学位論文要旨



No 120515
著者(漢字) 中川,雅史
著者(英字)
著者(カナ) ナカガワ,マサフミ
標題(和) スリーラインセンサ画像を用いた高精細三次元都市データの自動構築・更新手法
標題(洋) Generation and revision of ultra high-resolution 3D urban data using Three Line Sensor imagery
報告番号 120515
報告番号 甲20515
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第135号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 礒部,雅彦
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 有川,正俊
内容要旨 要旨を表示する

1 研究の背景および国内外の研究状況

 近年,特に都市部における三次元地図の提供が行われている.従来,こういったデータの生産は,オペレータによる手作業により実施されてきたが,相当の熟練を必要とする一方で,効率は決して高くなく,相当の費用を必要とする.そこで,自動化のレベルを向上させ,詳細な情報をいかに効率的に取得できるかという点が重要になっている.三次元地図の自動作成という観点ではデジタル写真や画像による手法が主に検討されてきた.しかし,長年に渡る研究にも関わらず,いまだにデータ構築の完全な自動化は難しいとされている.一方,航空機から取得したレーザーデータを利用して,都市部の三次元化の自動化を試みている例もある.しかし,現在では一般的に取得できるデータの解像度が低く,建物の詳細形状までは再現できていない.

2 研究の目的

 従来の研究で取り組まれてきたような手法によるデータ構築では,作業の自動化の難易度,効率性,得られる内容の質などに大きな限界があり,必要とされるデータの詳細さ,自動化レベルの高さを満足するものでは全くない.こういった諸問題を踏まえて,国内外においては,異なるセンサやデータを利用した三次元データ構築の自動化研究の重要性が次第に認識されてはいる.しかしながら,実際にそれに着手している例はほとんどない.そこで本研究では,スリーラインセンサ画像(以下,TLS画像)といった超高解像度画像を主データとし,様々なデータを補助情報として,データフュージョンもしくはセンサフュージョンの形でそれらのデータを組み合わせたデータ統合型三次元都市データ生成手法を構築する.また,ここではデータ生成に関する完全自動化手法を基軸として,数段階の自動化レベルを設定し,計測対象に応じた汎用性の高めることで,実用性の高い手法とすることを目的とした.

 本研究では,三次元都市データを車輌制御や歩行者ナビゲーションに用いることを前提とした「実空間のデジタルコピー」を作るというスコープを設定し,地図情報レベル500〜1000程度を目標とした,三次元都市データ生成手法の構築および三次元都市データの更新手法の構築を目的とした.特に,ここでは,都市部における建物の超高精細な三次元外形データの構築および更新を主なターゲットとした.さらに,三次元都市データ構築にかかるコストの問題に関するひとつの解決策として,三次元都市データ構築/更新に関する総合的な生成モデルを提案する.

3 研究手法および結果

 図1は,超高解像度画像を主データとするデータフュージョンをベースとした「高精細三次元都市データ構築/更新モデル」に基づく処理フローであり,この図における各要素技術の開発および検証をした.さらに,実際の都市環境で取得した実データを用いて,本研究における手法の実証実験を行った.この実証実験で得られた結果と既存の手法により得られる結果を比較することで,データ統合型三次元空間データ生成手法におけるデータ生成の効率性を示した.

 本研究では,広域をカバーした超高解像度(歩行者を認識できるレベルの空間解像度)の画像を取得できる点,三次元画像計測が容易である点,オクルージョン(隠蔽)の影響を軽減できる点,および建物壁面の情報を取得できる点といった優位性に着目し,TLS画像を超高解像度航空画像として用いた.また,あらかじめ数段階にわたる自動化レベル(完全手動,半手動,半自動,完全自動)の定義づけをし,それぞれのレベルを目標とした開発を行った.ここではTLS画像を主データとして用いることを前提とし,これらの自動化レベルの分類にしたがい,三次元データ生成手法に関して,以下の項目に分類し,各手法を構築した.

(1) 密集市街地にも対応した半手動による高度な三次元モデリング

 密集都市部においては多くのオクルージョンが存在するために,一般的な航空ステレオ画像では,計測できない点が多く存在する.しかしながら,TLS画像を用いた場合,ステレオマッチングで用いる三画像(直下視,前方視,後方視画像)を適宜に組み合わせることで,解像度の高い画像を取得できると同時に,このオクルージョンの影響を大幅に低減させることが可能である.この計測手法に基づき,ある程度の簡単な処理は自動化した,半手動による三次元計測手法構築した.また,ここでは,複雑で立体的な屋根面形状に加えて,本体に付随する形状をもモデリングの対象とし,半自動処理および自動処理を考慮した「汎用屋根モデル」を提案した.このような密集都市部にも対応したTLS画像による高度な三次元モデリングの手法を構築することで,歩行者スケールの広域図化といった,都市部の建物計測における超高解像度画像の持つポテンシャルを完全に引き出すことを行った.

