学位論文要旨



No 120586
著者(漢字) 杜,剣
著者(英字)
著者(カナ) ト,ケン
標題(和) HSST形磁気浮上鉄道の高速運転における渦電流問題に関する研究
標題(洋) Study on Eddy Current Problem in High Speed Operation of HSST-type Maglev System
報告番号 120586
報告番号 甲20586
学位授与日 2005.06.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6082号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 日,邦彦
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

従来のレール上の車輪で走行する列車と比べて、磁気浮上鉄道(磁気的に空中に浮上した)システムは、低い環境汚染、低い維持費および高速の実行の長所を持っています。空中に浮上方法によれば、MAGLEV運輸方式は2つのグループに分類することができます:電磁吸引制御浮上(EMS)および電磁誘導浮上(EDS)。更に、速度または適用によって2種類のEMSシステムがあります。トランスラッピッドが、推進のためにリニア同期モーター(LSM)を使用して、ドイツで発展した1つの高速のEMS磁気浮上鉄道システムです。も一つは、推進のためにリニア誘導モーター(LIM)を使用して、日本で開発されていたHSSTと称する低い速度のEMS磁気浮上鉄道システムです。

電磁吸引制御浮上(EMS)およびリニア誘導モーター(LIM)技術を使用する磁気浮上鉄道システムは、低い速度の適用のために通常使用されます。例えば、HSSTシステムの商用ラインは今名古屋(日本)に近く、2005年に100km/hまでの速度で操作されるでしょう。200km/hまでEMS-LIMシステムを操作することができるかもしれないと信じられていますが、鋼レールに引き起こされた渦電流の影響はより重大になると考えられています。薄層に裂かれていない鋼レールは、そのようなシステムの中で通常使用されます。従って、渦電流は磁石を移動させることにより容易に引き起こされます。引き起こされた渦電流は浮上力を縮小し、LIMによって推進力に対して抗力を生成します。したがって、EMS-LIMシステムを約200km/h作動させるために、渦電流を計算し、それがどのように浮上力と推進力に影響を与えるのかを考察することが必要です。

渦電流の計算に従事していたこの研究は、研究対象とするEMS-LIM システムが低速から200km/hまで走行する場合に、鋼レールの中で生成される渦電流が、浮上力と推進力にどのような影響を与えるのか考察しました。この計算では、HSST-100Lシステムが計算モデルとして使用されました。また、商用ソフトウェア(JMAGスタジオ)は数値解析のために使用されました。

この研究は浮上システムのみに対処し、計算用のEMS-LIMシステムの推進システムを考慮しませんでした。

EMS-LIM磁気浮上鉄道システムの各モジュールの電磁気特性は、適切なモデルおよび境界条件で計算されるべきです。この点から、この計算では、合計4つのモデルが使用されます。それらは、1-マグネットモデル、1-モジュールモデル、7-マグネットモデルと10-マグネットモデルです。

本論文は合計6章から構成されています。

第1章では、初めは、既存の交通網に関する調査が与えられました。この調査に基づいた、雑踏のような非軌跡境界交通手段、安全性、雑音、エネルギー消費および伴う温室効果によって引き起こされた多くの問題が報告されました。これらの障害を克服することができる交通手段として、磁気浮上鉄道システムは示唆されました、そしてこの研究の背景を示されました。その後に、この研究の目的が述べられました。

第2章では、1-マグネットモデルの計算を報告しました。1-マグネットモデルの計算が1-マグネットシステムの基本の電磁気特性を示します。この計算は、22km/h、108km/hと216km/hで三つの速度での1-マグネットシステムの渦電流を計算しました。この計算においては、実験によって測定された鋼レールの伝導率およびBHカーブを含めて導入されました。本章の中で最初に、マクスウェルの方程式に基づいた渦電流計算の理論式の導き方が与えられました。また、行った鋼レール材料の導電率とBHカーブの測定実験を紹介しました。その後に、計算結果が示されました。最後に、渦電流が浮上力と推進力に与える影響が考察されました。その結果は、推進力に対する影響は無視できるほど小さいことに対して、浮上力の縮小割合が42.2%まで上昇し、この浮上力で、列車を空中に浮上させることができないことが分かりました。

第3章では、表皮効果をめぐって議論をしました。まず最初に、理論式の導き方と計算例を述べました。その後、1-マグネットモデル計算の表皮効果が議論されました。レールにマグネット先端部の上に当たるエリアでは、あるセクションの上の渦電流ループが、レールの表面で引き起こされたループより推進方向に沿ってはるかに大きな距離をカバーすることが分かりました。その後、フーリエ分解によって、その原因を究明しました。その次、レールの中にある線に沿って、フラックス密度Bの大きさは単調に減少しませんということとフラックス密度大きさの速度依存性が考察されました。最後に、皮膚深さに関する議論と結合して、メッシュ有効性が確認されました。

