No | 120618 | |
著者(漢字) | 安藤,真一郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アンドウ,シンイチロウ | |
標題(和) | 銀河内及び宇宙論的超新星のニュートリノによる探査 | |
標題(洋) | Neutrino Probes of Galactic and Cosmological Supernovae | |
報告番号 | 120618 | |
報告番号 | 甲20618 | |
学位授与日 | 2005.07.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4736号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 重力崩壊型超新星に代表されるような極限的な物理環境を探るうえで,ニュートリノは極めて重要な媒体となりうる.これはおもに,ニュートリノが弱い相互作用に従う素粒子であり,そのため超新星コアから直接放出されるためである.逆に,超新星はニュートリノの性質を探るうえで,非常に得難い実験室を提供するということもできよう.有限の質量や混合角を持つことから,現在のところ,ニュートリノのみが素粒子の標準模型を超える性質を持つことが示されているわけであるが,それ以外の多くの性質が,充分に制限をつけらないまま,可能性として残されている. 本学位論文では,天の川銀河,近傍の銀河,また宇宙論的な距離でおこった超新星からのニュートリノに関して,さまざまな視点から研究を行った.銀河内超新星ニュートリノバーストの場合には,統計的に充分な多くのイベントを得ることができる.このため,現在あまり制限のついていない,磁気モーメントや崩壊といったニュートリノの新たな素粒子的性質に対して調査を行った.今回新たに開発した定式化をもちいることにより,我々はこれらの新たな性質により,スーパーカミオカンデなどの地下大型検出器において,期待される超新星ニュートリノのシグナルが,標準的な場合に比べて大きく異なりうることを指摘した. 過去におこった超新星から放出されたニュートリノが現在形成している背景放射も,地下検出器のターゲットである.銀河内のバーストイベントとは異なり,これらの超新星背景ニュートリノは近い将来,定常的に検出されることが期待されている.我々は,現在リーズナブルとされているモデルを用いることで,背景ニュートリノのフラックスと検出可能性に関する議論を行った.その結果,スーパーカミオカンデでは,5-10年程度のデータを用いれば,統計的に充分な水準での検出が可能との結果を得ることができた.また,現在の背景ニュートリノのフラックス上限値を用いれば,ニュートリノ振動や,崩壊モデル,宇宙の星形成史などに関する示唆を得ることも可能である.我々はこれらの可能性に関しても,将来の展望を交えながら,詳細な議論を行った. 第三のそして中間の距離領域として,近傍の銀河内でおこった超新星からのニュートリノの検出提案を行った.この研究は,10メガパーセク以内といった我々の近傍の宇宙では,宇宙全体の平均に比べて,銀河がより集中しているという事実によって動機付けされたものである.そしてそのため,その領域内での超新星発生率は,一年に一個かそれ以上と見積もられている.将来のメガトン級の検出器を用いることで,これら近傍銀河からの超新星ニュートリノを,ゆっくりではあるが着実に得ることができる.これにより,超新星ニュートリノスペクトルを構成することが可能であるうえ,重力崩壊の時間を10秒の制度で得ることができ,関連した重力波探査にも有用であると期待できる.同じ距離領域において,我々は相対論的なジェットからの高エネルギーニュートリノに関する調査も行った.モデルの不定性は大きいものの,検出により超新星と隠されたガンマ線バーストの相関に関して,重要な示唆を得ることができると期待できる. | |
審査要旨 | 本論文は、8章からなり、第1章は序章として、超新星から放出されるニュートリノを研究することによって超新星の物理やニュートリノ物理に関して何が分かるかについて述べられ、本研究の物理的動機付けがなされている。 第2章では、3章以降で使われる超新星爆発からのニュートリノに関して、ニュートリノ・フラックスの時間変化、ニュートリノ・スペクトルの性質がこれまでの数値シミュレーションに基づいてレビューされている。特に、ニュートリノ・スペクトルについて、これまでの主な計算の手法・結果がまとめられ、理論的スペクトルには比較的大きな不定性があることが示されている。また、ニュートリノ振動によるニュートリノ・スペクトルの変化と地上でのニュートリノ検出についてまとめられている。 第3章では、過去に起こった超新星爆発によって放出されたニュートリノが現在形成している背景放射について論文提出者による研究を含めて議論されている。背景ニュートリノのフラックスは初期宇宙の星形成史と密接な関係があり、最近の星形成率の観測結果を使うと理論的に予想されるニュートリノ・フラックスはスーパーカミオカンデでのデータから導かれたニュートリノ・フラックスの上限値に極めて近く将来の検出が期待でき、また、現在の上限値からニュートリノ振動や崩壊モデル、星形成史に対する示唆を得ることが可能であることが示されている。 第4、5章は論文提出者による研究に基づいて書かれており、まず、4章ではニュートリノが磁気モーメントを持つ場合、超新星において通常の物質効果による振動のほかにスピン・フレーバー共鳴が起きる可能性があり、それによって銀河内で起こった超新星爆発から特徴的なニュートリノ・シグナルが期待できることが述べられている。論文提出者は従来行われていなかった3世代解析を行いスピン・フレーバー共鳴の効果のニュートリノ混合角や質量の階層に対する依存性を明らかにしている。さらに、5章ではニュートリノの非輻射崩壊に対する超新星からの制限が議論されている。質量のあるニュートリノが超新星から放出され地球の検出器に到達する間に例えばより軽いニュートリノとマヨロンに崩壊すれば崩壊しない場合と比較して有意な検出結果の違いを生じる。論文提出者はこの崩壊の効果をニュートリノ3世代間の振動の効果も含める新たな定式化を行って解析し、銀河内超新星からニュートリノの寿命について従来の制限よりも何桁も厳しい制限を得ることに成功している。また、将来、背景ニュートリノを使えばさらに厳しい制限が得られることを指摘している。 第6、7章も論文提出者のオリジナルな研究に基づいたもので、第6章では約10Mpc以内にある銀河で起こった超新星爆発からのニュートリノが将来計画されているメガトン大型水チェレンコフ検出器で検出される可能性が議論されている。第7章では重力崩壊型の超新星でコアの崩壊によって引き起こされる相対論的なジェットからの高エネルギーニュートリノについて議論されている。相対論的なジェットからのニュートリノを観測することによって超新星と隠されたガンマ線バーストの相関に関して重要な示唆が与えられることが示されている。最後に、第8章で本論文のまとめが述べられている。 このように本論文は超新星爆発からのニュートリノを用いて超新星の物理やニュートリノの性質を明らかにする理論的研究を現在・将来における地上での検出可能性に重点を置いてまとめたもので、本論文3章以降7章までが論文提出者の研究に基づいて書かれており、第5章を除く部分は佐藤氏(第3、4章)、戸谷氏(3章)、 Beacom氏(6,7章)、yuksel氏(6章)との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。また、第5章の研究は論文提出者1人で行ったものである。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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