学位論文要旨



No 120472
著者(漢字) 川田,宗太郎
著者(英字)
著者(カナ) カワタ,ソウタロウ
標題(和) 光周波数領域を利用した学習能力を有する光波情報処理システム
標題(洋)
報告番号 120472
報告番号 甲20472
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第92号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 基盤情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 廣瀬,明
 東京大学 教授 岡部,洋一
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 坂井,修一
 東京大学 教授 高木,信一
内容要旨 要旨を表示する

 光情報処理は大きな可能性を有している。これまでは、光がもつ空間並列性を有効に使用する方法が模索されてきた。特に可塑的な空間光並列コネクションを有効利用する光ニューラルネットワークがいくつか提案され、その優れた性質を実証する実験が行われてきた。一方、光通信では光の広い帯域を有効に使用する光波長多重化さらには光周波数多重化が推し進められている。光が本来持つ極めて広い周波数帯域を利用しようとするものである。

 著者らは、光情報処理においても空間並列性とともに周波数領域を積極的に利用するシステムを構築できる可能性があると考えた。そして光の波動としての性質を整合的に利用するニューラルネットワークの理論を構築するとともに、その実証実験を進めてきた。本論文は、それらの成果をまとめたものである。

 第1章は「序論」であって、研究の背景と目的をまとめた。

 第2章は「光キャリア周波数依存の動作を有する光波連想記憶」と題し、光波キャリア周波数に依存する連想学習よび連想想起を行う光連想記憶ニューラルネットワークを提案し、その理論を構築し、光学実験を行った結果を報告するものである。複素ヘブ則および複素相関学習の理論を構築し、その結果に基づくニューラルネットワークを構築した。実際に光学実験によって、光キャリア周波数の変調に対応する振る舞いの変調が実現され、異なる想起動作を実証することに成功した。この成果は、将来の脳型情報処理システム、特に能動性を持ったシステムの実現にも役立つものと考えられる。

 第3章は、「学習光位相フィルタ」と題し、光の帯域で適応的な出力位相地を実現する光波位相フィルタリング処理を行うニューラルネットワークを提案して、理論を構築して光学実験を行った結果を報告するものである。複素最急降下法を定式化し、教師信号に対して誤差を減少させる学習方式を確立して、光学実験によってその動作を実証した。この成果は、近い将来の加入者系の高速光ファイバ通信において、全光交換機がファイバを切り替える際に時々刻々変化する光ファイバ分散を補償する方式としても有効に利用できるものである。

 第4章は、「光並列性を有する学習ロジック回路」と題し、適応的な光周波数並列/依存ロジック回路の提案を行い、その理論を構築するとともに光学実験を行ってその動作を実証するものである。電子回路における書き換え可能なロジック回路は現在広く用いられており、FPGA(Field programmable logic array) やPCA (Plastic cell array)などがある。さらに学習によって論理を獲得するものも多く提案されている。本章が提案するシステムは、光情報処理システムで類似のことを、光周波数依存性動作を利用して適応的に実現しようとするものである。光周波数依存ニューラルネットワークの動作を利用して、ロジックを構成するものであり、それに適した位相コーディングも提案している。光学実験の結果、理論どおりに周波数を切り替えることによって高速にロジックを切り替えられる光ロジック回路を実現することができたことを報告する。

 第5章は、「光周波数領域多重ロジック回路の多重化密度解析」と題し、光波キャリア周波数を切り替えることによる光ロジック回路の、光周波数領域でのロジック密度に関する理論的な考察を行ったものである。光周波数領域がいかに有効に利用されるかを議論した。

 第6章は、「将来展望」と題し、体積ホログラムの利用、光プロセッサの将来などについて提案を行うとともに、将来展望を行った。

 第7章は、「結論」である。

 本論文が提案し、理論構築を行い光学実験で実証した以上のようなシステムは、その実験は未だ小規模なものである。しかし、今後のデバイス技術とあいまって、その優れた機能をもって実社会で役立つものであると確信する。また、そこで用いられる理論も応用範囲が広い波及性の高いものであって、他分野でのさまざまな利用も今後考えてゆきたい。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「光周波数領域を利用した学習能力を有する光波情報処理システム」と題し、全7章からなる。

 第1章は「序論」であって、研究の背景と目的をまとめている。

 第2章は「光キャリア周波数依存の動作を有する光波連想記憶」と題し、光波キャリア周波数に依存する連想学習よび連想想起を行う光連想記憶ニューラルネットワークを提案しその理論を構築して、光学実験を行った結果を報告している。複素ヘブ則および複素相関学習の理論を構築し、その結果に基づくニューラルネットワークを構築したものである。実際に光学実験によって、光キャリア周波数の変調に対応する振る舞いの変調が実現され、異なる想起動作を実証することに成功している。この成果は、将来の脳型情報処理システム、特に能動性を持ったシステムの実現にも役立つものである。

 第3章は、「学習光位相フィルタ」と題し、光の帯域で適応的な出力位相値を実現する光波位相フィルタリング処理を行うニューラルネットワークを提案して、理論を構築して光学実験を行った結果を報告するものである。複素最急降下法を定式化し、教師信号に対して誤差を減少させる学習方式を確立して、光学実験によってその動作を実証している。この成果は、近い将来の加入者系の高速光ファイバ通信において、全光交換機がファイバを切り替える際に時々刻々変化する光ファイバ分散を補償する方式としても有効に利用できるものである。

 第4章は、「光並列性を有する学習ロジック回路」と題し、適応的な光周波数並列/依存ロジック回路の提案を行い、その理論を構築するとともに光学実験を行ってその動作を実証している。電子回路における書き換え可能なロジック回路は現在広く用いられており、FPGA(Field programmable logic array)やPCA(Plastic cell array)などがある。さらに学習によって論理を獲得するものも多く提案されている。本章が提案するシステムは、光情報処理システムで同一の方向性のものを、光周波数依存性動作を利用して適応的に実現しようとするものである。光周波数依存ニューラルネットワークの動作を利用して、ロジックを構成するものであり、それに適した位相コーディングも提案している。光学実験の結果、周波数を切り替えることによって理論どおりに高速にロジックを切り替えられる光ロジック回路を実現することができたことを報告する。

 第5章は、「光周波数領域多重ロジック回路の多重化密度解析」と題し、光波キャリア周波数を切り替えられる光ロジック回路の光周波数領域でのロジック密度に関する理論的・数値的な考察を行ったものである。光周波数領域がいかに有効に利用されるかについて、特にロジックの種類と数、周波数間隔とその配置方法、光路差の設定方法を変化させたときの性能について定量的に議論している。

 第6章は、「将来展望」と題し、体積ホログラムの利用、光プロセッサの将来などについて提案を行っている。特に、将来有望な光関連デバイスと、スタックやキューといったハードウエア・アーキテクチャに焦点を当て、現状の電子プロセッサを大きく超える光プロセッサをいかに構築してゆくか、その可能性を議論している。

 第7章は、「結論」である。

 以上これを要するに、本論文は光情報処理において可塑的な並列性を実現するために実空間領域だけでなく周波数領域を積極的に利用するシステムを構築できる可能性があると考え、光の波動としての性質を整合的に利用するニューラルネットワークの理論を構築するとともに実証実験を行って、その優れた性質と有用性を示したものであり、情報学とくにシステムフォトニクスの発展に貢献するところが少なくない。

 したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。

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