学位論文要旨



No 120414
著者(漢字) 真島,桂介
著者(英字)
著者(カナ) マジマ,ケイスケ
標題(和) 希土類錯体を用いるβ-ケトエステル類の触媒的不斉マイケル反応の開発
標題(洋)
報告番号 120414
報告番号 甲20414
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1113号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 夏苅,英昭
 東京大学 助教授 金井,求
内容要旨 要旨を表示する

(1) マイケル反応は、基本的な炭素-炭素結合形成反応の一つであり、生成物の有用性が高いことから、その触媒的不斉化が精力的に研究されている。量論量以上の有機金属試薬を用いてマイケルドナーをあらかじめ活性化する触媒的不斉マイケル反応は、高い反応性、選択性で進行することが知られている。しかしながら、アトムエコノミーの観点からは、直接的触媒的不斉マイケル反応が最も望ましい。当研究室では、既にマロン酸エステル類の環状エノンに対する直接的触媒的不斉マイケル反応を高い選択性、基質一般性で触媒する錯体の開発に成功していた 1。一方で、β-ケトエステル類の環状エノンに対するマイケル反応の場合、アクセプター側(エノンのβ位)に不斉を発現する反応は、私が研究を開始した時点では全く報告されていなかった。そこで、私は本学博士課程で、β-ケトエステルの環状エノンに対する不斉マイケル反応を触媒する新たな反応系の開発を行うべく、以下のような検討を行った 2。

 まず、マロン酸エステルとβ-ケトエステルの構造類似性から、マロン酸エステルの触媒的不斉マイケル反応を有効に進行させた触媒を用いて、メチルアセトアセテート(7a)のシクロヘキセノン(6b)に対するマイケル反応の検討を行った(Table 1)。しかし、LSB や ALB 錯体を用いた場合、ほとんど不斉が発現しなかった(entry 1 and 2)。唯一、La-1 のみ中程度の選択性を示した(entry 3)。一方、中心金属としてより Lewis 酸性の高いランタノイド金属を用いた場合には反応性、選択性が低下した(entry 4 and 5)。β-ケトエステルはマロン酸エステルよりも中心金属に強く配位し、生成物の解離を妨げている、あるいは、より Lewis 酸性度が高いランタノイド金属と触媒不活性な錯体を形成していることが考えられる。以上の結果から、より Lewis 酸性の低い中心金属がより適しているであろうと予想されたが、ランタンよりも Lewis 酸性が低いランタノイド金属は存在しないため、リガンド中のヘテロ原子を置換することにより、ランタンの Lewis 酸性を調節することを計画した。リンカー中ヘテロ原子の効果を予測するため、リンカーに窒素原子を導入した場合のランタン中心の電荷を密度汎関数法を用いて計算した。その結果、窒素架橋 linked-BINOL 2、3 を用いるとランタン中心の電荷が減少することが示唆された。

 そこで、合成が容易な窒素原子で架橋したリガンド NR-linked-BINOL 2-5 を合成し、ランタン中心への架橋ヘテロ原子の影響を検討した。La-1 の代わりに La-2 (entry 6)、La-3 (entry 7)を用いた場合、反応性、選択性が大きく改善され、最高 92%の不斉収率で 8ba が得られた。そこで、より電子供与能が高い置換基を窒素原子上に導入することで、更に反応性、選択性を向上できないかと考え、エチル基を有するリガンド 4 を、また窒素原子上の置換基がランタン中心の Lewis酸性を制御しているかどうかを確認するために、立体的な嵩高さはエチル基とほぼ同等であるが、電子的な性質が大きく異なるトリフルオロエチル基を有するリガンド5 も合成し、反応を行った。その結果、4 と 5 を比較すると、5 で大きく反応性、選択性が低下したことから、窒素原子上の置換基によりランタン中心の Lewis 酸性が電子的に制御されていることを明らかにした。しかし、3 よりも電子供与能が高いと考えられる 4 では予想に反して反応性、選択性共に低い結果を与えた。エチル基がメチル基よりも立体的に嵩高いために、この様に反応性、選択性が低下したのであれば、より立体的に小さい 2 は、立体的に嵩高い基質に対して、より効果的であると考えられる。そこで、種々の基質に対してリガンド 2、3 の適応を試みた。その結果、環状エノンとして環の大きさが小さい 5、6 員環エノンでは 3 が適しており、7 員環エノンや立体的に嵩高い側鎖を有するβ-ケトエステルでは 2 が適していることが分かった。よって、基質の立体障害に応じて 2つのリガンド 2、3 を使い分けることで、より基質一般性の高い触媒系が得られると考えられる。

