No | 120383 | |
著者(漢字) | 森,和彦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリ,カズヒコ | |
標題(和) | 複数マーカー遺伝子を用いるRT-PCRに基づく胃癌症例の腹腔内遊離腫瘍細胞検出法に関する検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120383 | |
報告番号 | 甲20383 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2532号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 消化管外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 胃がんの重要な予後因子とされている腹腔内洗浄細胞診は腫瘍細胞の存在頻度が非常に希薄であるため熟練を要する。高い再現性と感受性を達成するため、腹腔内洗浄細胞診にRT-PCRを導入する技術の研究開発は1990年代後半より始められ、CEAmRNAをマーカーとする方法が従来のスタンダードであった。CEAは非腫瘍細胞においても非特異的発現を認めることが知られており、この手法の問題点となっている。本研究は以下の解析過程を通じて胃癌の腹腔内洗浄細胞診にPCRを導入するためにマーカー遺伝子の探索を行い、複数マーカーによる信頼性の高い腫瘍細胞検出アッセイを研究開発することを目標とする。主な解析試料として国立がんセンター中央病院、東大病院、愛知県がんセンターにおいて収集された腹腔内洗浄水を用いた。まず、新規の胃がんのマーカー遺伝子の探索を行うために、マイクロアレイによる発現解析を行いグローバルに遺伝子スクリーニングを行った。このスクリーニングではマイクロアレイ解析の対象として陽性コントロールに胃癌細胞株、陰性コントロールに早期胃癌症例の腹腔内洗浄水サンプルを用い、陽性コントロールに特異的に発現する遺伝子を探索した。この解析を通じて11種のマーカーを同定した。そのうち5種(TFF1、TFF2、CK20、FABPP1、MUC2)はNested PCRによる細胞検出判定が可能で、多数検体(99例)での解析においてCEAより再発症例に特異的な陽性判定を示すことが明らかとなった(91-100%)。またこれら5種のマーカー遺伝子を適用したNested PCRによる判定を組み合わせた解析では2種以上のマーカーが陽性になる症例全例において転移を来すことが明らかとなった。また血行性転移を含む腹膜外再発症例群でも、ほぼ全てのマーカーにおいて有意に陽性判定の比率が高く、胃癌においては腹腔内遊離腫瘍細胞が腹膜外再発をも示唆する微小遺残病変である可能性が示された。次に複数マーカーの発現を評価する診断アッセイとして、Multiplex-RT-PCRとハイブリダイゼーションアレイを組み合わせたアッセイを試作し(以後ミニチップアッセイと呼ぶ)、胃癌の腹腔内洗浄細胞診における診断力と信頼性を検討した。ミニチップアッセイでは10種のマーカー遺伝子を用いて、他数検体での解析を行ったところ、陽性判定の再発に対する陽性的中率は96-100%であり、同時性の転移巣のない症例では細胞診の約2倍の再発に対する感受性を有していた。生存分析においては細胞診陽性症例とミニチップアッセイのみ陽性となる症例では無病再発期間に大きな差がなく、ミニチップアッセイの判定は通常細胞診同様の予後因子としてのインパクトを有する可能性が示された。また、抗体の入手が可能であった5種のマーカー遺伝子(MASPIN、CK20、FABP1、TFF1、MUC2)による免疫染色においてミニチップアッセイの判定結果との合致性を確認したところ、細胞診陰性症例も含めミニチップアッセイ陽性の症例14例のうち12例で異型細胞の存在が確認された。MASPINによる免疫染色は明瞭で特異的な異型細胞への染色を示し、胃癌の細胞診に有用な抗体染色法であることが示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、胃癌の最適な治療法選択において重要な役割を演じている腹腔内洗浄細胞診に、高感度な腫瘍細胞検出法であるRT-PCRを導入するため、マイクロアレイ解析による遺伝子スクリーニングを通じたマーカー遺伝子の同定、同定された遺伝子の活用法の検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.マイクロアレイによって評価可能な多数の遺伝子(約1万2千種)を対象に、胃癌マーカー遺伝子同定を目的とした遺伝子スクリーニングを行った。マーカー遺伝子発現の陽性対照群として胃癌細胞株、陰性対照群として早期胃癌症例の腹腔内洗浄水沈渣検体をマイクロアレイ解析の対象とし、陽性対照群に特異的に発現を認める遺伝子を、マーカー遺伝子の候補として抽出した。候補遺伝子より、胃癌組織のマイクロアレイ解析をもとに胃癌での発現頻度が低い遺伝子を除き、さらに臓器特異性の低い事が知られている遺伝子を除いた遺伝子を二次スクリーニングの対象とした。二次スクリーニングでは16例の胃癌症例の腹腔内洗浄水に対し、実際にRT-PCRを行い、11種のマーカー遺伝子(TFF1、TFF2、CK20、FABP1、MUC2、MASPIN、PRSS4、GW112、SOX9、CDX1、MDK)を同定した。このうち5種のマーカー(TFF1、TFF2、CK20、FABP1、MUC2)はnested PCRにおいても細胞診陽性例に特異性の高い結果を示し、定性的な発現判定が可能であった。 2. 胃癌開腹症例99例の腹腔内洗浄細胞診に、Nested PCRが可能なTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2をマーカー遺伝子として採用し、RT-PCR法を導入した。2種以上のマーカーで発現が検出された場合を陽性と判定すると、胃癌再発に対する特異性が100%、細胞診陽性症例に対する感受性は83%と高率であった。また、RT-PCRを用いて検出される胃癌の腹腔内遊離腫瘍細胞が、腹膜外再発の指標にもなる可能性が示された。 3.複数マーカーを用いたPCR法を、腹腔内洗浄細胞診に導入するための手法を開発し、評価を行った。Multiplex-RT-PCRとハイブリダイゼンーションアレイを組み合わせるミニチップアッセイを最適化し、5種の遺伝子TFF1、TFF2、FABP1、CK20、TACSTD1を判定に用いる腫瘍検出法とした。同法は転移・再発に対して96%の陽性的中率を有し、胃癌の再発に関しては通常の細胞診の約2倍の検出力を有することが示された。また、その陽性例の大部分において、腹腔内洗浄水検体に含まれる異型細胞の存在が免疫染色により確認できた。また、MASPINを用いた免疫染色の胃癌の腹腔内洗浄細胞診における有用性が示唆された。 以上、本論文はマイクロアレイ解析から胃癌のマーカー遺伝子となる遺伝子を複数同定し、それらを用いたRT-PCR法の腹腔内洗浄細胞診における有用性を示した。同時にマーカーのひとつであるMASPINは、免疫染色による腹腔内洗浄細胞診においても有用である事が示された。本研究は、胃癌の補助化学療法の発展に伴い、ますます重要になると考えられる、腹腔内洗浄細胞診の感度、再現性の改善に今後貢献するものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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