマウスもコントロールSBPより有意(p<0.05)に上昇していたがα1D-KOマウス、α1BD-KOマウスの1%食塩水負荷後33、34、35日目の平均SBPはWTマウス、α1B-KOマウスのSBPに対して有意(p<0.05)に低い値であった。HRはコントロールにおいても1%食塩水負荷後33、34、35日目の平均値においても各マウス間において有意差なく、各マウス間毎のコントロールと1%食塩水負荷後33、34、35日目の平均値間においても有意差は認められなかった。以上のことからマウスの食塩水負荷高血圧発症にはα1D-ARは重要な役割を演じているがα1B-ARはその関与は乏しいことが示された。

以上、本論文はα1- ARサブタイプ遺伝子欠損マウスを使用した解析から各α1-ARサブタイプの血圧維持、高血圧発症における機能的役割および血管系におけるα1-AR各サブタイプのmRNAレベルの発現分布様式を明らかにした。本研究は詳細に関して今だ不明な部分の多い血圧維持、高血圧発症の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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