 それぞれのリガンドで種々反応条件の最適化を行い、続いて本反応の基質一般性の検討を行った(Table 2)。5〜7員環の環状エノンに対して反応は円滑に進行し、立体的に嵩高くない基質では La-3 が高い反応性、選択性を示し、立体的に嵩高い基質では La-2 が高い反応性、選択性を示した。このように、リンカー中のヘテロ原子部位を変化させる事で触媒の立体的、電子的性質を制御することに成功した。

 次に触媒活性種の構造を明らかにするために反応機構解析を行った。ESI-MS 解析では、La-3 錯体そのものは数種のオリゴマーとして存在しており、β-ケトエステルを添加すると、β-ケトエステルが La-3 錯体に配位することで生じる数種の比較的安定なモノマー種が得られた。また、リガンドの鏡像体過剰率と生成物の鏡像体過剰率に線形性がみられた。以上の知見より、本反応の活性種はモノマー種であると推測している。触媒量に関しては 50 mol %以上用いると反応性、選択性が低下し、また、10 mol%以下でも反応性、選択性が低下する。つまり、効率的に触媒活性種を形成するためには、La-3 錯体とβ-ケトエステルを適切な比率に維持する必要がある。これは、β-ケトエステルは基質としてだけではなく、触媒活性種を形成するためのリガンドとしても機能し、少なくとも1つ以上のβ-ケトエステルが触媒活性種の形成に関与しているためであると考えられる。そこで、以上の知見を基にβ-ケトエステルを数回に分けて加える反応条件を考案し、触媒回転数を大きく向上させることに成功した。

 本反応の有用性を示すために、(-)-Tubifolidine, (-)-19,20-Dihydroakuammicine の合成中間体 11の合成を行った(Scheme 1)。当研究室による以前の合成法 3(13→14→15→11)では、マロン酸エステルのマイケル付加体(13)を出発原料として用いているため、エステル部位を脱炭酸反応により除去した後、再度炭素-炭素結合形成反応を行う必要があった。しかし、β-ケトエステルのマイケル付加体(8ba)を用いる場合、必要な置換基を有するβ-ケトエステルを基質として用いることができるので、より効率的な変換が可能である。その結果、中間体 11 の合成工程を 9 工程から 5 工程へと大幅に短縮し、よりアトムエコノミーに優れた合成経路を構築することができたと考えている(Scheme 1)。

(2) 隣接した不斉 3 級、4 級炭素は、β位に置換基を有するマイケルアクセプターに対する置換基の異なる 3 置換のマイケルドナーのジアステレオ、エナンチオ選択的マイケル反応により 1 工程で構築できる。しかしながら、このような立体的に混み合った位置でジアステレオ、エナンチオ両選択性を制御しながら分子間の炭素-炭素結合を形成することは非常に困難であり、現在までに数例しか報告されていない 4。またα-置換-β-ケトエステル類の環状エノンに対する反応は全く開発されていないことから検討を開始した。

 まず、触媒の検討を行ったが、先の反応に有効であった La-2、La-3 錯体を用いてもほとんど反応は進行しなかった(Table 3, entry 1-3)。電子的にはβ-ケトエステルの反応に適しているこれらの触媒ですら反応が進行しない理由は、α位の置換基の立体障害のために触媒活性種の生成が妨げられているからだと考えられる。そこで、立体障害の影響を減少させるためリンカーの長さを変化させ、不斉空間の更なるチューニングを行うこととした。

