No | 120562 | |
著者(漢字) | 飯田,陽子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イイダ,ハルコ | |
標題(和) | 肺動脈平滑筋細胞の電位依存性カリウムチャネルについての電気生理学的及び分子生物学的検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120562 | |
報告番号 | 甲20562 | |
学位授与日 | 2005.04.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2559号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 《研究の背景と目的》 電位依存性カリウムチャネル(Kv)は,血管平滑筋細胞において,膜電位の形成などに関与しており,Kvの正常な発現及び機能は血管張力の維持に不可欠である.このKvの発現及び機能の変化は,多くの病的状態に関与している.このことは,肺動脈平滑筋細胞においても同様である.たとえば,虚血やフェンフラミンのような薬物によって誘発される肺動脈の血管収縮の状態下では,Kvの発現と機能が変化していることが報告されている.また原発性肺高血圧症の患者でもKvの機能不全を起こしていることが報告されている. このKvの形成する電流は平滑筋細胞では遅延性整流カリウム電流(Ik)と一過性外向き電流(IA)に分類される.Ikはゆっくりと活性化し,ゆっくりと不活性化する電流であり,膜電位の形成などに関与し,血管張力の調節に重要である.一方,IAはすべての平滑筋に存在するのではないが,ヒトを含めたさまざまな種の血管平滑筋でその細胞膜の興奮に関わっていることが知られている. このKvはイオンの通過孔を形成するαサブユニットから構成されている.Kvαサブユニット蛋白は6回膜貫通型蛋白であり,9種のファミリーが存在する.このうちKv1〜4ファミリーでは同種のあるいは異なったサブファミリーのαサブユニットが4個組み合わさることにより,ひとつのチャネルを形成しており,このうちIAを形成するものとしてKv1.4,Kv3.3,Kv3.4,Kv4.1〜4.3がある.またKv1ファミリーは修飾因子であるβサブユニットとともに存在することによりIAを形成しうる. これまでにIk,IAそれぞれを形成するαサブユニットのいくつかがクローニングされており,ラットやヒトの肺動脈平滑筋細胞でも,実際にいくつかのKvの遺伝子や蛋白の発現が確認されている.しかし,ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるIAを形成するKvαサブユニットの発現について,薬理学的及び分子生物学的に詳細な検討を試みた研究はまだなされていない. そこで,本研究は,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるKv,とくにIAの電気生理学的及び分子生物学的特徴を明らかにすることを目的として行われた。 《方法》 培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるIAの電気生理学的・薬理学的な特徴を調べるためにパッチクランプ法(ホール・セル・クランプ法)を用いた.培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるKv遺伝子の発現を調べるためにリバース・トランスクリプションーポリメラーゼ・チェイン・リアクション(RT-PCR)法(Kv1.1〜1.6,Kv2.1〜2.2,Kv3.1〜3.4,Kv4.1〜4.3)を用い,さらにIAをコードするKv遺伝子及びKv4ファミリーの関連蛋白であるカリウムチャネル相互作用蛋白(K+channel interacting protein,KChIP)遺伝子の発現を定量的に評価するために定量RT-PCR法を用いた.培養及び正常組織のヒト肺動脈平滑筋細胞でのKv蛋白の発現を調べるために免疫細胞及び組織染色法を用いた. 《結果》 EGTA10mM及びATP3mMをピペット内に充填し,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞を用いて,ホール・セル・ボルテージ・クランプ法を行った.保持電位-70mVとし,種々の脱分極パルスを与えると,外向き電流が一過性に活性化(IA)し,その後急速に減少して定常状態の電流(IK)へと移行した.この一過性外向き電流(IA)及び定常状態の電流(IK)は,ピペット内のカリウムをセシウムに置換すると消失することから,カリウム電流と考えられた.このIA電流は,4アミノピリジン(4-AP)により,濃度依存性に阻害され,その50%阻害濃度(IC50)は794μM(n=3〜5)であった.これにより,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞において電位依存性カリウム電流,とくにIA電流の存在が示唆された. 