学位論文要旨



No 120401
著者(漢字) 李,榴柏
著者(英字) LI,LIU BAI
著者(カナ) リ,リュウバイ
標題(和) (中国)北京の都市部における学童の身体活動とその身体組成への影響
標題(洋) Physical activity in Beijing urban school children and its effects on body composition
報告番号 120401
報告番号 甲20401
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2550号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 教授 徳永,勝士
 東京大学 教授 甲斐,一郎
 東京大学 助教授 岩田,力
 東京大学 助教授 上別府,圭子
内容要旨 要旨を表示する

背景: 近年、学童の肥満率は中国を含めて世界中で急激に上昇している。肥満は身体活動レベルの低下によるものであると考えられてきた。身体活動と身体組成、特に体脂肪との関係についてはすでに多くの横断的な又は縦断的な先行研究によって検討されたが、未だ明確な結果が報告されていない。急激に上昇している中国の子どもの肥満は身体活動レベルの低下によるものであると考えられてはいたが、身体活動と身体組成の測定方法の限界によりこの2つの指標の間の明確な関係は明らかにされなかった。

研究目的: 本研究の目的は北京市都市部における学童の身体活動レベルと身体組成パターンを測定し、中・高強度の身体活動の身体組成への影響を明らかにする。

対象と方法: 本研究は中国北京市の都市部の2ヶ所の公立小学校において行われた。学童( 男子42名、年齢7-11歳)82 名の身体活動レベル(PAL)を歩数計で測定した。Youth Risk Behavior Surveillance (YRBS-2003、アメリカ) で用いられた質問紙によって学童726人の一週間(7日間)の中・高強度の運動頻度を捉えた。また 生体インピーダンス法(TBF-026,タニタ、日本製)により、学童1610名の身体組成を測定した。Adolescent Physical Activity Recall Questionnaire (APARQ)により、過去一年間の中・高強度の運動量を捉え、学童210名(男子97名,女子113名、9-11歳)の8ヶ月間の身体組成の変化を測定した。身体組成と体脂肪分布の指標としては体脂肪率(Fat%)、体脂肪量(FM)、除脂肪量(FFM)、体格指数(BMI)、ウエスト囲(Waist)、ヒップ囲(Hip)、ウエスト囲とヒップ囲の比(WHR:ウエスト囲/ヒップ囲)などを採用した。

統計学的検討: マンーホイットニーのU検定が2つグループの中央値の比較に用いた。二元配置分散分析法で身体組成の性と年齢の差を検定した。反復測定―分散分析法で8ヶ月間の身体組成の変化を検定した。スピアマンの順位相関係数で変数間の関連性を表した。すべでの統計学検定はWindows 版SPSS(10.0)で行われた。統計学的有意水準はp<0.05とした。

結果: 身体活動レベル 対象全員の平均TEEとAEEと一日の総歩数はそれぞれ1838.4(SD=335.7)kcal・day-1, 187.7(SD=78.5) kcal・day-1, and 9948(SD=2916)であった。男子はすべての指標で女子より有意に高値を示した(それぞれp<0.01、p<0.01、p<0.01)。

 低・中・高強度(それぞれLPA, MPA, VPA)の身体活動時間の平均はそれぞれ51.5(SD=13.3)、35.6(SD=12.0)、13.1(SD=7.8)分間/日であった。男子のLPA及びMPAの身体活動時間は女子より有意に長かった (それぞれ p<0.05、p<0.01)。男女とも体重調整したTEEと年齢には強い負の相関が見られた(それぞれのスピアマンの順位相関係数r=-0.66、p<0.01、n=42; r=-0.65、 p<0.01、n=40)。女子では体重調整したAEEと一日の総歩数は年齢とともに有意に減少を示した(それぞれのスピアマンの順位相関係数r=-0.51、p<0.01; r=-0.49、p<0.01)。男女ともLPAとVPAでの身体活動時間は年齢とともに有意に減少を示した(r=-0.36〜-0.57、 p〓0.02)。男女とも体重調整したTEEと体型(BMIのレベル)には強い負の相関を示した( それぞれr=-0.70、p<0.01、n=42; r=-0.77、p<0.01、n=40)。

 調査の直前に十分なVPAのあった1―3年生と4―6年生はそれぞれ約70.7% [95%信頼区間(95%CI)65.6%―75.8%]と74.1% (95%CI: 70.0%―78.2%)であった。しかし、十分なMPAのあった学童はそれぞれ22.0% (95%CI: 17.7%―26.3%)と35.4% (95%CI: 31.1%―39.7%)にとどまった。