 3 の構造を基本としてメチレン鎖の長さの異なるリガンドや、それぞれの BINOL のベンジル位に窒素原子を有するリガンドを設計し、合成した。その中で窒素原子と BINOL 間のメチレン鎖を2にしたリガンド 18 を用いることで中程度の反応性、選択性で 17c が得られた(entry 4)。そこで、このリガンドを用いて種々反応条件の検討を行った。その結果、溶媒として DME(6c に対して 1.0 M)を用い、16 を6c に対し 2 当量加え、ランタンとリガンドの比率を 1:2 とすることで反応性、選択性を改善することができた。また、環状エノンを活性化する目的で種々の Lewis 酸の添加を検討し、フッ化ランタノイドが選択性を改善することを見出したが、最高でメジャーの異性体が 65%の不斉収率にとどまった。そこで、リガンドの窒素原子上置換基の検討を行うこととした。

 新たに種々の置換基を有するリガンドを合成し、反応を行った。その結果を Table 4 に示す。置換基として Et 基を有するリガンド 22 を用いることで反応性、選択性共に向上し更にメチルエステルを基質として用いることで、82%の不斉収率で 20ca を得ることに成功した。そこで、22を用いて種々の基質への適応を試みた。その結果を Table 5 に示す。19a をマイケルドナーとすると、5〜7 員環の環状エノンとの反応は良好に進行し 80%程度の不斉収率でマイケル成績体が得られた。α位にアリル基、プロパルギル基を有する基質 19b、19c では、反応性、エナンチオ選択性ともに中程度ながら反応が進行する。一方で、α位にエチル基を有する基質 19d では、反応がほとんど進行しなかった。原因としては、置換基の立体障害の影響がより大きくなったためと推測されるので、次にこの基質を用いて、更なる反応条件の最適化を行った。その結果、Et を有する基質を用いた場合には、ランタンとリガンドの比率を 1:1 とすることでジアステレオ選択性は若干低下するものの、大きく反応性を向上させることに成功した。この反応条件を用いることで、より長い置換基を有するβ-ケトエステルを基質として、中程度の反応性、選択性でマイケル成績体を得ることに成功した。

 以上のように、Linked-BINOL中のヘテロ原子を酸素原子から窒素原子へと変更し、中心金属の Lewis 酸性を制御することで、β-ケトエステル類の環状エノンに対するアクセプターのβ位に不斉の発現する触媒的不斉マイケル反応の開発に成功した。また、リンカーの長さを変化させ、不斉空間のチューニング行い、α-置換-β-ケトエステルの環状エノンに対する触媒的ジアステレオ、エナンチオ選択的マイケル反応を開発することに成功した。

【参考文献】(1) Sasai, H.; Arai, T.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 1571. (b) Sasai, H.; Arai, T.; Satow, Y, Houk, K. N.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 6194. (c) Arai, T.; Sasai, H.; Aoe, K.; Okamura, K.; Date, T.; Shibasaki, M. Angew. Chim., Int. Ed. Engl. 1996, 35, 104. (d) Kim, Y. S.; Matsunaga, S.; Das, J.; Sekine, A.; Ohshima, T.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 6506. (e) Xu, Y.; Ohori, K.; Ohshima, T.; Shibasaki, M. Tetrahedron 2002, 58, 2585. (f) Takita, R.; Ohshima, T.; Shibasaki, M. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 4661.(2) Majima, K.; Takita, R.; Okada, A.; Ohshima, T.; Shibasaki, M. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 15837.(3) (a)Shimizu, S.; Ohori, K.; Arai, T.; Sasai, H.; Shibasaki, M. J. Org. Chem. 1998, 63, 7547. (b) Ohori, K.; Shimizu, S.; Ohshima, T.; Shibasaki, M. Chirality 2000, 12, 400.(4) (a) Hamashima, Y.; Hotta, D.; Sodeoka, M. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 11240. (d) Taylor, M. S.; Jacobsen, E. N. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 11204. (c) Li, H.; Wang, Y.; Tang, L.; Wu, F.; Liu, X.; Guo, C.; Foxman, B. M.; Deng, L. Angew. Chem., Int. Ed. 2005, 44. 105.