次にRT-PCR法を用い,電位依存性カリウムチャネル遺伝子の発現を体系的にスクリーニングした結果,IKをコードするKv1.1,Kv1.5,Kv2.1の発現とともにIAをコードするKv3.4,Kv4.1,Kv4.2,Kv4.3の発現が認められた.定量RT-PCR法によってその発現量を比較すると,Kv4.2>Kv3.4>Kv4.3(long)>Kv4.1>>Kv1.4の順であった.Kv4.3(short)の発現は認めなかった.このことから,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞においてIAを形成するKvは主にKv3.4及びKv4ファミリーであることが示唆された. このIAは,薬理学的に,非選択的カリウムチャネル阻害薬であるが低濃度ではKv3.4を抑制するとされるテトラエチルアンモニウム(TEA)に対する感受性によって2種の構成成分に分けることができた.ひとつは低濃度(1mM)のTEAに感受性のある成分であり,もうひとつはTEAに非感受性であった.1つの細胞における2種の成分の存在比はTEA感受性成分が71.8±6.4%,非感受性成分が28.2±6.4%であった(n=12). IAは,Kv3.4の特異的阻害薬であるBDS-II(3μM)に対して感受性が認められた(阻害率:67.0±4.7%,n=3).また,Kv4.2,Kv4.3の特異的阻害薬であるフリクソトキシン-II(1μM)によって阻害された(阻害率:36.5±2.0%,n=3). Kv4ファミリーが形成するIAに対して阻害効果が高いとされるフレカイナイドはIAを濃度依存性に阻害し,不活性化を加速させた.その阻害はTEA非感受性成分に対してより強い効果を示した.TEA感受性成分に対するIC50は113μM(n=3〜8)であったが,TEA非感受性成分に対するIC50は,30μMであった(n=3).不活性化の時定数は,+40mVの脱分極パルスにおいてコントロールが15.7±1.9msであるのに対し,フレカイナイド100μM存在下では5.8±0.7msであった(n=3). オキシダント・ストレスを引き起こすターシャルブチルハイドロペルオキシダーゼ(t-BHP)は,Kv3.4を含む特定のKvの不活性化を遅延させ,Kv4ファミリーにはその影響を与えないとされている.このt-BHP(ImM)はIAの不活性化を遅延させた(τ:14.9±1.0→30.7±1.8,n=3,p<0.01)が,TEA非感受性成分のIAの不活性化にはほとんど影響を与えなかった(τ:13.6±1.4→13.8±1.2,n=4,有意差なし). Kv1.1,Kv1.2の阻害薬であるデンドロトキシン(100nM),Kv1.2,Kv1.3の阻害薬であるカリブドトキシン(100nM),Kv1.5の阻害薬であるクロフィリウム(10μM,50μM)はいずれもIAをほとんど阻害しなかった(n=3〜4). また,2つの成分は電気生理学的なパラメータによっても区別することが可能であった.TEA感受性成分の50%不活性化を与える電位は-23.2mV,不活性化からの回復の時定数は1521±143msであるのに対し(n=5),TEA非感受性成分の50%不活性化を与える電位は-54.5mV,不活性化からの回復の時定数は238±30msであった(n=3). 免疫細胞染色法によって,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるKv3.4,Kv4.2,Kv4.3蛋白の存在が確認できた.さらに免疫組織染色法によって,正常ヒト肺動脈組織切片においてもKv3.4,Kv4.2,Kv4.3蛋白の存在を確認した. 最後に,Kv4ファミリーの修飾蛋白であるKChIP遺伝子の発現量を定量RT-PCR法によって比較した結果, KChIP2,KChIP3は存在した(KChIP2<KChIP3)が,KChIP1及びKChIP4は存在しなかった. 《考察》 本研究は,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるIAがKv3.4及びKv4ファミリーによって形成されていることを明らかにしたものである. ヒトの肺動脈平滑筋細胞においてIAを形成するKvの詳細な検討はいまだなされておらず,本研究は,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるKv3.4,Kv4ファミリーの存在をはじめて直接的に証明したものといえる.さらに,Kv4ファミリーとともに存在し,その機能を修飾するとされるKChIP遺伝子の発現も明らかにし,このことから,Kv4は,KChIPとともに,生理的に機能している可能性が考えられた. IA電流は門脈などのphasicな平滑筋においては,細胞の膜電位形成,活動電位発生,ならびに,それによる自発興奮頻度の調節に深く関与しているとされている.tonicな平滑筋である肺動脈平滑筋におけるIAの機能については不明であるが,肺動脈平滑筋では,さまざまな生理的状態ならびに病的状態により,活動電位が発生し,電気的活動が変化することが知られており,とくに,虚血状態において,膜電位の脱分極,さらに活動電位の発生をきたすことが報告されている.今回の検討において,ヒト肺動脈平滑筋細胞で認められた2種類のIA電流の50%不活性化を起こす電位が,正常細胞の静止膜電位(〜-40mV)に近いところで観察されたことから,IA電流は,虚血などさまざまな病態における肺動脈平滑筋の電気的活動に関与している可能性が考えられる. 今後,肺高血圧症を含めたさまざまな病態下でのKv及びKChlPなどの修飾蛋白の発現の変化などについてさらに検討が必要である. | |
