No | 120526 | |
著者(漢字) | 大和田,茂 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオワダ,シゲル | |
標題(和) | 実用的なボリュームグラフィックス | |
標題(洋) | Practical Volume Graphics | |
報告番号 | 120526 | |
報告番号 | 甲20526 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(情報理工学) | |
学位記番号 | 博情第39号 | |
研究科 | 情報理工学系研究科 | |
専攻 | コンピュータ科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 自然界にある全ての物体には内部にボリューム的な構造があり、その構造が物体の挙動を支配している。そのため、医学診断やシミュレーションの目的では、すでにボリュームデータが広く用いられている。一方、映画や仮想現実、エンターテイメント用途では今もってサーフェスグラフィックスが主に用いられている。これは、必要なデータ量が小さくなるためと、実在しない形状を容易に作成することができるためだと考えられる。実際、このような対象に対しては、サーフェスグラフィックスで十分だと信じられている。しかしながら、実際には、サーフェスグラフィックスの限界が、逆にアプリケーションの限界を作り出してしまっているのである。本論文では、ユーザーが簡単かつ直感的にボリュームモデルを作成できるシステムをいくつか提案する。というのも、ボリュームデータの一般化を妨げている最大の要因はモデリングシステムの欠如にあると我々は考えているからである。 一般にボリュームデータと呼ばれるものには二つの種類がある。一つはテクスチャ付きボリュームデータ(Textured Volume Data)であり、これは色や透明度などの視覚的属性を直接保持するものである。もう一つは陰的ボリュームデータ(Implicit Volume Data)であり、通常はスカラー値を返す場関数の形をとり、等値面によりサーフェスを定義するものである。 陰的ボリュームデータは通常サーフェスモデルを表現するために使われるが、それでも物体の位相変化を自然に扱える、形状のソリッド性が自動的に保たれる(自己交差が起こらない)など、すでに単純なサーフェスモデルに比べて多くの有利な点がある。我々はまず、この陰的表現を用いたスケッチベースモデラーを提案する。このシステムを用いれば、ユーザーは一時的切断などの直感的操作により簡単に穴のあいた物体や中空な物体を作ることができる。我々はこの研究において、データ表現にボリュームを用いると、既存システムにおける自己交差などの問題を簡単に解決することができる、という事を示そうと試みた。 現在では、最も重要なボリュームデータソースはCTやMRスキャナーなどの医用デバイス、および、物体を実際にスライスしてキャプチャーするスライサーである。結果は通常ボクセルと呼ばれる、空間内に等間隔に配置されたサンプリング点集合にそれぞれ属性値を格納したものになる。このデータは単なるサンプル点の集合であるために物体の形状情報がなく、これを他の目的に用いようと思うと、この中から自分にとって重要な領域だけを取り出すことが必要になる場合が多い。この取り出し操作は画像セグメンテーションと呼ばれ、極めて多くの応用がある。例えばこの情報を用いて可視化パラメータを制御したり、ボリュームデータと効率的にインタラクションすることなどが可能である。しかしながら、セグメンテーションは自動化の困難な処理であり、また、人手で情報を加えるにも、対象がボリュームデータであるために、直感的なインターフェースのデザインが非常に困難になる。我々はボリュームキャッチャーという非常にシンプルにセグメンテーションを行うユーザーインファーフェースを提案する。これまでの、物体を一旦切ってからシードポイントを設定したり、輪郭を描いたりするのに比べ、非常に簡単にセグメンテーションを行うことが可能である。このシステムは、初心者が既存のボリュームデータを利用する際に役立つほか、医者が可視化パラメータをコントロールする際などにも用いることができる。 コンピュータの性能が向上した現在においても、ボリュームデータのサイズの大きさは依然として問題である。