(2) データ統合によるモデリングの完全自動化の検討

 超高解像度の多視点画像を用いることで,歩行者レベルの解像度で,かつ広域をカバーする三次元都市データを構築できる可能性が高い.しかし,フルマニュアルでの計測では,精細なモデリングをすればするほど,三次元モデリングにかかるコスト,すなわち人件費がかかるという問題がでてくる.その有効な解決策としては,計測および三次元モデリングの自動化が挙げられる.

 今までにも,画像を用いた三次元都市データ構築の自動化に関する数多くの研究が取り組まれているが,画像だけを用いて自動化する手法は計算処理量が膨大となったり,自動処理の成功率が十分でなく計測結果の品質を保てないといった課題が存在する.これらの課題を解決するためには,補助データを用いた画像からのオブジェクト抽出手法や画像群からのステレオペアの自動選択に関する手法,対応点の探索量もしくは探索範囲を絞り込みに関する手法が有効であることに着目した.また,三次元都市データは,測量分野以外にも利用される発展性を持っており,必ずしも,三次元モデリング自体は,精度を最重視するわけではない.コストパフォーマンス(簡易ナビゲーションなど)や,リアルタイム性(災害把握など)を最重視するなど,低精度でも許容されるモデリング結果を要求する利用分野も存在する.このような汎用性を持たせるためには,100%の自動化率を達成した手法を構築しておく必要がある.これらの点に基づいて,本研究で提案する「汎用屋根モデル」の適用と「SNAKEベースド・ステレオマッチング」を基本処理とした,データ統合手法による三次元都市データ構築に関する完全自動化手法を構築した.

(3) TLS画像によるモデリングの半自動化手法の検討

 超高解像度三次元空間データの生成に関する自動化を100%達成したとしても,測量の分野においては,総点検作業が要求される.そこで,フルマニュアル計測における問題点と,自動化が達成されたときの問題点を解決することを目的として,半自動計測手法およびデータ統合による半自動計測手法の高効率化手法を提案した.これにより,データ生成にかかるオペレータへの負荷を軽減させることに成功した.

(4) TLS画像を用いた完全自動によるテクスチャマッピング手法の検討

 建物面,特に壁面へのテクスチャマッピングでは,デジタルカメラ画像を用いた手動による編集が行われることが多く,結果としてテクスチャ三次元モデルの生成は高コストな処理となっている.そこで,テクスチャマッピング処理にかかる全体的なコスト削減を図るために,TLS画像のみを用いてモデル全面へ一括にテクスチャを貼り付ける手法を構築した.TLSは建物壁面の高解像度テクスチャを取得することが可能である.しかしながら,TLS画像は一種の複数視点画像であるので,任意の面に貼り付けられるテクスチャを切り出してくる際に,その処理に用いる最適な画像を選択する必要がある.ここでは,TLSの投影法を活用することで画像選択の高速化を図り,超高解像度画像を単純に貼り付けるだけでなく,テクスチャマッピングにかかる処理時間を激的に削減することを目標としたテクスチャマッピング手法を構築した.これによって,高速・高品質壁面テクスチャマッピングの完全自動化を達成できた.

(5) 三次元データの変化検出手法の検討(完全自動)

 ビジュアライゼーションを目的として使われるテクスチャモデルが,データの自動更新に応用できることに着目し,高精細三次元データを用いた「モデルベースド変化検出手法」を構築した.実際の都市環境で取得した時系列データを用いた実証実験を行うことで,この手法がほぼ100%の変化検出を達成できることを確認することができた.比較的単純な処理でオブジェクトの変化検出ができ,高精細都市三次元データを用いることで,対象の幾何形状やテクスチャ情報を正確に参照できるので,既存の画像差分手法よりも精度の高い変化検出が可能であることが確認された.

 本研究の手法で構築された高精細三次元都市データの一部を図2に示す.

4 結論

 高精細三次元データの構築において,絶対精度を追求する測量データ生成を目的とした形状計測の部分のみに着目した場合では,モデリング結果の確認や修正作業が伴うために,劇的な時間削減は困難である.しかしながら,高精細三次元形状データに対して,100%に近い完全性(現実空間との高い類似性)を持たせることで,テクスチャモデリングやデータ更新に関する自動化率をほぼ100%に引き上げられることや,数日から数十日分の作業を1時間程度に削減するといったような処理の劇的な高速化を行えることがわかった.さらに,形状データの計測およびモデリング,テクスチャモデリングおよびデータ更新をひとまとめに扱った,三次元空間モデル構築/更新に関する総合的な生成モデルを構築することで,データ生成にかかるトータルコストを下げることに成功した.