審査要旨 | 本研究は,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞における電位依存性カリウムチャネル(Kv),とくに一過性外向き電流(IA)の電気生理学的及び分子生物学的特徴を明らかにすることを目的として行われ、以下の結果を得ている。 RT-PCR法によりKvチャネル遺伝子の発現についてスクリーニングを行い,IAに関連するKv3.4,Kv4.1,Kv4.2,Kv4.3をコードする遺伝子が発現していることを明らかにした.さらに,定量RT-PCR法でその発現量を比較し,Kv4.2が最も多く,ついでKv3.4,Kv4.3(long),Kv4.1の順に発現していることを示した. 免疫細胞染色法によっても,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞におけるKv3.4,Kv4.2,Kv4.3の存在を示した.さらに正常ヒト肺動脈組織切片を用いた免疫組織化学法でも同様の結果を示した. 電気生理学的手法により,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞において4-APによって阻害される一過性外向き電流(IA)が存在することを示した.次にTEAに対する感受性により,このIAが異なる2種の構成成分より成りたっていることが明らかにした.1つは,比較的低濃度のTEAに感受性がある成分であり,もう1つは,TEAに非感受性の成分である.TEAは低濃度ではKv3.4を抑制するが,Kv4ファミリーにはその影響を与えないことが知られており,RT-PCRの結果と合わせ,これらの2つの成分がそれぞれKv3.4,Kv4ファミリーからなる可能性を示した. それぞれのKvに対する特異的阻害薬のIAに対する効果を調べたところ,IAはKv3.4の特異的阻害薬であるBDS-II及びKv4.2,Kv4.3の特異的阻害薬であるフリクソトキシン-IIによっても阻害されることを示した.フレカイナイドはKv4チャネルで形成されるIAに対する阻害効果が高いことが報告されているが、培養ヒト肺動脈平滑筋細胞において、フレカイナイドはTEA感受性成分より非感受性成分をより強く抑制することを示した.さらにKv1.1,Kv1.2の阻害薬であるデンドロトキシンKv1.2,1.3の阻害薬であるカリブドトキシン,そしてKv1.5の阻害薬であるクロフィリウムがいずれもIA電流を阻害しないことを示した. グルタチオン・ペルオキシダーゼの基質であり,細胞の抗酸化容量を減少させることによってオキシダント・ストレスを生じさせる薬剤であり,Kv1.4,Kv3.3,Kv3.4を含む特定のKvチャネルをアミノ酸末端のシステインを酸化することによって,不活性化を遅延させることが知られているターシャルヒドロペルオキシダーゼ(t-BHP)が,ヒト肺動脈平滑筋細胞において,Kvの不活性化を遅延させ,TEA非感受性Kvには影響を与えないことを明らかにした. さらに,このIAを電気生理学的に区別する指標として,不活性化,活性化曲線及び不活性化からの回復の経時的変化などのパラメータを測定し、TEA感受性成分の V0.5inactが-23.2mV,τrecovが1521±143ms,TEA非感受性成分のV0.5inactが-54.5mV,τrecovが238±30mであった。これらの特徴は、前者がKv3.4,後者がKv4ファミリーの、これまでの報告と矛盾しないことを明らかにした. Kv4ファミリーの生理的な機能の修飾に重要な役割をもつEF-handを有するカルシウム結合蛋白であるカリウムチャネル相互作用蛋白(K+ channel interacting protein,KChIP)、主にKChIP3が,Kv4ファミリーとともに存在することを定量RT-PCR法によって明らかにし,Kv4-KChIP3がヒト肺動脈平滑筋細胞において生理的な役割を担っている可能性を示した. 以上,本論文は,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞にはKv3.4,Kv4.1,Kv4.2,Kv4.3が存在することをRT-PCR法及び定量RT-PCR法,免疫染色法によって明らかにし,さ | |
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