これは特に、ゲームや仮想空間など、インタラクティブ性が、モデルの精密さや正しさよりも重要な用途においてより顕著である。これらの応用においては、視覚的効果の度合いと、必要な計算資源の量のバランスが大事であるため、様々な選択肢があることが大切である。我々はメモリ効率がよく、リアルな断面画像を生成できる新たなデータ表現形式を提案する。このシステムは、ユーザーが物体を切断すると、あらかじめ用意された二次元画像を参照し、テクスチャ合成技術を用いて断面画像を生成する。この際に、三次元の陰関数を断面上でサンプリングして合成を制御することにより、あたかもボリュームテクスチャが三次元的に分布しているかのような画像を生成することが可能になる。二次元画像は三次元のボクセルデータよりもはるかに量が小さく、また、三次元陰関数もボクセルではなく、放射状のプロファイルを持つ基底関数の和(Radial Basis Function)として表現している。そのため、このデータはコンパクトであり、これまでデータ量の問題によりボリュームデータが使えなかったエンターテイメント用途などにも広く用いられる可能性がある。また、二次元画像は三次元ボリュームデータに比べてはるかに簡単に得ることができるため、モデリングが簡単になるという利点もある。 我々はボリュームグラフィックスには新たなコンテンツを生み出す大きな可能性があると信じている。そこで、この論文の最後に、ここまで述べてきたシステムをデータソースとして使うことのできるインタラクティブなコンテンツを示す。これは料理を対象としたもので、ユーザーは自由曲線や画面内に表示されるナイフなどを用いて食材を自由に切断することができる。 このコンテンツを通じて、我々はボリュームグラフィックスが新たなコンテンツを生み出し得るということだけでなく、ボリュームデータとインタラクションするためにはユーザーインターフェース上の工夫が大いに必要であることを示すことを試みた。ここで提案された切断手法は、料理だけでなく、より広範囲のボリュームデータにも応用が可能であると考えている。 この論文ではボリュームデータのモデリングシステムの可能性を探った。なぜなら、使いやすいモデリング手法こそが、今後のボリュームグラフィックスの発展に最も必要だからである。我々は、ボリュームグラフィックスがサーフェスグラフィックスと同様、誰でも当たり前に用いる不可欠な要素技術となることを願っている。 | |
審査要旨 | 本論文は、エンドユーザー向けのボリュームグラフィックスにおける最大の困難はユーザーインターフェースにあるという立場から、特殊な入力デバイスを用いることなしにボリュームデータを取り扱う様々な手法を提案している。 本論文は8章からなっている。第1章はコンピュータグラフィックスの一般論からグラフィックス研究におけるボリュームグラフィックスの位置づけ、さらには本論文の主たる貢献の概説がなされる。第2章はボリュームグラフィックス全般のサーベイである。第3章はボリュームデータ構造を用いたスケッチベースの形状モデラーの提案である。第4章は物体の切断面を定義することでボリューム的な構造を定義する新たなデータ構造およびインターフェースの提案である。第5章は平行な輪郭線列を補間して表面を再構築する際に、最適解の発見に効果的なトポロジーの列挙手法を提案している。輪郭線列は、CTスキャンなどから得られたボリュームデータのセグメンテーション付加情報として、ユーザーが与えることの多いデータである。第6章では、ボリュームデータのセグメンテーションにおいて、レンダリング画像に直接ユーザーが対象領域のシルエットをなぞることで効率的に情報を与えるインターフェースの提案である。第7章では、マウスを用いてボリュームデータとインタラクションするコンテンツが提示される。第8章では本研究のまとめと今後の課題について述べられている。以下に各章の内容について述べる。 実用に供されるグラフィックスシステムの多くでは物体を外界との境界面のみで表現するサーフェスグラフィックスが使われている。この表現は複雑な動きをしない、不透明な物体の表現には適しているが、実世界に近い処理を行おうとすればするほど、様々な問題が起こってくる。そのようなケースを適切に扱うにはボリュームデータが必要だが、ボリュームデータは次元が高いため、取り扱いが困難である。この問題点を解決するには、ユーザーインターフェース上の工夫が不可欠である。