図1. データ統合型・三次元都市データ構築/更新モデル

図2. 構築された高精細三次元都市データの一部

審査要旨 要旨を表示する

 従来からのCG(コンピュータグラフィックス)などに加え、歩行者を対象とした「マンナビ」から都市災害シミュレーションまで都市空間を3次元表現した都市データに対する需要は多く、いくつかの企業が3次元空間データをすでに発表されている。しかしその作成は膨大な手作業に頼っており、3次元データの更新も十分には行われていないのが現状である。一方、この数年で航空機に搭載する高精細デジタル画像センサが普及し、デジタル画像そのものは大変利用しやすくなってきた。そこで空からの高精細デジタル画像データを利用して3次元都市データを効率的に作成・更新しようという気運が高まってきている。しかし、コンピュータビジョンやデジタル写真測量などの分野で3次元計測の自動化に関する研究が数十年間行われてきたにもかかわらず、計測を全自動で行うものは存在せず、結局手作業に頼る部分が多い。その結果、工程全体のスループットがなかなか向上しない。そこで、都市部では2次元数値地図などの蓄積もかなり進んでいることなどに着目し、そうした既存情報を補助情報として利用することで自動化率を向上させること、自動化が困難な部分についてはオペレータが簡単なインストラクションを与える半自動手法を組み合わせることができれば、工程全体のスループットを大幅に改善できる。また更新に関しても作業効率を向上できる可能性がある。本論文は以上のような背景とアイディアに基づくものである。

 本論文は全体で8章からなっている。第1章は研究の概要である。第2章は使用した高精細デジタルセンサであるスリーラインセンサ(TLS)について概要を述べている。第3章はTLSを利用した3次元計測の方法について、手作業による計測手法と建物や地表面の3次元データの表現方法について整理している。

 第4章はデータ統合によるモデリングの完全自動化の検討であり、概略形状の生成と、その高精細化という二つの段階に分かれた自動化手法を提案している。概略形状の生成ではTLS画像からの概略3次元モデルの自動生成を含め、既存の2次元数値地図とTLS画像を組み合わせる方法、レーザスキャナなどによる解像度の低い3次元データとTLS画像を組み合わせる方法を提案している。次にTLS画像を利用して、概略形状データの高さ、形状の両面について高精細化を行う。具体的には概略形状を初期値としてTLS画像から建物形状を抽出し、高さも高精度に推定する。これにより補助データのある地区については自動化率が大幅に向上することが示された。

 第5章ではTLS画像からの半自動計測手法について述べている。第4章で提案した自動化が成功しない部分を対象に半自動計測を行う。ここでは、技量・熟練を要する立体視による計測を全く行わず、単画像だけを見てその上で概略の建物輪郭を与えることで、詳細輪郭の再構成、高さの精密自動決定を高速に行う手法を提案している。

 第6章は作成された高精細な3次元データに対してTLS画像をテクスチャとして貼り付ける方法を提案している。TLS画像は建物をさまざまな方向から撮影しており、それを利用してより適したテクスチャを貼ることに成功している。上記の第4章から6章までに提案された手法を利用して、六本木地区、および錦糸町地区を対象に3次元都市モデルの構築実験を行い、良好な結果を得ている。

 第7章は、テクスチャ付きの高精細3次元データを利用した変化検出手法を提案している。ここではテクスチャ付きの高精細3次元データに新しく撮影されたTLS画像を投影することで変化を検出するが、太陽高度の変化による陰影の変化などを補正しながら、まず建物滅失を検出する方法を開発した。次に駐車場など新たに建物が立ち上がる可能性のある箇所を抽出して建物の新設を検知する手法を検討した。滅失の検出は密集市街地でほぼ100%を達成した。新設に関しては、密集市街地での適用に留まっており、対象地区でそうした新設がなかったためシミュレーション画像を利用して検出実験を行い、これもほぼ100%の成功率を得ている。

 以上まとめると、高精細デジタル画像センサであるTLSを利用して、きわめて精細な都市3次元モデルを非常に効率的に構築する体系的な手法を開発し、その有効性を実証しただけでなく、高精細なテクスチャ付き3次元モデルが、変化検出にも有効であることを明らかにしており、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

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