Table 1. Catalyst Screening

a Isolated yield. b Ee was determined after derivatization of 8ba. c No reaction.

Table 2. Catalytic Asymmetric Michael Reaction of β-Keto Esters to Cyclic Enones

a Ee was determined by GC after derivatization of 8. b 2.0 M. c 1.2 eq of 6 was used.

Scheme 1. Synthesis of the Key Intermediate of (-)-Tubifolidine and (-)-19,20-Dihydroakuammicine

Table 3. Ligand Screening

a Dr was determined by 1H NMR. b Ee was determined by GC after derivatization. c Enantiomer was obtained.

Table 4. Effects of the N-Substituent

a Dr was determined by 1H NMR. b Ee was determined by chiral GC after derivetization of 17c and 20ca. c Enantiomer was obtained.

Table 5. Catalytic Diastereo- and Enantioselective Michael Reaction of α-substituted-β-Keto Esters to Cyclic Enones

a Dr was determined by 1H NMR. b Ee was determined by chiral HPLC analysis.

審査要旨 要旨を表示する

 マイケル反応は、基本的な炭素-炭素結合形成反応の一つであり、現在その触媒的不斉化が精力的に研究されている。しかしながら、これまでに開発されている触媒的不斉マイケル反応の多くは、高い反応性、選択性を得るために、マイケルドナーをあらかじめ量論量以上の有機金属試薬を用いて活性化することが必要であった。一方、アトムエコノミーの観点からより望ましい、直接的触媒的不斉マイケル反応に関しては、柴崎研究室において、マロン酸エステル類の環状エノンに対する直接的触媒的不斉マイケル反応の開発に成功していたが、β-ケトエステル類の環状エノンに対するマイケル反応の場合、エノンのβ位に不斉を発現する反応はこれまで全く報告されていなかった。そこで、真島桂介氏は本学博士課程において、β-ケトエステルの環状エノンに対する触媒的不斉マイケル反応の検討を行い、窒素で架橋された BINOL 由来の新規不斉配位子を開発するとともに、ランタノイド金属と組み合わせることで、上記反応を効率よく進行させる新規不斉触媒の開発に成功した。

(1)α-無置換-β-ケトエステルの環状エノンに対する触媒的不斉マイケル反応

 まず、マロン酸エステルとβ-ケトエステルとの構造類似性から、マロン酸エステルの触媒的不斉マイケル反応を有効に進行させた触媒を用いて、メチルアセトアセテート(2a)のシクロヘキセノン(1b)に対するマイケル反応の検討を行った (Scheme 1)。しかしながら、マロン酸エステルを用いた反応に有効であった不斉触媒 LSB、ALB を用いてもほとんど不斉誘起は観測されず、唯一 La-4a のみが中程度の選択性を示した(Table 1, entries 1-3)。一方、中心金属としてより Lewis 酸性の高いランタノイド金属を用いた場合には反応性、選択性が低下したことから、より Lewis 酸性の低い中心金属が本反応系には適しているであろうと予想された。しかし、ランタンよりも Lewis 酸性が低いランタノイド金属は存在しないため、不斉配位子の架橋部位に存在する酸素原子を他のヘテロ原子に置換することで、中心金属の Lewis 酸性を調節することを計画した。そして、密度汎関数法を用いた計算結果なども参考に、窒素架橋 linked-BINOL 4b、4c を設計した。実際に、合成が容易な窒素原子で架橋した不斉配位子 NR-linked-BINOL 4b-e を合成し、ランタン中心への架橋ヘテロ原子の影響を検討した。その結果La-4a の代わりに La-4b (entry 6)、La-4c (entry 7)を用いた場合に、反応性、選択性が大きく改善され、最高 92%の不斉収率で 3ba が得られた。また、不斉配位子 4d と 4e との比較や、反応の基質一般性等の結果から、窒素上の置換基 R を変えることで、不斉触媒を立体的、電子的に調整できることを見いだした。そして、立体的に嵩高くない基質を用いた場合には La-4c を、立体的に嵩高い基質を用いた場合には La-4b と、基質の立体障害に応じて 2 つの不斉配位子を使い分けることで、基質一般性の高い触媒系を構築することに成功した (全18例)。

