学位論文要旨



No 120579
著者(漢字)
著者(英字) NGAMCHARUSSRIVICHAI,Chawalit
著者(カナ) ガームチャラッシリウィチャイ,チャワリット
標題(和) メソポーラスモレキュラーシーブならびに大細孔ゼオライトを触媒として用いた液相ベックマン転位
標題(洋) Liquid-Phase Beckmann Rearrangement Catalyzed by Mesoporous Molecular Sieves and Large-Pore Zeolites
報告番号 120579
報告番号 甲20579
学位授与日 2005.05.19
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6079号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 水野,哲孝
 東京大学 助教授 大越,慎一
 東京大学 助教授 引地,史郎
 東京大学 教授 堂免,一成
 横浜国立大学 教授 辰巳,敬
内容要旨 要旨を表示する

メソポーラスモレキュラーシーブならびに大細孔ゼオライト触媒によるシクロヘキサノンオキシムからε−カプロラクタムへの液相ベックマン転位について研究を行なった。反応温度130℃で反応溶媒、アルミニウム含有量と導入方法ならびに触媒構造が触媒作用に及ぼす影響について検討を行なった。ベンゾニトリル(PhCN)溶媒中、ラクタム収率が増加し、シクロヘキサノンへの副生が押され、さらにオキシムの開環反応と重合反応が抑制されることから、PhCNが最も有効な溶媒であることが分かった。また、適当な塩基性と極性を持つPhCN溶媒が弱い酸点上での触媒的な加水分解反応に必要な水を取り除き、ラクタムへの選択率を向上させる役割を果たした。ピュアシリカMCM-41は表面シラノール基の酸強度が不十分のためベックマン転位を有効に触媒作用しなかった。メソシリケートの骨格にアルミニウムを導入し酸点を構築することにより、ラクタムを生成する触媒活性と選択性が大きく増加した。オキシムの転化率とクタム選択率は酸量の増加につれ増えた。さらにAlCl3によるポスト法を用いて調製したAl-MCM-41は、水熱法で直接に調製したものより選択的にラクタムの生成を促進した。これは、塩素が結合して形成したtrigonalアルミニウム種に起因する相対的に強い酸点と関連すると思われる。高比表面積のAl-MCM-41は適切な酸点密度と酸強度を持ち、アモルファスシリカアルミナと他のメソ構造触媒(SAB-1とSAB-15)と比べ、液相ベックマン転位により有効であった。

アルミニウム含有量の低いAl-MCM-41と同程度の低い転化率を示すが、大孔径ゼオライトであるモルデナイト、L型ゼオライトとオフレタイトは高いラクタム選択性(92-95%)を有した。このような触媒活性と生成物選択性は、細孔入り口の比較的に小さいゼオライトの2次元チャンネルがオキシム反応物とラクタム生成物の拡散を制限することと、ゼオライトの有する相対的に強いブレンステッド酸点がベックマン転位反応の触媒活性と生成物選択性には有利ではあるが、生成したラクタムを強く吸着して触媒を速く失活させることにそれぞれ関連すると考えられる。一方、3次元細孔をもつHBEAとHUSYは、高いオキシム転化率を示すが、反応の後半でシクロヘキサノンを多く生成するために比較的に低いラクタム選択率(それぞれ86 %と75 %)を示した。27Al MAS NMR測定によりHUSYゼオライトに多くの骨格外アルミニウム(EFAL)が存在することが分かった。一部分のEFALは強度の異なるルイス酸点を形成した。酸処理または熱処理を行いHUSYを脱アルミニウムすると、骨格アルミニウム(FAL)とEFALが変化し、酸性質の異なる触媒が得られた。ブレンステッド酸点の量に対して反応の初期速度またはオキシム転化率25%でのラクタム収率をプロットすると、直線関係が得られた。この結果はブレンステッド酸点が液相ベックマン転位の触媒活性点であることを示唆した。さらに、150℃でのピリジン吸着・脱離FTIR測定実験から、弱いルイス酸点がシクロヘキサノンオキシムの加水分解反応の活性点でることと、強い酸点がオキシムの二両化または重い化合物の生成を促進し反応系に水を増加させることが分かった。