身体組成: 男女とも年齢とともに身体組成のすべての成分(Fat%、FM、FFMとBMI)が増加した (p<0.01)。同じ年齢グループで男子は女子よりすべて高値を示した(p<0.05)。

身体活動と身体組成: 8ヶ月間の縦断研究では身体活動レベルの高い(AEEの中央値は6.1kcal・kg bodyweight-1 ・day-1 、20%―80% 百分位数は5.0―13.0、n=19)女子学童(10―11歳)の身体組成の増加量は、身体活動レベルの低い学童(AEEの中央値は1.2kcal・kg bodyweight-1 ・day-1 、20%―80% 百分位数は0.0―2.5、 n=59)よりFat%、FM、BMI、Waist、Hip、WHRはそれぞれ有意に減少した。

まとめ: 中国の都市部における学童の身体活動レベルはイギリスとアメリカの学童より低い。女子は男子より低かった。高い身体活動によって女子学童の体脂肪の増加量を減少できると考えられる。子どもの肥満は急速に増加傾向にあり、高度化している。身体活動レベルを高めるための効果的な政策が打ち出される必要があると考えられる。

Key words: 学童の肥満、身体活動、身体活動レベル、身体組成、体脂肪。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は中国北京の都市部における学童の肥満に関わる身体活動とその身体組成への影響を調べる目的であり、下記の結果を得ている。

1. 北京市の都市部の1ヶ所の公立小学校において学童( 男子42名、女子40名、年齢7-11歳)82 名の身体活動レベル(PAL)を歩数計で測定した。Youth Risk Behavior Surveillance (YRBS-2003、アメリカ) で用いられた質問紙によって2ヶ所の公立小学校において学童726人の一週間(7日間)の中・高強度の運動頻度を捉えた。中国北京市の都市部における学童の一日の中・高強度の身体活動時間の平均は46.7分であった。男子は身体活動のすべての指標で女子より有意に高値を示した。男女とも身体活動のレベルは年齢とともに有意に減少を示した。男女とも体重調整したTotal energy expenditure (TEE)と体型(BMIの3つのレベル)には強い負の相関を示した。調査の直前に十分な高強度の運動(VPA)のあった1―3年生と4―6年生はそれぞれ約70.7% [95%信頼区間(95%CI)65.6%―75.8%]と74.1% (95%CI: 70.0%―78.2%)であった。しかし、十分な中等強度の運動(MPA)のあった学童はそれぞれ22.0% (95%CI: 17.7%―26.3%)と35.4% (95%CI: 31.1%―39.7%)にとどまった。

2. 生体インピーダンス法(TBF-026,タニタ、日本製)により、学童1610名の身体組成を測定した。男女とも年齢とともに身体組成のすべての成分(Fat%、FM、FFMとBMI)が増加した(二元配置分散分析法、p<0.01)。同じ年齢グループで男子は女子よりすべて高値を示した(二元配置分散分析法、p<0.05)。

3. Adolescent Physical Activity Recall Questionnaire (APARQ)により、過去一年間の中・高強度の運動量を捉え、学童210名(男子97名, 女子113名、9-11歳)の8ヶ月間の身体組成の変化を測定した。身体組成と体脂肪分布の指標としては体脂肪率(Fat%)、体脂肪量(FM)、除脂肪量(FFM)、体格指数(BMI)、ウエスト囲(Waist)、ヒップ囲(Hip)、ウエスト囲とヒップ囲の比(WHR:ウエスト囲/ヒップ囲)などを採用した。8ヶ月間の縦断研究では身体活動レベルの高い(AEEの中央値は6.1kcal・kg bodyweight-1 ・day-1 、20%-80% の範囲は5.0-13.0、n=19)女子学童(10―11歳)の身体組成の増加量は、身体活動レベルの低い学童(AEEの中央値は1.2kcal・kg bodyweight-1 ・day-1 、20%-80% の範囲は0.0-2.5、 n=59)よりFat%、FM、BMI、Waist、Hip、WHRはそれぞれ有意に減少した。

 以上、本論文は中国の都市部において学童の身体活動レベルは低く、高い身体活動レベルによって女子学童(10-11歳)の体脂肪の増加量を減少できることを明らかにした。子どもの肥満は急速に増加傾向にあり、高度化している。本研究は子どもの肥満の予防に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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