そこで、本論文では特殊なデバイスを用いることなくボリュームデータを直感的に扱うためのシステムをいくつか提案し、それを通じてこれまでの限定された用法でなく、より広くボリュームグラフィックスが実用に供されることを狙っている。 第3章と第4章は、ユーザーが(二次元画像を用いながらも)スクラッチから手作業でボリュームデータを作成するようなシステムの提案である。第3章では、二次元のスケッチを用いてボクセルデータをモデリングするシステムを提案している。既存手法と異なり、データ構造としてボクセルを用いることにより、穴あき物体など、トポロジー変化を自然に扱えるようになり、実装も簡単化された。また、穴あき物体をモデリングするためのジェスチャー(特殊なストローク入力による機能)をいくつか提案し、短時間である程度複雑な形状が作成できる。 第4章では、物体を切断した時に現れる断面画像を二次元的画像処理によって合成し、あたかも内部にテクスチャが定義されているかのように提示するシステムを提案している。モデリングの際には、二次元の画像と三次元のサーフェスモデルを入力とし、それらの対応を定義する。この対応関係は三次元の関数として保持される。ユーザーが物体を切断した際には、システムは断面上で三次元の対応関係関数をサンプリングして二次元のコントロール画像を動的に作り、さらに、モデリング時に指定された二次元画像モ用い、テクスチャ合成の変形アルゴリズムによって断面画像が生成される。貼りつけ方には、三通りが定義されている。この手法を用いると、ボリューム的なコンテンツを簡単に作成できるうえ、必要なメモリ量も少なくてよい。 第5章と第6章は、CTスキャンなどのキャプチャーデバイスを用いて実世界から取り込まれたデータを対象としている。特に、ボリュームデータのセグメンテーション処理を簡単にするためのシステムの提案である。よいセグメンテーションのためには、現状では手作業で付加情報を与えることが必要であるため、これをどのように与えるかというのは大きな問題である。 第5章では、ユーザーは断面画像のいくつかに、対象領域の輪郭線を描きこむものとし、その結果現れる輪郭線集合を補間して境界面を計算するためのシステムについて述べている。補間面を生成するには評価関数を用いて形状を逐次改善することがよく行われるが、通常この評価関数は補間面のトポロジー(分岐や穴の数など)が何通りも考えられる場合に効果的に結果を出力することができない。そこで本章では、可能なトポロジーを全て列挙する方法を考案し、それによりグローバル最適解を求めやすくしている。評価関数そのもののデザインには踏みこんでいないが、列挙によってグローバル最適解を求める可能性を示したという点が主な貢献である。 第6章では、ユーザーの入力を最小限に抑えることを目的として、物体の断面画像ではなく、レンダリング画像に直接対象領域を描きこむユーザーインターフェースを提案している。ユーザーが描いた二次元のストロークに対しシステムが自動的に奥行きを付加し、その三次元の曲線位置を用い、最終的には既存手法でセグメンテーションが行われる。ユーザーが領域の輪郭をなぞったとすると、三次元的にはその部分のボリュームデータのグラディエントが視線方向に垂直になっているはずである。この仮定を基に二次元のパス最適化問題を解くことによって、ストロークの三次元化を行っている。これにより、ユーザーは物体を切断することなく、直感的に自分の意図する領域を指定できるようになった。 第7章では、ユーザーが作成したデータおよびスキャンデータの両方をデータソースとして、マウスのみを用いて比較的複雑なインタラクションを行うコンテンツを提案している。このコンテンツは料理をテーマとしており、飾り切りと呼ばれる複雑な切断方法を、特殊なデバイスを使わずに行うことを可能にしている。 第8章では、提案した全システムを包括し、これらによってボリュームグラフィックスの実用性が高まり、新たなユーザーを開拓する可能性があると結論づけている。 これらのインターフェース上のアイデアにより、ボリュームグラフィックスの実用性が高まり、より広範な分野に適用されることを実証している。よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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