塩基性添加剤を反応系に共存させることによりHUSY触媒上でもシクロヘキサノンが選択的にラクタムへ転位した。添加剤の添加は、溶液が反応温度になる前に直接に反応系に加えるか蒸気吸着させてから熱処理することで可能である。添加剤はオキシムの転化率を減少させ、その具合は種類に依存した。これは、添加剤が反応分子と触媒活性点への競争吸着し、一部分の酸点がオキシムの転位に利用できなくなるためと思われる。水、メタノール、エタノール、DMSO、アンモニア、ピリジンと2,6-ジメチルピリジンの添加により、ラクタムの選択率は大幅に増加した(>93 %)。シクロヘキサノンと二量体の生成が抑えられると同時にラクタムの収率が増加した。さらに、触媒の失活も抑制された。PhCN吸着後の添加剤の導入によるin-situ FTIR測定は、添加剤分子が選択的にルイス酸点に吸着し、PhCN分子が主に弱いブレンステッド酸点に吸着することを示唆した。この結果からシクロヘキサノンオキシムの液相ベックマン転位反応に有効であるのは弱いブレンステッド酸点であることが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

ε-カプロラクタムはナイロン-6の製造のための重要な原料であり、もっぱら発煙硫酸中でシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位によりつくられている。この方法では硫安がε-カプロラクタムよりも多量に副生することから、この硫安の処分が大きな問題となっており、より環境に調和したε-カプロラクタムの製造法の開発が大きな課題となっている。ゼオライトは環境調和型化学プロセスのクリーン化のための鍵となる触媒材料として注目を集めているおり、アルミノシリケートは硫酸などの液体酸を代替する固体酸触媒になる。ゼオライトの結晶構造は、独特の触媒反応場を提供するばかりではなく、その分子サイズオーダの細孔に由来する分子認識機能としての形状選択性も有する。しかし、一方ではゼオライトの細孔サイズの制約により比較的大きな分子の反応が阻害されることもしばしば見られることから、メソ細孔物質の触媒的応用が試みられてきた。

本論文では、ゼオライトやメソ細孔物質を触媒とした液相ベックマン転位反応を取り扱っている。本論文は全6章からなっており、構成は以下の通りである。

第一章は序論であり、本研究の背景、一般的な理論、方法、研究目的について述べている。特にゼオライトやメソ細孔物質を触媒とした気相ベックマン転位反応の研究の概括とそれと比較しての液相ベックマン転位反応の優位性について述べている。

第二章ではメソ細孔シリカを触媒とした液相ベックマン転位を行い、メソ構造、アルミニウム含有量、アルミニウム導入法の違いの効果を調べた。ゼオライトによる気相反応の場合とは異なり、アルミニウムによって生じる酸点の必要性を明らかにした。また、溶媒として、ベンゾニトリルを用いることにより高い転化率とカプロラクタム選択率の達成に成功した。

第三章 では脱アルミニウムによって各種の超安定化Y型ゼオライトを調製し、その酸性質と液相ベックマン転位触媒としての機能の相関について調べた。IRならびにNMRによって酸点のキャラクタリゼーションを行い、ベックマン転位の初速度とブレンステッド酸点の量との相関を見いだし、ベックマン転位の活性点がこの酸点であると推論した。また、ルイス酸点には少なくとも2種類あることを明らかにし、ベックマン転位反応における役割を明らかにした。

第四章では、超安定化Y型ゼオライト触媒によるベンゾニトリル溶媒中での液相ベックマン転位反応における酸点の挙動ならびにベンゾニトリル中での活性・選択性の向上の理由をIR、熱重量分析などの手段により明らかにすることを試みている。ベックマン転位、オキシムの水和によるシクロヘキサノンの生成、ベンゾニトリルの水和の三種の反応の関連を明かにし、それぞれの反応の活性サイトについて考察を行った。

第五章では超安定化Y型ゼオライト触媒によるベンゾニトリル溶媒における液相ベックマン転位に対する水の添加効果を述べている。特に水を平衡吸着させた後に行う加熱処理温度の調節によりベックマン転位触媒としての機能が大幅に向上することを見いだしている。また、酸処理、ベンゾニトリルの前吸着、ゼオライト4Aによってベックマン転位選択性の大幅な向上にも成功した。また、オキシムの水和によるシクロヘキサノンの生成はルイス酸が関与していることを明らかにした。

第六章では超安定化Y型ゼオライト、ベータ、モルデナイトなどの大細孔ゼオライトやメソ細孔物質を触媒とした液相ベックマン転位における塩基性添加物の効果について述べている。塩基性化合物と触媒の組み合わせによって特殊なサイトに優先的に吸着が起こりカプロラクタム選択性が向上することを見いだした。特にオキシムの水和によるシクロヘキサノンの生成がカプロラクタム選択の低下の大きな原因でありこの反応の活性点であるルイス酸点の被毒が選択性向上につながることを明らかにした。

以上のように本論文は工業的に重要なベックマン転位反応を進ませる活性触媒サイトの構造と反応性、選択性の相関を追究し、その機構に基づいて高い活性と選択性を示す触媒系を実現し、高い機能を具えた触媒の設計指針を提示している。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として認められる。

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