 また、反応機構解析を行った結果を基に、β-ケトエステルを数回に分けて加える反応条件を考案し、触媒回転数を大きく向上させることに成功した。さらに、本反応を鍵反応として川いることで、よりアトムエコノミーに優れた(-)-Tubifolidine、(-)-19, 20-Dihydroakuammicine の合成中間体の合成を達成した (Scheme 2)。柴崎研究室で既に開発されていた合成法は、マロン酸エステルのマイケル付加体 6 を出発原料として用いているため、エステル部位を脱炭酸反応により除去した後、再度炭素-炭素結合形成反応を行う必要があった。しかし、β-ケトエステルのマイケル付加体 3ba を用いる場合、必要な置換基を有するβ-ケトエステルを基質として用いることができるので、より効率的な変換が可能であり、中間体 8 の合成工程を 9 工程から 5 工程へと大幅に短縮することに成功した。

(2)α-置換-β-ケトエステルの環状エノンに対する触媒的不斉マイケル反応

 α-置換-β-ケトエステル類の環状エノンに対するマイケル反応は、隣接した不斉 3 級、4 級炭素を一挙に構築できる非常に有用性の高い反応であるが、立体的に混み合った位置でジアステレオ、エナンチオ両選択性を制御しながら分子間の炭素-炭素結合を形成することは非常に困難であり、全く未開拓の反応であった。まず、先の反応に有効であった La-4b、La-4c 錯体を用いて検討を行ったが、この場合反応はほとんど進行しなかった。そこで、立体障害の影響を減少させるため、不斉配位子のリンカーの長さを変化させ、不斉空間の更なるチューニングを行った。NR-linked-BINOL 4c の構造を基本として、メチレン鎖の長さの異なる不斉配位子や、それぞれの BINOL のベンジル位に窒素原子を有する不斉配位子を設計し合成した。新規に合成した様々な不斉配位子とランタン(1:1)錯体を用いて10a の 1c に対するマイケル反応の検討を行った結果、窒素原子と BINOL 間に 2 つのメチレン鎖を有する不斉配位子 12b が中程度の反応性、選択性を与えることを見いだした (Scheme 3)。種々反応条件の検討を行った結果、溶媒として DME (1c に対して 1.0 M) を用い、10a を 1c に対し 2 当量加え、ランタンと不斉配位子の比率を 1:2 とすることで反応性、選択性が改善されることが分かった。次に、先と同様、不斉配位子の窒素原子上置換基の検討を行ったところ、置換基として Et 基を有する不斉配位子 12c を用いることで反応性、選択性が共に向上し、更にメチルエステルを基質として用いることで、82%の不斉収率で 11ca を得ることに成功した (Table 2)。10b をマイケルドナーとすると、5-7 員環の環状エノン 1a-c との反応は良好に進行し、80%程度の不斉収率でマイケル成績体が得られた。α位にアリル墓、プロパルギル基を有する基質 10c、10d では、反応性、エナンチオ選択性ともに中程度ながら目的とするマイケル付加体を得ることができた。一方で、α位に立体障害の大きい置換基を有するβ-ケトエステルを基質として用いた場合には、ランタンと不斉配位子の比率を 1:1 とすることでジアステレオ選択性は若干低下するものの、大きく反応性を向上させることに成功した(全 10 例)。

 以上本研究は、β-ケトエステルの環状エノンに対する新規触媒的不斉マイケル反応の開発を行ったものであり、本反応を用いることで、種々の生物活性化合物のより効率的な不斉全合成も可能となる。また、今後の医薬開発にも重要な情報を提供していることから、博士(薬学)を授与するに十分値する研究であると判断した。

Scheme 1

Table 1.

a Isolated yield. b Ee was determined after derivatization of 3ba. c No reaction.

Scheme 2.

Scheme 3.

Table 2.

a Dr was determined by 1H NMR. b Ee was determined by chiral GC after derivetization of 11ca and 11cb. c Enantiomer was obtained

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