No | 120577 | |
著者(漢字) | 仁田,工美 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ニッタ,クミ | |
標題(和) | マイクロギャップの放電現象 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120577 | |
報告番号 | 甲20577 | |
学位授与日 | 2005.05.19 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6077号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 電力ケーブルやガス絶縁開閉機器など電力機器においては、異種の絶縁物を組み合わせて絶縁を行う複合絶縁方式が一般に用いられる。これら複合絶縁方式では、異種材料の間に界面が存在し、界面における絶縁特性がシステム全体に重大な影響あるいは効果をもたらしていることはよく知られている。複合絶縁において界面の種類は多岐にわたり、またその現象は複雑なため、いまだ解明されていない事象が多い。界面ではボイドや不純物の混入によって微小な隙間が生じ、機器の絶縁特性を低下させる要因のひとつになっていると考えられている。マイクロギャップにおける絶縁破壊現象を解明し、その放電モデルを確立することは機器の絶縁耐力を向上させるために重要である。 また超高密度集積回路、半導体微細加工を援用したマイクロマシン、プリント回路など各種電子デバイスにおいては、インバータ・サージ、雷サージなど通常の運転電圧を超えて瞬間的に発生する過電圧によって、絶縁破壊や機能停止、劣化などの影響を被ることがある。微細化が進むにつれ、マイクロギャップにおける絶縁特性の把握が一層求められている。MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)分野におけるシリコン 及び金属ギャップ間の放電状態を観測した例や、マイクロ放電加工分野における放電加工時のエネルギー密度分布についての報告はみられるが、マイクロギャップにおける放電現象機構に踏み込んだ研究はなされていないのが現状である。 個々の事象ではなく体系的にマイクロギャップの絶縁耐力及び放電現象を論じることは、工学的に重要な意味を持っていると考えられる。そこで、マイクロメータオーダのギャップにおける放電現象を観測する実験装置を構築し、金属電極間及びシリコン電極間の絶縁破壊電圧を測定した。1mm以下のマイクロギャップの破壊遅れ時間についての実験を行うことで、初期電子発生のメカニズムと放電進展過程の検討を行い、タウンゼント理論における陰極からの二次電子放出係数γの作用を3つの主要因に分離し、マイクロギャップの放電現象のモデル化を行った。 タウンゼント機構による火花放電進展過程は、与えられた電界の下において、図1に示すように、初期電子の数を1個と仮定すると、衝突電離作用(α作用)によって電子数が増倍し、陽極に達する時にはA=exp(αd)個になっている。電子数は差し引きexp(αd)-1個増し、同時に同じ数のイオンが発生している。二次電子放出機構としては、この正イオンが電界の作用を受けて陰極に到達する際に二次電子を放出させる作用(γi作用)、α作用と同時に起こっている衝突励起や再結合の結果生じた光が、陰極に当たって光電子を放出する作用(γp作用)、準安定励起分子が拡散によって陰極近傍に移動し、陰極(金属)に接触して、準安定励起分子からのエネルギーによって、金属原子から二次電子が放出される作用(γm作用)が考えられる。 考察した放電過程を基に、形成時間遅れが実験結果と一致するγ=γp+γi+γmを求めた。その際、従来測定されているγの傾向からγiはE/pに伴って増加し、γp及びγmは電極間距離の二乗に反比例すると推定し、以下のような仮定を行った。 上式中の定数A、B、CはE/p=526V/cm/Torr及びギャップ長が10μmの値を基準とし、完全探索法によって実験結果と一致する値を求めた。この際用いた A=1.8×10-3、 B=4.2×10-4、 C=6.6×10-3をそれぞれ(1)、(2)、(3)式に代入し、ギャップ長及びE/pを変化させ、形成時間遅れの推定を行った。その結果を図2に示す。計算結果、実験結果のいずれも、ギャップ長が大きくなるほど、電界強度のわずかな変化で形成時間遅れが大きく変化する傾向にあることがわかる。計算結果と実験結果はどのギャップ長でも一致していると考えられ、(1)、(2)、(3)式のように、二次電子放出機構の主要因である3種類のγに、二次電子放出係数が分離できたと考えられる。放電電圧がわかれば、ギャップ長、電界と圧力の比E/pを与えることで、平等電界下の金属電極間における大気圧室温での放電時の形成時間遅れが推定できることを示した。さらに、大気圧の変化の影響を検討し、金属電極及びシリコン電極での不平等電界下における形成時間遅れを測定し、一般化を図った。 | |
