No | 120510 | |
著者(漢字) | 川原,靖弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワハラ,ヤスヒロ | |
標題(和) | 移動サンプリング手法を用いた生活環境情報モニタリングシステムの研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120510 | |
報告番号 | 甲20510 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第130号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 今日,日常生活において個人が実際に曝露している環境情報の健康への影響が言及されることが多い.そのような環境情報は人間が感じることのできない情報で,長期的な曝露により人体の健康に悪影響を及ぼすと言われているものが多く,多角的な調査が必要とされるとともに,環境情報のモニタリングによる個人レベルでの健康管理を行うことが望ましい.しかし、そのような生活環境情報のモニタリングは、一般的に煩雑な作業を伴い高価な分析機器を必要とするので、個人が生活環境情報のモニタリングを行うことは困難である。これを可能にするためには環境情報の取得から評価までの一連の作業全体を見直し、作業が簡便でモニタリングにかかるコストが低いモニタリングシステムを構築する必要がある。 このような背景を踏まえ、本論文では,日常生活において個人が曝露している環境情報をサンプリングする手法及び得られた環境情報を簡便かつ迅速に評価するための手法に焦点を当て、個人が日常生活において生活環境情報を移動しながらモニタリングすることにより日常生活における健康管理を補助するシステムに関する研究をまとめた。 システムにおいて,モニタリングは,サンプリング→分析→加工→公開(→フィードバック)の手順で行なわれるが,システム構築の際はこの手順において,モニタリングが簡便,迅速,かつ安価に行うことができることを目標とした. それを実現するために,本研究においては,モニタリング形態を以下の4つにカテゴライズし, 1) 室内環境情報の移動モニタリング 2) 屋外環境情報の移動モニタリング 3) 室内環境情報のフィードバックシステム 4) バイオフィードバックを利用したシステム それぞれのシステムにおけるニーズを挙げ,そのニーズを満たすようなアプリケーションの開発例を実際に示すことでシステムの評価を行った.実際に開発したシステムは下記の1)-4)である. 1) 室内環境情報の移動モニタリングのモデルに基づいた,ホルムアルデヒドの瞬時曝露量モニタリングシステム 2) 屋外環境情報の移動モニタリングのモデルに基づいた,PDA型端末を用いた大気浮遊粒子状物質モニタリングシステム 3) 室内環境情報のフィードバックシステムのモデルに基づいた,イオンモニタリングを室内換気性能評価へ応用するシステム 4) バイオフィードバックを利用したシステムのモデルに基づいた,ウェアラブル快適度モニタを利用したアロマ香気濃度制御システム 各システムの構築方法から共通する手順を抽出し,移動サンプリング手法を用いた環境情報モニタリングシステムの構築方法としてまとめた.図2に示したのは,システムの構築手順のフローチャートである.本研究で構築したシステムは,全て可搬(モバイル)部を含むが,移動サンプリングを可能にするためにまず可搬部の重量をモバイル仕様に設計する.モバイル可能な重量にならない場合は,可搬部からディスプレイやモーターなど電力消費の大きなデバイスで削減可能なものを削除し,筐体の材質や形状を工夫することで可搬部の重量を落とす.モニタリング時の煩雑な作業をできる限り取り除き操作性を向上させ,さらに,モニタリングフローの中で時間が短縮できる方法がある場合その方法を選択し、システムの迅速性を高める.可搬型の機器のみで必要な環境情報の評価が不可能な場合は、可搬部位外に処理部を設け環境情報の評価を行う.以上が移動サンプリング手法を用いた環境情報モニタリングシステム構築のための要求条件とその実現のための一般的な手法である.さらにこのシステム構築手順に沿って,本研究で構築した各システムの構築方法を振り返り,表1にまとめた. 以上の構築方法を用いて移動サンプリング手法を用いたモニタリングシステムを構築することにより,従来のモニタリングシステムではモニタリングが困難であった日常生活において個人が実際に曝露する環境情報のモニタリングを,より簡便に個人用途もしくは研究用途で行うことができるようになる.このようなツールを使用することにより,今日注目されている個人が曝露する生活環境情報の簡易的な把握、研究報告の蓄積がより多く行われるようになり,曝露による疾患の原因解明や個人の健康管理のための曝露予防方法の確立をさらに進めることが可能になる. 図1 モニタリングシステムの形態 図2 モニタリングシステム構築手順の流れ 表1 移動サンプリング手法を用いた環境情報モニタリングシステム構築手法と構築例 | |
審査要旨 | 本論文は,「移動サンプリング手法を用いた生活環境情報モニタリングシステムの研究」と題し,全8章からなっている.日常生活において個人が曝されている環境の情報をサンプリングする手法,及び得られた環境情報を簡便かつ迅速に評価するための手法に焦点を当て,個人が日常生活において生活環境情報を移動しながらモニタリングすることにより日常生活における健康管理を補助するシステムに関する研究をまとめた. 第1章「序論」では,環境モニタリングの現状と,個人が実際に曝されている局所的な環境情報のモニタリングシステムの必要性について詳述し,本論文で扱う研究の目的を明らかにした. 第2章「定性的な行動識別技術の検討」では,本論文で扱う移動サンプリング手法を用いた生活環境情報モニタリングシステムの想定し得る形態を1)室内環境情報の移動モニタリング,2)屋外環境情報の移動モニタリング,3)室内環境情報のフィードバックシステム,4)バイオフィードバックを利用したシステムの4つに定義し,そのニーズよりシステムの利用方法を明らかにした.さらに,本システムを用いたモニタリングの流れを概説し,モニタリングが可能な生活環境情報を明らかにすることにより,本論文で研究対象とするモニタリングシステムの開発指針を示した. 第3章から第6章では,本研究において実際に構築したシステムの構築手順とシステムの評価を行った. 第3章「運動の定量評価技術の検討:エネルギ収支モニタリング端末の開発」では,ホルムアルデヒド濃度と脳血中酸素濃度のリアルタイム同時計測を行えるように製作した総重量600gの環境情報モニタリング端末を用いて,環境基準値以下のホルムアルデヒド濃度でも反応するといわれている脳血中酸素濃度とともに移動しながら瞬時にモニタリングすることが可能であることを示した. 第4章「運動の定量評価技術の検討:歩行速度検出技術の開発」では,ダストセンサ,PM10サンプリング装置,環境情報モニタリング端未を合わせて1500g以下にまとめ,環境基準以下の浮遊粒子状物質の濃度を移動しながら瞬時にモニタリングすると同時にサンプリングした浮遊粒子状物質を分析することにより1日以内に含有する金属元素濃度をユーザーに公開することが可能であることを示した. 第5章「システムへのエネルギ供給に関する検討」では,トレーサーガスにクラスターイオンを用いSVE-3の評価手法を用いて室内換気を評価し,イオン濃度計測と部屋の換気制御が同時に可能であることを示した. 第6章「ウェアラブル快適度モニタを利用したアロマ香気濃度制御システム」では,ウェアラブル脳波センサを用いて脳波から快適度の指標を抽出し,その快適度の変化をもとにアロマ香気濃度をコントロールすることが可能であることを示した. 第7章「モニタリングデータの加工と情報提供」では,本システムで扱う環境情報の加工方法について,サンプリングから情報公開までの実際を示した.サンプリングした環境情報はデータベースに格納され,RFIDタグを用いたサンプルの管理により,データベースをもとに視覚化された環境情報は,効率よく画像データとしてユーザーの持つ環境情報サンプリング端末に表示できることを示した.このシステムにより,総重量1500g未満のサンプリング端末を用いて室内外の環境中物質に対する情報の個人曝露状況を効率よく管理できることを示した. 第8章「結論」では,各章で述べた研究についてそれぞれ簡潔にまとめ,ウェアラブル性,移動計測,モニタリング精度,有用性を確保するために,本研究で構築した移動サンプリング手法を用いた生活環境情報モニタリングジステムの構築方法について,共通する手順と具体的に開発したそれぞれのシステムの構築においてこの手順が適用できることをまとめ,結論づけた. 以上のように,本論文では,個人の生活環境モニタリングシステムに特化したモニタリングの自動化の手法を提案し,構築した屋外移動モニタリングシステムにおいて,効率よくモニタリングした情報が共有できることを示した.さらに,本研究で扱ったモニタリング分野における共通のモニタリング手段を抽出し,移動サンプリング手法を用いた生活環境情報モニタリングシステムの汎用的な設計手法としてまとめた. なお,本論文第3章,第4章,第5章,第6章は,佐々木健,保坂寛,板生清,長崎晋也,干野幹信,苗村潔,ロペズ・ギヨーム,田中之人,ハルタマン・アリエサント,杉本晋悟,大亀将生,田脇康弘との共同研究であるが,論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する. よって本論文は博士(環境学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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