EMS-LIMシステムでは、モジュールが基本構造となっています。様々な位置でのモジュールは異なる境界条件を持っているかもしれないし、異なるモデルによって計算されるべきです。これらの異なるタイプのモジュールを計算するために、3つの多重磁石モデルが導入されました;それらは1-モジュールモデル、7-マグネットモジュールおよび10-マグネットモデルでした。第4章では、これらのモデルの速度216km/である条件での計算が報告されました。これらの計算によって、計算用のEMS-LIMシステムにおける各磁石に働く力を得ることができました。

計算用のEMS-LIMシステムでは、左右側にはそれぞれ10個のモジュールが配置されています。また、各モジュールには4つのマグネットを持っています。従って、各側に合計40個のマグネットを持っています。第5章では、計算用のEMS-LIMシステムの1つ側にある40個のマグネットに働く浮上力の分布を報告しました、それで、浮上力が216km/h速度で十分にならないと結論を下しました。最後に、浮上力を償うために、3つの手段が提案されました。

第6章ではこの研究を要約し、結論を示しました。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「Study on Eddy Current Problem in High Speed Operation of HSST-type Maglev System(HSST形磁気浮上鉄道の高速運転における渦電流問題に関する研究)」と題し,100km/hまでの比較的低速での営業運転が開始された電磁吸引制御方式磁気浮上,リニア誘導モータ駆動のHSST形磁気浮上鉄道を対象に,その適用可能領域の拡大に繋がる200km/h程度までへの速度向上において問題となる鉄レール中での渦電流現象に着目し,数値解析手法を用いて渦電流による磁気浮上系の磁気吸引力低下への影響を明示し,さらにその過程で200km/h程度の高速で移動する電磁石と鉄レール間の3次元非線形渦電流現象を明らかにしたものであり,6章から構成される。

第1章は「Introduction」であり,各種磁気浮上鉄道システムの特徴と開発現状,それらの中での電磁吸引制御方式磁気浮上,リニア誘導モータ駆動のHSST形磁気浮上鉄道の特徴と構成,構造を整理し,さらに本研究の目的と論文構成について述べている。

第2章は「Eddy Current Calculation of One-Magnet Model」と題し,浮上用マグネット単体が高速移動している条件で数値解析を行った結果に基づいて,本研究対象の渦電流現象の基本的特性を論じている。まず,速度誘起の渦電流現象を解析するための基礎方程式と三次元解析の必要性について整理し,続いて渦電流が誘導される鉄レールの数値解析用パラメータを決定するために,実システムで使用されている鉄レールの小サンプルを用いて実施した電気抵抗と磁気特性測定の結果を報告している。そして,汎用の数値解析ソフトウエアを用いてマグネット単体モデルでの渦電流現象を鉄レール中の渦電流分布,特に前後端部での渦電流分布とギャップ磁束密度の速度依存性を明らかにし,216km/hの高速移動では静止時の6割程度に浮上力が低下することを示した。

第3章は「Consideration of Skin Effect」と題して,表皮効果に関わる基礎方程式を整理した上で,一次元モデルによって非線形磁気特性と高調波磁界成分が表皮厚に与える影響を定量的に評価している。そして第2章で記述した浮上用マグネット単体モデルでの渦電流現象を対象に,渦電流回路の形状,表皮深さ,ギャップ磁束密度の高調波成分の影響,それらの鉄レール位置での相違などを示し,横方向磁束形の磁気浮上マグネットの渦電流現象における特徴を明らかにした。

第4章は「Eddy Current Calculation of Multi-Magnet Models」であり,2両編成の磁気浮上列車の全長に渡っての磁気浮上力分布を得るために,周期境界条件を適用した1モジュールモデル,7マグネットモデル,周期境界条件を適用した10マグネットモデルという,3種類の解析モデルを導入し,数値解析を実施した結果を報告している。

第5章は「Levitation and Drag Force of HSST System」であり,2両編成の磁気浮上列車の全長に渡っての磁気浮上力分布と磁気効力分布を示し,最先頭部の磁気浮上力が静止時の6割程度に低下し,何らかの最先頭部では浮上力低下に対する対策が必要であることを指摘している。そして具体的な対策として3つの方法を提案している。

第6章は「Conclusions」であり,本研究の成果を総括している。

以上これを要するに,本論文は,電磁吸引制御方式磁気浮上に基づくHSST形磁気浮上鉄道を対象に,走行速度を200km/h程度まで向上する上で問題となる鉄レール中での3次元非線形渦電流現象と,渦電流による磁気浮上系の磁気吸引力低下への影響を数値解析により明らかにしたものであり,電気工学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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