審査要旨 | 本論文は、ギャップ長が100μm以下のマイクロギャップの放電現象について実験的検討を行い、火花放電形成過程に重要な影響を与える陰極からの二次電子放出機構を三つの主要因に分離し、マイクロギャップ放電現象のモデル化を行ったもので、「マイクロギャップの放電現象」と題し、7章から構成されている。 第1章「序論」では、研究の背景について述べ、マイクロギャップの存在する高電圧機器の界面とマイクロ・ナノテクノロジー及びその応用について述べ マイクロギャップの放電現象を体系的に検討することが工学的に肝要であることを示した。また、本論文の目的が、タウンゼント理論における陰極からの二次電子放出作用を考慮しつつマイクロギャップの放電現象のモデル化を行うこと、二次電子放出機構を3つの主要因に分離し、火花電圧実験式を導出し、形成時間遅れの推定を行うこと、電子回路やマイクロマシン・アクチュエータなどのマイクロギャップの絶縁破壊特性評価にも適用できるよう放電モデルの一般化を図ること、であることを示した。 第2章「実験方法」では、本研究で構築したマイクロギャップの放電現象を観測する実験構成について述べると共に、放電形成過程を検討する上で基礎となる破壊遅れ時間と宇宙線の影響を検討するために使用した装置について述べられている。 第3章「平等電界での破壊遅れ時間」では、平等電界でのマイクロギャップの破壊遅れ時間の測定結果から、初期電子の供給のために紫外線照射を行っても、電極表面における光電効果(金属からの電子放出)が小さく、また空間に存在するイオンの数が少ないために電子離脱が容易に起きないことから、マイクロギャップでは統計時間遅れを小さくすることは難しいことを示唆した。形成時間遅れが1〜10μsと長いことから、ギャップをイオン及び電子が何度も往復して、衝突電離が進むタウンゼント型の放電現象であることを明らかにしている。 第4章「不平等電界での破壊遅れ時間」では、不平等電界でのマイクロギャップの破壊遅れ時間を測定し、同じ電極構造、同じギャップ長では、電界と気体圧力の比(E/p)が大きくなると形成時間遅れが短くなるが、ギャップ長がd=30μm程度になると、E/pが大きくなっても、形成時間遅れの値が変化しない傾向があることを示した。 第5章「シリコン電極を用いた場合の破壊遅れ時間」では、マイクロマシン用のシリコン電極を用いて、その電極間の破壊遅れ時間を測定した結果、その大きさは数μsであることを明らかにできたが、火花放電によって作られるシリコン表面の損傷が大きく統計時間遅れと形成時間遅れを分離して測定することは極めて難しいことを述べている。 第6章「マイクロギャップ中の分子のふるまい」では、大気圧空気中における、電子の平均自由行程、励起分子が陽極近傍から陰極近傍に到達するまでの拡散時間、ギャップ間に存在するイオン数を、それぞれ定量的に評価することにより、マイクロギャップでは統計時間遅れを小さくすることは難しいことを明らかにしている。 第7章「二次電子放出機構を考慮したマイクロギャップの放電形成過程」では、まず、マイクロギャップにおける火花放電形成過程が、タウンゼント理論で説明できることを明らかにしている。同理論において重要なパラメータである陰極からの二次電子放出係数(γ係数)に関して考察を行い、γ係数が3つの主要因に分けられることを示し、更に、γ係数の定量化を実現できる評価式を導き出している。この評価式を用いることにより、金属電極間のマイクロギャップにおける火花破壊電圧および火花放電形成時間遅れを推定できることを明らかにしている。 以上これを要するに、本論文は、電気・電子デバイスに含まれるマイクロギャップの放電破壊現象を対象とし、特に火花放電までの遅れ時間に着目して測定を行い、それに基づき火花放電形成に重要な影響を与える陰極からの二次電子放出機構を三つの主要因に分離し、それぞれを電界、気体の圧力、ギャップ長の関数として定量化することにより、マイクロギャップの火花放電形成過程のモデル化が可能であることを明らかにした点で、電気工学、特に高電圧、放電工学に貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |